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第4話

Penulis: Artemis Z.Y.
美桜の視点

暗いリビングルームに座り、ただ、ぼんやりと過ごしていた。

この広い家が、やけに静かだ。オフィスでの事件から三日間、真司は一度も帰ってきていない。彼が私を罰しているのだと分かっていた。それでも私は、愚かにも待ち続けていた。

時計の針が十二時を回る……一時。そして二時。

真司は、帰って来ない。

不意のバイブ音に、心臓が跳ねた。画面を照らすのは、大学時代の古い友人からのメッセージだった。

【やあ、久しぶり!明日コーヒーでもどう?】

水野圭介(みずの けいすけ)、彼から連絡が来たのは久しぶりだった。大学時代、私たちはアートスタジオで数え切れないほどの時間を共に過ごした。私が自分の才能を信じられずにいた時でさえ、彼だけはいつも私の絵を信じてくれていた。

返信する指が少し躊躇した――コーヒーくらい、問題ないわよね?

【いいわよ。どこで?】

翌朝、私は静かなダウンタウンの一角にあるカフェに身を置いていた。

圭介は、変わらない笑顔で私を迎えてくれた。私を見つけると彼は立ち上がり、相変わらずの男前だった。

ダークヘアはスタイリッシュに遊ばせ、群青の瞳は私の記憶にあるのと同じくらい、深く優しい色をたたえていた。

「佐伯美桜」

彼は照れくさそうに笑って右手を差し出し、私の手をしっかりと握り返した。

「相変わらず美しいね」

ストレートな物言いに、頬が熱くなる。

「あなたも素敵よ、圭介」

「コーヒーじゃなくてホットチョコレートを頼んでおいたよ」

席に着きながら彼が言った。

「君は、コーヒーが苦手だっただろう?」

彼がそんな些細なことを覚えていてくれたという単純な事実に、不意に喉が詰まった。

いつからだろう。誰かが私のそんな小さなことに気づき、気遣ってくれたのは。

「それで」彼が切り出した。「S.Y.ホールディングスで働いてるって聞いたよ」

私は頷き、ホットチョコレートをスプーンでかき混ぜた。

「人事部でね」

「本当?」彼の眉が上がる。「大学のホールにあの素晴らしい壁画を描いた女の子が、人事部に?」

「人は変わるものよ」私は静かに言った。

「変わる必要のないものもある」

彼は身を乗り出した。

「実は、それで会いたかったんだ。僕のデザイン事務所が大きなプロジェクトを取った。新鮮な才能を探していて、すぐに君のことを思い出したんだよ」

「私を?」

「驚いたふりしないでよ、美桜。君はいつもクラスで一番才能があったじゃないか。断った奨学金のこと、覚えてる?」

覚えている。忘れるはずがない。

真司が私を秘書として雇った直後のことだ。夢を追うことよりも、彼の近くにいることの方が大切だと、自分に言い聞かせて諦めた未来。

「分からないわ、圭介。何年も何も描いてないもの」

「スタジオを見に来るだけでいいんだ」彼が真摯な瞳で懇願する。「無理強いはしないよ。ただ見て回るだけでいい」

彼の熱意は伝染するようだった。何日かぶりに、自分の唇が自然な笑みを形作るのを感じた。

「もしかしたら――」

「美桜」

その声に、私の笑顔が凍りついた。

真司が私たちのテーブルの前に立っていた。

感情の読み取れない顔をしたまま、ぴしりと決まった黒いスーツを纏った彼は、完璧で、そして恐ろしいほど近寄りがたく見えた。

「浅木さん」

私は機械的にそう言った。声が萎縮してしまう。

圭介が立ち上がり、屈託なく手を差し出した。

「浅木真司さんですね?僕は水野圭介。美桜と大学が一緒だったんです」

真司は差し出された手を無視した。その鋭い視線は、私だけに固定されている。

「話がある」

拒否権などない、絶対の命令。

私はふらふらと立ち上がり、圭介の心配そうな視線を避けた。

「美桜」圭介が私を呼び止める。「僕が言ったこと、考えてみてね」

真司の顎に力が入り、不機嫌さを露わにする。彼は私の肘を乱暴に掴んで、外へ連れ出した。その触れ方が、袖越しに火傷しそうなほど熱い。

