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克巳さんから与えられた激しすぎる快感のせいで、途中から俺の記憶がプツリと途絶えてしまった。だからその後、彼がいつイったのか知らない。気がついたら全裸のまま、ひとりベッドで横になっていた状態に、眉根を寄せるしかなくて――。 リビングに置いてあるのか、遠くでアプリの着信を知らせるスマホの音が聞こえる――ダルい躰を引きずり、やっと歩いてテーブルに置いてあるそれを見つけた。 『俺との契約、忘れないでほしい。また連絡する 克巳』 「そっちこそ、リコちゃんと別れるのを忘れんなよ。すんなり別れられるように、この俺が舞台を整えてあげるからね」 彼にはキツいお仕置きが必要みたいだから、それなりに痛い目に遭ってもらおうか。 「キスマーク付けるなって言ってたのに、アチコチに付けまくりやがって。くそっ!」 (気を失ってる間、何をされたのか、ぜんっぜんわからないし……) 「俺が好きなのは、未来永劫リコちゃんだけなんだ。ヤローなんか、好きになるかってぇの!!」 手にしたスマホをソファの上に放り投げ、躰の気持ち悪さを払拭すべく浴室に向かう。 今日がオフで、ホント良かったよ――早速、計画を始動できるからね。楽しみにしていなよ、克巳さん!「毎日、本当にごめんなさい。克巳さん、お仕事が忙しいのに」 目の前で済まなそうに謝る理子さんに、俺は首を横に振ってみせる。「いや、いいんだ。こうして少しでも逢うことができるだけで満足だし、それに理子さんの安全が一番だからね」 場の雰囲気を良くしようと笑いかけた俺の袖口を、理子さんは腕を伸ばして掴む。微妙にあいてしまった俺たちの距離を埋めるような行為に、ほほ笑みが途端に崩れそうになった。「……今日もお仕事?」「内部監査が入るかもしれないって、噂があってね。それに向けて、いろいろと調整しなければならないんだ」 ごめんと言いながら掴まれている袖口の手を、やんわりと外した。「私の方こそ、ごめんなさい。いつもありがとう……」 無理やり笑顔を作る理子さんを見ていられなくて、身を翻すように去るしかなかった。彼女から注がれる視線を感じないように、まっすぐ前を向いて銀行に戻る――。 リコちゃんが克巳さんと別れたところを見計らい、俺は彼女の家のインターフォンを押した。 ピンポーン! 家の中に響き渡るその音を聞いた瞬間、扉が大きく開かれる。笑顔のリコちゃんが顔を覗かせた。「やぁ、リコちゃん。元気そうだね、おっと♪」 慌てて締めようとした扉を片手で易々と押えつけたら、リコちゃんは焦った顔で喚きたてる。「なにしに来たの? アナタに用なんてないから!」「俺はあるんだけど。克巳さんについてなんだけどね」 大事な恋人のことを口にしたら、リコちゃんの腕の力が抜け落ち、扉が開けっ放しになった。本当はもっとリコちゃんに近づきたかったけど、持っている証拠を見せつけるために、微妙な距離感を保ったまま、目の前にスマホをかざして、唇に微笑みを湛える。「あの人、浮気してるよ。証拠写真バッチリ、スクープしちゃった♪」「……ぅ、嘘だよ、そんなの。合成とかしたんでしょ」「えーっ、疑うの? 俺ってば撮るより撮られる側なんだけど。写真の加工の仕方なんて、全然知らないよ」 酷いなぁと言いながら、撮影した画像を理子ちゃんに見せた。スマホの画面に映し出したのは、優しく微笑んでいる克巳さんと、肩を抱き寄せられた髪の長いキレイな女性が並んで立っているものだった。「なに、これ……」「あ、これね。ホテル街に向かう途中の交差点で、信号待ちしてるとこじゃないかな。そこを偶然車で通りかかって、見つ
*** 克巳さんから与えられた激しすぎる快感のせいで、途中から俺の記憶がプツリと途絶えてしまった。だからその後、彼がいつイったのか知らない。気がついたら全裸のまま、ひとりベッドで横になっていた状態に、眉根を寄せるしかなくて――。 リビングに置いてあるのか、遠くでアプリの着信を知らせるスマホの音が聞こえる――ダルい躰を引きずり、やっと歩いてテーブルに置いてあるそれを見つけた。『俺との契約、忘れないでほしい。また連絡する 克巳』「そっちこそ、リコちゃんと別れるのを忘れんなよ。すんなり別れられるように、この俺が舞台を整えてあげるからね」 彼にはキツいお仕置きが必要みたいだから、それなりに痛い目に遭ってもらおうか。「キスマーク付けるなって言ってたのに、アチコチに付けまくりやがって。くそっ!」(気を失ってる間、何をされたのか、ぜんっぜんわからないし……)「俺が好きなのは、未来永劫リコちゃんだけなんだ。ヤローなんか、好きになるかってぇの!!」 手にしたスマホをソファの上に放り投げ、躰の気持ち悪さを払拭すべく浴室に向かう。 今日がオフで、ホント良かったよ――早速、計画を始動できるからね。楽しみにしていなよ、克巳さん!
