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春になったらまた会おうね

春になったらまた会おうね

By:  酔わない娘Completed
Language: Japanese
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七歳にも満たない頃、私・千尋(ちひろ)は三度も瀕死の境を経験した。 両親は私を救うため、魂を鎮めようと檜の棺を探し求めた。 避妊手術まで済ませていたのに、私の治療に使う臍帯血を得るために、妹を産んだ。 妹は天真爛漫で愛らしく、棺を指さして尋ねた。「お姉ちゃん、あの黒い箱はなあに?」 私は答えた。「あれは、私を入れるための箱よ」 パパとママは私を抱き締め、大声で泣きじゃくりながら、「絶対に治してみせるから」と何度も繰り返した。 けれどその日、妹がはしゃぎすぎて、その棺の角に頭をぶつけてしまったのだ。 その瞬間、ママは突然崩れ落ち、頭を抱えて地面にうずくまり、嗚咽を漏らした。 「両親を苦しめるだけじゃ足りないの?今度は妹まで巻き込むつもり? もう本当にうんざりよ!どうして死んでくれないの!」 パパは泣きじゃくる妹を抱き上げてあやし、「遊園地に行こうか」と優しい口調で言った。 ドアが勢いよく閉まる音を聞きながら、私はゆっくりと棺の中に横たわり、そっと目を閉じた。 「パパ、ママ、おやすみなさい」

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ノンスケ
ノンスケ
生まれつき病弱な子を持つ親の大変さがわかる。心労や経済的な苦労、いつもいつも子どものことを考え、妹にも我慢させ、自分たちも我慢して…少しの気晴らしのつもりが不幸な事故が起きてしまった。軽い文章だからこそ、伝わってくるものがあった。
2026-03-27 17:20:47
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松坂 美枝
松坂 美枝
さようなら、次は健康な身体で生まれてくることが出来ますように! 健気で良い子だった泣 遊園地行けて良かった泣
2026-03-27 09:31:50
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10 Chapters
第1話
七歳にも満たない頃、私・千尋(ちひろ)は三度も瀕死の境を経験した。両親は私を救うため、魂を鎮めようと檜の棺を探し求めた。避妊手術まで済ませていたのに、私の治療に使う臍帯血を得るために、妹を産んだ。妹は天真爛漫で愛らしく、棺を指さして尋ねた。「お姉ちゃん、あの黒い箱はなあに?」私は答えた。「あれは、私を入れるための箱よ」パパとママは私を抱き締め、大声で泣きじゃくりながら、「絶対に治してみせるから」と何度も繰り返した。けれどその日、妹がはしゃぎすぎて、その棺の角に頭をぶつけてしまったのだ。その瞬間、ママは突然崩れ落ち、頭を抱えて地面にうずくまり、嗚咽を漏らした。「両親を苦しめるだけじゃ足りないの?今度は妹まで巻き込むつもり?もう本当にうんざりよ!どうして死んでくれないの!」パパは泣きじゃくる妹を抱き上げてあやし、「遊園地に行こうか」と優しい口調で言った。ドアが勢いよく閉まる音を聞きながら、私はゆっくりと棺の中に横たわり、そっと目を閉じた。いや待って、蓋を閉めないと。……この蓋、ずいぶん重いね。蓋を閉めながら、思わずそう呟いてしまった。聞くところによれば、これはパパがある陰陽師に莫大なお金を払い、あらゆる顔役をはたらかせ、ようやく譲り受けた檜で、特注して作らせたものらしい。出来上がった時に、その陰陽師の方も立ち会ったが、私の姿を見ると、彼らはなぜかため息をつき、背を向けて帰っていった。私はパパの服の裾を引っ張り、無邪気に尋ねた。「パパ、私ってそんなに怖い顔してるの?どうして私を見ると逃げちゃうの?」あの時、パパは確かに言ってくれた――「そんなことないよ、千尋は世界一きれいだよ」って。ああ、もしパパが昔のように突然現れて、この蓋を閉めてくれたらいいな。大人びた口調で私はため息をついた。やっぱりやめよう。パパもママも、もう十分疲れてる。ようやく妹を連れて遊びに行ける大事な時間なんだから、邪魔はしないでおこう。遊園地って楽しいのかな。テレビで見るのと同じなんだろうか。ピンク色の木馬に、大きなお城。ママは約束してくれた。病気が治ったら、お姫様のドレスを着てお城の前で写真を撮ろうって。「うちの千尋は、きっと誰よりも輝いてるわ!」その言葉を思い浮かべるたび、頭の中では何度も
