INICIAR SESIÓN「あ、いました。一日どうでしたか。リンカちゃん、安いほう一つ」
「あいよー、黒パンセット一つ! 」
ふと気が付くとイアンちゃんが訪ねてきていた。そういえば、夜にでも今日の一日の成果を確認しに来ると言っていたな。
「やあ、イアンちゃん。一日ゆっくりできたかい? 」
「それはもうゆっくりと……って、私のことは良いんですよう。お二人がどうなっているかが気になるんです」
「それは、もうばっちり。この通り、今日のご飯は高級セットが食べられるぐらいには稼いできたよ」
テーブルの食器を指さし、安いほうではなく高いほうの食事をとっていることを示す。
「それは良かったですね。一日働いて……あれ、働いて? 」
イアンちゃんが自分で言った言葉に混乱している。
「タカナシさんは働きに来たんじゃないですよね? お休みに来たんですよね? 」
「休みだけど、働かないと食っていけないからな。だから……副業? 」
「それ、神崎さんにどうやって報告すればいいんですかね……みっちり働いてるって伝えればいいんですかね……どっちにしろ、あちらで問題になりそうなんですが」
「まあ、そのまま伝えればいいんじゃない? 休みを使って精いっぱい異世界で働いてるって」
「? ご主人様は休みに働いてるんですか? 」
セルフィも混乱している。なぜそんなに混乱しているのか。
「まあ、楽しくやってるのは確かだから、これは仕事でも休みのようなもんだな。神崎さんにはよろしく伝えておいて」
「まあ、ありのままを報告しろとは言われてますのでそのままお伝えしますが……どうなっても知りませんよ? 」
イアンちゃんがちょっと怖い口調で伝えてくる。
「こっちで働いてはいけない理由とかあったりするの? 」
「当方といたしましては、エンジョイしていただくのが主なサービスなんです。こっちまで来てがっつり働かれるのは想定外でした、としか言いようがありません。このケースは初めてですので、報告を上げて対応を迫るしかないですねえ」
「黒パンセットお待ち。じゃあタカナシさん明日よろしくね」
「うん、こっちこそよろしく」
「よろしくね……って、何かするんですか? まさか仕事ですか」
「いや、そうじゃないよ。あっちにあった調味料をこっちでも再現できないか試してみるだけなんだ」
そう伝えると、イアンちゃんがジト目でこちらを見てくる。労働じゃないぞ、暇つぶしだからな。
「さすがに三日目になると同じ味もつらくなってきたからさ。味にアクセントをつけたいと思って」
「まあ、そういうことにしておきます。とりあえず無事に帰ってきた様子ですので、ダンジョンは問題なく通えた、ということで……で、いくら稼げました? 」
「二日半分の生活費にはなった。もうちょっと稼げるようになれば、一日お休みが取れるかもしれない。そうなったら今度こそ休みをエンジョイできるはずだ。それまではちょっとカツカツかな。じゃあ、俺たちは明日に向けてもう寝るからお先」
「はい、お疲れさまでした。明日こそちゃんと休んでくださいね。私もご飯を食べたら戻ります」
さて、寝るか。部屋に戻るといつもの月明かりが部屋を照らしてランプ要らずのこの部屋。ここの気候は暖かく、夜になってもそれほど冷えないので窓が開けっ放しであっても風邪をひく心配がないのがありがたい所だな。
◇◆◇◆◇◆◇
side:イアン
部屋に戻り、平仮名と漢字を交えた流暢な日本語で報告書を書く。私は一応こっちの世界とあっちの世界の仲介役として、あっちの世界の言葉もある程度使えるのだ。早速、神崎さんに向けて報告書を書き始める。
マサアキ・タカナシについての報告書:
報告対象者マサアキ・タカナシについて、まず初日から三日間の行動と初見について報告する。
まず、彼は休むということを知らない。初日から彼は装備品をかき集めると、さっそく薬草採取に精を出し、ついでにホーンラビットと戦闘を開始し、無事に戦い終える。
基本的に自分の懐から金を出して楽しむ……という行動はあまりしない様子だ。過去の対象者とは違い、財布の中でやりくりをしようとしているそぶりすら感じられる。
また、奴隷については他の対象者と違い、奴隷制度という存在を受け入れた上で、奴隷を買い入れようとしたり、自分の滞在が期限付きであることを時々忘れるような行動をとる。
二日目にはその奴隷の中から一人を買い戻した。その奴隷は彼の目からすると、過去の対象者が子供を作って帰っていった、その子孫だということが対象者が持ち合わせていた鑑定スキルにより判明する。
過去のどの対象者がそういう店舗を利用していたかや、恋愛関係を結んでいた結果生まれたかまでは今更たどり着くことは難しいだろうと思われる。
