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お茶

Author: 涙乃
last update Last Updated: 2025-08-22 13:03:55

✳︎✳︎✳︎

翌朝。

いつもなら、私が目が覚める頃を見計らって、ノックの音がするのだけれど、今日は静かだ。

一人で身支度を整え終えたけれど、いまだマリの姿が見えない。

いつもならとっくに来ている時間なのに……。

疲れて寝坊でもしたのかしら。

呼び鈴を鳴らすのを思い留まり、マリの様子を見に行くことにした。

まだ眠っていたら、そのまま休ませておこうと思って。

そっと、扉を開けて中の様子を窺う。

「マリ?起きてる?」

囁くような声でよびかけてみたものの、返事はない。

姿を確認しないと不安だったので、

静かに室内へと入ってみることにした。

「マリ?入るわね?」

ベッドに近づくと、布団が膨らんでいた。マリが寝ていることが窺える。

良かった。昨夜一人残したことが

気になっていたので、姿を見てホッとした。

けれど、安心したのも束の間、

不規則な寝息が聞こえてきて

胸騒ぎがする。

体調を崩したのかもしれない。

ベッドの側まで近付いて、マリの寝顔を見なければ安心できない

「マリ?大丈夫?」

マリの様子がおかしい。

顔面蒼白で呼吸も荒い。

「マリ!マリ!大変、待ってて」

すぐにお医者さまを呼びにいこうとしたものの、寝ているマリからがしっと手首を掴まれた。

冷たい感触に驚きつつも、マリに向き直る。

「マリ?お医者様を呼んでくるわ」

マリは必死にふるふると首を振っていた。

「え?なんて言ってるの?」

マリの声がか細くて聞き取れない。口元に耳を近づけて聞き取ろうとする。

「けて……口をつけ……

だめ……見たこ…ない…お…」

最後まで言い切ることができずに、マリはパタリと脱力する。

「マリ!マリ!誰か来て!早く!」

「失礼致します。どうなさいました?すぐに医師を読んで参ります。」

騒ぎを聞きつけたデボラが、医師を連れて戻ってきた。

診察の結果は、軽い貧血だそうだ。

軽い貧血?

本当に?

何度もしつこく問いかけたけれど、結局他に異常は見当たらないとのことだった。

昨日まで、あんなに元気だったのに……。

今まで貧血になったことなんてなかったわ。

それに、マリのつぶやいた言葉……。

あれは、私に何か伝えたかったに違いないわ。

必死に思い出そうとするものの、よく言葉が聞き取れなかったこともあり、詳細が分からな
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