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第5話

Author: Artemis Z.Y.
真司の視点

俺は仕事に全く集中できなかった。

美桜があの男と一緒にいる光景が、頭の中で何度も何度も再生される。水野圭介――その名前を聞くだけで、胸の奥が焼けつく。

「鈴木」インターホン越しに呼びかけた。「水野圭介について、調べられるだけ調べてくれ」

「あのデザイナーのですか?」

凛奈の声は慎重に中立を保っている。

「すぐに調べてきます」

ネクタイを緩める。空調は効いているはずなのに、やけに暑い。

美桜は彼のデザイン事務所で何をするつもりなんだ?二人きりになるのか?一緒に遅くまで働くのか?芸術家なんて人種は、どうせそんなもんだろう?

二人が彼のスタジオにいる光景を想像すると、顎に力が入り、歯が軋んだ。

まさか手取り足取り教える気か?彼の手が美桜の手に触れるのか?肖像画を描くのか?ああ、まさか美桜が彼のためにポーズを取るのか?

俺は苛立ちに任せてネクタイを乱暴に引き剥がした。

悪いイメージが止まらない。美桜が昔、俺に向けていたような無垢な笑顔を、あいつに向ける。美桜が彼のスタジオに夜遅くまで残る。美桜が彼に心を許し、近づきすぎるのを許す。

「やめろ……」

低く呟きながら、自分に強い酒を注ぐ。

これは純粋に仕事上の懸念だ。それ以外の何物でもない。美桜は俺の妻だ。たとえ書類上だけだとしても。彼女の職場環境について知る権利が、夫である俺にはある。

ノックの音がして、凛奈が分厚いファイルを持って入ってきた。

「水野圭介の経歴です」

ページをめくるごとに、眉間の皺が深くなっていく。

受賞歴のある独立系デザイナー。一流芸術学校のゲスト講師。彼の作品はヨーロッパ中の主要ギャラリーで展示されている。フォーブス誌の「30歳未満の30人」。セレブリティや王族からの個人的な依頼。

完璧すぎる経歴。

どす黒い感情が、胃の底に沈んだ。

「プライベートも洗え」

凛奈が躊躇した。「社長?」

「結婚してるのか?誰かと付き合ってるのか?」

「……調べます」彼女は一度間を置いた。「それに、社長には他に知っておくべきことがあります」

顔を上げた。

「奥様は大学で美術専攻でした。パリへの全額奨学金のオファーを受けていました」

俺は彼女を見つめた。「何だと?」

「うちに来るために、断ったそうです」凛奈の声は慎重だった。「先生たちは、彼女が並外れて才能があると言っていました」

胃の不快感が増していく。なぜ俺はこんなことを知らなかったんだ?そもそも、美桜の興味や夢について、一度でも聞いたことがあっただろうか?

「あの男の会社を買収すべきか?」

唐突に尋ねた。

凛奈が呆れたような目を向けた。「……本気で言ってますの?」

「弁護士に――」

「社長」凛奈が遮った。彼女がそうすることは滅多にない。

「あの人の会社を買おうとするより、奥様と話し合った方がいいのでは」

俺は手を振って彼女を退室させた。

携帯が震えた。弥生だ。

画面を一瞥し、無視した。

弥生……かつては、俺の全てだった。今は……今はなぜか、彼女からの電話がひどく邪魔に感じられる。いつからそうなったんだ?

定時よりも早く家に帰った。そんなことは滅多にしない。

家に入ると静まり返っていた。リビングルームへ向かうと、美桜がノートに何かを熱心にスケッチしていた。彼女は顔を上げ、俺を見て驚いた様子だった。

「早いのね」

俺は歩み寄り、彼女の顔をじっと見つめた。疲れて見える。肌は青白い。働きすぎているのか?具合が悪いのか?それとも、あの男との新しい仕事に興奮しているだけなのか?