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第2話
胸を躍らせながら、パパとママの前にふわりと浮かび、自分が新しく身に着けた得意技を見せたくてたまらなかった。「パパ、ママ、ほら、見て!私、飛べるようになったんだよ!もう体も痛くないし。ねえ、遊園地に行ってもいい?」私は目をパチパチさせて可愛いふりをする。ママは私がこんなふうに甘えるのに一番弱いんだから。けれどママは私を無視して、園子の手を取るとリビングへと入っていった。「園子、今日は楽しかった?」「うん!ママ、またアイスクリーム食べてもいい?」アイスクリーム?あの丸くてクリームみたいなやつ?ひどい、ママったら、こっそり園子だけ連れて食べに行ったんだ!ママはしゃがみ込み、園子の鼻先を軽くつんと触った。「お姉ちゃんがもう食べられないの、忘れちゃったの?園子、これは内緒ね、いい?」園子はこくりと頷いた。理由は分からないまま、それでも素直にうなずいたのだ。園子がいい子にしているのを見て、ママはふと思いついたように言った。「パパに箱買いしてもらおうか。これからは食べたくなったら、いつでも食べていいよ」やったー!私は後ろで両腕を高く掲げた。「ママ、もう病気治ったよ。私も食べたい!」けれど、なぜだろう。ママの肩に触れようとしても、指先がすり抜けてしまった。パパは小さくため息をつき、私の手を通り抜けてママの肩を軽く叩いた。「千尋に何をそんなに怒っているんだ。あの子はまだ子どもなんだよ」私の名前が出たとたん、ママの穏やかな顔がまた曇った。「分かってる、全部分かってるの。でも、園子も私たちの子よ。千尋のことばかり考えて、あの子をほったらかしにするわけにはいかないじゃない。園子は千尋よりずっと元気で活発だし……私の理想の娘って、まさにこんな感じなの」ママの言葉の意味を理解した瞬間、私は唇を尖らせた。どうしてママ、そんなひどいことを言えるの。この世で娘は私一人で十分だって、そう言ってくれたのに。妹を身ごもったとき、パパとママは私の両手を握って約束してくれた。妹が生まれても、一番大切なのは私だって。それなのに、まだどれほどの時も経っていないのに、大人はもう約束を破るんだ。ママひどい!私は心の中で誓った。アイスクリームを三つもらわなきゃ、絶対に機嫌を直してあげないって。小さな指
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第3話
病院に見舞いに来たおじいちゃんとおばあちゃんは、私の耳元でこっそりと、さんざん悪口を言ったものだ。「厄介者だ……嫌われ者だ……」病を抱えている私はただの金食い虫だって。またこう言うのだった――私のせいで、家中が泥棒が入ったみたいにめちゃめちゃだって。でも、うち、泥棒なんて来てないのに。あとになってようやく知った。私の病気を治すために、パパとママは全財産を使い果たしていたのだ。神にすがり仏に祈るなど、ありとあらゆる手を尽くして。そんな中、おじいちゃんとおばあちゃんは、私の治療を打ち切って、代わりに弟を産むべきだと言い出した。けれど両親は、ためらうことなく断った。「父さん、母さん、私たちには千尋だけで十分。それに、私たちはすでに避妊手術を受けた。この話はもう二度としないで」それからというもの。父の髪は日増しに白みを増した。私の看病に加え、本業が終わると今度は相乗りサービスの運転で生計を支えているのだ。ママはすべてのエステの会員カードを解約し、新しい服など一着も買わなくなった。ふたりの顔からは、私のせいで微笑みが少しずつ消えていった。自分が生きている意味が、分からない。その問いを口にしたとき、ママの顔に、ふと花が咲くような笑みが浮かんだ。女優なんかより、ずっとずっと美しい笑顔だった。「千尋、あなたがいてくれること。それだけで、パパとママにとっては、この人生で一番の奇跡なんだよ」ママ、もう泣かないで。泣いたら、きれいじゃなくなっちゃう。