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流産した私は天才ピアニストへの華麗な転身

流産した私は天才ピアニストへの華麗な転身

By:  双葉Completed
Language: Japanese
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上流階級の社交界では、こんな噂がまことしやかに囁かれていた――この世の男は誰だって浮気する可能性がある。だが、神谷律(かみや りつ)だけは別だ、と。 律は己に厳しく、品格を何より重んじる男だった。そして、彼の眼差しが向く先は、学生時代から連れ添い、妻となった神谷紗雪(かみや さゆき)ただ一人。 しかし結婚して5年目、紗雪のもとに、律に愛人がいるという知らせが届く。 送られてきた写真を見た瞬間、紗雪は固まってしまった。 なぜならその愛人というのが、誰もが想像するような若く美しい女性でもなければ、仕事で成功を収めた魅力的な女性でもなかったのだ。

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Chapter 1

第1話

上流階級の社交界では、こんな噂がまことしやかに囁かれていた――この世の男は誰だって浮気する可能性がある。だが、神谷律(かみや りつ)だけは別だ、と。

律は己に厳しく、品格を何より重んじる男だった。そして、彼の眼差しが向く先は、学生時代から連れ添い、妻となった神谷紗雪(かみや さゆき)ただ一人。

しかし結婚して5年目、紗雪のもとに、律に愛人がいるという知らせが届く。

送られてきた写真を見た瞬間、紗雪は固まってしまった。

なぜならその愛人というのが、誰もが想像するような若く美しい女性でもなければ、仕事で成功を収めた魅力的な女性でもなかったのだ。

相手は、離婚歴のある、それも小さな弁当屋の店主。特別な家柄でもなければ、人目を引くような美貌の持ち主でもない。それどころか、律より3歳も年上だった。

だが、その写真の中で律が彼女に向ける眼差しには、隠しようのない深い愛情と優しさが宿っていた。

夜の9時、律が帰宅した。相変わらず、完璧にスーツを着こなした姿で、冷静で近寄りがたいほど整った佇まい。

紗雪は明かりもつけず、リビングのソファに座って彼を待っていた。律が近づいてきた瞬間、彼女は手元にあった写真の束を勢いよく投げつける。写真が床に散らばり、乾いた音を立てた。

「律。どういうこと?」

律が一瞬だけ黙り込んだ。そしてしゃがみ込み、床に散らばった写真を一枚ずつ拾い上げていく。潔癖症気味の彼なら、本来であれば写真についた埃の方を気にするはずなのに、そのとき律が指先でそっと拭ったのは、写真に写る女性の頬についた薄い汚れだった。

律は写真を手にしたまま顔を上げると、静かに口を開いた。「どういう事も何も、彼女のことが好きなんだ」

その瞬間、紗雪は喉を見えない手で締めつけられたように、呼吸ができなくなり、頭の中が真っ白になった。

「好き?」紗雪の声が震える。「じゃあ私は何?律、16歳の夏、あなたが私に告白してくれたとき、耳を真っ赤にしながら、一生私だけを愛し抜く、他の女なんか絶対に好きにならないって言ってくれたよね?」

しかし、取り乱す紗雪の姿を見つめる律の瞳には、微塵も迷いはなく、ただ疲弊だけが浮かんでいた。

「ああ」そして、相変わらず淡々とした、それでいて残酷なほどにも冷たい声で律が続ける。「でもな、紗雪。もう、お前を愛することに疲れたんだよ。

付き合って4年、結婚して5年……俺は9年間お前を愛してきた。いつもお前が機嫌を損ねれば、そのたびに謝った。どちらが悪いかなんて関係なく、とにかくお前に笑ってほしかったから。

