LOGIN通称・有休強制消化法案が成立した未来、あらゆる手段で320日分の有休を溜めた男、小鳥遊正明(43)は、ついに有休の消化を始める。いろんな消化方法がある中に特別プランと名前の付いた個人名あてのダイレクトメールに従って会社を訪ねてみると、異世界転移して異世界で休日を過ごすプランがあることを説明される。小鳥遊はこのプランが自分だけへのオリジナルプランであることを察し、そのプラン通りに乗って異世界へ旅立つ。
View More「小鳥遊主任、いい加減有給消化してくれないもんかな。この際長期でお休みを取るでもいいからさ。当社としても毎回厚労省からの通達で君の名前が筆頭に挙がってくるし、ちゃんと本人には仕事を休んできっちり有給休暇を取得してくれるように頼んでいる、と毎回報告しているものの、実際にきみが有休を取ってくれないと困るんだよ」
上司である係長の中上からの叱責が飛ぶ。今の世の中は効率こそが第一。残業や日曜出勤でいたずらに有給期間を増やし、または有給休暇を消費せずにため込んでおくことはこの際美徳ではなく悪徳とされる時代になっていた。
「もう少しだけ待っていただけませんか。今、私抜きでも仕事が間に合うようにマニュアルの作成の真っ最中で、もう少しでマニュアルの実装テストが終わるところなのです。業務と無関係な人員を配備してくださって、その人員がマニュアルを読んだだけで実行できるようになればそれで私の部下の業務をほぼすべて任せることができるようになります」
「わかった、その手配はしておこう。別部署から適当に一名、一日借りてきてそのマニュアル通りに仕事ができるかどうか試せばいいんだな? 」
中上がメモを取り、「人員確保、一名、小鳥遊主任と別部署から」と的確にメモを取る。そのメモを取った手を横目でさっと見て、安堵する。これでようやく休めるようになるのかな、と。
「はい、お願いします。そうなればようやく溜まった有休に手を付けることもできるようになる、というところに達することができます」
「しかし、普段の仕事に加えてマニュアル作成までやらせてしまってすまないな。おかげで君の有休はたまりっぱなしだ。本来なら許されないことなのだが……残業ついでに他の仕事まで任せてしまっている現状はよくわかっているつもりだ。君もこの仕事が終わったらゆっくりできるはずだから、その間持たせるように手はずは整えておく。でもまさか、君がそこまで有休を取らずに働いているのは、何か野望でもあるのかね? 有休を盛大に使って世界旅行をしてみたいとか、豪華客船で世界周遊をしてみたかったとか、そういうものが」
中上としては、きちんと有給休暇を使う意思があるのを今再確認したので、次に厚労省から有休の未使用事故情報がある人へのランクインはなんとか逃せるようになるようにはなるだろう。
「では、失礼します。引継ぎマニュアルの続きを書きに向かいますので。引継ぎマニュアルのほうはでき次第中上係長の共有フォルダにアップロードしておきますので、出来上がり次第お声がけしますのでご一読をお願いします」
「ああ、わかったよ。それでは、仕事がまとまり次第小鳥遊主任には有給休暇をまとめて取得してもらうことになる。その間の仕事のつなぎと部下への仕事マニュアル化、それから……色々だ、とにかく頼んだからね」
小鳥遊正明、主任、43歳。この二日後、無事にマニュアルの稼働が可能であることを承認され、現場から離れ、長期有給休暇の消化を始める。
有休残り期間:320日。厚労省有休ブラックリスト上位者の孤独な有給消化が始まる。
「さて、何をしようかな。有休消化と言われてもな。寝て起きて終わるだけでは面白くないし、何か面白い体験でもしたいところだな……そういえば有休消化案内所から、妙なパンフレットが来ていたな。特別プランとか書いてあったがいったい何だろう」
◇◆◇◆◇◆◇
20XX年、国会にて通称、有休強制消化法案が成立した。これまでは買取か消滅で有給休暇を取らずにごまかしていた企業、機関、特別公務員、研究職も含めて、すべての人々はこれまで見逃されていた残業規制の壁や法的前提を取っ払われた。
その結果、すべての代休や残業時間分を有給休暇に換算され、その有給休暇を強制的に消化させられることになった。残業手当こそ出なくなったものの、残業にかかった時間の二割五分増しの時間を有給休暇として付与する義務が生じた。これにより、カラ残業を行う労働者が激減したため企業の負担も若干減るところがあった。