考えもせずに、俺は彼女をソファから引き上げた。彼女は俺の腕の中で、驚くほど小さく感じられた。

しっくりくる。あるべき場所に、戻ったような。

顔を下げてキスをしようとした。

彼女が突然顔を背け、手を口元に当てた。

反応する間もなく、彼女はバスルームへ駆け込んだ。激しく戻す音が聞こえる。

「美桜?」

後を追いかけた。苛立ちよりも、純粋な心配が勝った。「具合が悪いのか?」

彼女はさらに青ざめた顔で出てきて、口元を拭った。「大丈夫よ」

「大丈夫には見えない」手を伸ばしたが、彼女は怯えたように後ずさった。

「二番手はうんざりなの、真司」

彼女の声は疲れ切っていた。

「弥生とあなたを取り合うなんて、もう嫌」

「弥生とは関係ない」

口に出して、自分でも驚いた。弥生のことを考えても、遠く、どうでもいいことのように感じられたからだ。

「じゃあ何なの?」彼女の瞳が、挑戦的に俺を見据える。「本当はどうしてここにいるの?」

お前があいつと働くなんて、耐えられない。他の男がお前を笑顔にするという想像だけで、何かを破壊したくなるほど腹立たしいから――

「お前は俺の妻だからだ」

ようやく絞り出したのは、そんな言葉だった。

「契約上の妻でしょ」彼女は苦々しく訂正した。

その時、彼女がバスルームのキャビネットから何かを取ろうとしているのに気づいた。薬の瓶だ。

「それは何だ?」

「何でもないわ」彼女は隠そうとしたが、ラベルがちらりと見えた。

「最近よく薬を飲んでるな」

「ただのビタミンよ」彼女は瓶を強く握りしめた。

「新しい仕事のためか?」嫌味を抑えきれなかった。

「ええ、まあね。健康でいなきゃいけないもの」

彼女は俺を通り過ぎようとした。俺はその行く手を阻む。

「その仕事について教えてくれ」

「どうして?私が受けるのを止めようとするため?」

「何をするのか知りたいんだ」

彼女は笑った。けれど、その響きに歓喜の色は微塵もなかった。

「今さら私が何をしてるか興味があるの?三年間、私を都合の良い夜の相手としてしか扱ってこなかったくせに」

彼女の言葉は、予想以上に深く突き刺さった。

「心外だ」

「心外だと?じゃあ私の誕生日はいつ、真司?私の好きな色は?大学で何を専攻してた?」

彼女の声が震え、掠れた。

「あなたは私のことを何も知らない。聞こうと思ったことさえないから」

「十分知ってる」

「契約書にある情報だけでしょ。それだけ」

彼女は俺を押しのけて通り過ぎた。「もう寝る時間よ」

「この仕事の話はまだ終わってない」

彼女がくるりと振り返った。

「終わったわ。あなたはとっくに選んだじゃない。弥生を。今度は私が選択する番」

「だから、弥生とは関係ないさ!」

俺は声を荒げて繰り返した。

「じゃあなぜこの三日間、彼女と過ごしてたの?」

――それも怒っていたからだ。お前が何をしようと気にしてないって証明する必要があったからだ。彼女と一緒にいても、違和感しかなかった、その理由が分からなくて、もがいていたから。

「それはお前には関係ない」

「その通りね」彼女は悲しく笑った。「私の新しい仕事があなたに関係ないのと同じように」

彼女が寝室へと去っていくのを見送りながら、奇妙な無力感に襲われた。

いつからすべてがこんなに複雑になったんだ?これは単純な取り決めのはずだった。便宜上の結婚。それ以上の何物でもないはずだ。

それなのに、なぜ美桜が圭介と働くという考えが、俺に彼が築き上げたすべてを破壊したいと思わせるほど駆り立てるんだ?

携帯がまた震えた。弥生だ。

初めて、電話に出たくないと思った。

代わりに書斎へ向かい、ノートパソコンを開いた。美桜が飲んでいた薬の名前を検索する。

何かがおかしい。彼女は何かを隠している。そして俺はそれが何なのか、必ず突き止めてやる。

でもその前に、もう一つ電話をかけなければならない。

「鈴木?あのアートスタジオについて、調べられることを全部調べてくれ。営業時間から裏の事情まで、全部だ」

一度間を置き、告げた。

「それから、水野圭介のスケジュール、全部押さえろ」

今夜は長い夜になりそうな予感がした。

美桜があのスタジオで、あいつと二人きり……いやだ。

彼女は俺の妻だ。契約だろうとなんだろうと、彼女は俺のものだ。誰にも渡しはしない。
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