Share

第242話

Auteur: 夏目八月
歪んだ五文字は、しばらく見つめてようやく判読できた。

さくらは腫れぼったい目を上げて潤を見た。再び涙があふれ出た。この五文字が刃物のように彼女の心を刺し、痛みで体が少し縮こまった。

一族が滅ぼされる数日前、さくらは実家に戻り、母親と関ヶ原の戦況について話し合っていた。

母親は外祖父のことを心配し、父や兄のような目に遭うのではないかと恐れていた。さくらは母を慰めたが、去る時には心配そうな様子だった。彼女も外祖父を心配し、さらに母親のことも心配していた。

母の部屋の外で潤に会った時、潤は小さな顔を上げておばさんは悲しいのかと尋ねた。さくらは笑顔で彼の髪を撫でながら、「おばさんは少し悲しいけど、すぐに元気になるわ。潤くんは心配しないでいいのよ」と答えた。

当時は心に抱えるものがあり、そう言って取り繕っただけだった。

おそらく潤は彼女が悲しんでいると感じ、飴細工を買って彼女を喜ばせようと思ったのだろう。

梅月山から戻って一年余り、結婚を待つ間、さくらは主に子供たちと遊び、彼らを慰め、父親を失った恐怖を払拭しようとしていた。

そのため、甥や姪たちは彼女になついていた。

当時5歳だった潤は物心がついており、祖母と母が毎日泣いているのを見て、父親が亡くなったことを理解していた。彼は聡明で敏感だったため、さくらは潤に最も多くの時間と心血を注いだ。潤は彼女に非常に依存し、親密な関係だった。

潤は苦労しながら書き続けた。しばらくすると、手首に明らかに力が入らなくなったので、さくらは休むように言ったが、彼は頑固に拳を握りしめてしばらくしてから書き続けた。

一画一画、とてもゆっくりとではあったが、彼が逃げ出した真相が紙の上に現れていった。

その日、彼は昼過ぎにこっそり抜け出した。見つかるのを恐れて、側仕えの小春に自分の服を着せ、母親が様子を見に来た時のために部屋に隠れさせた。そして自分は犬の這い穴から出て、飴細工を買いに行った。

小春は買われて間もない小姓で、義姉が潤の書童にしようと考えていたことを、さくらは知らなかった。

潤は飴細工を買って叔母に届けようと将軍家に向かう途中、棒で殴られた。目覚めた時、他の子供たちと一緒に真っ暗な部屋に閉じ込められていることに気づいた。

人身売買の人たちに捕まったのだ。

他の子供たちは脅されて抵抗できなくなったが、彼は抵抗し
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé
Commentaires (1)
goodnovel comment avatar
宮下恵子
面白い作品だと思います
VOIR TOUS LES COMMENTAIRES

Latest chapter

  • 桜華、戦場に舞う   第1505話

    榎井親王はすっかり怯え切ってしまい、御典医に安神の薬を処方してもらって調子を整えている最中だった。さくらが見舞いに行ってみると、なんとも気の毒な様子で、顔は紙のように真っ白で血の気が全く失せており、唇はまだぷるぷると震えながら、「し、刺客はもう……もう行ったのか?」とどもりながら尋ねるのだった。さくらが刺客はもう去ったと告げると、ようやく震えが少し収まった。実のところ、側近たちはとっくに刺客が追い払われたことを伝えていたのだが、榎井親王は信じようとせず、さくらの口から聞いてようやく安心できたのである。さくらは「ゆっくりお休みになって」と声をかけて部屋を出た。清家本宗は他の者たちをなだめているところだった。兵部大臣として数々の修羅場をくぐり抜けてきた彼は、王妃と玄甲軍を信頼しており、特に恐れることもない。せいぜい首一つ飛ぶだけのことだ、という腹積もりだった。それとは対照的に、梅月山の若い者たちは寄り集まって、先ほど関ヶ原で出会った黒装束の連中について疑いの目を向けていた。もしかすると、あれがこの刺客たちだったのではないか、と。この推測を口にしたのは紫乃だった。彼女はあの一団があまりにも神出鬼没に消えたことを不審に思っており、きっと何か隠し通路を使って逃げたに違いない、計画的な行動だったのだ、と考えていた。それに、全員が黒装束という点も共通している。人数が完全に一致しないのも説明がつく――何人かは潜伏していて表に出てこなかったのだろう。「あの時あれだけの人数を動員したってことは、最初から私たちを狙っていたんじゃない?でも関ヶ原だったから、たとえ私たちを殺したところで逃げ切れないって判断したのかも」紫乃は自分の推理に確信を深めながら、さくらに視線を向けた。「どう思う?私の考え、当たってると思わない?」さくらは少し考えてから首を振った。「違うと思うわ。それとも、今夜の刺客たちはあの人たちほど腕が立たないというべきかしら。あの人たちは関ヶ原で自由自在に現れて消えることができた。それが証拠よ。もし本当にあの人たちなら、襲撃の後で悠々と逃げ去ることもできたはず。私たちには追いつけないし、痕跡を辿ることもできない。ほら、あの日春満楼で食事した後、人を派遣して捜索させたでしょう?春満楼の人以外、誰一人として彼らを見た者はいなかったじゃない」