お前が好きだといえば、限定版のバッグを買いに、海外まで行ったし、他の女が俺を見れば、お前はすぐに機嫌が悪くなるから、3年も勤めていた女の秘書を、俺はクビにした。

それに、夜中だろうとお前が隣町にあるスイーツが食べたいといえば、夜通し車を走らせ買いに行っただろ?たとえ、次の日に大事な会議があろうとも、ね……」

紗雪はそれが愛で、自分が愛されている証なのだと思っていた。だが今、それらはまるで紗雪が犯した罪のように、律の口から語られている。

「お前のために、俺は自分自身というものを失っていたんだよ。でもな、紗雪……俺だって人間だから、疲れるんだ」

律は少し間を置いて、視線を遠くへと向けた。「3か月前、お前は俺がスイーツを買い忘れたことで怒ったよな?その時、何度謝っても許してもらえなくて、俺は一晩中、お前の部屋の前にいた。

翌朝、もう一度買いに行こうと思ったんだ。でも途中で胃痛がひどくなって……気づいたら、志保さんの店の前で倒れていたんだ。

志保さんは俺に薬を飲ませてくれたし、胃に優しいからって雑炊も作ってくれた。さらに、毎日の仕事で荒れてしまっている、少しカサついた手で俺のお腹をさすってくれたんだよ」

そう話す律の声には、紗雪が今まで聞いたこともないような温かみが感じられた。

「でも、あの日の俺には十分だった。初めて人の温かさっていうものを感じられたから。この9年間で、一番心地よくて、心から安らげた気がした」

紗雪は体が震え、耳鳴りもしている。もう立っていることでさえ難しかった。「一度……たった一度優しくされただけで?私たちの9年間ってそんなものだったの?」

律は再び真っ直ぐ紗雪を見つめると、少し苦しそうな笑みを浮かべる。

「紗雪、お前は美しいし、誰よりも魅力的だ。仕事でも成功しているお前を、俺はずっと誇りに思っていたよ。でも、そんなお前の隣にいると、いつも少し苦しかったんだ。お前に嫌われないように、失望されないようにって、ずっと顔色をうかがっていたから。

それに、志保さんは特別でもなければ、華やかでもない、ごく普通の人。でも、俺がつらそうにしていれば心配してくれるし、疲れていれば俺のことを労わってくれる。彼女といると、俺は自分のままでいられるんだ。初めてなんだ……帰りたいと思える場所ができたことは……」

帰りたいと思える場所?紗雪は心が抉られるように痛んだ。

では、これまで彼が9年間帰ってきていた家は、なんだと言うのか?

「とはいえ、心配しなくて大丈夫だからな。俺はお前と離婚なんてしないよ」そう言うと、律は口調を切り替え、冷静で理性的な経営者の顔に戻った。

「神谷グループには、お前みたいに美しくて優秀で、人前に出しても恥ずかしくない妻が必要なんだ。それに、俺はお前の両親の墓前で、一生お前を守ると誓ったし、これまで積み重ねてきた情もある。そこまで情け容赦なく切り捨てるつもりはないから」

紗雪を見つめる律の目は、澄み切っているのに、まるで二人の間に線を引くように、どこまでも残酷だった。「でもこれから先、俺がお前を愛することはもうない。だから、志保さんとのことにも、二度と口を挟まないでほしい。

あの時の約束を破って、ごめん。もう自分自身の気持ちを抑えられないんだ。でも、これまで、本気でお前を愛してきたことだけは分かってほしい。だから、恨むなら俺を恨め。志保さんは関係ないから」

そう言い残すと、律は真っ青な顔をしている紗雪から視線を逸らし、ためらい一つ見せずに、その場を去って行ったのだった。

紗雪はその場に崩れ落ちたまま、彼の冷たく決然とした背中を見つめていた。まるで雷に打たれたかのように、頭の中が真っ白になる。

9年前、紗雪は誰もが認める学園のマドンナだった。明るく華やかで、人目を引く存在。一方の律も、クールで気品に満ちた学園の王子様。誰もが二人はお似合いだと言った。

そして律もまた、紗雪に心を奪われた一人で、そこから誰もが羨むほど情熱的なアプローチが始まったのだった。

だが、紗雪の両親は仲が悪く、喧嘩ばかりだったので、紗雪は恋愛や愛情というものに対して強い抵抗感を抱いていた。

それでも、そんな紗雪の心を変えたのは、律だった。毎朝欠かさず朝食を届けてくれ、彼女が体調を崩せば、授業を抜け出してまで薬を買いに走ったし、紗雪が誰かに嫌がらせを受ければ、真っ先に彼女の前に立ち、守ってくれた。

