LOGIN通称・有休強制消化法案が成立した未来、あらゆる手段で320日分の有休を溜めた男、小鳥遊正明(43)は、ついに有休の消化を始める。いろんな消化方法がある中に特別プランと名前の付いた個人名あてのダイレクトメールに従って会社を訪ねてみると、異世界転移して異世界で休日を過ごすプランがあることを説明される。小鳥遊はこのプランが自分だけへのオリジナルプランであることを察し、そのプラン通りに乗って異世界へ旅立つ。
View More20XX年、国会にて通称、有休強制消化法案が成立した。これまでは買取か消滅で有給休暇を取らずにごまかしていた企業、機関、特別公務員、研究職も含めて、すべての人々はこれまで見逃されていた残業規制の壁や法的前提を取っ払われた。
その結果、すべての代休や残業時間分を有給休暇に換算され、その有給休暇を強制的に消化させられることになった。残業手当こそ出なくなったものの、残業にかかった時間の二割五分増しの時間を有給休暇として付与する義務が生じた。これにより、カラ残業を行う労働者が激減したため企業の負担も若干減るところがあった。
それに伴い、これまで有給休暇を消化させたフリをしていた会社などが一斉に検挙され、厚生労働省を筆頭にかなりの数の機関や法人がメディアに取り上げられ、世の人々はこれが労働層に対する社会のアプローチの形として歓迎される運びとなった。
世間は労働者不足で嘆いている中でこのような法案を通すのはいかがなものか、という企業側からの圧力もあったが、労働者が不足しているからこそ手厚いケアが必要であり、労働者への適切な支援により、長持ちするのは機械も人間も同じである、という労働者擁護の意識が出始めた。
ちなみにこの法案は特別公務員にも適用されたため、質問通告を待って深夜まで待機している官僚もいなくなり、一部野党では質問ができなくなった結果適切な国会運用ができるようになったという体感もあったため、官僚側からの感想もなかなかいい法案を通してくれた、ということが伝わってくることになった。
さて、ここで一つ問題が生じることになる。有休をどうやって消化させるのか? という点である。有休である以上好きな時に好きなタイミングで取ることができるため、有休の上限であった40日をはるかに超える長さの有休のため込みが法的に許可され、人々はこれまで残業時間で鎖の長さを自慢していたが、今後はそれが有給日数に変わっただけではないのか? という疑問点が湧くのだろう。
しかし残業日数は適切に処理していくべし、とのお達しにより、一年分溜めてまとめて旅行に行くであるとか、高級列車で回る国内一周旅行や海外旅行、世界一周旅行などに有給休暇を使い始めるものもあらわれ、世の中は「いかにして質の良い有休を消化するのか? 」というのがトレンドになった。
巷には有休を効率的に利用するための施設や有休ファイナンシャルプランナーなどの新たな職業も生まれ始め、世の中には有給休暇消化案内所(通称ハローホリデイ)などが作られ、有給休暇をどう過ごしていくのか、というトレンドに対する答えも出回り始めた。
本記事では今後も参考になる有休の使い方などがあれば順次紹介していくものである。なお、先日の私の有休の使い方はラーメン屋を何軒はしごできるか、ということに一日を費やし、12軒の記録を打ち立てた。大盛りでなければ何とかなるもんだな、と思った次第である。
~月刊金銀パール:世は大有休時代! より抜粋~
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「小鳥遊主任、いい加減有給消化してくれないもんかな。この際長期でお休みを取るでもいいからさ。当社としても毎回厚労省からの通達で君の名前が筆頭に挙がってくるし、ちゃんと本人には仕事を休んできっちり有給休暇を取得してくれるように頼んでいる、と毎回報告しているものの、実際にきみが有休を取ってくれないと困るんだよ」
上司である係長の中上からの叱責が飛ぶ。今の世の中は効率こそが第一。残業や日曜出勤でいたずらに有給期間を増やし、または有給休暇を消費せずにため込んでおくことはこの際美徳ではなく悪徳とされる時代になっていた。
「もう少しだけ待っていただけませんか。今、私抜きでも仕事が間に合うようにマニュアルの作成の真っ最中で、もう少しでマニュアルの実装テストが終わるところなのです。業務と無関係な人員を配備してくださって、その人員がマニュアルを読んだだけで実行できるようになればそれで私の部下の業務をほぼすべて任せることができるようになります」
「わかった、その手配はしておこう。別部署から適当に一名、一日借りてきてそのマニュアル通りに仕事ができるかどうか試せばいいんだな? 」
中上がメモを取り、「人員確保、一名、小鳥遊主任と別部署から」と的確にメモを取る。そのメモを取った手を横目でさっと見て、安堵する。これでようやく休めるようになるのかな、と。
「はい、お願いします。そうなればようやく溜まった有休に手を付けることもできるようになる、というところに達することができます」