それに伴い、これまで有給休暇を消化させたフリをしていた会社などが一斉に検挙され、厚生労働省を筆頭にかなりの数の機関や法人がメディアに取り上げられ、世の人々はこれが労働層に対する社会のアプローチの形として歓迎される運びとなった。
世間は労働者不足で嘆いている中でこのような法案を通すのはいかがなものか、という企業側からの圧力もあったが、労働者が不足しているからこそ手厚いケアが必要であり、労働者への適切な支援により、長持ちするのは機械も人間も同じである、という労働者擁護の意識が出始めた。
ちなみにこの法案は特別公務員にも適用されたため、質問通告を待って深夜まで待機している官僚もいなくなり、一部野党では質問ができなくなった結果適切な国会運用ができるようになったという体感もあったため、官僚側からの感想もなかなかいい法案を通してくれた、ということが伝わってくることになった。
さて、ここで一つ問題が生じることになる。有休をどうやって消化させるのか? という点である。有休である以上好きな時に好きなタイミングで取ることができるため、有休の上限であった40日をはるかに超える長さの有休のため込みが法的に許可され、人々はこれまで残業時間で鎖の長さを自慢していたが、今後はそれが有給日数に変わっただけではないのか? という疑問点が湧くのだろう。
しかし残業日数は適切に処理していくべし、とのお達しにより、一年分溜めてまとめて旅行に行くであるとか、高級列車で回る国内一周旅行や海外旅行、世界一周旅行などに有給休暇を使い始めるものもあらわれ、世の中は「いかにして質の良い有休を消化するのか? 」というのがトレンドになった。
巷には有休を効率的に利用するための施設や有休ファイナンシャルプランナーなどの新たな職業も生まれ始め、世の中には有給休暇消化案内所(通称ハローホリデイ)などが作られ、有給休暇をどう過ごしていくのか、というトレンドに対する答えも出回り始めた。
本記事では今後も参考になる有休の使い方などがあれば順次紹介していくものである。なお、先日の私の有休の使い方はラーメン屋を何軒はしごできるか、ということに一日を費やし、12軒の記録を打ち立てた。大盛りでなければ何とかなるもんだな、と思った次第である。
~月刊金銀パール:世は大有休時代! より抜粋~
「それでは、お昼はごちそうになったのです。私はこの書類をさっそく提出しに行くので失礼するのです」 足早にイアンちゃんは去っていった。連絡係は忙しそうだな。これも俺のせいではあるんだが、定期的にチェックをする仕事、とすれば仕方がないのかもしれないな。「結局、どうなったのですか? 」 セルフィはまだ袖を握ったままだ。セルフィの手から裾を離させると、セルフィの目を見てしっかりと伝える。「どうやら、休みが17日延びたらしい。その間、こっちに引き続き長く滞在することになりそうだ。さらに延びるかどうかはわからないし、最悪逆に短くなることもあり得るらしいが……今のところは問題なし、ということになると思う」 そう伝えると、セルフィの目の輝きがあふれんばかりにまばゆくなった。「じゃあもうしばらく、ご主人様はご主人様でいてくれるのですね」「俺としては早くご主人様じゃなくてタカナシと呼ばれたいところではあるが……まあ、そういうわけだ、ちょっと長くなった程度だが、よろしく頼む」「はい! 」 セルフィと二人で喜び合って、迷いネコのスープ屋を出る。大銅貨3枚でうれしいことがあったと考えれば十分利益になるし、17日の延長の間に……ざっくり金貨2枚は稼げる。最終日にセルフィに残していく金額を除いて全部換金すれば、それなりの資産にはなるだろう。 現世に戻った後に税金もしっかりとられるだろうが、それでも十分な利益にはなる。こうなったら、こっちで資産家になってセルフィには満足なだけのお金を置いていって、それでもまだ俺の懐に利益が入るように稼ぎまくってやるか。 その為にはいろんなチート知識が必要だ。石鹸づくり、化粧品づくり、リンスづくり、ガラス製品の開発……をするにはビランザの町へ行く必要もあるか。一度行ってみたいな、ビランザの町。どこにあるかもまだわからないし、どのぐらいの旅費や日数がかかるかまではわからない。 訪れて、落としても割れない強化ガラスの製造方法なんかを伝授して、今度こそ春のパン祭りを開