  • 桜華、戦場に舞う   第1504話

    翌朝早く、一行は平安京へと出発した。さくらに別れの辛さはさほどなかった。帰りにまた関ヶ原を通るのだから、外祖父たちにも会える。関ヶ原を出ると、道のりはずっと険しくなった。多くの道が穴だらけで、中には故意に破壊されたものもある。馬車での移動は困難を極めた。それでも榎井親王は馬に乗りたがらなかった。数日の休養を取ったとはいえ、股の痛みは根深い。歩くのはまだしも、鞍の上に座るのは耐え難かった。関ヶ原で功績を立て、孤児院まで設立したのだからと、彼は我が儘を言って馬車を要求した。馬車が進めなくなると、玄甲軍の兵士たちが馬から降りて車を押し、苦労しながら前進した。幸い、今は両国の道が開放されており、封鎖はされていない。二国が整備した街道を行けるのだ。もしも山越えをしなければならないとなれば、親王のお尻がどれほど痛い目に遭うか分からない。平安京の領内に入り、鹿背田城に向かうと、平安京の役人と兵士が出迎えて道中を護衛した。通訳以外は皆、平安京を訪れるのは初めてだった。同じ国境の町でも、関ヶ原と鹿背田城では雲泥の差があった。至る所に崩れかけた家屋、襤褸をまとった物乞い、民の顔には苦悩の色が濃い。さくらは首を傾げた。両国の戦いは、ここまで及んではいなかったはずだ。以前、北條守と葉月琴音が来て村を襲った事件があったとしても、被害を受けたのはその村だけ。鹿背田城全体がこんな有様になる理由はない。鹿背田城の宿駅に泊まり、護衛の役人から事情を聞いて初めて分かった。スーランキーが関ヶ原と戦った際、後方からの補給が途絶え、兵士たちが鹿背田城で略奪を働いたのだという。当時のスーランキーの状況は、ビクターと大差なかった。平安京では開戦を支持する者が少なく、退位した上皇にも大した覚悟はない。一人の意気込みだけでは、大事は成し遂げられなかった。スーランキーが戦死した後、遺体すら持ち帰られず、そのまま無縁墓地に捨て置かれたという話だ。鹿背田城の民も役人も、彼を骨の髄まで憎んでいるのが窺える。鹿背田城を離れると、道はいくらか歩きやすくなった。それでも大和国の官道と比べれば、まだまだ見劣りする。道中では、大和国使節団を見物する平安京の民も多かった。好奇の目もあれば、憎悪や嫌悪を込めた視線もある。長年の争乱で戦火が止んだかと思えばまた燃え上がり、

