いつもより早く、理子さんの家に迎えに行く。インターフォンを押したら、すぐに顔を覗かせてくれた。
「おはよう克巳さん。昨日はあれから大丈夫だったの? なんだか少しだけ、顔色が悪いし」 目が合った途端に、質問をぶつけられてしまった。イヤな冷汗が、額に流れていく。 「や、ごめん。心配かけてしまって……」 機嫌が悪そうに俺を睨む理子さんに、これから告げるいいわけで納得してくれるかどうか、ドキドキしながら口を開く。 「実は昨日、彼と話し合いながら、お酒を呑んでしまったんだ」 「お酒を呑んだ!? どうして?」 怒ったようなそれでいて困った感じの口調で告げつつ、手早く家の鍵を閉めた彼女を見、会社に向かって歩き出した。すると隣に並びながら、そっと腕を組む。触れたところから伝わってくる理子さんのぬくもりに、いつもならほっとするのに、今はなぜか違和感しかなかった。 「彼が話してくれる小さい頃の理子さんのことで、かなり盛りあがってしまったんだ。その結果、勧められるままにお酒を呑んでしまってね。ついにはどちらが強いか、呑み比べがはじまったというワケ。本当に済まない……」 理子さんから注がれる視線がつら過ぎて、思わず外してしまった。 「なにしてるの、まったく。だって克巳さん、お酒そんなに強くないのに」 「……そうなんだけどさ、でも男の意地があったから。大事な理子さんがかかっていたんだし、少しでも頑張らないといけないだろう?」 彼女から視線を逸らしたまま告げた言葉は、どんな感じで伝わっただろうか。 「それで勝負は、どうなったんですか?」 覗きこむように理子さんが顔を寄せる。俺の考えを読みそうなそれに、「うっ」と言って顎を引いてしまった。するとそれ以上逃げられないようにネクタイを掴み、理子さんに引き寄せられてしまう。顔と視線が逸らせない状態に追い込まれたが、それでも陵とかわした言葉を思い出しながら弁解を試みる。 「そっ、それが同時に酔い潰れちゃって、お互い記憶がないんだ。だから勝負は、お預けになってしまったよ。本当にゴメン!」 「信じられないっ! 克巳さんってば、なにしに行ったの? 私、稜くんに狙われてるんだよ。捕られてもいいの?」 文句を言った唇が、俺の唇に重ねられた。 (いつもならそれに応える形で理子さんを抱きしめたり、濃厚なキスをしていたのに、それをする気になれないなんて) 「ゴメン、理子さん。俺を心配して、たくさん連絡くれたのに……」 「本当に困った人。次はちゃんと稜くんに、ガツンと言ってよね」 理子さんは俺の腕をぎゅっと組み直して、引っ張るように会社に向かって歩き出した。 「わかった。今度逢ったとき、きちんと話し合うから。ゴメン――」 このあとも謝った俺に理子さんは気を遣い、明るい話題に切り替えてくれた。彼女が納得したのかどうか不明だったが、とりあえずこの場を乗り切れたことに、安堵のため息をついたのだった。いつもより早く、理子さんの家に迎えに行く。インターフォンを押したら、すぐに顔を覗かせてくれた。「おはよう克巳さん。昨日はあれから大丈夫だったの? なんだか少しだけ、顔色が悪いし」 目が合った途端に、質問をぶつけられてしまった。イヤな冷汗が、額に流れていく。「や、ごめん。心配かけてしまって……」 機嫌が悪そうに俺を睨む理子さんに、これから告げるいいわけで納得してくれるかどうか、ドキドキしながら口を開く。「実は昨日、彼と話し合いながら、お酒を呑んでしまったんだ」「お酒を呑んだ!? どうして?」 怒ったようなそれでいて困った感じの口調で告げつつ、手早く家の鍵を閉めた彼女を見、会社に向かって歩き出した。すると隣に並びながら、そっと腕を組む。触れたところから伝わってくる理子さんのぬくもりに、いつもならほっとするのに、今はなぜか違和感しかなかった。「彼が話してくれる小さい頃の理子さんのことで、かなり盛りあがってしまったんだ。その結果、勧められるままにお酒を呑んでしまってね。ついにはどちらが強いか、呑み比べがはじまったというワケ。