「まず、軽いほうからですと、稼いだ金額の一定報酬の没収があるのです。それではせっかく稼いだ意味がなくなるのでこの刑罰だけは受けないほうが良いと思うのです」 たしかに。だが、最悪すべてのお金をセルフィに託して帰っていく、という方法も取れるから、これについてはそれほど重荷になる刑罰ではないな。「その次に、有給休暇を使って働いているならば有給休暇を使うこと自体が罰、ということになるので、極端な有給休暇の日数削減措置が取られることがあります。これは最近あった事例ですが、有給休暇中に長距離トラックの運転手のアルバイトをして儲けていた人が、50日の有給休暇減を言い渡された事例がありますね。タカナシさんの場合、100日ぐらい行くかもしれません」 有休休暇中に働いたら罰則……そういうのもあるのか。有休を減らされてその上罰金まで取られるとなると、かなりのマイナスになるのは間違いないな。そうならないようにイアンちゃんを抱き込んでおく必要があるか。「あとは最悪の場合、拘禁刑にまで発展する可能性はあります。これはよほどのことがない限りは適用されることはなく、現時点でも過去の事例では一件しか存在しないらしいですが、何をしたら拘禁刑を申し付けられるほどの罰則を命じられるのかはわかりません。充分に注意してくださいね」 有休中に働いたら罰則どころか懲役か。そこまでの物になるのはちょっと想像しづらいが、そういう可能性がある、ということは覚えておいたほうが良いだろうな。 セルフィは足をぶらぶらさせながらこちらの話を真面目に聞いている。おそらく固有名詞や拘禁についてはわからないだろうが、罰金なんかは理解していると思われる。「ほら、だから働きすぎると悪いことも起きるんですよ。ご主人様はもうちょっと真面目に休むべきです。せっかく不労収入を稼ぎつつあるんですから、それにあぐらをかいてもっとゆっくりするべきです」「真面目に休むってのも変な話だが……まあ、とりあえず今日は休日だ。今後はよく考えて休むことにする……が、やることもそんなにないからな。娯楽は必要だな。もっと娯楽を世間に提供していくことを考
「見つけました、タカナシさん」 商業ギルドを出たところで、イアンちゃんに捕まる。なんか前もあった気がするな。イアンちゃんから用事があるってことは、アザーワールド社がらみ、つまり有休がらみの話である可能性は非常に高い。「おはよう、イアンちゃん」「おはようございます。今日はお仕事ではないんですか? 」 イアンちゃんが確認をしてくる。お仕事だったらこの間みたいに付き合いながらお話をする、という流れになるのかもしれないが、今日は休み、しかも昼時。ゆっくり食事をしながら話し合いができる時間だ。「暇だから問題ないよ。むしろどこかでご飯を食べながらゆっくり話をするぐらいの余裕がある。どこかイアンちゃんのおすすめのお店へ行こう。お金も今日は稼いだし、俺のおごりでもいい」「なるほどなのです。では、たまにはお言葉に甘えるのです。おすすめのお店は……この近くにスープの美味しい店があるのです。そこに行くのがいいのです」 もしかして、「迷いネコのスープ屋」ではなかろうか。ちょうどいいな。セルフィのほうを向くと、コクリコクリと肯定をしている。どうやら、イアンちゃんのお勧めに外れなし、と思っているようだ。「じゃあ、そこで。イアンちゃんのおすすめならハズレは引かないだろうからね」「信頼されていて何よりなのです。いくのです」 イアンちゃんについていくと、やはり行く先は「迷いネコのスープ屋」だった。今日はランチじゃなくて普通のスープを頼もう。さて、何味があるのかな。「三人で」「テーブル席にどうぞー」 案内され、テーブル席に着く。久しぶり……というほど間が空いているわけではないが、割と最近来たのでまだ店の雰囲気も覚えている。「お二人は来たことあるのですか。なんだか慣れている感じなのです」「実は先日二人で来たところなんだ。だから今日はランチ以外の違う味を試すチャンスかなって」「なるほどなのです。ここはランチ以外もお勧めなのですよ」 ミニボア肉の豆スープと、ガルキン肉出汁入りスー
