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月はかつて、君を想う
月はかつて、君を想う
Auteur: アカリ

第1話

Auteur: アカリ
会社の海外重要プロジェクトを勝ち取ったその日、社長である夫・橘慎也(たちばな しんや)は私に盛大な結婚式をプレゼントすると言う。

私は嬉しさのあまり涙があふれる。恋愛五年、極秘結婚三年を経て、ようやく私の存在を公にしてくれるのだと思う。

その夜のうちに飛行機で帰国するが、目に飛び込んできたのは、豪華な式場で彼が女性秘書に甘くプロポーズし、成功している光景。

夜空を埋め尽くす花火の下で、二人は指輪を交換し、幸せそうに抱き合っている。

長旅のまま立ち尽くす私を見て、行き交う招待客たちの目には面白がる色が浮かぶ。

誰もが私が騒ぎ出すと思っている中、私は冷ややかに笑い、先に拍手する。

「お似合いの二人ね。入籍はいつにするの?お祝いを用意しなきゃ」

私の口調に棘を感じ取ったのか、須藤遥香(すどう はるか)は一瞬で目を真っ赤にして涙ぐむ。

慎也は彼女を庇うように背後へ引き寄せ、低い声で私を叱る。

「遥香はろくでもない伯父に、知的障害のある男との結婚を強要されている。俺たちは何年も支援して、やっとここまで育てたんだ。本当に田舎に戻してそんな相手に嫁がせるつもりか?

それにこれはただの式だ。本当に結婚するわけじゃない。お前とはもう入籍しているんだ、これでも不安なのか?」

騒ぎになるのを恐れているのか、彼は私の手首を掴み、声をやわらげる。

「安心しろ。半年後には破局を発表する。その時に俺たちの関係も公にする。いいだろ?」

これまで何年も待ってきた。けれど今回は、もう待つ気になれない。

彼の手を振り払い、背を向ける。「結構よ」

いつもと違って従わない私を見て、慎也の表情が一瞬曇った。

大股で追いつき、私の前に立ちはだかり、苛立ちを隠さず言う。

「瀬戸(せと)、こんな大勢の前で俺と遥香の顔を潰すつもりか?

それに遥香は長年お前を姉として尊敬してただろ。それくらいの思いやりも持てないのか?

忘れるな。あの時、彼女が可哀想だから積極的に助けてやれと言ったのはお前だろう。俺がその通りにしたら、今度はその態度か?」

冷たい視線に問い詰める色が混じる中、彼は再び私の手を強く掴む。

「瀬戸、俺たちは夫婦だ。これくらいの信頼もないのか?」

責任転嫁にもほどがあるその言葉に、私の目の奥がじわりと熱くなる。

「よくも信頼なんて言えるわね」

鼻の奥がつんとしながら、かつて夢中になったその深い瞳を見据え、必死に怒りを抑える。

「慎也、あなたを信じすぎたからこそ、今ここに立ってる私はこんなにも滑稽なのよ」

八年。

八か月でも八週間でもない。

この八年間、慎也は私の世界の中心そのもの。

彼の言葉は何でも信じ、疑うことすらしない。

大学院時代、交際を公にすると面倒な人間関係が増えるから、卒業後に発表したいと言われた。

卒業すると会社を立ち上げ、今度は上に立つ者として社内恋愛は控えるべきだと言い出した。

私はそれをそのまま信じる。毎晩、まるで後ろめたいことでもしているかのように、社員が全員帰った後にこっそり彼の車に乗り込む。翌朝は夜明け前に起きてバスで出社する。

社内の誰にも関係が知られないよう、ひたすら気を張り続ける。

息が詰まるような五年目、会社に初めての大型案件をもたらした時、慎也は私にプロポーズした。

当時の私たちは郊外の古い安アパートに住んでいた。

その夜、彼は珍しくミルクレープを買ってきた。

揺れるろうそくの光の中、小さなダイヤの指輪を差し出して求婚した。

言葉は誠実で、あと二年待てば会社も軌道に乗る、その時には関係を公表し、盛大な結婚式を挙げると約束した。

私は胸がいっぱいになり、涙を流しながら彼に抱きつき、そのプロポーズを受け入れる。

入籍後、私はまるで疲れを知らない働きづめの存在になる。

一日でも早く公表できるように、昼夜問わず働き続け、会社を彼の言う軌道に乗せようとする。

結婚してからの三年間、プロジェクトのために数えきれないほど酒を飲み、十数回も病院に運ばれる。

目を覚ますたび、彼は目を赤くしてベッドのそばにいて、私の手を握り、次こそは発表すると約束する。

その「次」を信じ続け、私は三年も引き延ばされる。

そして一日前。会社に海外で億単位のプロジェクトをもたらした時、彼はついに口を開き、忘れられない盛大な結婚式を挙げ、公にすると言う。

私は連日の疲れも顧みず、胸を躍らせて帰国する。

ようやく彼と並んでスポットライトを浴びられると思ったその瞬間、目の前にあったのは、私がずっと望み、そのために努力し続けてきた結婚式が、慎也と遥香のプロポーズの場に変わっている現実だった。