「誰だ、あいつは?」

真司の声は低く、危険な響きを帯びていた。

「ただの古い友人よ」

「ただの友人は、あんな目つきをしない」

私は腕を引き離した。

「どんな風に?あなたが弥生を見る時みたいに?」

彼の目が鋭く光る。「それとは違う」

「何が?何が違うの、真司?」

「お前は契約書にサインした」彼が一歩近づき、私を壁際に追い詰める。「一定の条件に同意したはずだ。結婚期間中、他の男性との関係は一切禁止だと」

私は苦々しく笑った。

「私たちの結婚?この取り決めをそう呼ぶわけ?」

「法的には有効だ」彼の熱い息が顔にかかる。「忘れたのか?」

「いいえ」私は囁いた。「何も忘れてないわ。あなたがこの三日間、どこにいたかも含めてね」

彼の瞳に何かがちらついた。罪悪感?それとも怒り?今となってはもう分からなかった。

「俺が何をしようと、お前には関係ない」

「でも私が何をするかは、あなたの『関心事』なのね?」私は反論した。「それってフェアじゃないわ、真司」

「人生はフェアじゃない」彼は苛立たしげにネクタイを整えた。「契約を忘れるな、美桜。もう一度思い出させるような真似はさせないでくれ」

彼は去ろうと背を向け、それから立ち止まった。

「それから、あの友人には時間の無駄だと伝えておけ。お前にそんな暇はない」

「彼は私に仕事を紹介してくれたのよ」

彼の背中に向かって私は言った。

真司が立ち止まる。ゆっくりと振り返った動作には、威圧感があった。

「何?」

「仕事よ。彼のデザイン事務所での」私は顎を上げて見返した。「私、昔は絵を描いてたの」

「その昔は、いつだ?」

「あなたの秘書になる前」その言葉は苦かった。「あなたの契約書にサインする前よ」

真司の表情が曇る。「受けるつもりじゃないだろうな」

「どうして?どうせあなたは私を出勤停止にしたんだから」

「一時的にだ」真司が一歩、詰め寄る。「お前は俺の妻だぞ、美桜」

「あなたの、妻?」

私は彼の視線を真っ向から受け止めた。

「私があなたの妻なのは、それがあなたにとって都合がいい時だけみたいだけど。取締役会にどれだけ安定してるか見せる必要がある時。誰かにベッドを温めてほしい時だけ」

彼の拳が強く握りしめられる。「それは違う」

「じゃあこの三日間、どこにいたの、真司?弥生と?」

真司が私の手首を掴んだ。痛いほどではないが、逃れられない強さで。

「最初から分かっていたはずだ。騙したつもりはない」

「いいえ」私は囁いた。「自分を騙してたのは私の方。もしかしたら……もしかしたら十分に辛抱強くして、十分に優しくして、あなたのルールを全部守れば……」

私は手首を引き離した。

「でも、間違ってたのね」

彼の瞳に、揺らぎが見えた。「美桜……」

「私の人生全部、あなたの思い通りになんてさせない、真司。もう、できない」

「契約書には――」

「契約書で禁じられてるのは『浮気』だけでしょ。仕事を受けてはいけないなんて、どこにも書いてないわ」

私は背筋を伸ばした。

「もしかして、嫉妬してるの?」

彼の口から漏れた笑いは、荒々しく乾いていた。

「嫉妬?俺が、あいつに?馬鹿言うな」

「じゃあ問題ないわよね?」

私たちはそこに立ち尽くし、互いを見つめ合っていた。一瞬、彼の瞳の奥に何かを見た気がした。でも、すぐに彼の仮面が鉄壁の冷たさを取り戻す。

「分かった」彼は冷たく吐き捨てた。「いいさ、仕事を受けろ。だが自分の立場を忘れるな、美桜。お前はまだ俺の妻だ」

「違うわ、真司。私はただの社員で……契約上の妻ってだけでしょ。似て非なるものなのよ」

「……家で話そう」

そう吐き捨てると、彼は背を向けた。今度は、私は彼を追わなかった。

携帯が震えた。圭介からのメッセージだった。

【大丈夫?仕事の話の続き、する?】

私は長い間メッセージを見つめていた。そして、迷いを振り切り、送信ボタンを押した。

【そのポジションについて、もっと教えて】
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