本当に済まない……」 理子さんから注がれる視線がつら過ぎて、思わず外してしまった。「なにしてるの、まったく。だって克巳さん、お酒そんなに強くないのに」「……そうなんだけどさ、でも男の意地があったから。大事な理子さんがかかっていたんだし、少しでも頑張らないといけないだろう?」 彼女から視線を逸らしたまま告げた言葉は、どんな感じで伝わっただろうか。「それで勝負は、どうなったんですか?」 覗きこむように理子さんが顔を寄せる。俺の考えを読みそうなそれに、「うっ」と言って顎を引いてしまった。するとそれ以上逃げられないようにネクタイを掴み、理子さんに引き寄せられてしまう。顔と視線が逸らせない状態に追い込まれたが、それでも陵とかわした言葉を思い出しながら弁解を試みる。「そっ、それが同時に酔い潰れちゃって、お互い記憶がないんだ。だから勝負は、お預けになってしまったよ。本当にゴメン!」「信じられないっ! 克巳さんってば、なにしに行ったの? 私、稜くんに狙われてるんだよ。捕られてもいいの?」 文句を言った唇が、俺の唇に重ねられた。(いつもならそれに応える形で理子さんを抱きしめたり、濃厚なキスをしていたのに、それをする気になれないなんて
*** 隣で寝ている克巳さんを気にしながら、ゆっくりと躰を起こしてみる。「……っ、痛っ! ちょっと頑張りすぎちゃったかな」 時計を見ると午前三時過ぎ――彼を起こさないように寝返りをうったら、腰に激痛が走った。あまりの痛さに顔をしかめてしまうレベルって、どんだけ。「回数より質というか。いいモノをお持ちだったせいで、自ら腰を使っちゃったし、しょうがないね♪」 ベッドからゆっくりと腰を上げながら振り返って、克巳さんの寝顔を見てみる。イビキもかかずに、うつぶせのまま死んだように眠っていた。「こういうあどけない顔してるトコに、惹かれちゃったのかも。リコちゃんってば、趣味がいいからなぁ」 そっと頭を撫でてあげると気持ち良さそうに身じろぎし、口元に笑みを湛えた克巳さん。もしかしたらリコちゃんも、俺と同じことをしているかもね。こんな表情を見たら、手を出さずにはいられないから。 物音を立たないように気をつけて、真っ直ぐ浴室に向かいシャワーを浴びる。 そして数分後、バスローブに身を包み、タオルで髪の毛の水分をしっかりと拭ってから、ハンガーにかけてある克巳さんの上着に手を伸ばした。迷うことなく、ポケットの中身をチェックする。 スマホの手ごたえを感じて画面を見てみると、ロックはかかっておらず、さくさくと中身を拝見させてもらった。(わーお、着信履歴が26回もあるじゃん。さっすがリコちゃん! 恋人と俺の話し合いががどうなったのか、すっごく心配しちゃったんだ) 最終着信履歴が午前一時すぎ――この時間なら確か、激しくヤっちゃってる真っ最中のところだよ。 先ほどまでの行為をちょっとだけ思い出し、スマホの中身をあちこちチェックしていてふと気がついた。リコちゃんの電話番号とメアドは知ってるけど、克巳さんのは知らなかった。「俺のスマホに転送しちゃお♪ ついでに克巳さんのに俺の情報を入れてあげちゃうとか、すっげー優しい」 自画自賛しつつ操作した後に元に戻してから、寝室に足を運ぶ。眠っている克巳さんの鼻を、ぎゅっと摘んだ。ちょっとSな起こし方かな。「……っ、んんっ?」「おはよ、克巳さん」 顔を寄せて、ちゅっとモーニングキスしてみる。ぼんやりしたまま俺を見上げる姿は、本当に無防備に見えた。「ごめんね、朝早く。これから早朝ロケが入ってて、仕事に行かなきゃならないんだ。悪いけ
*** 疲れ果てた俺は稜を抱きしめて、深い眠りについていた。普段、夢なんて見ても覚えていないのに、このときに限ってはやけにハッキリとしたものを見た。寝室に充満している、花の香りのせいだろうか――。 何故か俺はいろんな花が咲き乱れている中に躰を横たえながら、抜ける様に綺麗な青空をぼんやりと眺めた。風に身を任せて流れていく雲、その風に運ばれる芳しい花の香りが心地よくて、目を細めながらその景色を楽しんでいると。