「しかし、普段の仕事に加えてマニュアル作成までやらせてしまってすまないな。おかげで君の有休はたまりっぱなしだ。本来なら許されないことなのだが……残業ついでに他の仕事まで任せてしまっている現状はよくわかっているつもりだ。君もこの仕事が終わったらゆっくりできるはずだから、その間持たせるように手はずは整えておく。でもまさか、君がそこまで有休を取らずに働いているのは、何か野望でもあるのかね? 有休を盛大に使って世界旅行をしてみたいとか、豪華客船で世界周遊をしてみたかったとか、そういうものが」
中上としては、きちんと有給休暇を使う意思があるのを今再確認したので、次に厚労省から有休の未使用事故情報がある人へのランクインはなんとか逃せるようになるようにはなるだろう。
「では、失礼します。引継ぎマニュアルの続きを書きに向かいますので。引継ぎマニュアルのほうはでき次第中上係長の共有フォルダにアップロードしておきますので、出来上がり次第お声がけしますのでご一読をお願いします」
「ああ、わかったよ。それでは、仕事がまとまり次第小鳥遊主任には有給休暇をまとめて取得してもらうことになる。その間の仕事のつなぎと部下への仕事マニュアル化、それから……色々だ、とにかく頼んだからね」
小鳥遊正明、主任、43歳。この二日後、無事にマニュアルの稼働が可能であることを承認され、現場から離れ、長期有給休暇の消化を始める。
有休残り期間:320日。厚労省有休ブラックリスト上位者の孤独な有給消化が始まる。
「さて、何をしようかな。有休消化と言われてもな。寝て起きて終わるだけでは面白くないし、何か面白い体験でもしたいところだな……そういえば有休消化案内所から、妙なパンフレットが来ていたな。特別プランとか書いてあったがいったい何だろう」
奴隷の中の一人の少女の鑑定を行ってみる。その鑑定の中身には驚くべき一つのスキルと一つの称号が書かれていた。「ケンセイ」「イセカイテンイシャノシソン」 片方は剣聖、もしくは拳聖、後は健聖という可能性もあるが、あまり健康そうには見えないので最後のはありえないだろう。どちらにせよ何かしら強そうなイメージが与えられる。問題はもう一つのほうだ。 異世界転移者の子孫。これはあれだろうか。俺以外の異世界転移者がこの世界に過去に存在していて、その転移者が残していった種が畑に植えられて、実った結果、ということなのだろう。おそらくはこの子は借金奴隷なんだろうな。母親が食うに困って売った、というところだろう。 同じ異世界転移者として気になるな。しかし、俺が助けたところでどうにかなるものなのか。俺だってあと319日たてば自分の世界に帰るのだ。そこまで責任を取れと言われても難しいし、しかし、これを見逃すのも……同じ有休消化者として、それはもっと難しい。 檻に近づいてその子をじっと見る。俺を見返すその子の目は深く沈んでいて、悲しみをたたえるだけになっていた。どれだけの間この子は奴隷として過ごしてきたのだろう。そして、いったいどれだけの間、この子に銀貨一枚の価値すら見出さず、普通の奴隷として売ろうとしてきたのだろう。 ほんの銀貨1枚。それだけの費用をかけるだけで、この子は剣聖か拳聖としての素質を見込まれて、より高い金額で販売されている可能性もあったわけだ。逆に言えば、それだけ期待をかける奴隷商がいたならば彼女は俺の前に現れることはなかったということでもあるな。そして異世界転移者である俺でなければ、彼女の価値を見出すこともなかったということになる。 これは、買えといわれているのと同じではないか。こんなイベントまで用意されているのだとしたら、神崎さんは趣味が悪いが、確かに異世界あるあるではないか。彼女を購入するためにはどうすればいいんだろう。「なあ、こいつらはいつ売りに出されるんだ? 」「明日の朝には。今は見せの時間だ。どうしても欲しけりゃ明日の朝一で店に来な。そうすりゃせめて人に見せられる服装をさせて店先に並
アイテムボックス以外にどんなスキルが付与されているのか。それを確かめに行く必要があるな。「どこかでスキルを確認することはできないのかい? 」「それなら、そこの露店の占いばあさんに頼むといいです。各地にネットワークを広げていて、ばあさんはみんな鑑定の技能を持ってる凄腕ばかりなのです。なのに、銀貨1枚で鑑定してくれる格安便利ばあさんなのです」 そんな街に一人はいるセーブデータを記録してくれる教会の司祭、みたいな存在がこの世界にも存在するらしい。ただ、田舎にまではさすがに足を伸ばしていないらしく、このボコマズの町ぐらいの中都市には一人はいるようだ。そして、その占いばあさんの前までくる。「鑑定かい? 」 ばあさんが上目遣いにこちらを見る。「ああ、頼むよ。自分が何のスキルを持っているかよくわかってないんだ」「銀貨1枚だ、先払いだよ」 アイテムボックスから銀貨を出し、ばあさんに渡す。「アイテムボックスを持ってるのはわかってるんだねえ。じゃあしばらく待ちな」 ばあさんが俺の顔を見ながら目を光らせる。しばらくした後、ばあさんの目が光るのが終わり、結果がばあさんの手によって書き出されていく。「御同輩じゃないか。