Compartir

棄てられた花嫁は、もう泣かない
棄てられた花嫁は、もう泣かない
Autor: 筋肉ゴリラ193

第1話

Autor: 筋肉ゴリラ193
呆然とした瞬間、体にのしかかる機材を必死に支えていた手の力が一瞬緩み、お腹に鋭い痛みが走った。

それでも彼女は痛みを堪え、自分に言い聞かせた。きっと、たまたま声の似た別人なのだろう。稔は特別救助隊の隊長として普段から忙しく、返信をくれることさえ滅多にないのだから。

任務の合間に彼が送ってくるのは、数字だけだった。

1は、無事。

2は、今日帰る。

3は、今夜は夫婦の時間を過ごす。

そのやり取りは業務連絡のように事務的で、温もりのかけらもなかった。

不満を口にしようとするたび、姑は決まってこう言った。「あの子は人助けをする立派な仕事をしてるんだから、あんたも思いやりを持ちなさい」と。

清海はそれを飲み込んできた。7年間、ずっと。

外の騒がしさに我に返った。頭上の瓦礫が取り除かれ、隙間から一筋の光が差し込んだ。

「隊長!妊婦ふたりが梁の下敷きです!どちらかひとりしか助けられません!もうひとりは崩落に巻き込まれる危険があります!」

清海が顔を上げると、視界に稔の顔が飛び込んできた。

「稔……」

思わず名を呟いた。

視線が絡んだ瞬間、稔は目を見開いた。

「隊長!時間がありません、どちらかひとりしか選べません!」

傍らにいた千鶴が嗚咽を漏らし、小さく呼んだ。

「あなた……」

その声は重機の音にかき消されるはずだったのに、稔は一瞬で聞き取った。

「彼女を助けろ」

彼が指し示したのは清海ではなく、千鶴だった。

ゴォッ!

千鶴が救い出された瞬間、バランスを崩した瓦礫が清海めがけて崩れ落ちてきた。

「きゃあっ!」

悲鳴が漏れる。膨らんだお腹を引き裂くような激痛が走り、まるで誰かに力任せに内臓を引きずり出されるようだった。

生温かい血がゆっくりと流れ出すのを感じながら、清海の意識は闇に呑まれた。

……

再び目を開けたとき、清海は病室のベッドに横たわっていた。

あれほど膨らんでいたお腹はもう平らで、医師がため息をついた。

「ご家族とはまだ連絡が取れませんか。腹部に大きな損傷を受けていて……赤ちゃんは残念ながら助かりませんでした。子宮も摘出することになったため、今はどなたかの付き添いが必要です」