『こんなところにいた、捜したんだよ克巳さんっ』 咲き乱れる花を蹴散らしながら、どこか弾んだ足取りで俺の傍にやって来た稜。しゃがみ込んで俺を見つめる彼の髪型は、かわいそうなくらいにグチャグチャだった。それだけ必死に捜したのだろうか。 俺は上半身を起こして傍に座った稜の髪を、手櫛で撫でるように梳いてやる。「捜してくれてありがとう。でも君は芸能人なんだから、身なりはいつも整えておかないと駄目なものじゃないのか?」『そういう克巳さんも、頭に花びらつけてるよ。何気に可愛いんだから♪』 形のいい口角を上げて、笑いながら頭についた花びらを右手で優しく払ってくれた。目の前に落ちていく、黄色い花びらが目に留まる。「そういえば俺のことを捜してたって、なにかあったのだろうか?」『だって、いなくなったら困るんだよ。克巳さんは俺にとって、大事な駒なんだし』 満面の笑みで微笑んでいるのに眼差しがやけに怜悧で、なにかを企んでいるように感じてしまった。それについて口を開きかけた瞬間、ずるっとどこかへ落ちていく躰。足元を見たら、そこに大きな穴ができていた。 慌てて両腕を伸ばしたがどこにも掴まれるところがなく、真っ直ぐに落ちていく俺を、稜は笑いながらただ見下ろすだけで、助ける気配すら感じられない。(――これから俺は、どうなってしまうのだろうか!?) 底の見えない落とし穴に、ただ身を任せるしかなかったのである。
「克巳さんっ、お願、いぃ……んっ」 息も絶え絶えといった様子で悩ましげに顔を歪めて、俺をじっと凝視した稜。なにを言うのだろうかと顔を寄せた。「――なに?」 「もう少、しだけ、力入れて握って……んっ、欲しい、んだ」 「これくらい?」 握ってる力を、ちょっとだけ入れて擦りあげた。「はぁん……ぅあ、もう少し……はぁ――」 「これは?」 「ぁん、ぅ、それ……くらい、はぁ、んっ!」 俺の手に合わせて気持ち良さそうに腰を上下する姿に、もっと感じさせてみたくなる。「うあ……やば、克巳さんっ……はぁ、腰、止んなぃ、もっと」 握っている稜のモノは、今にもイきそうなくらいに膨張していた。 そんな彼をイかせてやろうと力をこめたとき、陵はシーツを掴んでいた手を離して、俺の首に両腕を絡めながら強引に躰を引き寄せてきた。「俺を克巳さんの……んっ、あぁん、おっきいので……気持ちよくして、っ!」 耳元で甘く掠れた声で囁かれたせいで、無性に胸がドキドキしたけど、稜が告げた言葉の内容に不安がよぎる。(――俺のを稜に挿れるのか!?) 挿れる場所は一箇所しかないワケで、しかもその部分は通常こんなモノを挿れたりせずに、出す場所なワケで……。 そんなことを頭の中で考えて固まってしまった俺の顔を見るなり、稜は目を細めてクスッと笑うと、唐突にボトルを手渡してきた。「克巳さんのおっきいから、指でしっかりと馴らしてほしいんだよね」 「えっ!? ああ……」 思わずOKの返事をしてから、やることの順序を考えた。慣れないことをするときは、ついクセでいろいろと考えてしまう。 ボトルから液体を出して手のひらで温めてから、指を一本挿れてみよう。そうして様子を見てから指を足して、馴らしていけばいいか? 息を飲みながら、とりあえず人差し指を一本挿れてみた。つぷぷっと吸い込まれるように入っていくのを見て、何だか変な気分になる。「……っん、ん、っ、はぁん、あぁ……」 何回か抜き差ししながら広げていき、もう一本増やしてみたら、指に中のヒクついている様子が伝わってきて、俺のモノがピクリと反応した。「稜、もう挿れるから。いいね?」 気がついたら言葉を発していた自分。さっきまで躊躇していたのが嘘のようだ。「はぅん……っん、はぁ……あ、ぁぁっ」 俺を待ちわびる彼の中に自身をあてがい、ゆっく