また、二日目はさらに短い時間で食肉狩りを行い、奴隷の所持していたスキルにより、いたって簡単にそれらをこなすことができた。
三日目にはダンジョンへ通って、無事に数日分の稼ぎを手にした様子だが、次の日も働く予定である可能性が高い。
またダンジョンへ行くのか、薬草採取か、食肉狩りか、何をするかまでは不明だが、労働にあたる行為をすることは間違いなさそうだ。
また、どうやらそちらの世界にある調味料を再現するために明日も働く可能性は非常に高い。
今のところ、休んでいるのは寝ている時間だけであり、それ以外の時間はすべて労働に費やしていると言っても過言ではない様子だ。
本人曰く副業みたいなものだと言っているので、これが労働行為に該当するかはそちら側にゆだねる。
有休延長が認められる場合は、それを本人に伝えるかどうかもそちらの指示に従うものとする。
彼は、本当に何をしにこちらの世界へ来たのか。興味がうすれることはなく、その行動原理にはいかなるものがあるのか、見通していく必要がある。
七日目の効果測定までにはより詳細な情報があげられるとは思われる。続報を待たれたし。
観察者:イアン
こんなもんですかね。さて、私もちゃんと仕事をしたことですし、明日はお休みをもらわないといけません。きちんとした労働にはそれに見合う報酬と労働の疲れをいやす分だけの休暇が与えられなければいけない。
たとえ異世界に住む私であっても、会社の方針として無理に働かせたりはせずにきちんとお休みをもらえる。いい会社とのつながりをもらえたものですね。これも【世界渡り】という私にしかないスキルを持ち合わせた運命ともいうものでしょうか。
「ふむ……職人のあてか……商人ギルドで正式に募集してもいいのか? 」「方法は任せるさ。ただ、一つ決めておかなきゃいけないのは、レシピの広がるのを良しとするか、それともレシピを隠し通すのか、だ。どっちもそれぞれ利益も不利益もある」「じゃあ、まずはレシピがばれてもいいほうから聞こうか」 親父さんは腕を組んだまましばらく黙り込んだ。さっきまでただの新しい調味料だったはずのものが、いつの間にか店の在り方そのものを左右する話に変わっている。「レシピがばれてもいいなら、正々堂々とやって作ってるところも公開して、みんなで真似してマヨづくりを始めればいい。そうすることで、店としての負担も減る。商人ギルドから人をよこしてもらって専用職人が早くから作り始めることなく、たまに空いた時間に作って終わり、程度で済む。これなら普段の仕事にちょっと増えるだけで済む」「なるほど、不利益は独占じゃなくなるからその分客が集まらねえってことだな」「そうなる。でも、親父さんとしてはそっちのほうが嬉しそうだけどな」「まあな。で、独占することの利益不利益ってのはどういうことだ? 独占することで客が増えて利益で儲けられるのはわかる。それ以外に何かあるのか? 」 親父さんは不思議そうにしている。「たとえば……リンカちゃんが攫われて、返してほしくばマヨのレシピを渡せ。なんて面倒ごとに巻き込まれることだってあり得るってことかな」「それは、困る」 利益の匂いが強くなればなるほど、人も集まる。それが善意ばかりとは限らないことも、俺は知っている。「うん、だろうね。それだけじゃなくても、レシピを盗み見ようとする連中でいっぱいになるだろうな。ただ、レシピを完全に独占するんじゃなくて、契約した店とはそれぞれレシピを融通し合う形でもいいんだ。そうすれば、それぞれの店でレシピを使ったオリジナルの料理が生まれる。さっき親父さんに食わせたソースを絡めた串焼き肉の店、とかな」 たった一つの調味料が、ここまで話を広げるとは思っていなかったのだろう。
銀の卵亭に戻って行列の先を見ると、いつもの食事の提供とは別で列ができていることに気づく。どうやら蒸かして細切りにしたジャガの実にマヨをつけて、それを持ち帰り品として販売しているらしい。 それはそれとして、夕食の準備をしている親父さん。ジャガの実を蒸かす時間で待ち時間ができているらしいことはわかった。「繁盛してるねー」「そうですねー」「あ、犯人発見! 手伝えとは言いませんけど、お夕飯遅くなりますからね! 」 リンカちゃんがぷりぷりと怒りつつも、しっかり儲けているようでその口調の割に感じられる怒気は小さかった。下層民向けのジャガの実一つとマヨ一掬いで……銅貨4枚か。きっちり儲けてるな。それだけマヨの味付けがみんなに受け入れられる味だったということだろう。しかし、昼食に配って夕食までに何があったのかを後でゆっくり聞かせてもらうことにしよう。 