千尋は、やっぱりママの笑っている顔がいちばん好き。ママの涙をぬぐってあげたかった。けれど、私にはできなかった。その瞬間、幼い小さな手がまるで幻のように私を通り抜け、ママの頬にそっと触れた。「ママ、泣かないで……」ママは園子をぎゅっと抱きしめ、顔を上げてパパを見つめた。「あなた、園子を連れてって、アート写真でも撮りに行ってあげない?ねぇ、いいでしょ?園子は、ずっと千尋の写真の壁を羨ましそうに眺めてたの。今日はその子の夢、叶えてあげようか?」パパはためらうことなくうなずき、薬と一粒のキャンディーを用意して、私の枕元にそっと置いた。そして、一枚のメモを書き、丁寧にふりがなまで添えてくれた。「千尋、園子を連れて少し出かけてくるね。ちゃん
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第4話
そっと息を吹きかけてみた。花びらを散らすように。一枚、また一枚。本当に効いた!その調子で、遊びのようにすべての花びらを吹き落とした。それから、食卓の上に少し歪んだ文字を並べた。【ママ、ごめん。笑って】少し後ろに下がってじっと眺め、満足げにうなずいた。悪くない。ママ、きっと喜んでくれるよね。鼻歌を口ずさみながら、両親の結婚写真のそばに寄っていった。ほこりがかぶっていたので、息を吹きかけてきれいにした。地面にもほこりが積もっていたから、それもふうっと吹き飛ばした。最後に、自分の「作品」をしばらく眺めていた。なかなかやるじゃない、千尋!これでママも、私を産んだこと、後悔しないでくれるかな。待ち続けて、月が沈み、日が昇った。それでもパパとママは帰ってこなかった。もう私のことはいらないのかな。……それでも、いいよ。どうせ私はただのお荷物なんだから。パパとママの友達は何度も私を手放すように勧めてきたけれど、二人はどうしても聞き入れなかった。パパとママったら、ほんとに頑固なんだから。こくり、こくり、と眠りに落ちそうになった、その時。玄関の扉が、ようやく開いた。「ママ、今日ね、すっごく楽しかったよ!」園子はお姫様みたいなドレスで着飾り、ペロペロキャンディを口に咥えて入ってきた。私はその飴の甘い香りにかまっている暇もなく、ひたすらママのまわりをぐるぐる回った。「ママ、早くダイニングに行って。サプライズを用意してあるの」ママが帰ってきて最初にすることは、きっと台所で私のご飯を作ることだ。外の食べ物は食べさせてくれない。どんなに遅くなっても、必ず自分で作ってくれるのだ。キッチンへ行くにはダイニングテーブルの前を通らなければならない。だから、きっと私が用意したサプライズに気づくはずだ。さすが、この千尋は頭がいい。そう自画自賛して得意になっていたそのときだ。目の前のソファで、ママと園子が並んですわり、撮りたての写真を楽しそうに見つめ合っているのが目に入った。「ママ、園子ね、ハンバーガーもう一個食べたいの」「いいわよ。明日、パパとママがまた連れて行ってあげる。ファミリーバーレルにしようか?」そうか、二人は私に内緒で外食してきたんだ。ファミリーバーレルって、
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第5話
「園子、ふざけないで!」ママの顔色が一変し、園子の手をぱしんと叩き落とした。「せっかくしっかりしてきたねって褒めたばかりでしょう?それなのに、そんなひどいこと言ってお姉ちゃんを呪う気?もう、食べさせないからね!」ママは園子の手からペロペロキャンディをひったくるように取り上げると、そのままごみ箱に捨てた。「何度同じことを言えばわかるの。パパもママも、お姉ちゃんに優しくしてるのは、あの子が病気だからなのよ。どうしてお姉ちゃんを呪うようなことが言えるの!」私は棺の上に腰を下ろし、怒りに震えるママを見つめながら、何を言えばいいのか分からなかった。ママ、怒らないで。妹の言うこと、本当なんだよ。だめだ、これじゃ堅すぎる。ママ、私、先に天国へ行くね。帰ってきたらまた会おう?ううん、それも違う。はあ……どうしたらいいんだろう。そんなふうに考えていると、パパがふと何かを思い出したように顔を上げた。彼は勢いよく立ち上がり、足を踏み出して私の部屋へ向かった。ぬるま湯はとっくに冷えきり、薬もキャンディも手つかずのままだった。震える手で布団を勢いよくめくる。