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第33話:綾月の裏口で会う男

作者: fuu
last update publish date: 2026-06-23 20:01:08

 その夜、三崎清隆は早い時間に一人で来た。

 予約表に名前を見つけた瞬間、私の指が止まる。いつもなら連れがいる。取引先らしい男か、奥に座らせる若い女。けれど今夜の欄には、三崎の名だけが書かれていた。

「珍しいですね」

 私がつぶやくと、九条さんが手元の表を覗き込のぞきこんだ。

「一人客は嫌う人だよ、あの手は。誰かに見せたくて来る」

 だから一人で来る夜は、見せたくないものがある夜だ。私はそう思いながら、バックオフィスの端末に目を戻した。

 三崎は奥の席に通された。会社で見せた、あの感じのいい笑顔はない。誰にも向けない顔は、薄くて冷たかった。

 私はモニターの隅で、その背中を見ていた。動揺はもうない。何時に来たか。何を頼んだか。誰と、何分話したか。それだけを拾えばいい。怒りは、記

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  • 横領犯にされた経理女は、若頭の金庫を握って元社長を潰す   第4話:返したいのはお金じゃない

    「不足分の返還に応じる意思を見せれば、表向きは大事にしない方向で」 長尾の電話を切ったあと、私は思った。返したいのは、お金じゃない。 私物をまとめて、半ば追い出されるように会社を出た。段ボール一つ。七年分の荷物が、両手で抱えられる量しかなかった。 社員たちは、見ないふりをした。 目が合いそうになると書類に戻る。 誰も助けない。 誰も、何があったのか正面から聞かない。 その静けさが一番こたえた。 軽蔑ならまだ相手がいる。 見ないふりは、私をもう「終わった人間」にしていた。 生きているのに、いないことにされている。 その日の午後、また長尾から電話が来た。「会社としては穏便

  • 横領犯にされた経理女は、若頭の金庫を握って元社長を潰す   第3話:パートは切りやすい

     出勤して五分で、私は横領犯にされた。 朝一番、会議室に呼ばれた。扉を開けた瞬間に分かった。三崎がいる。長尾がいる。畑中がいる。総務もいる。空気が、もう決まっている。 机の上に、数枚の書類。 振込一覧。 請求書のコピー。 ログイン履歴の抜粋。 書類は、私が呼ばれる前にもう揃っていた。 確認なら、私と一緒に集めるはずだ。 先に揃っているということは、結論が先にあったということ。 私は、判決を聞きに来た被告だった。 それも、弁護人のいない被告。「お座りください」長尾が淡々と言った。座らないと足が震える気がした。「一部資金の不適切な処理が確認されまし

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