部屋に戻って湯をもらい、早めの身づくろいをする。今日はしっかりガルキンの血まみれになったからな。普段よりも輪をかけて綺麗にしておきたいところだ。 いつも通りセルフィと背中合わせになって体を拭く。「今日は今までにはないぐらいにいっぱい稼げた。今日の稼ぎだけでセルフィの装備品と俺の装備品、それから服の都合分を足してもまだ黒字なぐらい稼げた。明日も同じだけ稼げるはずはないが、それでも十分すぎるぐらいの稼ぎだ。働いた分だけ美味しいものを食べられそうだな」「じゃあ、今日も白パン定食ですか! 」「でもいいぞ。俺はあんまり贅沢になれないように黒パンで済ませるが」 そういうと、セルフィは押し黙ったあと、言葉を切り出す。「奴隷のほうが主人よりいい食事を取ることなんて普通は許されません。私も黒パンセットにします」「む……そうか。じゃあ……俺も白パンセットにするか」 そういうと、セルフィから「やったっ」という小さな声が漏れる。そんなに黒パンの硬さが嫌なのか。これはこれで酸味があって美味しいもんだとは思うが……
「食肉狩り……ということはミニボアやホーンラビットですか」「他にちょっと遠出して、もっと美味しく狩れるようなモンスターや生物がいればその限りではないが……あんまり手傷を負わせてぐしゃぐしゃにしてしまって、食べるところがないと言われるぐらいならミニボア狩りかな」「そうですね。一応冒険者ギルドで調べてから行きませんか。私が知ってる範囲だと、空を飛べない鳥でガルキンがいますね。さっきの卵の親鳥ですが、家畜として飼いならされている鳥もいますが、野生のガルキンは肉も締まってて美味しいです。一度だけ食べたことがあります」「ほう、ガルキンか。このあたりにも居るのかな。生息域があるなら調べてみよう」 さっそく冒険者ギルドへ行き、このあたりにガルキンの野生地があるか聞いてみると、東門から1時間ほど進んだ先にはガルキンの集団行動場所があるらしく、野生のガルキンを飼って家畜化するときにもそこを利用するらしい。 ちなみに買取価格はガルキン丸ごと一匹で銅貨5枚、そんなに大きな種類でもないので血抜きの必要はないらしい。ホーンラビットと違って血抜きの必要がない分だけお手軽かな。「よし、今日は一日ガルキンを狩ろう。お弁当代わりに市場で串焼きとか飲み物を手に入れて、それから現地に出かけるぐらいでいいかな」「はい、頑張りましょう」 まだ鐘が鳴ってないうえに、市場で材料をそろえ、その場で焼きだす屋台のお肉と飲み水を汲んで、それらをアイテムボックスに収納。これでお昼の準備はできたな。 東門から出て、すぐのところでホーンラビットを二匹見つけるとセルフィと一匹ずつ倒して、縄につないで血抜きをしておく。そのままぶら下げてしばらく放っておいて、血が抜けたころにアイテムボックスにしまい込む。これで銅貨10枚。 さらにミニボアが三匹ほど出てきて、ちょっと足を止めて倒すと、血抜き作業のために五分ほどさかさまにしておいて、少しでも血抜きをしておく。これだけで銅貨2枚変わるなら、足を止めるだけの価値はある。ミニボアの死体もアイテムボックスに入れて、これで銅貨40枚分の稼ぎ。 昼ご飯代は余裕
さあ、マヨ作りだ。といっても何か特殊なつくり方をするわけでもない。いたって普通の、できるだけ美味しいマヨを作る。そのためにマスタドの実もはちみつも仕入れてきた。あとは手順通りに混ぜるだけ。この混ぜる工程が一番大変なんだが、そこはまあ大人の余裕で何とかしていこう。 泡立て器があれば一番楽なんだが、そんな工業製品は当然この世界にはない、あってもお貴族様の専属調理人が自分のためだけに作らせた、というようなものだろう。一応厨房を見渡させてもらったが、そんな道具はなかった。これは量産するときに作ってもらうということで納得しておくしかないな。「では、マヨ作りをしていこう」「はい! 手はきちんと井戸で洗いました! 」 助手のセルフィもいい感じに仕上がっている。一人寂しくやるよりは少しだけ気分が楽に仕事ができるな。「じゃあまず、油以外の材料を……このぐらいかな。混ぜます」 卵一つの卵黄が大きいのでそれに合わせて材料を頭の中で計算して増やしていく。塩と酢の分量は特に考えておかないといけない。 ボウルにそれぞれを入れると、ひたすらかき混ぜる。いい感じにもったりしてきたところで、主成分である植物油の投入だ。少しずつ、すこーしずつ、セルフィに指示して流しこませていく。その間に俺の腕は全力で動き、とろみが徐々に柔らかくなっていくマヨをひたすらかき混ぜる。 楽しくはない。だが、仕事とは常に楽しくできるものではない。楽しいだけが仕事なら世の中の人々はどれほどの幸せを享受して生きているのだろうな。 一旦油を止めさせて、きちんと混ざっているかどうかを確認する。全体に卵黄と酢の混じったものが絡まり、油が分離しているところがないことを確認すると、再び油の投入を再開。油もどれだけ入れていけばわからないからな。ゆっくり少しずつ入れていって、油が余り始めたらそこで手を止めないといけない。 手元の重さがだんだん軽くなっていき、混ざり具合が良くなってきたところでもう一回止めさせて、油の乳化具合を確認。ふむ……いい感じ、かな? まだ油も混ざり切っていないので、一旦ボウルの中身をすべてかき混ぜて、