稔が迷いなく他の女を選んだあの瞬間を思い出し、清海の心は冷えていった。

込み上げる涙をこらえ、「家族はいません」とだけ答えた。

医師は同情の色を浮かべた。

「くれぐれもお大事に。河合隊長の奥様も怪我をされていて、隊長から、できるだけ多くの医師に診てもらいたいと頼まれているんです」

医師が病室を出ていく間際、ふと小さく呟くのが聞こえた。

「同じ妊婦なのに、運命ってこうも違うものなんだな」

その言葉ははっきりと清海の耳に届き、思わず涙がこぼれ落ちた。

どうしても分からなかった。愛していたはずの人が、なぜ自分を裏切ったのか。稔はいつから、外に家庭を持っていたのか。

病室のドアが開き、稔は涙の跡が残る清海を見つめ、気まずそうに唾を飲み込んだ。

「子どもはまた作ればいい。救助任務では生存率の高い方を優先するのが常識だ。騒ぐな」

清海は苦笑を浮かべた。

死の淵から這い上がってきた妻に、稔は体の具合すら尋ねなかった。開口一番「また作ればいい」、次に出た言葉は「騒ぐな」。

心臓が締めつけられるように痛む。顔を上げ、彼女は問いかけた。

「千鶴さんは、どうしてあなたのことを夫だと言ったの?」

そのひとことを口にした瞬間、清海は瞬時に悟った。稔の目の奥をよぎった警戒の色を。

まるで、彼女が千鶴を責め立てるのを恐れているかのようだった。

「千鶴は殉職した仲間の未亡人だ。うつ病を患っていて、何度も命を絶とうとした。だから……」

「だからあなたが彼女を口説いて、不倫相手として外に囲っていたっていうの?」

「彼女は不倫相手なんかじゃない!」

稔が彼女の前で初めて感情をあらわにした瞬間だった。それも、別の女を守るためだけに。

自分の語気が強すぎたと気づいたのか、彼はひとつ深呼吸をした。

「とにかく、千鶴の前には現れるな。お前はちゃんと体を休めろ。俺はまだ救助任務がある」

そう言い残し、彼は背を向けて去っていった。

清海の涙はどうしても止まらなかった。

「……稔、離婚しましょう」

しかし、稔は足早に立ち去っていく。清海が口にしたその言葉さえ、彼の耳には届いていないようだった。

「稔!」

清海は布団をはねのけ、お腹の傷口を押さえながら彼の後を追った。

胸の奥から怒りが込み上げる。なぜいつも自分ばかりが我慢しなければならないのか。

なぜ自分には、声を上げる権利さえないというのか。

稔は遠くへは行かず、隣の病室の前で足を止めていた。

Continúa leyendo este libro gratis
Escanea el código para descargar la App

Último capítulo

  • 棄てられた花嫁は、もう泣かない   第20話

    諒太は思わず笑みをこぼし、彼女の手を握り返した。「そんなこと、気にするわけないだろ。そんな理由で君を見放したりなんて、絶対にしない。君と結婚できることが、俺にとって何より幸せなんだ」清海はようやく安堵し、人生で二度目の結婚式へと足を踏み入れた。愛する人と結ばれたからか、何もかもが前回とはまるで違って見えた。すべては自然な流れで進み、結婚して1年ほど経った頃、長い準備と多くの支援を経て、清海たちはついにひとりの女の子を家族として迎えることができた。元気な女の子だった。諒太は喜びのあまり、娘の将来のために多くの資産を用意した。周囲では「あの子は本当に幸せな星の下に生まれた」「円城寺家がここまで大切にするなんて」と噂された。清海の名前も、いつしか世間に広く知られるようになった。ただしその肩書きは、スキャンダルの当事者から、円城寺諒太の妻へ、そして最後には優れた「円城寺グループの副社長」へと変わっていった。そんな静かな日々が破られたのは、娘の円城寺環(えんじょうじ たまき)が5歳になったときだった。清海が会社で会議中に、幼稚園の先生から慌てた声で電話がかかってきた。「円城寺環ちゃんのお母様、大変です。環ちゃんの姿が見えなくて」清海の頭は真っ白になった。机の角を掴んで体を支え、しばらくしてようやく思考が動き出す。彼女はすぐに諒太に電話をかけ、ふたりで幼稚園に駆けつけた。防犯カメラの映像室で、ふたりは画面を見つめた。環がカメラの死角に入ったところで姿が消え、それ以降の行方が分からない。清海は今にも崩れ落ちそうなほど体が揺らいだ。諒太が彼女を支え、なだめるように言った。「大丈夫だ。会社と家の警備担当にも連絡する。使える人員は全部動かして、必ず探し出す」清海は歯を食いしばった。今ここで倒れるわけにはいかない。「分かった。私は警察に届けを出す」深夜、彼女のスマホに匿名の脅迫メールが届いた。【娘を無事に返してほしければ、単独で郊外の廃工場まで来い】犯人は、清海ひとりでなければ娘の命はないと念を押していた。諒太は勢いよく立ち上がった。「駄目だ、君に危険を冒させるわけにはいかない」だが清海の決意は固かった。「環は私にとって、たったひとりの宝物なの。あの子に何かあったら、私は生きていけない