  • 桜華、戦場に舞う   第1503話

    八郎が指示を出すと、北條守がその任を引き受け、部下を連れて方々を探り回った。さくらが関ヶ原にやってきたことは、守も知っていた。城外での出迎えの際、遠くに立って近づくことはしなかった。あまりに距離があったため顔も定かではなく、ただ彼女らしい人影がぼんやりと見えただけだった。自分でも余計なことをしたと思う。もう彼女と何の関わりもないというのに。都の人も出来事も、遠ざけておくべきなのだ。使節団が関ヶ原で休息している間、交渉の戦術について話し合い、何度も想定問答を重ねていた。皆、今回の交渉が前回に比べればまだしも、というだけで、本当の意味で楽なものではないことを理解していた。これは女帝がずっと心に留めてきた案件だ。そう簡単に譲歩するはずがない。佐藤家も心配していた。相手が密偵を送り込んで使節団の作戦を盗み聞きするかもしれない。手の内を知られれば対策を練られ、大和国が不利になる。そこで八郎は北條守に命じた。必ずあの連中を見つけ出し、同時に使節団の世話係も洗い直せ。紛れ込んだ者がいないか確かめろ、と。二日間の捜索の結果、守は何の成果も得られなかった。元帥邸内でも怪しい者は見つからず、変装した人間も、外部と連絡を取る者もいなかった。守が掴めた唯一の情報は、彼らが春満楼で一度食事をしたこと、店を出た後に商人が目撃したことだけ。肝心の宿泊先も行き先も、誰も知らない。妙な話だった。二、三十人もの黒装束が、忽然と姿を消すものだろうか。この国境の町は四方八方に道が通じている。関ヶ原の外へ出るには高い山を越えるしかないが、今は両国の往来も自由だ。普通の旅人なら、わざわざ険しい山道を選ぶ必要はない。あの断崖絶壁は危険極まりなく、一歩踏み外せば粉々に砕け散る。佐藤大将は改めて入城記録を調べ直すよう命じた。見落としがあったのかもしれない。二、三十人の黒装束として調べるのではなく、分散して入城した可能性もあるし、必ずしも黒い服を着ていたとは限らない。さくらや紫乃の話では、子どもが泣き止むほど醜い顔をした者がいた。そんな容貌の人間は滅多にいない。見れば必ず記憶に残るはずだ。だが、それでも手がかりは見つからなかった。さくらも首を捻った。三十人もの大の大人が、煙のように消えてしまうなんて。とはいえ、見つからないものは仕方ない。明後日の朝に

  • 桜華、戦場に舞う   第1502話

    春満楼は満席だった。元々そう大きな店ではなく、普段でもそれなりに客が入る。だが、あの女が連れてきた黒装束の男たちが残りの席を全て占めてしまった。さくら、紫乃、棒太郎の三人は、店主が慌てて用意した小さな机に、彼らとは離れて座ることになった。男の申し訳なさそうな声が耳元で響いた。穏やかで心地よい響きだった。「こちらは皆、私の仲間でして。昨夜から私同様、何も食べておりません。お嫌でしたら、全員を外で待たせて、後で饅頭でも一人ひとつずつ渡せばよろしいのですが」紫乃は面食らった後、反射的に首を振った。「いえいえ、そんな。お好きにどうぞ。何でもお召し上がりください」男は温和な笑みを浮かべた。「お優しい方ですね。それでは遠慮なく、適当に注文させていただきます」「は、はい……」紫乃は頷きながら、店内を埋め尽くす黒い装束を見回した。皆同じような服装だが、よく見ると袖に何か刺繍がしてある。しわくちゃで汚れているた――そう、黒い服でも汚れは分かるものだ――文字が読み取れない。目を凝らして見ると、刺繍はそれぞれ違っていた。「黒影衛」だの「閃電衛」だのといった具合に。彼らも決して無礼な荒くれ者ではなかった。席が確保されると、皆立ち上がって食事を振る舞ってくれる主人に礼を述べた。中には白髪交じりの者もいるが、顔色は浅黒く健康的で、年寄りには見えない。ただし何人かは相当に醜い顔をしており、まるで鬼が生まれ変わったかのようだった。さくら、紫乃、棒太郎は顔を見合わせた。今日の食事は、まるで無理やり押し切られた形になってしまった。食事中に話でもして、彼らの正体や目的を探ろうと思っていた。二、三十人もの武芸者らしき集団を、素性も分からぬまま放置するのは危険すぎる。ところが、いざ食事が始まると、まさに「あっという間に平らげる」とはこのことか。誰も一言も発しない。あの女も同様で、本当に長い間飢えていたかのようだった。食事中に言葉を交わしたとすれば、一人の黒装束が箸で最後の角煮を押さえ、手を伸ばそうとした別の男を睨んで、厳しい口調で「俺の」と言った時だけだった。それ以外は、誰も口を開かない。あ、もう一言あった。棒太郎が酒はいかがかと尋ねた時、あの男が「仕事中は飲まない」と答えたのだ。そう言うと、またすぐに黙々と食べ続けた。食事の早さは目を

