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第26話

Auteur: 佐藤 月汐夜
 ここまで考えると、菊池雅彦は表情が曇ってきた。今、彼女は日向家に居続けられるとしても、菊池雅彦の正真正銘の妻になるわけではなかった。

 日向桃には彼の前でわがままに当たり散らす資格はないのだ。

 お父様をなだめた後、彼はすぐ伊川海に電話した。日向桃の居場所を調べるように頼んだ。

 しばらくして向こうから電話がかかってきた。「位置情報からみると、奥様は夜実家に帰って、それ以来外出はしていないようです」

 日向桃が実家に帰ったことを聞いた菊池永名は、息子を睨みつけた。「この大馬鹿者、何か桃さんの心を傷つけるようなことをしたのか?早く迎えに行け!」

 菊池雅彦が顔をひそめて何か言おうとすると、菊池永名は手で机を強く叩きながら怒鳴った。「とにかく、桃さんはこの私が認めたお嫁さんだ。彼女を連れ戻さないなら、お前はこれからわたしの子じゃなくなるからな!」

 言い終わると、菊池永名は怒って部屋を出ていった。

 菊池雅彦は顔を沈めんだが、お父様のふらふらとした後ろ姿を見て、結局妥協した。

 車に乗り込んだ男は顔をすっかり陰鬱に沈み込ませてしまった。

 ここ数日間、日向桃が大人しくて素直な女性だと感じていたので、彼女を追い出そうとする思いを菊池雅彦は諦めた。しかし、今はお父様が彼女をあまりにもえこひいきしている。ここから見るに、彼女のことを早く解決しなければならないだろう。

 菊池雅彦はそう考えながら、アクセルを踏み込んだ。車は矢のように飛び出した。

 しばらくして日向家に着いた。

 彼は無表情で車から降り、ドアベルを押した。

 日向家の使用人はドアを開けた。見知らぬ男だが、上品に見えて普通の人ではないと分かった。「失礼ですが、どなた様ですか?」

 「日向桃を呼び出してくれ!」

 彼は冷たい口調で話した。日向桃を探しに来たと分かった使用人は、すぐ日向歌に伝えた。その時、彼女は小林夢と客室で話していた。

 「若い男性?日向桃を探している?」

 日向桃を嘲笑うために、日向家を離れない小林夢は「多分あの日の男ですよ。あいつ、浮気相手をここに呼んできたなんて!人を馬鹿にしてるのね!」と言った

 それを聞いて、日向歌はお父さんを呼びに行こうとしたが、イライラしている菊池雅彦はもう中に入ってきた。 菊池雅彦の姿が目に入ると、その場にいる二人は心がド
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