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第3話

Author: トウモロコシ88
夜、私は母の保険関係に関する必要な書類を取りに、屋敷へ戻る。

玄関のドアを開けた瞬間、リビングから笑い声が聞こえてくる。

優菜が私のパジャマを着て、ソファに座りながら果物の皮を剥いている。

私を見ると、一瞬だけ驚いた顔をした。けれど、すぐに微笑みを浮かべて立ち上がる。

「葵、おかえり」

キッチンから拓海が出てくる。手にはグラスが二つ。

「帰ってくるなら、先に連絡してくれればよかったのに」

私は部屋に置かれたスーツケースを見る。

「荷物を取りに来ただけ」

優菜が拓海の腕に絡みつく。

「拓海、私、先に帰ったほうがいい?」

「いいよ」

拓海は優菜の手を軽く叩く。

「ここもこれからは、優菜の家だから」

私の視線が止まる。

優菜がわざと手首を揺らす。

そこには、真珠のブレスレットが光っている。

それは母が私のために残してくれたもの。母が入院する前、私に預けてくれた大切な品でもある。

昨日まで、私は寝室の引き出しにしまって鍵をかけていた。

「そのブレスレット、外して」

優菜の顔色が変わる。

「これは拓海が私にくれたの」

「外してって言ってるの」

拓海が眉をひそめる。

「葵、たかがブレスレット一つだろ。そこまで騒ぐ必要あるのか?」

「母のものよ」

「お母さんはもう入院してるんだろ。しまっておいたって仕方ないじゃないか」

まるで何でもない物の話をしているような、あまりにも自然な口調だった。

優菜が腕を背中に隠す。

「葵、これがお母さんのものだなんて知らなかったの。拓海が結婚祝いにくれたものだと思ってた」

「だったら返して」

「でも、拓海が私にくれたものだよ」

私は拓海を見る。

「私の部屋から持ち出したの?」

私はスマホを取り出し、その場で警察に通報する。

優菜の顔が、一瞬で青ざめる。

「警察を呼ぶの?」

「私のものを許可なく持ち出されたのよ。どうして通報しちゃいけないの?」

拓海が私の手首を強く掴む。

「葵、いい加減にしろ」

私は自分の手首を掴んでいる彼の手を見る。

「放して」

「もう少し大人しくできないのか?」

「私の母のものを愛人に身につけさせておいて、私に大人しくしろって言うの?」

拓海の顔から、すっと表情が消える。

「優菜は愛人じゃない」

「じゃあ、何?」

「俺の正式な妻だ」

その言葉を聞いた瞬間、優菜の目に得意げな色が浮かぶ。

私はただ、呆れるしかない。

「私の家に来て、私の部屋を使って、母のブレスレットまで身につける」

私は優菜を見る。

「それがあなたの言う正式な妻ってこと?」

ほどなくして、警察が到着する。

私はブレスレットの購入記録と、母が昔それを身につけていた写真を提示する。

警察の立ち会いのもと、優菜は渋々、ブレスレットを外す。

「私はただ、勘違いしていただけなの」優菜は目を赤くして訴える。

私は相手にせず、そのまま書斎へ入る。

そこで、長い間使っていなかった古いパソコンを起動する。

中には、会社を立ち上げたばかりの頃の資料が保存されている。

母の保険関係の書類を探していただけだった。

けれど、隠しフォルダの中に、一つの資金移動記録を見つける。

七千万円。振込元――会社の医療研究開発用口座。

口座名義――黒瀬拓海。

備考欄には、こう記されている。【橋本優菜・起業支援金】

私はその文字をじっと見つめる。この口座に入っていた資金の半分は、私が渡した七千万円。

そしてもう半分は、当時、私が車を売り、家を手放し、投資信託まで解約して、システム開発のためにつぎ込んだお金だ。

拓海は、私のお金を使って優菜に個人的な投資をしていた。

私は資金移動の記録をUSBメモリにコピーする。

書斎を出ると、拓海がすぐ目の前に立ちはだかる。

「何を見た?」

「さあ、何でしょうね」

拓海の目が一瞬揺れる。そして、冷たい声で言う。

「会社の金のことに、お前が勝手に手を出していいと思ってるのか?」

「そう?」

私はUSBメモリをバッグにしまう。

「じゃあ、裁判で話そう」

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