そこには誰の姿もなかった。彼はその場に崩れ落ちるように尻もちをつき、立ち上がろうとしても力が入らない。私はパパのそばに漂いながら、歯を食いしばって彼を支えようとした。けれど結局、パパと同じように息を切らして床に座り込んでしまった。「パパ、痩せたほうがいいよ」私は口を尖らせ、彼の耳元でそう叫んだ。「千尋、千尋なのか?」パパはまるで私の声が聞こえたかのように、転がるようにして居間へ駆け出した。「おい、今、千尋の声が聞こえたんだ!きっと私たちと隠れんぼしてるんだよ!」二人は家中を探し回り、最後に食卓の上の小さな黄色い花を見つめて動きを止めた。「あなた、千尋は無事だよ!ほら、ちゃんと私に謝ってくれたの!」ママはまるで胸のつかえが下りたように、ほっと息をついた。私は二人のそばに漂いながらも、むすっと顔をこわばらせていた。本当はママを驚かせようと思ったんだけど……どうやら、私は間違えてしまったみたい。もしかすると、真実を知ったら、ママは私が思っていたようには喜ばないのかもしれない。「千尋、もうおしまいにしなさい!早く
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第6話
パパとママは家中をひっくり返すように探したけれど、結局私を見つけられなかった。「この子はいったいどこへ行っちゃったの!」二人は気が気でなく、慌てて外へ飛び出し、近所の家を訪ね回った。「すみません、うちの千尋を見かけませんでしたか?七歳で、肌が白くて、ツバメ模様の綿入れのコートを着ているんです」みんな首を横に振るばかりだった。私は家の中で焦れてぐるぐる回っていた。パパ、ママ、私もう眠っているの!もう探さないで!もうすぐ天国へ行くんだよ。天国では痛くないし、お菓子もいっぱい食べられるんだって。ただ、ファミリーバーレルがあるかどうかはわからないけど……あれ、どんな味なんだろう、ちょっと食べてみたいな。また話がそれちゃった。よだれを垂らしながら、泣きじゃくる園子をなだめてあげなきゃ。彼女はずっとぶつぶつと呟いている。「園子は嘘なんてついてないもん、園子のお鼻は長くならないの」私はそばで何度もうなずいた。ところが、彼女はふいに静かになった。「お姉ちゃん……なの?」「そうだよ、私だよ、私だよ!」けれど残念ながら、園子にはもう私の声は届かない。私自身も、自分の魂がだんだん弱まっていくのを感じていた。まるで病気になり始めたあの頃のように。きっと、私がこの家にいられる時間も、もう長くはないのだろう。そのとき、お巡りさんが両親と共に戻ってきた。「団地中の監視カメラをすべて確認しましたが、お嬢さんはこの建物から一度も出ていません。確たる証拠がない以上、捜索令を出すことはできません。本当にお嬢さんは家の中に隠れていないのですね?どこかに隠れて寝ちゃって、みんなの声が聞こえなかったんじゃないですか?」「そんなはずありません!」両親はきっぱりと言い切った。「千尋は本当にいい子です。骨髄移植の時、あんなに太い針を刺されたのに、一度だって泣きませんでした!絶対に誰かに連れ去られたに違いありません!」ママは目を赤くしながら、まるでこれ以上何かを想像するのが怖いかのように言った。「病弱な子なんて、いつまで生きられるかも分からないのに、誰が欲しがるんだよ……」野次馬の中から、ひそひそとそんな声が漏れた。「誰よ!今、誰が言ったの!」ママの表情が一瞬で変わり、獲物を狙う
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第7話
ほんの一瞬見ただけで、パパとママはよろめきながら一歩後ずさった。「違う……そんなはずはない」ママは激しく首を振り、顔から血の気が引いて真っ白になった。「千尋が、どうしてあんなところに横たわっているの!」パパの足も震えていて、それでもママを支えようとしていた。ついに二人とも力尽き、その場に崩れ落ちた。妹は何が起きたのか分からず、私がもう死んでいることも知らない。棺の縁に身を乗り出し、私を指さして叫んだ。「ほら、やっぱりお姉ちゃんは中にいるって言ったのに、パパもママも信じてくれなかった!お姉ちゃん、早く起きて!一緒に遊ぼうよ!」園子は私の手をつかもうとしたが、触れたのは指先だけだった。「お姉ちゃん、起きてよ……」私は妹のそばに漂いながら、その小さな手を握ろうとした。