LOGINどうやら、俺は運が良いらしい。
子供の頃、お年玉といえば宝くじ一枚だけだった。
しかし、いつの間にか俺名義の口座には数百万円が入っていた。
ただ─ー当たった時の半分ほどに減っていたのは、俺の記憶違いだろうか。
友人にも恵まれた。
親友と呼べるやつができ、その男は当時まだ認知度の低かった仮想通貨を教えてくれた。
貯金をはたいて購入した俺に、彼は「買う直前にレートが倍になってて、半分しか買えなかった」と申し訳なさそうに謝ったほど誠実だった。
今では相場が八千倍になったので、謝る必要なんてなかったのに。
その彼は、数ヶ月後に音信不通になった。
噂では、俺の仮想通貨を買った直後くらいに大金を手にしてから散財し、借金を作り、ついには消えたらしい。
言ってくれれば肩代わりくらいしたのにな、と今でも思う。
結婚もできた。
地道に働き、子供も二人できて──そう、あの頃は幸せの絶頂だった。
……14股されていたことと、子供が俺の子じゃなかった事実が発覚するまでは。
けれど慰謝料をしっかり回収し、建てた家の財産分与も放棄させたので、貯金はむしろ増えた。
職場にも恵まれた。
パワハラ上司と、それを黙認した会社を訴えたらきっちり賠償金を払ってくれた。
数ヶ月後、その会社は潰れていた。
タイミングよく逃げられた俺を同業者達は“異次元の逃亡者”と呼んだ。
──やっぱり、俺は運がいい。
いまでこそ1LDKで2人住まいだが、そこには“狭いながらの幸せ”が溢れている。
「いや、それ絶対運悪いですって。
人間関係ガチャ大爆死じゃないですか。どう考えてもヤスタカさん、メタ認知できてませんよ」
ベッドでうつ伏せに漫画を読んでいたいろはが、ジト目でこちらを見ていた。
「あれ?声に出てた?恥ずかしいな……」
モノローグを聞かれるのは、死ぬほど恥ずかしい。
「けど、大爆死ではないだろ?こうしていろはに出会えたわけだし……」
コーヒーを置き、ベッドの横に座り、いろはの頭を撫でる。
こんなおっさんが、いろはのような子と同じ空間で生きている。それだけで勝ちだ。
そう思わないか?
撫でられたいろはは真っ赤になって枕に顔を埋めた。
「自分と出会えたから運が良いでしょ?なんて言う人、いませんよ。
いても信じちゃいけないタイプの人ですよ……」
俺の手を避けながら、枕を抱えて座り込む。
「まあ、出会えて嬉しいなんて言われたら悪い気はしませんけど……はあ……
私が幸せにしてあげますから、覚悟してくださいね♡」
そう言うと、いろはいきなり抱きついてきて耳元で囁いた。
「取り敢えず、まずは体から幸せになりましょう?♡」
これが俺たちの日常。
怠惰、と言えばその通りだろう。
このままで本当にいいのだろうか──。
ー
ある夜。
「ん♡ん♡ん〜!!!!!♡」
乱れた息、熱気、肌の火照り。
限界まで体力を削り合い、最後はぐったりと倒れ、抱きしめ合う。
「……ねえ、ヤスタカさん。最近なにかあったんですか?
なんていうか……心ここに在らずというか……」
胸に顔を埋めるいろはの髪は少し湿り、俺の肌に吸い付くようだった。
「ん?まだ足りなかった?いいよ。何度でも……」
「!? 私は今日はもう限界です〜……
それよりも、ヤスタカさんですよ。いつもより激しいですし、回数も多いし……
なのに時々、別のことを考えてるみたいで……」
心配げに覗き込むいろはに、胸の奥を見透かされたようで苦しくなる。
意を決して、胸の内を明かす。
「実はな……つくりたいんだ……」
いろははキョトンとした後、何かを察したように微笑んだ。
「作りたいって…子供ですか?私はいいですよ♡」
どや顔で自分の腹をぽんと叩く。
いや、そうじゃない。
「じゃなくて!というか、俺が種無しなの知ってるだろ?