商業ギルドに向かう。道中の、原料であるいろんな材木の香りを楽しみながら進む。木工工房も工房によっては作るものが違い、樽を作る工房、皿やフォーク、匙を作る工房、大工、荷車や車輪を作る工房、とそれぞれ作るものがある程度決まっている。 その中で徒弟に勉強をさせつつ、暇なときに他の仕事をさせるためにリバーシはちょうどいい小物らしい。あちこちの工房で作っているらしく、それぞれ工房の特色が出ているらしい。 それぞれ眺めてみたくはあるが、サンプルが商業ギルドにあるかもしれないな。商業ギルドで時間があればリバーシの台やコマの材質、ニスの厚み、触感などがそれぞれ違うものを用意されているのだろう。「さて、ラムーさんは何処にいるのかなっと……」 商業ギルドに到着して、カウンターでラムーさんを呼び出してもらうように頼む。居場所を探すのでしばらく待ってくれと言われたので、その間に商業ギルドの商品閲覧場所で、リバーシの台が何台か飾られていることを確認する。 銀貨数枚分の親方手作りの高級リバーシ台が並んでいるのを見る。値段は銀貨2枚から5枚ほどの価格帯が用意されており、数がそんなにないことを見ると、売れているのか、それとも参加している親方が少ないのか。その辺はラムーさんに聞けばわかるな。 やはり、底値は銅貨35枚というのが手習い価格らしい。このうち3枚は俺の取り分、ということだろう。木工工房の取り分がいくらになっているかはわからないが、ちゃんと金を払ってくれているのならいいな。 しばらくして、目の保養をし終えたぐらいでカウンターから呼び出しを受け、戻っていく。「申し訳ありません、ラムーは現在マヨチュッチュに行っているようです。急ぎの話でしたらそちらへ向かっていただけると助かります」「そうですか、わかりました。時間もありますしそちらへ向かおうと思います」「お手数をおかけします。よろしくお願いします」 受付を離れ、商業ギルドを出る。「セルフィは使ってみたいリバーシ台はあったか? 」「そうですね……綺麗な台はありましたが、使っている間
「あ、いました。一日どうでしたか。リンカちゃん、安いほう一つ」「あいよー、黒パンセット一つ! 」 ふと気が付くとイアンちゃんが訪ねてきていた。そういえば、夜にでも今日の一日の成果を確認しに来ると言っていたな。「やあ、イアンちゃん。一日ゆっくりできたかい? 」「それはもうゆっくりと……って、私のことは良いんですよう。お二人がどうなっているかが気になるんです」「それは、もうばっちり。この通り、今日のご飯は高級セットが食べられるぐらいには稼いできたよ」 テーブルの食器を指
身支度を整えたところで一階の食堂に降りて行って、リンカちゃんにリッチな夕食を二人分頼む。「父さん、白パンセット2つ! 」 席に座り、しばらく待っていると、しっかり両面を焼かれた白パンに具だくさんのスープとちょっとしたソースがかけられた肉が小さく一枚乗ってきた。どうやら今日はサービスがいいらしい。それとも、夕食の白パンセットには必ず肉がつくんだろうか。まあ、いい。 とりあえず食べよう……と、肉についているソースをなめとる。少しはちみつが混ぜてあるのか、ほのかな甘みとソースのこってり感がある、なかなかに味のあるソー
side:セルフィ 奇妙なお兄さん……私のご主人様、タカナシさんとの生活も二日目になった。思えば、初日にいきなり剣を持たされてさあ、振ってみろと言われたのはかなり無茶だった気がします。 でも、剣を持たされた私は急に世界が広がったように見えて、そしてモンスターの動きもゆっくりに見えて。まるで剣が私を欲していたかのように動き出すことができました。 戦うのは初めてだったけれど、それでもこの上なくうまくいった気がします。これが剣聖というスキルの効果だったのでしょう。 私にそんなすごいスキルが付属していた
結局ミニボアを3匹ほど倒し、心臓が動いてる間にできるだけ血抜きをしながら進んできたので思ったより時間がかかった。30分で間に合う道に40分かけて歩き、何とか2匹は血を抜いたが1匹は血抜きをしないままアイテムボックスに入れて持ってきた。 これはちょっと減額されるかもしれないな。でもまあ、セルフィが綺麗にさばいてくれたおかげで毛皮にもほとんど傷はついていない。肉の味にどうかかわってくるかだけが気がかりだな。 北門に到着して門で冒険者証を見せて通り抜ける。「素人質問で恐縮なのだが、北門だけ他の門と違う理由で通り抜けが可能だったりしないのか? た
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