なんで自分のスキルも知らずにあたしに依頼するかねえ」 そう言われながら書き始められたスキル欄には、カンテイの文字が。鑑定。つまり、俺も鑑定スキルを持っているということなのだろう。確かに、異世界転移じゃ定番中の定番だ。それを持たせておいてくれたということか。神崎さん、隅々まで至れり尽くせりの異世界旅行をありがとう。俺、こっちでもしばらくたくましく生きてみます。 鑑定以外には、タイジュツ、ケンジュツ、ソウジュツ、アンキジュツ……などと並んでいき、どれもレベル1のものが付与されていた。それぞれ体術、剣術、槍術、暗器術などだろう。カタカナだけなので、同音異義語を含んでいる可能性はあるが、おそらくは冒険者としてある程度必要不可欠なものはインストールされている、と考えてみてもいいんだろうな。 スキルの中にアールエムティーというものが存
サイバルさんとの会食が始まる。サイバルさんの白パンはよくトーストされた、こちらで言う六枚切りの食パンのような弾力で、馴染み深いものではある。それが160円で食えるとなると、やはり十分物価は安いな。これでも世間が回っているということは、よほどの経済的な格差があるのか、それとも果てがない上が存在するのか。 まあそれはさておき、食事だ。温かいスープにパンを浸して食べ、パンの酸味を抑えつつも、決して柔らかくないそのパンをかみ砕き、咀嚼して胃に入れる。80円の食事ならこんなものか……現世でも、298円でハンバーグ弁当が食えるスーパーも確かにあったが、あれに比べればこっちのほうが少なくとも量はあるし腹は満たされる。量が足りなければ二つ頼めばいいだけだ。しかし、そろそろ顎にガタが来る年齢にこの黒パンの表面の硬さはちょっと来るな。 サイバルさんは白パンを優雅に食べ、そしてスープのほうもこちらより少し肉が多い。やはりお高いセットはそれだけ価値がある、ということだろう。 温かさと量だけはあるこの食事を無事に胃に詰め込み、顎が痛くならないかどうか心配する間に、サイバルさんも食べ終えて、ようやく腹と顎が落ち着いたところで商談に入る。「うむ、私の話はシンプルだ。その服を売ってほしい。おそらく、何かしらの取引で手に入れたものだとは思うのだが、その素材を研究してより良い服造りをするためにも物そのものが必要だ。ぜひとも協力していただきたい」「では、こちらの条件を。上から下まであなたのお店で、最高級品でなくてもいいのでそろえさせていただきたい。私はこれが一張羅なもので、これを渡してしまっては裸で生活しなければいけなくなる。その点はまずよろしいですか? 」「うむ! それぐらいは喜んで出させてもらおう。手付金代わりに受け取ってもらいたい。服の値段についてはまた別で……と考えているぐらいだ。そんな話でよければいくらでも乗ろう。それで、いくら出せば君のその服、譲ってくれるのかね? 」 うーん……実際問題どのぐらいなんだろう? 二度と手に入らないという意味ではそれなりに高級品であることに間違いはないのだろうが
食堂に入り、適当に空いた座席に座る。「リンカさん、ランチ二つで」 イアンちゃんが早速注文をする。通い慣れてる感じがするな。「あらイアンちゃん、久しぶり。ここに来るってことはお客さんかしら」「そうです、お仕事です。なので美味しいところをお願いします」「うちはいつも美味しいところしか提供してないよ! 」 いつものお互いの軽口なのか、嫌みっぽいやり取りではなかった。他の有休消化者も似たようなやり取りはしてきたんだろう。しばらくすると、温かそうなスープと肉の焼いた塊、そして付け合わせのようなパンが出てきた。パンは白パンではないので、お値段はそれ相応、ということなんだろう。「これがこっちで一般的な外食の形になります。これで銅貨8枚ってところですね。下手に自炊するより外食の方が安くすみます。たくさん利用してあげてください」「ここにはよく来るんだ? お互いに顔見知りって感じだけど」「そうですね、神崎さんからの紹介の方を連れてくるときは大体ここですね。後は時々おごってもらうのもここになります。ここ、高級ランチもやってて、銅貨16枚払うと白パンが出てくるんですよ! 」 なるほど、白パンはやはり高級路線なわけだな。しかし、一般庶民でもその気になれば手を出せる、ということまでわかった。そして、もう一つ分かったことがある。この銅貨一枚は10円ほどの価値ということだ。つまり、今日の昼飯代はイアンちゃんの分を含めても160円しか支払ってないことになる。 現世であれば2000円は軽く超えるところだろうに、確かに事前に伝えられている通り、物価は十分の一程度になっているのだろう。しかし、160円で白パン定食が食えるなら、毎日でもいいところだが、下手に毎食それを頼んで悪い輩に目を付けられる可能性もあるのだ、ほどほどにしておくべきだろう。 黒パンはほのかな酸味があり、ライ麦パンかな? と思う程度。白パンが当たり前の現世からすれば逆に高級路線のパン、と判断することもできるので、こっちに慣れるほうが逆に贅沢をしてる気分になってくるな。「さて、タカナシさん。まずはお金の話をしましょう」