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第2話

Author: 朝陽に輝く山
雅子は怒りにまかせて家に帰った。

まだゲームをしている直彦は、雅子が戻ってきても、振り向きもしなかった。

「春森は遊び場にいなかったのか?」

「死んだわよ!

そのクソガキ、戻ってきたら、きちんとお仕置きするわ!」

直彦はキーボードに置いた指を止めることもなく言った。

「縁起でもないこと言うな。

そもそもこの件、お前が悪いだろ。

春森に約束してた服を、サイズ直して悠斗にやったから、春森は腹を立てて家出したんだろ」

雅子は一言で爆発し、ソファのクッションを勢いよく直彦に投げつけた。

「それが私のせい?

あの舞台衣装は悠斗が急ぎで必要だったの!

春森には服なんて山ほどあるでしょ?一着くらいどうだっていうの!」

「でも結局、春森が言ってた通りだ。お前がえこひいきしてるってことだな!」

「私がえこひいき?悠斗は小さいんだから、ちょっと譲ってあげて何が悪い?春森が兄としてちゃんとするべきじゃないの!

春森には毎年で何十万円も塾代を出してるでしょ?あれは本物の愛情じゃないっていうの?」

「ちゃんとするべき?そうだとしても、あんなふうに怒鳴っていいわけがないだろう!だからこそ、春森が家出したんだ!」

「あれはあの子にやましい気持ちがあるのよ!どこかで遊び呆けて、わざと私を困らせてるに決まってる!」

直彦と雅子は激しく言い合った。

だが二人とも、リビングの角に小さな影がしゃがみ込み、怯えた顔で耳を塞いでいることに気づかなかった。

悠斗は、僕が一度も着ることなく、店で小さいサイズに交換されたあの上着を着ている。

僕は悠斗に近づくと、膝を抱えて、彼の身に着けている服を見つめながら、彼の前で縮こまった。

青い服にはクジラの柄が描かれていて、とてもきれいで、きらきらと輝いている。

直彦はずっと前から、テストに合格したら買ってやると約束していた。

僕は必死に本を読み続け、ようやく、合格した。

しかし、服を持ち帰ったその日、悠斗が幼稚園の発表会で新しい服を着たいと泣き出した。

雅子は何も言わず、その服とレシートを持って店へ行き、いちばん小さいサイズに交換した。

「春森、お兄ちゃんなんだから、弟に譲りなさい。

次はもっといいのを買ってあげるから」

次なんて、なかった。

僕はうつむき、何度も洗って色あせた薄緑のTシャツを見た。

Tシャツの右下には、書道教室でクラスメイトが私に振りかけた墨汁が数滴付いていて、何度洗っても落ちない。

悠斗の表情は、だんだんと虚ろになっていった。

僕の名前を聞くたびに、彼の体はびくりと震えた。

ついに耐えきれず、彼は声を上げて泣き出した。

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!逃げて!」

直彦と雅子の激しい言い争いは、そこでぴたりと止まった。

雅子は小走りで駆け寄り、悠斗を抱きしめると、背中をそっと叩いた。

「ごめんね、ママが悪かった。怖かったよね?

全部春森が家出したせいよ。帰ってきたら、ちゃんと叱るから」

直彦も近づいてきて、ため息をついてから、困ったような声で言った。

「もういいから、泣くな。明日、パパがおもちゃを買ってやるからな」

だが悠斗は珍しく、取り乱したように泣き続け、何度も「お兄ちゃん」と叫んだ。

その夜、悠斗は高熱を出した。

雅子は悠斗の手を握り、やつれた顔で何度も撫で続けた。

静けさの中で、彼女は独り言のように、かすれた声で愚痴をこぼした。

「春森は、小さい頃から厄介だったの。今や家出しておいて、こんな騒ぎまで起こして……

春森が駄々をこねて家出しなければ、悠斗がこんなに怖がることも、熱を出すこともなかったのに……

少しでも思いやりがあれば、帰ってきて自分で謝るべきなのよ……」

僕は病床の反対側に立ち、やつれながらも優しい雅子の横顔を見ていた。

彼女が悠斗を見るとき、その目に浮かぶ心配と優しさは、あまりにも真摯だ。

僕は夢の中で何度もこんな優しさを渇望してきた。たとえ一度だけでも、それを欲しかった。

それなのに、今はこういう形でそれを目の当たりにすることになったのだ。

心のあたりから、激痛が込み上げてきた。

なるほど、幽霊でも、悲しくなるんだな。

僕はゆっくりと手を伸ばし、疲れで乱れた雅子の髪に触れたかった。

そして、「もう罵らないで、春森はもう戻れないんだよ」と伝えたかった。

だが、指先はやはり、すり抜けていくだけで、何の波紋も起こさなかった。

それはまるで僕の死のようだ。

悠斗に病気を引き起こし、雅子に僕を責める理由を一つ増やした以外、何も残らなかった。
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