  • 桜華、戦場に舞う   第1501話

    さくらは二人をじっと見つめ、妙な違和感を覚えた。年齢が読めないのだ。見た目は三十そこそこに見えるが、どこか若々しい活力がある。まるで十代か二十代のような。だが瞳を見ると、特に男の目は古井戸のように深く、まるで年老いた狐のような知恵を宿していた。さくらたちが声をかける前に、男が歩み寄って尋ねた。「ここに孤児院ができるのですか?お役所が建てるのでしょうか?」棒太郎は二人を見回した。話し方は確かに都の言葉遣いで、関ヶ原の人間ではないようだ。ただ、悪意は感じられなかったので答えた。「ええ、捨てられた子どもたちを預かる施設です。お役所が作るんです」男が言った。「それは良いことですね」さくらが前に出て尋ねた。「お二人は都からいらしたのですか?」男はさくらを見つめたが、その質問には答えず、逆に問い返した。「あなたが北冥親王妃の上原さくらさんですか?」さくらは身構えた。どうして知っているのかと問おうとしたとき、男がまた口を開いた。「平安京へ向かわれるのでしょう?いつ出発ですか?一緒に行けませんか?」さくらは面食らった。使節団が平安京へ交渉に向かうことは多くの人が知っているが、公式な使者の一行に勝手に人を加えるわけにはいかない。それなのに、当たり前のように頼んでくる。「平安京で何をなさるおつもりですか?」「交渉を見学させていただこうと思いまして。証人のような立場で」この男は、ただ者ではないか、それとも完全にでたらめを言っているかのどちらかだろう。さくらは改めて二人を見た。表情は真剣だが、身なりといえば落ちぶれた渡世人にも劣るありさまだった。男は彼女の返事を待たずに、また別のことを言い出した。「実は、まだ何も食べておりません。お食事をご一緒させていただけませんでしょうか?道中ずっと歩き詰めで、ここに着いてからもあちこち見て回っていたものですから。昨夜の晩飯も抜いてしまいまして」紫乃がちょうど中から出てきたところで、この言葉が耳に入った。前の会話を聞いていなかったため、誰かがさくらに食事を誘っていると思い込んだ。二人の身なりを見て、通りすがりの渡世人だと判断した。「いいじゃない、お食事くらい。旅先では皆仲間でしょ」男の表情が和らぎ、微笑みさえ浮かんだ。「ありがとうございます。春満楼はいかがでしょう?」さくらは春満楼を

  • 桜華、戦場に舞う   第1500話

    榎井親王は翌日の午後まで眠り続け、空腹に耐えかねてようやく目を覚ました。体を起こそうとすると、まるで骨が外れたように全身が軋んだ。疲労が骨の髄まで染み付いて、手を持ち上げるのさえ辛い。付き添いの小姓の中でも特に信頼する小吉子という者が、枕元で報告した。「親王様、北冥親王妃様がお話があるとのことで、もうずいぶんとお待ちでございます」榎井親王は床の中で食事を済ませ、そのまままた眠りたかった。動くのも億劫なほど疲れきっていたのだ。だが、さくらが半日も待っているという言葉に、慌てて布団を跳ね除けた。「着替えを。急げ」この道中、彼女の凄まじさを目の当たりにしていた。女の身でありながら、一度たりとも弱音を吐くのを聞いたことがない。彼女の指揮の下、一行は幾度も危険を回避し、途中で体調を崩す者が相次ぐ中、まるで牛のように頑健だった。腕のある者は決して軽んじてはならない。彼らが人を訪ねる時は、必ず重要な用件があるものだ。腹が背中にくっつくほど空腹だったが、身支度を整えてから手早く粥を啜り、さくらの元へ向かった。「さくら、私を呼び出して何用でしょうか?」さくらが育児院の件を説明すると、榎井親王は真剣に耳を傾けた。話を最後まで聞き終えると、合点がいったという顔をした。「なるほど、よく分かりました。私は昨日到着するや否や疲れ果てて眠り込んでしまいましたが、この屋敷の質素な造りは目に留まっていました。お使いの品々も実に……慎ましやかで。大将軍一家がこれほど国に尽くされているというのに、このような扱いはあまりに酷いでしょう」さくらの口元がわずかに引きつった。「親王様、お言葉ですが、そういう意味ではございません。佐藤家が一文たりとも懐に入れるつもりはありません。これは、あの子たちのため、そして親王様のお名前を高めるためなのです。子どもたちは皆、遠く都におられる親王様に感謝するでしょうし、朝廷の方々もこのご善行をお聞きになれば、きっと手を叩いて褒め称えることでしょう」そして、慌てたように付け加えた。「もちろん、佐藤家にとっても必要な名声ではございますが」榎井親王は「ああ」と声を上げた。そう言われれば合点がいく。よくよく考えてみれば、佐藤家がそれほど困窮しているはずもない。いくら苦しくとも、太政大臣家と北冥親王家が支えているではないか。ただ、佐藤大

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status