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  • 月はかつて、君を想う   第28話

    わずか数日のうちに、慎也の父は息子を失い、孫を失い、さらに妻までも失う。肩には息子が破産して残した借金までのしかかり、生きていく希望を一気に失ってしまう。彼は毒物を買い、自殺しようとする。だがその毒物は粗悪な偽物で、飲んだあと三日も五日も吐き続けたのに、結局死にきれない。もう一度死のうとする勇気もなく、ただ苦しみながら生き延びるしかない。借金取りに追われ、長年働いていなかった彼は、昼は警備員として働き、夜はゴミ拾いをして、息子の尻拭いに奔走する。遥香は無事に慎也と離婚する。あのとき、慎也に頼んで地元にいくつも家を買わせておいた自分の判断に、彼女は心から安堵する。これで地元に戻り、家賃収入だけでそれなりの暮らしができるはずだった。だが現実は、彼女に容赦なく叩きつけられる。慎也が買った家は、すべて伯父一家に占拠されていた。怒りに震えながら、遥香は家を返すよう求める。しかし、すでに慎也と離婚したと知った伯父は、鼻で笑う。「女のくせに家なんて何に使う。さっさと再婚するのが先だろ。それに忘れるな。あのときお前が飢え死にしかけてたのは、うちが飯を食わせてやったからだ。じゃなきゃ今ここにいないだろうが」むき出しの醜悪な本性を見せる伯父一家を前に、遥香は完全に崩れ落ちる。逃げ出したくても、行くあてがない。結局、屈辱をこらえながら伯父に頼み込み、部屋を貸してもらう。だがその日の夜、伯父は見知らぬ男を彼女の部屋に入れる。こうして遥香は、本当に伯父に無理やり結婚させられる。相手の男は見るに堪えないほど醜く、体は肥え太り、遥香を見るなり下卑た笑いを浮かべる。逃げ出そうとする遥香だったが、伯父に捕まえられ、両脚を折られる。スマホも取り上げられ、豚小屋に閉じ込められる。「もう一度でも逃げたら、殺すぞ」両脚に突き刺さるような痛み。彼女は本気で恐怖を覚え、泣き叫びながらもう逃げないと訴える。闇に沈む冷たい夜。彼女は這いながらスマホを盗み出し、通報しようとする。だが発信する前に、男に引きずられて部屋へと連れ戻される。これらのことを知るのは、ずっと後になってから。その年の年末前、家の改装がようやく終わる。ただし入居するには、しばらく換気が必要になる。そのため、乃愛と陸斗に新年を一緒に過ごそうと誘われ

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  • 月はかつて、君を想う   第24話

    法廷での慎也は、序盤こそ気勢を張っていたが、最後には椅子に崩れ落ちるように座り込む。その目は次第に焦点を失い、私へ向ける視線には恨みがにじんでいる。何に対して恨んでいるのかは分かる。だが、乃愛の言う通り、彼が私に与えた搾取と傷は計り知れない。私はその視線を意識的に無視し、静かに乃愛と相手弁護士の応酬に耳を傾ける。この裁判は、乃愛の言葉通り、勝敗はほぼ決まっている。それでも慎也は、最後に私を不快にさせる手を打ってくる。彼は休廷を申請する。審理は半月後へと引き延ばされる。その間に、星和グループは慎也が案件を次々と切り捨てたせいで機能不全に陥る。流れるように支払われていく違約金に、彼は頭を抱える。会議を開き、社員に新規案件の獲得を命じる。だが、その多くは惰性で働いている者ばかりで、仮に案件を取れても、慎也の目には小さすぎるものしかない。私に鍛えられたせいで、彼の基準は完全に狂っている。数百万円程度の案件など、目を通すことすらなく却下する。社員たちは陰で不満を漏らす。身の程知らずだとか、会社の現状を見ろとか、あれもこれも選り好みしている場合かと。その圧力の中で、退職を申し出る者も増えていく。慎也は手に負えなくなり、追い詰められていく。かつてのチームメンバーを呼び戻そうとも考えるが、結局はプライドが邪魔をして動けない。そんな中、さらに彼を苛立たせる事実が突きつけられる。遥香が本当に妊娠しているのだ。彼女は検査結果の紙をそのまま慎也の顔に叩きつけ、好き勝手に要求を並べ立てる。「私、あなたの子どもを妊娠してるのよ。逃げられると思わないで。それと、育児基金として4億円、先に振り込んで。産後ケア施設も今のうちに予約しておいて。あと、子どもができたんだから、それなりの誠意は見せてよ。多くは言わないわ、1億でいい。妊娠中は働けないし、その後も一年は授乳があるんだから」かつては鈴の音のように心地よく感じていたその声が、今ではひどく耳障りに響く。慎也は頭が割れそうになり、ついに爆発する。手にしていた検査結果を引き裂く。「金、金、金って、そればっかりだな!遥香、お前は俺が好きなのか、それとも金が好きなのか!育児基金で4億?何を産むつもりだ、どこの国の大統領だ!子どもを産むだけでそ

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