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第2話

ミャオヤミャオ
「おばあさま、前に言いましたよね。3年経っても悠真が私を愛さなかったら、いつでも離れていいって」

莉子が亡くなったことは、千鶴もすでに知っていた。何か言いかけた千鶴の言葉を、音羽は遮った。

「おばあさまが何を言いたいかは分かっています。悠真と雪乃のことだけなら、莉子のためにこれからも我慢したと思います。でも、莉子はもういません。あの子を死なせた悠真と、もう一緒にはいられません」

千鶴はそんな音羽を見つめ、やがて口を開いた。

「音羽ちゃん、本当にごめんなさい。黒瀬家があなたと莉子ちゃんにしたことを思えば、もう引き止められないわ。離婚のことはこちらで進めるし、財産も半分はあなたに渡す。二人へのせめてもの償いにさせてちょうだい」

千鶴の了承を得た音羽は、1週間後の航空券を予約し、悠真と雪乃を訴えるため弁護士にも連絡した。

そこまで済ませてようやくスマホの電源を切ると、布団に潜り込み、無理やり目を閉じた。

ここしばらくは仕事に追われ、食事さえ満足に取れない日が続いていたうえ、莉子を助けるため急きょ帰国したことで仕事まで駄目になった。

それでも肝心の莉子を救うことはできず、何もかもが、もう終わってしまったように思えた。

疲れ切った音羽は、そのまま眠りに落ちた。

翌日、激しい息苦しさで目を覚ました音羽は、自分が透明な水槽の中に縛られていることに気づいた。水はすでに胸元まで達し、無数の水ヘビが体に食いついていた。

「悠真……今度は何をする気?」

水槽の外に立つ悠真が、冷ややかに言った。

「音羽、お前いい加減にしろよ。この前、雪乃を刺したときだって、雪乃が許してやってって言うから見逃したんだ。それなのに今度は俺と雪乃を訴えるって?莉子をスーツケースに閉じ込めたくらいで、そこまでするか?」

――閉じ込めたくらいで。

その言い方に、音羽は怒りを抑えられなかった。悠真にとっては、莉子の死さえその程度のことなのか。

莉子の最期を思い出すと、二人とも殺してやりたいほど憎かった。

「悠真、あんた本当に最低ね。莉子をスーツケースに閉じ込めたうえ、今度は私まで水槽に閉じ込めるの?莉子は、あなたに殺され――」

「もういい。お前の言い分なんか聞きに来たんじゃない。弁護士に連絡して訴えを取り下げろ。それから莉子を連れて雪乃に謝ってこい。それで許してやる」

「ふざけないで。ここで溺れ死んでも、絶対に取り下げない!」

莉子を殺したのはあなただと、はっきり言ってやりたかった。8年間のみ込んできた思いも、何もかもぶつけたかった。けれど、水は口元まで迫り、もう息をするだけで精いっぱいだった。

必死につま先で踏ん張っていた足が滑り、四方から押し寄せる水に引きずられるように体が沈んでいく。

これで莉子のところへ行ける――そう思ったとき、網で水槽の外へ引き上げられた。

激しくせき込む音羽の顎を、悠真が強くつかんだ。

「お前、やってくれたな。祖母のこともあるし、莉子と一緒に謝れば、そこで終わりにするつもりだった。それでも引かないなら、もう容赦しない。その弁護士も、お前に手を貸した奴も、全員潰す」

悠真が背を向けて出ていった直後、音羽のスマホが激しく震え、弁護士からの着信を知らせた。

「黒瀬さん、もう無理です。これ以上この件は担当できません。黒瀬ホールディングスと関係の深い顧客から、次々と契約を切られています。このままでは事務所が潰れます。30人の所員まで巻き添えにはできません。申し訳ありません」

音羽は言葉を失った。弁護士がそのあと何を言ったのか、ほとんど覚えていない。

悠真の強引なやり方は何度も見てきた。それでも、自分までこんな目に遭わされるとは思っていなかった。学生時代の悠真は、音羽にとってまさに救世主だったからだ。

仲間外れにされていた音羽を生徒会へ誘ったのも、苦手な理系科目を放課後まで教えてくれたのも、高熱が下がらない音羽を病院へ連れていってくれたのも、悠真だった。

口は悪くても、本当は優しい人だと思っていたし、そんな悠真に何度も背中を押されてきた。だから凪城大学に合格したとき、音羽は気持ちを伝えようと決めた。ところがその矢先、海外にいた雪乃が帰国した。

雪乃を見た瞬間、悠真の目に涙が浮かんだ。そんな顔を見たのは初めてだった。そのとき音羽は、ようやく気づいた。

悠真が自分に優しかったのは、自分が雪乃に似ていたからなのだと。

音羽は最初から、雪乃の代わりでしかなかった。

ただの片思いなら、いつか振り向いてもらえるかもしれない。でも、自分が誰かの代わりでしかないのなら、最初から自分自身を見てもらえてなどいなかったのだ。8年間夫婦でいても、それは変わらなかった。

「黒瀬さん、もうやめたほうがいいです。黒瀬ホールディングスを相手にしても、勝てません」

弁護士にそう告げられ、結局、訴えは退けられた。音羽は呆然としたまま傷の手当てを受けるため病院へ向かい、そのまま入院することになった。

入院手続きを終えたばかりの音羽の病室に、雪乃がゆっくり入ってきた。そして、手にしていたごみ袋を音羽に投げてよこした。

中に入っていたのは莉子の骨壺だった。

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Aktuellstes Kapitel

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