もちろん“作る行為”は大好きだけど……」
あの日。
二人の子供が自分の子か調べた時、一緒に調べておいたのだ。
俺は無精子症。
誰とどれだけ体を重ねても子供はできない。
「そういえばそうでしたね。ピル飲んでるから忘れてました。
……だとしたら、何を作りたいんですか?」
問われ、逆に困惑する。
衝動だけが先走り、何を創りたいのかはまだ見えない。
ただ、金属加工やモノづくりではないことだけははっきりしていた。
「実はな……そこは考えてなくて……
ただ、何かを創りたくてたまらないだけなんだ」
「ふむふむ、なるほど……
例えば、漫画とか小説とかみたいな“クリエイター”って感じですかね?」
雷が落ちたようだった。
そうか、“創る”とは形ある物だけじゃない。
忘れていた当たり前のことが、彼女の言葉で一気に腑に落ちた。
「……そうか……そうかも!ありがとう、いろは!全部繋がった!」
つい、いろはの肩を掴んでしまうほどの興奮だった。
「あ、ごめん。つい……」
「大丈夫ですよ♡
でもどうします?ヤスタカさんも私も、そっち系は得意じゃないですよね?」
「そこなんだよな……まずは高性能なパソコンでも買って準備しようかな」
「そうですね。取り敢えずの準備して……
あ、ちょうどいい人いるじゃないですか。隣の残念さん」
いろはがピコン、と声を弾ませた。
「ああ!そういえばそうだな!残念美人だけど、確かに優秀なクリエイターがいたな!」
その言葉に、いろはがふくれた。
「……ヤスタカさん。あの人は確かに美人ですけど……私の前で言います?」
「ごめんごめん。1番好きなのはいろはだよ!
その証拠に……ほら……ねぇ……もう一回いい?」
「ちょ……待ってください!私はもう限界……あ♡」
本当ならすぐ行動すべきなのだろう。
だが、この状況では仕方ない。
明日、相談しに行こう。
──天才小説家・しずかのところへ。
ピンポーン 私、“まあや”は、山奥の一軒家のチャイムを鳴らす。 ネットでこんな噂を耳にしたからだ。 人里離れた山奥に住まう、トップクリエイター集団の事を。 曰く、このハウスに入れば成功は約束されたようなものだと…… 例えば、視聴回数数百程度の動画のアカウントが日本でわずか数%の上位配信者に食い込んだとか。 ただ、悪い噂もある。 曰く、その団体の代表は、若い女性クリエイターを金で集めて性的に搾取していると…… 成功と性交を天秤にかけて……やかましいわ! こほん……つまり、私でもワンチャン成功できると言うこと!歌い手として! とはいえ、田舎から出てきてまた山奥の田舎に来ると言うのは正直複雑です。 でもそんなことは言ってられない。 動画で予習した限りでは、この巨大な日本家屋の中にとんでもない最新設備が備わっているとか。 だけど、設備だけで成功できるほどこの業界は甘く無い。なにか特別なノウハウが?いや、そんな怪しげなセミナーみたいな……歌い手として名をあげるのに、精神論のノウハウなんて学んでいる暇はない。 悪い方の噂にはちょうどいい田舎具合なのでしょうけど…… あれ?これは……早まったかも…… 成功したい一心であまり考えずに来てしまった…… そんな事を考えていると、玄関が開けられた。 しまった!チャイムを押していたんだった!「はーい。あなたがまあやさんね? ヤスタカ……代表から聞いてるわ。才能のありそうな歌い手なんですって?上がって。 ああ、私はしずか。小説家よ」&n
こんにちは、りえです。 皆さん私のことをチョロい女だと思っているようですが、そんなことはありません。 私だって、それなりに経験を積んだ大人の女です。 ほ、本当です!信じてください!ヤスタカさんが異常なんですよ! ー「さあいろは、帰りましょう」 ここは高校の教室。授業も終わり、部活に入っていない私といろはは帰る準備を整えていました。 そんなとき、いろはのスマホにLINEが……「ごめーんりえ!この間のおじさまからお誘い来ちゃった♡」「またですか?最近特に多くないですか?」 私の言葉に不思議そうな顔をするいろはは、確かに最近毎日学校終わりに誰かの元に行ってしまう。 なにやら2人の会話に齟齬を感じたいろははこともなげにこんな言葉を言い放ちます。「ああ違う違う。最近また人数増えちゃってさ。ローテーションしても毎日でも時間が足りなくて♡学校終わりから回らないと全員と会えないんだよね♡」 私はジト目でいろはを見ます。「回るって……ああそうですか。私には関係ありませんが、病気やトラブルは勘弁してくださいよ?」 何の話かといえばいろはのセフレの話です。 このいろはという子は、初体験は小学校、中学卒業の頃には経験人数が3桁に及び、女子高生というブランドが付いてからは加速度的に人数が増えていっています。 その間、“彼氏”と呼ばれる相手も何人かはいたようですが、彼女の性欲と多様なSEXへの探究心は、1人の男の背中には重過ぎるのです。 よって、“彼氏っぽい男”は絶えずいるのですが、いろはとしては1人に絞る気はないようです。前