  • 棄てられた花嫁は、もう泣かない   第19話

    会場では、婚約パーティが何事もなく予定通り始まっていた。カートの中に隠した女性とまったく同じ意匠の純白のドレスを纏った女性が、音楽に合わせて歩みを進め、諒太の前に立った。諒太がベールをめくり、彼女の唇に口づけた。女性の顔を見た瞬間、稔の背筋が凍りついた。あれは、清海だ!では、自分がカートに隠して連れ出した女はいったい誰なのか!震える手でカートのカバーをめくり、ベールを上げると、そこにいたのは見知らぬ女だった。「動くな!警察だ!」背後から鋭い声が響き、警察官たちが駆け寄ってきた。稔は自分がもう終わりだと悟った。嵌められたのだ。諒太という偽善者に、まんまと!彼は歯を食いしばり、目に鋭い光を宿すと、カートを放り出し、会場へと走り出した。婚約パーティとはいえ、諒太は清海のために段取りをひとつも省いていなかった。清海は声を落として言った。「ただの婚約パーティなのに、そこまで大掛かりにする必要ある?」諒太は彼女の手を軽く握った。「ようやく君が首を縦に振って、俺の気持ちを受け入れてくれたんだ。君が俺の大切な人だって、みんなに知らせたいんだよ」清海は笑みをこぼした。司会者がふたりをからかいながら婚約指輪の交換を促したそのとき、稔が会場へ駆け込んできた。彼は低く唸った。「俺は認めない!」だが、その声を上げるや否や、追いかけてきた警察官たちに取り押さえられ、そのまま引きずり出された。その物音に清海が振り返ったが、ホールには笑顔で拍手を送る招待客たちの姿しかなかった。気のせいだろうと思い直し、視線を戻すと、彼女は男性用の指輪を諒太の薬指にはめた。「あなたと付き合うことを許しただけよ。必ず結婚するとは言ってないからね」「構わない。君に近づけるすべての機会を、俺は大切にするから」一緒に過ごす時間が長くなり、清海は知っていた。諒太の言葉には裏表がないこと。だが、その率直さが求愛においては、この上ない武器になっていることも。諒太はことあるごとにさらりと甘い言葉を口にするので、清海はいつも調子を狂わされていた。「そんなに言い切らないで。誓いなんて、口にしたその瞬間だけが真実なんだから」諒太は清海の目に浮かんだ過去の傷に気づいたのか、そっと彼女を抱き寄せた。彼の視線の先には、連行されて

  • 棄てられた花嫁は、もう泣かない   第18話

    「何を言っている!」稔は自分の耳を疑った。配信中のカメラがあることも構わず、焦った様子で口を開いた。「これは全部嘘だろう!絶対に!」彼は必死に清海へ本当のところを確かめようとした。「あの男が言ったこと、全部嘘なんだろう!?この数か月、俺はずっとお前を見てきたんだ。お前が本気で次の恋に進もうとしている様子なんて、少しも感じられなかったぞ」稔は自分に言い聞かせるように、早口で続けた。「こいつが、お前に付き合って芝居をしてくれているんだろう、なあ!」涙を拭いながら、彼は言う。「この間、お前が円城寺と親しくしていたことは気にしない。俺の元に戻ってきてくれるなら、何もなかったことにしてやる!」事情を知らない周囲の人々には、まるで清海のほうが浮気をしたかのように聞こえてしまう。「その必要はないわ」清海は諒太の腰に腕を回して抱きつき、稔の目をまっすぐ見据えた。「もう、私にこれ以上付きまとわないでちょうだい」彼女はきっぱりと背を向けて立ち去った。一部始終の映像は切り取られ、ネット上で拡散された。かつて特別救助隊のスターだった稔は、今や全国から嘲笑の的にされていた。特別救助隊は世論の圧力を受け、稔に対する無期限の停職処分を継続することを決めた。稔は本部には戻らず、青雲市に留まった。広い青雲市で、清海を探し出して会うのは容易ではなかった。彼は毎日、清海の通勤ルートで待ち伏せした。もう一度だけ彼女に会って、「愛している」と、そして「すまなかった」と直接伝えたかった。どれほどの時間が経ったか分からないある日、ようやく清海の車を見つけた。彼は大股で駆け寄った。「清海!清海!」だが、近づく前に1台の車が横から割り込んできた。車のドアが開き、降りてきたのは諒太だった。表情ひとつない、氷のように冷たい顔をしていた。彼は見下すように稔を一瞥した。ゴミでも見るような、冷ややかな視線だった。「清海に付きまとうな。さもないと、ただでは済まないぞ」稔は獣のように低く唸った。「清海は俺の女だ!お前に、俺と清海のことをとやかく言われる筋合いはない!」彼は拳を振り上げ、諒太に殴りかかった。しかし、今の稔の拳にかつての鋭さはなかった。苦悩と自責に苛まれ続け、心身ともに衰弱しきっていたからだ。諒

