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【71】刻限を言祝ぐ鐘の音の終焉

Author: 猫宮乾
last update Last Updated: 2025-08-28 19:40:28

 以降、二週間ほど時島は俺の実家のそばにいた。俺は近くの温泉に時島を連れて行ったり、椚原に時島を連れて行ったり――正確には、時島に車で連れて行ってもらったのだが、とにかく出かけ回った。出かける度に、酷く息切れがして、俺は相当体力が落ちているのだと気づいた。何だろう、歳だろうか?

 ――ちなみに椚原では、祖父が家に入れてくれなかった。しかし、庵に立ち寄れたので良かったという事にしておく。

 そんな時島が、二週間目に言った。

「左鳥、戻ろうかと思うんだ」

「実家に? 東京に?」

「……取り敢えず、東京に」

「良いんじゃないか?」

「一緒に来て欲しい」

「え、それは……そのほら、俺は家も引き払っちゃったし……」

「嫌なら、はっきりと言ってくれ」

「そういうわけじゃないんだけど……」

「その場合は、こちらに新しく家を借りないとならないからな」

「え?」

「なんだ?」

「帰らなくて良いのか?」

「――俺の帰る場所は、左鳥の隣だ。左鳥の帰る場所も、俺の隣であって欲しい」

「時島、何言ってるんだよ。お酒も入ってないのに」

「本気だからな」

「本気って……」

「嫌か?」

「……」

 俺は、嫌じゃない。嫌だと思わない自分に、少しだけ悲しくなった。

 そして、時島がそばにいてくれるだけで満たされる自分に気がついていた。

「もう目の届かない所に左鳥を置きたくない」

「それって蛇の執着?」

「蛇なんて関係ない。俺の嫉妬だ」

「嫉妬……っ……」

「寂しい思いをさせたんなら――もし俺の不在を寂しいと思ってくれたのであれば、謝る」

「あたりまえだろ。寂しいに決まって……そんなの。連絡も無いし、会いにも来ないし
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