いろはです。私の原点を語るとしましょう。 私の原点。即ちヤスタカさんとの出会いから、私が私になったと言えます。 それまでの私を語るには……BAN待ったなしの条例違反です。 ー 都内のソープランド。私の職場です。 経緯はアレですが、SEXが好き過ぎる私には天職でした。 今日も順調に趣味と実益の両立です♡「いろはちゃん。今日のラストは新規で90分、オプションは即尺とマットね。ラストだから延長ガッポリ稼いできてよ」「はーい♡私、明日休みなんで閉店朝でもいいですか?♡」「む……オプション追加できたらな?」「任せてください!タマタマも財布も空にしてやりますよ!♡」 ー「初めまして、いろはです♡」「初めまして、ヤスタカです。きょ、今日はよろしくお願いします」 ベビードールに身を包み、三つ指をついて出迎える私。 恐らく風俗経験が乏しく緊張が伺えるその人は40代後半といったところでしょうか。 白髪混じりの髪と、苦労を物語るほうれい線が浮かぶ顔。 身長はそこそこ高いし筋肉もありそうですが、“使うための筋肉”のようです。 ガテン系によくあるオラ付きが見えないことから製造工場勤務といったところでしょうか。「んふ♡緊張してるんですか?身構える必要ありませんよ♡どうかリラックスしてください♡良かったら敬語も無くして欲しいです。無理にとは言えないですけど……」 私は、相手が不慣れと見るや早速あざとく親密度を改ざんします。 少し悲しげな表情で上目遣いで“可愛いお願い
朝は驚いた。“私たちはみんな壊れている”。そう突きつけられた。ううん、突きつけられるまでもなく、このハウスが異常なのはわかっていたこと……だけど、ああもハッキリ言われると考えざるを得ない。思えば私はこんなんだったっけ?ヤスタカに恋して、ヤスタカについてきて、ヤスタカと交わって……これだけなら普通の恋愛。けどその間に7人もいるのは確かにおかしい……気がする……そんな関係も朝の話でどうなるやら……なんて思っていたけど……「ちょっとめぐみ……あなたここの倫理観に物申してなかった?なんで今日の今日で参加してるのよ……」夜。ここはヤスタカの部屋。朝の話で参加者が減ればヤスタカを独占できるかも、なんて思ったのに……「あははは……いやぁ普通じゃないとは思ってるのよ?けどまぁそれはそれ。“だからしない”とはならないわよ。気持ちいいSEXは別腹みたいな?あん!♡」「めぐみ、集中しろよ。全力が見たいんだろ?」「あ!そ、そう!遠慮しないで!ん!ん!♡あ、これヤバい!奥!潰れちゃう!あ"〜!」もう……ヤスタカの全力……私がお願いしようと思ったのに……というか、なんで全員いるのよ。朝あんな空気になってもすることはするとか……みんな性と思想が乖離しすぎよ……
「ん、ん、ん、そう……そこ!もっと……強く!」「くっ……!まだ!?ちょ……休ませて……」私は、男の人が崩れていく表情が好き。もちろん行為自体も大好きだけどね。でもハウスに住んでから、ちょーっと物足りないのもホント。ー「ふぅ!ようこちゃん……良かったよ」ベッドでうつ伏せになる男。タバコをふかす角度、満足げな表情と間。私はまだ足りないくらいだけど……でもこれくらいが“普通で日常”。大人の……恋愛ゲーム……気絶する方が、私の遍歴の中では異常事態。ヤスタカはバグね。「ふふ……そう?ありがと。じゃ、私は帰るわね?また連絡ちょうだい♡」「ああ、じゃあこれ、タクシー代。また連絡するよ」そう、これこれ。ドライでウェットな余裕ある大人の会話。そして私は余裕のある大人の女。妖艶で性剛で自由に生きる大人の女。ー「あ!あ!強すぎ!あ!あ!あ〜!♡……もう……無理……」バグには連戦連敗。なんならヤスタカも狙ってるわよね。ほんと、嫌な男。「あ、ようこ……またか……」
今日もハウスは通常運行。(これが通常?そんなわけない……はずよね?)不健全どころか、ハウスに来る前より健全だ。夜中に仕事をする人間が激減。朝起きて、ご飯を食べて、仕事して、夜はみんなでまったりと過ごす。夜型の多いクリエイター集団でこれは、なんなら一般家庭より健康的でしょう。(字面だけは……ね……)健康な大人の男女が交わるのも普通。むしろ、何もない方が不健全じゃないかしら?(そう思ってしまう自分がおかしいんでしょうね……本当は)大人数が暮らせばそういうことも……致し方ないんでしょうね。(致し方ない?普通は1対1。じゃなかったかしら……)……まあ、気を失うのが日常なのは、少し危険な香りがしなくもないけど。(うん、これは流石にアウト)ー「みんなおはよう!めぐみはさっきぶりだな」ヤスタカの、静かな朝の空気を切り裂く声。いつも思うけど、この人いつ寝てるのかしらね。ショートスリーパーってやつ?「おはよう。今日は朝ごはんの当番私だからね。他のみんなは?あいの拘束、ちゃんと解いてきた?」一時期少し悩んでたみたいだけど、すっかり晴れやかになって……罪悪感は消えたのかしら。ううん、違うわねこれは。抱えたまま前を向いている……そんなとこ







