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第204話

Auteur: フカモリ
空中で止まった右手をゆっくりと握りしめ、下ろしながら、真琴は淡々と言った。

「打たなかったのは、あなたが命の恩人だからです。長い付き合いですし、私は……」

そこで言葉を濁し、話題を変えた。

「両家の祖父母の関係もありますし、最後はきれいに別れたいんです」

そして、事務的に付け加えた。

「それと、あなたの製品フォローは森谷さんに引き継ぎます。あなた相手だと、どうしても私情が入ってしまいそうですから」

離婚を切り出してからも、真琴は何度も彼に合わせて「良き妻」を演じてきた。

以前、辞職騒ぎで興衆の株価がストップ安になった時、彼が一人で事態を収拾し、一言も責めなかったことには感謝している。

だが後になって気づいた。あの日の優しさは、演じ続けさせるための手綱だったのだと。

これだけ時間が経っても、彼は何も変わっていない。

そして、もう変わることなど期待してもいない。

それだけ伝えると、真琴はそれ以上何も言わず、無言で彼の横を通り過ぎ、客間のドアを開けて中に入った。

廊下に残された信行は、閉ざされたドアに背を向け、表情を曇らせた。

真琴は、想像以上に頑固だった。

部屋
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    真琴は普段からこの手のゴシップには無頓着だ。そもそもこんなネットのトレンドなど全く目にしていないかもしれないし、わざわざ教えて気分を害させることもない。そう思い至り、紗友里はスマホをポンとデスクに放り出した。東央支社、光雅の社長室。デスクの奥で秘書の報告を聞いている光雅の顔色は、すでに見るに堪えないほど陰惨に曇っていた。内海由美だと?随分と悪知恵が働く女だ。自分がチヤホヤされているついでに、真琴を踏みつけようという腹か。いいだろう、峰亜工業と由美がいつまでいい気になっていられるか、見せてもらおうじゃないか。不意にスマホを秘書に投げ返し、光雅は冷たい声で命じた。「デマを流した連中を一人残らず探し出せ。全員浜野へ連行しろ」表沙汰にしては処理しにくい問題もあるため、光雅は最初からまともな手順を踏んで片付けるつもりなど毛頭なかった。堂々たる東央の社長である自分が、これしきの事に対処できないとでも言うのか。光雅の命令に、秘書は慌てて応じた。「承知いたしました。すぐに手配いたします」秘書がドアを閉めて退出した後、光雅は冷ややかな顔で再びパソコンの発表会配信画面に目を向けた。そこには信行の姿も映っていた。配信画面をじっと見つめたまま、光雅は呆れたように鼻で笑った。信行のあのザマで、まだ真琴とよりを戻すつもりなのか?悪い冗談にもほどがある。絶対にあり得ない話だ。一方の真琴は、ネット上のゴシップを耳には挟んでいたが、わざわざ見に行こうとはしなかった。由美がああいう姑息な手段を好むことなど、二年前からとうに知っている。昼になる頃には、両市の財界や上層部が裏で動いて事実無根のトレンドをすべて一掃させた。さらに企業側からも、「悪質なデマに関しては警察に相談の上、発信者に対して断固たる法的措置をとる」との公式声明が発表された。何しろ、今の真琴は単に自分自身や西脇家を代表しているだけでなく、両市の関係そのものを背負っている存在なのだ。真琴はそんな騒動に構うことなく、ひたすら自分の仕事を進めていた。……夕方、仕事が終わる頃に貴博が迎えに来た。今日は仕事から直行してきたようで、服は着替えていなかった。全身から、いかにもお堅い役人といった雰囲気を漂わせている。「西脇博士」「五十

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