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第2話

Penulis: 藤永ゆいか
last update Tanggal publikasi: 2025-11-30 16:52:24

翌朝、鏡に映る自分の顔色が悪い。

目の下に薄いクマができている。昨夜は2時間も眠れなかった。何度も目が覚めて、スマホで『住み込み 家政婦 危険』と検索してしまう。

出てくるのは、詐欺まがいの求人トラブルや、劣悪な労働環境を訴える記事ばかり。

「大丈夫……面接だけなら」

鏡の中の自分に言い聞かせる。

紺色のスーツに白いブラウス。ホテル勤務時代の勝負服に袖を通す。髪は後ろで一つにまとめ、控えめなメイク。

外見だけは、完璧に整えた。でも、胸の中の不安は消えない。

時計を見ると、午前10時。面接は午後2時だから、まだ4時間ある。

その時、スマホが鳴った。親友の西園寺さいおんじ萌花もえかからの着信だ。

「もしもし、萌花?」

『咲希!今日の面接、本気で行くつもり!?』

開口一番、心配そうな声が響く。

昨夜、全てを話したら、彼女は猛反対してきた。大学時代からの付き合いで、私のことを妹のように心配してくれる姉御肌の女性だ。

「もちろん、行くよ」

『は?何言ってるの!?月給80万の住み込み家政婦なんて、どう考えたって怪しすぎるでしょ!』

萌花の言うことは、もっともだった。私だって、冷静に考えれば怪しいと思う。

「でも、面接だけなら──」

『咲希、聞いて』

萌花の声が、少し低くなった。

『世の中には変な人がたくさんいるんだよ。住み込みって言葉に釣られて、変なことされるかもしれないじゃん』

「……」

『……分かったわ。玄関入った瞬間、違和感あったら即帰る。いい?』

「うん」

『約束して』

萌花の声は、真剣だった。

「……約束する」

『よし。じゃあ、私も近くのカフェで待機してるから。2時間経っても連絡なかったら、警察呼ぶからね』

「そこまでしなくても……」

『するの!咲希は、お人好しすぎるんだから』

胸が熱くなる。こんなに心配してくれる友達がいる。それだけで、少し勇気が出た。

「ありがとう、萌花」

『お礼なんていいから。とにかく、無事に帰ってきてよ』

通話を切って、私は深呼吸をした。大丈夫。きっと、大丈夫。

時計を見ると、午後1時。面接は2時。そろそろ出発しないと。

午後1時45分。

私は、港区某所の高層タワーマンション「スカイレジデンス東京」の前に立っていた。

ガラス張りの外観が、秋の日差しを反射してきらきらと輝いている。エントランスには噴水があり、周囲には手入れの行き届いた植栽。まるで、高級ホテルのようだ。

「すごい……もし受かったら、ここで働くんだ」

呟いた声が震える。

緊張で喉が渇く。現実感がなさすぎて、まるで夢の中を歩いているような気分だった。

エントランスに近づくと、警備員に呼び止められた。

「いらっしゃいませ。ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか」

紺色の制服を着た初老の警備員は、丁寧だが厳格な表情をしていた。

「あの、ペントハウスに面接で伺いました。森川咲希と申します」

「少々お待ちください」

警備員は手元のタブレットを確認した。

数秒の沈黙。私には、永遠のように感じられた。

「確認いたしました。こちらへどうぞ」

ほっと息をつく。

エントランスホールに足を踏み入れた瞬間、空調の効いた冷たい空気が肌を撫でた。ほのかに香る高級なアロマ。床の大理石は、私の靴音を静かに吸い込む。

ここは、私が働いていたグランシエル東京よりも、さらに格上かもしれない。

案内されたのは、専用のエレベーターだった。一般の住人用とは別に、最上階専用のエレベーターがあるらしい。

「最上階のボタンは、こちらで操作いたします」

中に入ると、壁一面が鏡張りになっていた。ボタンは「PH」──ペントハウスの文字だけ。

扉が閉まり、上昇を始める。

10階、20階、30階……。

東京の街並みがどんどん小さくなっていく。東京タワー、お台場の観覧車。

普段は見上げることしかできない風景が、今は眼下に広がっている。

胃がふわりと浮くような感覚。耳がキーンとする。

やがて、エレベーターが止まった。

最上階に着いたんだ……。

扉が開くと、そこは廊下ではなく、直接玄関ホールに繋がっていた。

つまり──この階は1軒しかないということ。

床は磨き上げられた大理石。壁には抽象画が飾られている。本物だろうか。だとしたら、その一枚だけで私の年収を超えるかもしれない。

目の前には、重厚な木製のドア。

私は深呼吸をして、インターホンを押した。

チャイムの音が、ドアの向こうで響く。

数秒後──ドアが開いた。

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