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第6話

مؤلف: 双葉
焦った使用人は右往左往しながら、何度も律に電話をかけていたが、一向に出る気配はない。

紗雪は重い瞼を開け、掠れた細い声で呟く。「もうかけないでいいよ……どうせ、出ないから」

そう言う紗雪の笑みは泣き顔よりも痛々しかった。「律は今……小池さんの誕生日を祝ってるから」

使用人はため息をつき、それ以上は何も言わなかった。ただ黙って解熱剤を持ってきて、紗雪にそっと飲ませた。

薬を飲んだ紗雪は、深い眠りについていたのだが、夜遅く激しい音を立ててドアが開けられたことにより、目を覚ました。

酒の匂いと外の冷気をまとった律が入ってきた。その顔は、恐ろしいほどに引きつっている。

「紗雪!」律はベッドに近づくと、骨が折れそうなほどの強さで彼女の手首を掴んだ。「どうして来なかったんだ?志保さんは一晩中、お前を待っていたんだぞ!目が真っ赤になるくらい泣いていた。俺はあの人に一滴の涙も流させたくないのに、お前はこんなことしやがって!」

激しく揺さぶられて、紗雪は眩暈がした。もう何も感じないと思っていたのに、胸にはまた激痛が走る。

かつて、彼が涙を流させたくない相手は自分だったのにな。

紗雪は重い瞼を持ち上げ、心の底から愛していた男の顔を見つめた。しかし、今では恐ろしいほどに他人に見える。そう思った瞬間、ひどく滑稽に感じた。

「だから何?」熱のせいで声は掠れていたけれど、不思議なほど静かで、とても冷え切っていた。「私を殺すの?」

律が鼻で笑う。「そんなことはしない。あの人を泣かせたんだから、お前のことを徹底的に泣かせてやる」

そう言って律は携帯を取り出し、電話をかけた。「紗雪の親友、同僚、親戚……とにかく紗雪に関係するやつを集めろ。紗雪を泣かせた奴に、20億円くれてやる」

30分も経つと、家の中は人でごった返した。

一番初めに出てきたのは、親友だと思っていた吉川杏奈(よしかわ あんな)だった。これまで、一緒に買い物をし、秘密を分かち合い、落ち込んだ時には支え合ってきたのに。

「紗雪、お願いだから泣いて」杏奈の声は震えていた。「20億円あったら、一生遊んで暮らせるんだよ?」

紗雪が全く反応を示さないのを見て、杏奈はいきなり彼女の頬を張り飛ばす。「何、澄ましてるのよ?神谷社長の奥さんだからって何様のつもり?」

紗雪の頬は焼けるように痛んだが、それでも依然として涙は見せなかった。

それからも、同僚、遠い親戚、さらには小さい頃に面倒を見てくれた家政婦までもがやってきた。

「神谷社長にはとっくに捨てられたっていうのに、まだここに居座り続けるつもり?」

「志保さんのほうが、あなたよりずっと優しいわ。社長の心が移るのも当然」

「子供が流れたって聞いたけど?悪いことばっかしてるから罰が当たったんだよ」

紗雪は壊れかけの人形のように、人々に取り囲まれ、罵られ、押され、叩かれた。

唇を強く噛みしめると、口の中には、鉄の味が広がる。それでも頑なに、涙は流さなかった。

心はとっくに死んでしまったというのに、涙を流したところで、何の意味があるというのか。

ソファに腰かけた律は、そんな紗雪を冷ややかな目で見守っていた。しかし、紗雪の何の感情も浮かべていないくせに、意地だけは張っている瞳を見ているうちに、彼の胸の中の苛立ちはどんどん膨らんでいった。

どうして泣かない?何があいつをそこまでさせるんだ?

律の我慢が限界に達しようとしたとき、紗雪の従妹が、棚に飾ってある精巧なフォトフレームにはいった写真を見つけた。

それは、紗雪が事故で亡くした両親と一緒に写った、たった一枚の家族写真だった。

従妹はそこへ駆け寄り、フォトフレームを掴むと、ライターを取り出した。「紗雪ちゃん!泣かないなら、これを燃やしてやるんだから!」

それまで無表情だった紗雪の瞳に、激しい動揺が走る。

紗雪が勢いよく顔を上げ、掠れた声で叫んだ。「やめて!それはお父さんとお母さんとのたった一枚の写真なの!お願い、やめて!」

「だったら泣いてよ!泣けば返してあげるから!」従妹が声を荒らげる。すでにライターの炎がフレームの端に触れていた。

「お願い、本当にやめて……私たち、親戚でしょ?そんなひどいことしないで……」紗雪は涙ながらにすがった。目には涙がたまっていたが、それでも溢れ出ないよう、必死にこらえていた。

写真のために、懇願している紗雪の姿に、律は胸が激しく締め付けられた。

紗雪が宝物のように大切にしていたものだから、律もこの写真のことは覚えていた。

「燃やせ」しかし、次の瞬間には、彼の口から冷酷な言葉がこぼれ落ちた。

その言葉を聞くや否や、従妹は迷わず火のついたフォトフレームを床へ叩きつけた!

「やめてぇえええ――!!!」

紗雪は胸が張り裂けんばかりの悲鳴を上げながら、床に崩れ落ちた。素手で炎を叩き、今にも灰になろうとする写真を必死に守る。

しかし、間に合わなかった。

炎に包まれた写真は瞬く間に丸まり、真っ黒に焦げていった。優しかった父と母の笑顔は見る影もなく消え去り、ただの灰になっていく。

紗雪が伸ばした手のひらに残ったのは、熱い灰と、やけどのひりつくような痛みだけだった。

ずっとこらえていた涙が、この瞬間、決壊したダムのように激しく溢れ出す。

紗雪は泣いた。

声の限りに、泣き叫んだ。一生分の涙を流すかのように、ただただ泣いた。

床にうずくまり、身体を激しく震わせて泣く彼女を見ても、律の心は晴れなかった。むしろ喉に何かがつかえたように、重く苦しい。

素手で火を消して、赤く水膨れになった紗雪の指先を見つめ、駆け寄ろうとしたが、足がまるで地面に縫い付けられたように動かなかった。

そしてとうとう、紗雪は激しいショックと身体の限界に耐えかね、意識を失ってしまった。

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