  • 棄てられた花嫁は、もう泣かない   第17話

    清海がもう何度も「自分は大丈夫」と繰り返し伝えていたにもかかわらず、諒太はやはり心配で、会見の会場まで彼女に付き添ってきていた。清海が視線を落とせば、前列に座る諒太の姿が目に入るようになっていた。会見が始まると、稔もその場に現れた。清海の姿を見つけた瞬間、微かに驚いた表情を浮かべる。「……もう戻ってこないんだと思っていた」掠れた声だった。清海は彼の隣の席に座り、静かな声で答えた。「間違いを犯したのは私じゃない。コソコソ隠れる必要はどこにもないわ」このところ特別救助隊の一件は世間を騒がせており、そこに稔のスキャンダルまで絡んでいたため、会見は異常なほどの注目を集めていた。メディアがカメラを構え、フラッシュが瞬いて、部屋を昼のように明るく照らし出した。「河合さん、今回の件について伺います。あなたの判断によって、結果的に罪のない人を命の危険にさらしたのではありませんか」「これまでの救助活動でも、個人的な感情が判断に影響したことはなかったのでしょうか」「災害現場で、当時あなたが妻だと周囲に認識させていた千鶴さんを、清海さんより優先していたという話も出ています。それは特別救助隊員として必要な判断だったのですか。それとも、私情を挟んだ結果なのでしょうか」「現在の妻である千鶴さんはすでに逮捕されたと聞いています。あなたは、彼女がしていたことをどこまで知っていたんですか。関与していた可能性はないのでしょうか」稔は目の前で興奮する記者たちを見つめながら、かつて清海がどれほどの矢面に立たされてきたかを、今さらながらに理解した。ひとつ、またひとつと投げかけられる質問は鋭く、あらゆる取り繕いを暴いていく。だが今回ばかりは、稔はもう二度と清海を辛い目に遭わせたくなかった。彼はカメラに向かって、まるで清海に直接謝罪するかのように口を開いた。「すべては、私の過ちです」そのひとことに、特別救助隊の責任者が振り向き、声をひそめて制した。「稔!」事前に打ち合わせていた台本とは違う。稔のそのひとことが、瞬く間に会場全体を騒然とさせた。稔はその制止の声すら聞こえていないかのように、続けた。「私の傲慢さと身勝手な判断が、今日という結果を招きました。今日この会見の場に立ったのは、自分を弁護するためではありません。清海さんに