けれど、空をつかむように何も感じなかった。パパとママの顔には一切の表情がなく、ただ檜の棺をじっと見つめていた。二人とも、恐怖のあまり正気を失ってしまったのだろうか。抱きしめたいのに、手がその体をすり抜けてしまった。悲しまないで、痛みなんて感じなかったと伝えたかった。まるで一眠りしたら、こんなふうになってしまったようだ。あなたたちの娘で本当に良かった。これからは私のことを忘れてね。伝えたいことは山ほどあるのに、パパとママの表情を見た瞬間、言葉が喉に詰まってしまった。記憶の中でも、こんなに悲しそうな顔をした二人を見たことがない。瞳の光さえ、完全に消えてしまったかのようだ。棺の蓋が開けられ、私はその中に安らかに横たわっていた。実際の中身は硬くて、少しも心地よくない。でも、お父さんが特注してくれたものだからね。ふわりと漂いながら近づいて覗き込むと、我が死に様に思わず息をのんだ。顔は青白く、唇は紫色に変色し、口元にかすかな笑みを浮かべているだけで、どこにも美しさのかけらもなかった。ああ、これじゃ園子のほうがずっと可愛いな、なんて。そんなことをぼんやり考えているそのとき、耳元で突然、嗚咽が響きわたった。ママが我に返るように棺へ駆け寄り、私を抱きしめて泣き崩れかかった。ぎゅっと離すまいと抱きしめ、声を詰まらせて叫ぶ。「千尋、千尋、お願い、目を覚まして!ママだよ、どうしてママを置いていくの?わざとお
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第8話
「危ない!」お巡りさんが真っ先に駆け寄ったが、衝撃を和らげることしかできなかった。ママが棺に頭からぶつかり、額に深く裂けた傷を負った。血が床中に広がっていく。私は呆然とし、慌ててママの胸に飛び込み、必死にその体を揺すった。「ママ、ママ、お願い、そんなバカなことしないで!」またしても無駄になると思っていたのに、驚くことに、ママは手を上げ、私を抱きしめてくれた。「千尋……なのね?」私は小さく頷き、胸の奥がきゅっと締めつけられるように痛んだ。ママに触れられるってことは、もしかしてママも私と同じように天国へ行ってしまうのか……?だめだ!「千尋、ママに悪気なんてなかったんだ。ただ……ただ、ちょっと疲れちゃって。少しだけ休みたかっただけなの。それなのに……なんで、千尋はそんなふうにママを置いて行っちゃったの?」目を赤くして、私は首を横に振った。「ママ、全部聞こえてたよ。私のお詫びの言葉、見えた?お花で作ったんだよ。すごく頑張って作ったんだから」ママは私をぎゅっと抱きしめた。まるでかけがえのない宝物を抱きしめるように。「うん、見たよ。ちゃんと見えたんだ。ママの言ったことは、わざとじゃなかったの。許してくれる?パパが園子のことはちゃんと面倒を見てくれるわ。だからママはあなたと一緒に天国へ行ってもいい?」天国がいい場所であるはずがない。おいしいものもないし、楽しい遊びもない。ひょっとすると、でっかい怪物だっているかもしれない。ママを連れて行ったら、きっと身動きが取れなくなる。私はきっぱりと首を振った。「だめよ!ママは生きていかなきゃだめだよ。園子に両親を失わせたくないの。あの子だってあなたたちの子どもなんだから。枕の下のキャンディはパパの誕生日プレゼントで、クマさんは妹への贈り物なの。ママ、早く戻って、私の代わりに伝えてね!」私はママの驚いた瞳を見つめながら、ゆっくりとその腕の中から抜け出した。「私はずっとママとパパのそばにいるよ。園子においしいものを買う時は、私の分も食べておいてね〜」私はぱちんと音を立てて、ママの頬にキスをした。「早く戻って。ほら、パパも妹も待ってるよ!」振り返ると、パパはすでに意識を失っていて、お巡りさんが必死に心臓マッサージをしていた。家
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第9話