朝、また目玉を直接突き刺すような日の光で目を覚ます。この部屋を借りたのはもう運命みたいなものかもしれない。おかげで朝一番に起きることができている。セルフィを起こすと、顔を洗いトイレに行き、身支度を済ませたところで朝市にまず出かける。軍資金は充分にあるから多少多めに買い込むことになっても大丈夫だろう。 部屋から出て、朝の食事をする人たちでそこそこ混み合ってる中、リンカちゃんに今日の予定を聞く。「リンカちゃん、朝市ってもう開いてるのかな」「日が昇った後鐘が鳴るまでが朝市ですから、早い店ならもう開いてるはずです。朝市で材料を買い込んでから食事を作り始める店もありますからね。うちも朝の食事を出し終わったら朝市に出かけますから、出かけてる間に厨房を使ってくれると嬉しい、と父さんは言ってました」「そっか。じゃあ先に市に向かっておいたほうがいいかな。冷めててもいいから、朝食二人分残しておいてくれるかな。その間に一足先に朝市で材料の買い出しをしてくるよ」「はーい、数えておきます」 食事を二人分確保しておいてもらったところで、買い物かごを借りて朝市へ買い物に向かう。朝市といってもこの都市の規模を考えるとかなりにぎやかで、朝から食料やその日一日使う分の材料や建材、武器の材料や炭、鉄を求める人など、市場はある程度、品目ごとに住み分けがされているものの、いろんなものを取り扱っているらしい。 さて、買い物に来たものは大きく三つ、酢、卵、植物油だ。後塩もか。できればはちみつやマスタードみたいなものがあればより美味しくできるが……それも探し回ってみるか。カラシの実みたいなものがあれば、それの風味を確かめさせてもらえればそれで十分だ。 更にはちみつを混ぜればその分甘みと風味に奥深さができてより美味しいものができる。親父さんもマヨは知らなかった様子だし、長持ちはしないとは言え新しい調味料を作り出してしまうことにドキドキと、それとうまく作れるかどうかの悩みが同居しているが、とりあえず第一関門、卵が売ってるかどうかだな。 銀の卵亭では名前の割に卵料理を出していなかった。卵がないならそもそも銀の卵、なんて形容がされないはずなので
「あ、いました。一日どうでしたか。リンカちゃん、安いほう一つ」「あいよー、黒パンセット一つ! 」 ふと気が付くとイアンちゃんが訪ねてきていた。そういえば、夜にでも今日の一日の成果を確認しに来ると言っていたな。「やあ、イアンちゃん。一日ゆっくりできたかい? 」「それはもうゆっくりと……って、私のことは良いんですよう。お二人がどうなっているかが気になるんです」「それは、もうばっちり。この通り、今日のご飯は高級セットが食べられるぐらいには稼いできたよ」 テーブルの食器を指さし、安いほうではなく高いほうの食事をとっていることを示す。「それは良かったですね。一日働いて……あれ、働いて? 」 イアンちゃんが自分で言った言葉に混乱している。「タカナシさんは働きに来たんじゃないですよね? お休みに来たんですよね? 」「休みだけど、働かないと食っていけないからな。だから……副業? 」「それ、神崎さんにどうやって報告すればいいんですかね……みっちり働いてるって伝えればいいんですかね……どっちにしろ、あちらで問題になりそうなんですが」「まあ、そのまま伝えればいいんじゃない? 休みを使って精いっぱい異世界で働いてるって」「? ご主人様は休みに働いてるんですか? 」 セルフィも混乱している。なぜそんなに混乱しているのか。「まあ、楽しくやってるのは確かだから、これは仕事でも休みのようなもんだな。神崎さんにはよろしく伝えておいて」「まあ、ありのままを報告しろとは言われてますのでそのままお伝えしますが……どうなっても知りませんよ? 」 イアンちゃんがちょっと怖い口調で伝えてくる。「こっちで働いてはいけない理由とかあったりするの? 」「当方といたしましては、エンジョイしていただくのが主なサービスなんです。こっちまで来てがっつり働か