  • 棄てられた花嫁は、もう泣かない   第16話

    稔が清海の会社のビルの下で張り込んでいたとき、特別救助隊の責任者から電話がかかってきた。向こうから怒鳴り声が飛んできた。「言っただろう、最近は大人しくしていろと!特別救助隊に迷惑をかけるな!今すぐ本部に戻ってこい!」稔は黙り込み、その目に決意を宿らせた。「いいえ。清海が俺を許してくれるまでは戻りません」その言葉に、向こう側は呆れたように笑った。「清海?お前の妻は千鶴じゃなかったのか?」稔は言葉を詰まらせた。心臓を握りつぶされているような、息もできないほどの痛みが走った。そうだ。自分を愛してくれていた人を、自らの手で失ったのは、自分自身だ。「……千鶴とは離婚します」「もし彼女が離婚に応じなかったら?」「その場合でも、必要な手続きを取ります。塚原がすでに白状しました」塚原――青雲市の墓地で、清海の両親の墓に火炎瓶を投げつけた男だ。稔が通報したことで、警察は千鶴の口座を辿り、彼女と塚原の間に金銭のやり取りがあったことを突き止めていた。塚原は当初罪を認めなかったが、数日前についに口を割った。千鶴が彼に接触し、金を渡して、清海を徹底的に破滅させるよう依頼したことを。しかも千鶴は、どんな結果になろうと、自分が責任を追及されないようにする方法があると豪語していたという。その方法とは、可哀想な姿を演じて、稔の同情を引くことだった。そうすれば、いずれ稔自身が、清海を傷つけるための凶器になる。千鶴はすべてを計算していた。ただひとつ、稔が自分の本心に気づき、もう二度と彼女のために清海を傷つけたくないと思うようになることだけは、計算に入れていなかった。「……分かった」向こうはしばらく沈黙し、口を開いた。「なるべく早く千鶴と離婚して、完全に縁を切れ。こちらでもう一度記者会見を開く。清海さんにも出席をお願いする。その場でお前は誠心誠意謝罪しろ。許しを強要するような真似だけは絶対にするな」再び清海に会える機会があると知り、稔の胸に安堵が広がった。喉仏を上下させ、「はい」とひとこと答えた。「……必ず、そうします」その日のうちに、通りすがりの人が撮影した「稔が清海に付きまとう」動画がSNSで拡散され、トレンド入りした。稔の身元に気づいた人々が特別救助隊の公式アカウントに押し寄せ、説明を求めるコ

  • 棄てられた花嫁は、もう泣かない   第15話

    稔は目を血走らせた。気のせいかもしれないが、男が一瞬こちらへ視線を向け、挑発的に笑ったように見えた。「待ってくれ!」彼はよろめきながら前に出て、清海の手を掴んだ。手のひらに伝わる温もりを感じた瞬間、稔は涙がこぼれそうになった。声を詰まらせ、矢継ぎ早に言った。「清海、生きているなら……どうして戻ってこなかったんだ!」声が大きすぎた。ここは青雲市の繁華街のど真ん中だ。行き交う人々の視線が3人に集まっていった。聞き慣れた声にも、清海の表情はピクリとも動かなかった。彼女は振り返り、稔を見つめた。その目は、まるで見知らぬ他人を見るように冷ややかだった。その眼差しに、稔の心臓が締めつけられる。まるで無数の針で刺されたような痛みだった。「清海、お前……俺が分からないのか?」これまでどんな困難にも動じなかった稔が、初めて「恐怖」を知った。「俺は……お前の夫だぞ!」清海はそこでようやく反応を示し、冗談でも聞いたかのように鼻で笑った。「念のため申し上げておきましょうか。私たちはとうに離婚しています。しかも、離婚届を提出されたのはあなたご自身ですよ」ひとことひとことが短剣のように、稔の心臓に突き刺さっていった。彼の顔色は青ざめた。清海がいつから離婚の事実を知っていたのか、彼には分からなかった。「今、特別救助隊は世間の注目の的です。あなたはご自身の立場をわきまえて、元妻に付きまとうのはお控えください」「待ってくれ!」稔は必死に言葉を重ねた。「俺は……あのとき千鶴に騙されていたんだ。彼女が俺を助けてくれたと思い込んでいた。だから恩を返したかっただけなんだ。でも、まさか本当にお前との関係を終わらせるつもりだったわけじゃない!」支離滅裂だった。自分でも何を言っているのか、分からなくなっていた。「千鶴が子どもを産んだら、お前とやり直すつもりだったんだ。それなのに、どうしてたった1か月すら待てなかったんだ」清海は、涙と鼻水にまみれた稔を見つめた。かつて愛した彼の姿が、音を立てて崩れ落ちていくのを感じた。愛情が消えてしまえば、彼はただの身勝手でつまらない男にすぎなかった。その内面は、もはや腐り果てていると言っていい。「……それで、私に謝罪しろとでも?」清海はこれ以上聞く気力もなく、一歩後ずさって

Más capítulos
Explora y lee buenas novelas gratis
Acceso gratuito a una gran cantidad de buenas novelas en la app GoodNovel. Descarga los libros que te gusten y léelos donde y cuando quieras.
Lee libros gratis en la app
ESCANEA EL CÓDIGO PARA LEER EN LA APP
DMCA.com Protection Status