「ははっ! なに言ってくれちゃってんの? 俺が好きなのはリコちゃんだけなんだ。他のヤツと付き合うがわけないでしょ。離してよ!」「稜が俺を、好きになってくれるまで――」 理子さんを見る目で、俺を見て欲しい。君が求めてくるように、今この手で抱いてやろう。俺なしではいられなくしてあげる。 尚も抵抗を続ける稜のネクタイをなんとか外し、それを使って両腕をグルグル巻きにした。そしてワイシャツの引き裂くようにビリビリと脱がし、スラックスも下着と一緒に剥ぎ取る。 真っ暗闇の部屋の中、ベランダの窓から差し込む月明かりが彼の白い肌を、ぼんやりと浮かび上がらせた。 夢の中で犯しまくった躰が目の前にあることに、喜びに満ち震える。迷うことなく艶やかなな肌へと、舌を這わせながら貪った。「あっ、や、やぁ……うっ、克巳さんっ、やめてって!」 やめてと言いながらも、しっかり感じている稜。責め立てた胸の尖りはしっかり勃っていて、露わになった下半身も既に形を変えていた。「枕営業してきたと言ったが、相手はやっぱり業界の人なのか?」「な、んで?」 一旦顔を上げ、稜を見つめる。いつもは強い光を放つ瞳が、どこか困ったようにゆらゆらと揺れていた。困惑に満ちた、瞳の理由はなんだろうか?「だって、きちんと守られているから。仕事の関係でキスマークをつけちゃ駄目って、しつこく言ってただろう?」 そんな困った顔を窺いながら、そっと下半身に手を伸ばす。それは今にも爆ぜそうなくらい、熱く膨らんでいて――。「稜……イヤだと言いながらも、しっかりと感じているんだね。もうこんなになってる」 言い終えない内に迷うことなく彼のモノを口に含み、唾液を滴らせながら、上下に激しくスライドしてやった。「ああぁぁっ! やだ! ああぁんっ、やめてえぇ!!」 首をイヤイヤしながらも、何故か腰を上下に浮かせる。もしかして、さっきの行為の余韻が、躰に残っているのだろうか。「ふぁ……ぁ、ん……、うっ」 悔しそうな表情を浮かべつつ、きゅっと下唇を噛みしめて、されるがままになっている姿に、俺自身も堪らなくなっていく。激しく責め立てながら、口の中で感じるモノがどんどん大きくなるのを察し、程よいタイミングで、すっと抜き去った。「ああぁ、ぁ……あぁ……、んっ、くっ!」 そしてまた口に含んでの愛撫を、何度も繰り返してやる。ここ
*** 仕事で疲れた躰を引きずりながら三日間、毎日午前一時頃まで稜の自宅前で粘って待っていた。 今日も帰ってこないのかと諦めかけたとき、カツカツと階段を上ってくる靴音が聞こえてきて、勝手に胸が高鳴っていく。そんなドキドキを抑えようと深呼吸して、じっと佇み待っていると、靴音をさせる人物が俺を確認し、驚愕の表情を浮かべた。「どうしてここにいるの、何やってんだよ克巳さん……?」 稜と逢ったときは、いつもラフな格好ばかり見ていたので、少しだけ着崩したスーツ姿に目を奪われてしまった。細身のスーツからスタイルの良さが浮き彫りにされている姿に、見ているだけで動悸が加速してしまう。「……お帰り。珍しいね、スーツ姿なんて」 乾いた声で告げてしまったのは、躰が熱くなって喉が干上がってしまったせいだ。不審に思われないだろうか――。「お笑い芸人と一緒の、地方ロケだっただけ。それよか何か、話があるんでしょ? 悪いけど出直してくれないかな。すっごく疲れてて、早く休みたいんだ」 俺の台詞に、どこかイライラしながら答える。髪の毛を苛立たせるようにかき上げて、キッと睨んできた。彼に睨まれているというのに――見つめられるだけで、胸の中心が絞られるように痛い。あまりの痛さに俯いて、やっと口を開く。「――地方ロケ。それでずっと留守だったのか」「もしかして、この間の夜のことが誤魔化しきれなくて、リコちゃんにバレたとか!?」 俯いた自分を正面に向けさせるためなのか、いきなり腕を掴んで話しかけてきた稜。触れられたところから、君の熱が伝わってくる。「いや、その件は君が提案してくれた、お酒のことで何とかなった」「じゃあ、何で……」「稜……君と話がしたかった。それだけ」「は――?」 俺の言った言葉が信じられないのだろう。印象的な瞳を大きく見開き、ぽかんとした表情を浮かべる。その後、眉根を寄せて口先でぶつぶつ何かを呟いてから――。「さっきも言ったけど、疲れてるんだ。何か言いたいことがあったら、スマホに俺の情報入れてあるから、メールしてくれない? 悪いけど帰って」 舌打ちしながら俺の躰を押し退けて家の鍵を差し込み、颯爽と中に入って行く。俺は迷うことなく閉めかけた扉に、すかさず足を突っ込んだ。 がつんっ! 乾いた音がフロアに響き渡る。 