彼に手を引かれ隣の部屋に入るとそこは、花の香りに包まれた寝室だった。 ベッドヘッドのライトをつけると大輪の花束が所狭しと飾られていて、思わず目を奪われてしまう。その華やかさはまるで、女の子の部屋のよう。「こっちに置いてある花は、ちょっとだけ香りの強い花ばかりなんだけど、克巳さんは酔ったりしない?」 そして何気なくはいと手渡された小さな包みに、顔が一瞬で強張った。このゴムはいったい?「え? あの……ニオイは大丈夫だけど、これって――」 「これから俺とセックスするんだよ、克巳さん」 彼の言葉に、頭の中が真っ白になった。 呆然とその場に立ちつくす俺を陵は横目で眺めて、なにを言ってるんだと言わんばかりにお腹を抱えて笑い出した。「ちょっと待ってくれ、だって君は男じゃないか。できるワケがない……」 涼は慌てふためく俺を無視して、着ていた服を脱ぎ捨て、惜しげもなく全裸になった。 さすがは、モデルをやってるだけある。均整の取れたプロポーションは見ていて惚れぼれするが、性欲の対象にはならない。胸はないし、下半身には半勃ちのアレがついているし。「でも克巳さん、俺とキスして勃ってたでしょ。あれはどう説明するのさ?」 「あれはきっと薬のせいで、ああなったんじゃないかと――」 同性とキスして勃つなんて、絶対にありえない。感じてしまったのも、全部薬のせいなんだ。「でもねあの薬、即効性はあるんだけど持続性がイマイチなんだ。なのに未だに克巳さんのモノが勃ってるのは、どうしてなのかなぁ?」 「それはまだ、薬が効いてるとしか思えない……」 言い訳がましいことを口にしながら、初めての行為に恥ずかしがる女のコのように、両手で下半身のモノを隠した。今更なんだが――。「まったく。意外と恥ずかしがり屋さんなんだね、しょうがないなぁ」 口元に艶っぽい笑みを浮かべた陵が、手に持っているゴムをパッと奪い取り、おろおろする俺を尻目に素早く装着した。「さあ早くしようよ。遠慮しないでさ」 「いやいや、絶対に無理だって!」 「そおぉれっ!」 ガシッと腕を掴み、遠心力を使ってスプリングのきいたベッドに吹っ飛ばされた。仰向けに寝転がった俺の上に、彼がしっかりと馬乗りになる。見下ろしてくる瞳が逃がさないと語っていて、更なる恐怖心に煽られた。「やや、やめてくれ……」 「掘られるワケじゃ
*** まずは第一段階終了――即効性のある薬だけど持続力がないから、もうすぐ切れちゃうんだよな。それを悟られないように、ここから俺が頑張らないとね。リコちゃんの愛した躰がどんなものなのか。自身で体感させてもらおうじゃないの。 気だるそうにしながら息を切らして、ワイシャツだけを着たまま下半身丸出しの哀れな姿を、ほくそ笑みを浮かべつつ見下ろしてやる。 二口しかコーヒーに手をつけなかったとはいえ、お薬をどばどば投入したから相当効いてるっぽい。しろーとさんには、ちょっとばかりキツかったかもなぁ。俺も飲んでるのに効き目を感じられないのは、飲み慣れてしまったせいか――。「ホントに大丈夫? 汗がびっしょりだね」 額のにじんだ汗を手のひらで拭ってやると、気持ちよさそうな顔をする。(なるほど……。母性本能を絶妙なタイミングでくすぐってくれるタイプだから、しっかり者のリコちゃんが夢中になっちゃったんだね) ソファの上で倒れこんでる半身を起こしてやり、水の入ったペットボトルを手渡してあげようと目の前に差し出した。「はい、どーぞ♪」「あ、済まない……」 なかなか手を伸ばさない克巳さんの手に、ペットボトルを強引に押し付けてそれを握らせる。「さてはその顔、俺に飲ませてほしかったんでしょ?」「いや、違っ」 ぶわっと赤面した克巳さん。隣に座り込んで乱れた自分の髪の毛をかき上げてから、背中を優しくさすってあげると、頬を紅潮さたままどこか困った顔をした。(わっかりやす~、素直な人なんだね)「欲しければくれてやるよ? その水みたいにさ」 言いながら克巳さんの着ているワイシャツのボタンを、手早く外していった。「なっ、なにをするんだ?」「自分だけイって、俺はイかせてくれないの? それってフェアじゃないよね」 持っていたペットボトルを取り上げて、腕を引っ張って立ち上がらせると、寝室のある部屋に誘導する。 ――さぁ、第二ラウンドのはじまりだよ克巳さん――