パパが意識を取り戻してからも、私の死をどうしても受け入れようとはしなかった。「全部俺のせいだ。もう少し気をつけていれば……」彼は何度も自分を責め続け、ママはそっと数粒のキャンディーを差し出した。「もうすぐあなたの誕生日ね。これは千尋からのプレゼントなの。あの子、園子を私たちに一緒に育ててほしいって言ってた。きっと天国から、私たちのこと見守ってくれているわ」パパは震える手でそのキャンディーを受け取り、包み紙をはがして口に入れた。「甘い……本当に甘いな」彼の目尻から二筋の涙が伝る。けれど、その瞳には確かな光が灯っている。パパとママは、私の葬儀をしてくれた。私が一番嬉しそうに笑っている写真が、祭壇の中央に掛けられている。私の弔問に訪れる人は少なく、ほとんどはパパとママを慰めに来た人たちだ。「あなたたちも、ようやく解放されたわね……」「お悔やみ申し上げます。まだ園子がいるじゃないですか……」パパとママは反論せず、ただ静かにうなずいてその言葉を受け入れた。私は自分の遺影の上に腰を下ろし、行き交う人々を興味深そうに眺めている。この人、見覚えがある。おもちゃを買ってくれた人だ。この人は……うーん、記憶にないな。そのとき、私はこの世で一番嫌いな二人を見つけた!おじいちゃんとおばあちゃんだ!まったく、何しに来たのかしら。どうせろくな用事じゃないに決まってる!案の定、おじいちゃんは園子をぐいっとつかんだ。案の定、おじいちゃんは園子をぎゅっと掴んだ。「厄介者が死んでくれてせいせいしたんだ!死んだんだから、葬式なんてやる必要がねえ!いっそ骨でも肥やしにしちまえ。元の場所に戻るだけのことさ」そばからおばあちゃんも口を挟んだ。「この子は私が引き取って育てる。あんたたちはさっさと男の子を産みなさい。家の跡取りを作ることが、一番大事なんだからな!」パパが一瞬の隙をつかれて、おじいちゃんとおばあちゃんに本当に園子を引っ張られてしまった。「そんなの、絶対に許せない!」ママは我に返ると、燃えるような目でおじいちゃんたちを睨みつけた。「この子は、私が育てます!千尋と園子、二人の娘さえいれば、それでもう十分です!あなたたちの勝手な望みは、もうやめていただけませんか!」ママは園子を背中に隠すように守
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第10話
ママは涙を浮かべながら、そっと園子の頭を撫でた。「園子、お姉ちゃんはね、あなたがそんなに想ってくれているのを知ったら、きっととても喜ぶよ。お姉ちゃんは今、天国にいるの。星になって、ずっと園子を見守ってくれてるんだよ。お姉ちゃんに会いたくなったら、顔をあげて星を見てね。お姉ちゃんもきっと園子も見てくれてる」園子はぱちぱちと大きな目を瞬かせ、こくりとうなずいた。本当にわかったのかどうかはわからない。でも、まだ幼い彼女のことを思えば、わからなくても無理はないのだ。その後、パパとママは私の遺灰を持ち、妹を連れていろんな場所を歩き回った。最初の目的地は、私がずっと憧れていた遊園地だ。彼らはメリーゴーラウンドに乗り、お城の前で写真を撮った。いつもと違うのは、彼らが必ず私の写真を持ち上げて記念写真を撮ることだ。誰かに尋ねられると、妹はいつも大きな声で答える。「これは私のお姉ちゃん!お姉ちゃんは私のことが一番好きなんだよ。今、天国で私をずっと見守ってるの!」それから、三人はファミリーバーレルを食べに行った。三人なのにハンバーガーを四つ頼んで、私のためにわざわざペロペロキャンディまで買った。私はもう食べることができないけれど、みんなの笑顔を見ているだけで、胸の奥が温かくなって仕方がない。それに、私が残していったお詫びの花びらの文字も、ママが一生懸命きれいに組み合わせ直してくれた。パパと園子も一緒に手伝って、花びらで文字を並べたんだ。私には最後の「家族」という文字しか読めなかったけれど、それでも胸がいっぱいになった。リビングの壁には、私の写真と一緒に、園子の写真も並べて飾られている。そして、その二枚の花びらで作られた絵を、ママはまるで宝物のように金庫にしまってくれた。もし泥棒が家に忍び込んで、その金庫を開けたら、中にあるのは値打ちのなさそうな二枚の絵だけ。きっと舌打ちして文句を言うに違いない。でも、ママは言うんだ。「人を悪く言っちゃだめだよ」って。さて、お話はここまでにしよう。少し、疲れちゃったから。だって、天国の天使たちが、何度も手を振って呼んでいるんだ。たぶん、これから、新しいお家の準備をしておかなくちゃ。さようなら、パパ。さようなら、ママ。さようなら、園子。さようなら、
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