足が挟まれているのにも関わらず、必死に閉めよ
***『ああぁっ、すごっくイイ……もっと、そぉ……ん、克巳さ、ぁあんっ』(ここはどこだ――?) むせ返りそうなくらい花の香りがする部屋の中、稜の両手を握りしめながら腰を動かし、激しく責め立てる自分の姿がそこにあった。「どっ、どうして俺はまた、君とこんなことに!?」『なに、おかしなこと、んんっ……言ってんの。克巳さんがいきなり俺のことっ、はぁあん……襲ってきた、のにぃっ!』「君はまた、俺に薬を使ったのか?」『薬なんて盛ってないない。あぁっ……もう、好きだなんて言って告白してくれて、ふぅっ……嬉しかったのにね』 ――俺が稜のことを好き、だと!?『んんっ……正確には俺の躰が好きなんだろうけど。それでもっ、いいよ俺は。だって……んっ、克巳さんとはかなり相性がいいからさ』 突然すぎる状況に飲み込まれ、そのまま固まる俺の腰に、稜は両足をぎゅっと巻きつけた。『余計なこと考えないで今は一緒に……あぁっ、楽しもう、よっ……ほら、克巳さんの大きいので俺を、いっぱい感じさせてってば』 目を細めながら、俺のモノを中でぎゅっと締めつける稜。繋がれている手からも、彼の熱が移ってきた。『もっともっと……俺に克巳さんをちょうだい。ほら――』 半開きになった唇の隙間から、淫靡な舌が俺を誘うように動いた。迷うことなくそれに導かれ、密着するように唇を重ねる。 彼の舌が出入りするリズムに合わせて、下半身でソレに応えるべく打ちつけてみた。絡まる唾液の音と下からもたらされる、ぐちゅぐちゅという卑猥な音が混ざり合い、俺自身の高まりが一層大きくなっていくのを感じる。「稜……君が好きだ。もっと俺を求めてくれ」 なぜだか彼に求められると、胸の奥に疼きを強く感じた。それを確かめたくて言葉にしてみたら、さっきよりももっとドキドキが高鳴っていって――眉根を寄せて感じている稜が、愛おしくて堪らなくなる。『ぁあっ……俺も克巳さんが好き。そうやってイきそうなのを必死に堪えてる顔が、なんとも言えないっ』「稜っ、稜、俺だけを見てくれ」 薄く笑っている彼の視線の先に映っているのは、きっと理子さんだけ。わかってる……わかっているけどこの瞬間だけは、俺だけを見てほしい。「君の中に、俺を深く刻みつけたい。離れらないように」 そう告げた瞬間、稜のいた場所に突然、理子さんが現れた。『克巳さん嬉しい
いつもより早く、理子さんの家に迎えに行く。インターフォンを押したら、すぐに顔を覗かせてくれた。「おはよう克巳さん。昨日はあれから大丈夫だったの? なんだか少しだけ、顔色が悪いし」 目が合った途端に、質問をぶつけられてしまった。イヤな冷汗が、額に流れていく。「や、ごめん。心配かけてしまって……」 機嫌が悪そうに俺を睨む理子さんに、これから告げるいいわけで納得してくれるかどうか、ドキドキしながら口を開く。「実は昨日、彼と話し合いながら、お酒を呑んでしまったんだ」「お酒を呑んだ!? どうして?」 怒ったようなそれでいて困った感じの口調で告げつつ、手早く家の鍵を閉めた彼女を見、会社に向かって歩き出した。すると隣に並びながら、そっと腕を組む。触れたところから伝わってくる理子さんのぬくもりに、いつもならほっとするのに、今はなぜか違和感しかなかった。「彼が話してくれる小さい頃の理子さんのことで、かなり盛りあがってしまったんだ。その結果、勧められるままにお酒を呑んでしまってね。ついにはどちらが強いか、呑み比べがはじまったというワケ。本当に済まない……」 理子さんから注がれる視線がつら過ぎて、思わず外してしまった。「なにしてるの、まったく。だって克巳さん、お酒そんなに強くないのに」「……そうなんだけどさ、でも男の意地があったから。大事な理子さんがかかっていたんだし、少しでも頑張らないといけないだろう?」 彼女から視線を逸らしたまま告げた言葉は、どんな感じで伝わっただろうか。「それで勝負は、どうなったんですか?」 覗きこむように理子さんが顔を寄せる。俺の考えを読みそうなそれに、「うっ」と言って顎を引いてしまった。するとそれ以上逃げられないようにネクタイを掴み、理子さんに引き寄せられてしまう。顔と視線が逸らせない状態に追い込まれたが、それでも陵とかわした言葉を思い出しながら弁解を試みる。「そっ、それが同時に酔い潰れちゃって、お互い記憶がないんだ。だから勝負は、お預けになってしまったよ。本当にゴメン!」「信じられないっ! 克巳さんってば、なにしに行ったの? 私、稜くんに狙われてるんだよ。捕られてもいいの?」 文句を言った唇が、俺の唇に重ねられた。(いつもならそれに応える形で理子さんを抱きしめたり、濃厚なキスをしていたのに、それをする気になれないなんて