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第3話

Penulis: 藤永ゆいか
last update Tanggal publikasi: 2025-12-22 16:43:55

現れたのは、30代前半くらいの男性。

落ち着いたネイビーのスーツに、シルバーフレームの眼鏡。穏やかな笑顔で、どこか図書館の司書のような雰囲気がある。

「森川咲希さんですね。お待ちしておりました」

その声は、落ち着いていて丁寧だった。

「初めまして。私、神崎かんざき柊吾しゅうごと申します。氷室様の秘書を務めております」

秘書?それじゃあ、この人は雇い主ではないのか。

そして、氷室──それが雇用主の名前?

「森川です。本日はお時間をいただき、ありがとうございます」

私は深く頭を下げた。

「どうぞ、お入りください」

神崎さんに案内されて、ペントハウスの中に足を踏み入れる。

その瞬間──息を呑んだ。

広い。とにかく、広い。

玄関を抜けると、天井高5メートルはあろうかというリビングが広がっていた。白を基調とした内装に、モダンな家具が配置されている。

そして、壁一面がガラス張りで、東京の街が一望できる。

東京タワーが、まるで手を伸ばせば届きそうな距離に見えた。遠くには、スカイツリーも見える。

秋晴れの空の下、東京という巨大都市が、まるでミニチュアのように広がっていた。

「こちらへどうぞ」

神崎さんに促されて、私はリビングのソファに座る。

革張りのソファは、座った瞬間に体が沈み込むほど柔らかかった。高級ホテルのスイートルームでさえ、ここまでの質感はない。

「お飲み物は何がよろしいですか?コーヒー、紅茶、お水、何でもご用意できますが」

「お水をいただけますか」

喉がカラカラだった。

「かしこまりました」

神崎さんは、キッチンへと向かった。

その間、私はリビングを見回す。

インテリアは、全てが洗練されている。無駄なものは一切なく、それでいて温かみがある。

壁には、現代アートの絵画が飾られていた。どれも、美術館で見るような作品ばかり。

一体どんな人が、ここに住んでいるのだろう。

そして、なぜ月給80万円も出して、家政婦を雇おうとしているのだろう。

神崎さんが、グラスに入った水を持って戻ってきた。氷が入っていて、グラスの表面には細かい水滴がついている。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

一口飲む。冷たい水が、緊張した喉を潤した。

神崎さんは、向かいのソファに座り、手元のタブレットを開いた。

「それでは、面接を始めさせていただきます」

彼の口調は丁寧だったけれど、どこか探るような響きがあった。

「経歴を拝見しました。ホテル・グランシエル東京……一流ホテルですね」

その名前を聞いた瞬間、胸がチクリと痛んだ。

「はい」

「コンシェルジュとして、5年間勤務されていたとのことですが……」

神崎さんは、メガネの奥の目で私を見つめた。

「なぜ、退職を?」

来た。この質問が来ることは、分かっていた。でも、どう答えるべきか。

嘘をついて、当たり障りのない理由を並べるべきか。それとも……

「私の不手際で、VIPのお客様に危険が及んでしまいました」

正直に、言った。

アレルギー対応に関するミスがあり、お客様が救急搬送されたこと。私が推薦した新人シェフのミスだったが、管理責任を取って自主退職したこと。

神崎さんは、黙って聞いていた。表情は変わらない。ただ、タブレットにメモを取っているようだった。

長い沈黙。やはり、正直に話したのは失敗だったかもしれない。

後悔し始めた、そのとき──

「正直な方だ」

ぽつりと、彼が呟いた。

「え?」

「多くの人は、面接で不利になるようなことは隠します。しかし、あなたは正直に話してくれた」

神崎さんは、少しだけ笑みを浮かべた。

「それは、評価に値します」

その言葉に、私はほっと胸を撫で下ろす。

けれど、神崎さんの表情はすぐに真剣なものに戻った。

「では、もう一つ質問させてください」

神崎さんは、メガネを外して私をじっと見てくる。

「もし、雇用主が法に触れることをしていると知ったら、あなたはどうしますか?」

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