そうして律は、惜しみない優しさと根気強い想いで、固く閉ざされていた彼女の心の扉を少しずつ開いていった。

付き合い始めてからも、律の溺愛ぶりは変わらなかった。けれど、愛情のない家庭で育った紗雪は何事も一人で抱え込む癖があり、誰かに頼ることが苦手だった。

だから、他の女性が律に連絡先を聞いているのを見て、どれだけ胸の奥が痛んでも、紗雪は黙ってその場を離れるだけで、問い詰めたり、不満をぶつけたりしたことは一度もなかった。

大学入学共通テストが終わった後のあの春休み。突然の事故で、紗雪の両親が他界した。

押し寄せる悲しみに押し潰されそうになりながらも、紗雪は誰にも弱音を吐かず、涙をこらえ、一人ですべてを背負った。死亡手続き、関係各所への連絡、葬儀の準備……

そんな時だった。卒業旅行で海外に行っていた律が、どこからその知らせを聞きつけたのか、半ば狂ったように帰国してきた。

長旅の疲れもそのままに、葬儀場へと駆け込んできた律は、喪服を着て、やつれ切った紗雪を見た瞬間、その目に涙を滲ませる。

そして勢いよく、冷たくなった紗雪の体を抱きしめた。「紗雪、俺を見ろ!俺だ、律だ!俺の前では、泣いていいんだよ。喚いてもいい、強がる必要なんてない。プライドなんか、全部捨ててしまえ。嫉妬したなら問い詰めればいいし、機嫌が悪いなら俺に当たればいい。

わがままだって好きなだけ言えばいいんだから!俺たちの間に、遠慮なんかいらないんだ。俺はいつだってお前のところへ駆けつけるし、何度だってお前を抱きしめてやる。だから……ちゃんと頼れ。いいな?」

その瞬間、何年もかけ出来上がった紗雪の心の壁は、音を立てて崩れ落ちた。律の肩に顔を埋めたまま、彼女は声を上げて泣きわめいた。

紗雪を硬い殻の中から引っ張り出し、少しずつ人を頼ることを教えてくれた律。

だからこそ、この9年間で、紗雪は気持ちを素直に伝えられるようになり、普通の女の子のように、少し拗ねたり、甘えたりすることも覚えた。なぜなら、律が言ってくれたから……「俺はいつだってお前のところへ駆けつけるし、何度だってお前を抱きしめてやる」と。

だが9年が過ぎ去った今、彼は「疲れた」と言った。

堪えていた涙が一気に溢れ出し、紗雪は声が枯れるまで泣いた。胸が引き裂かれるように痛む。

しかしもうそこには、紗雪が涙を一滴こぼしただけで慌てふためき、優しく涙を拭ってくれていた男の姿はなかった。

先に、「好きだ」と言ってくれたのは、律だった。

なのに、どうして「もう好きじゃない」と、先に言うのも彼なのだろうか?

紗雪は受け入れられなかった。だから、これは律の一時の気の迷いなのだ、と自分自身に言い聞かせる。

翌日、紗雪は丁寧に化粧を施し、小池志保(こいけ しほ)が働く弁当屋へと向かった。

店内では、志保が忙しそうに客の対応をしていた。どこにでもいるような、ごく平凡な女性。洗練されているわけでもなく、どちらかと言えば少し野暮ったい印象さえある。紗雪は黙って席に着くと、一生かかっても使いきれないような金額が書かれた小切手を一枚取り出し、志保の前へ差し出した。

「小池さん。このお金があれば、この先一生不自由なく暮らせるはずですから、もう律には関わらないでください」

志保は小切手を見た瞬間、少し固まったものの、次の瞬間には、瞳を赤く潤ませ、小切手を受け取ることはなかった。

「律くんの奥さん……ですよね?もう、律くんとは会いません。だから……律くんのこと責めないであげてください」

そう言い終えると、志保は紗雪の顔を見ることすらせず、逃げるように背を向け、店の片付けに戻った。

その後ろ姿を見つめても、紗雪の胸は少しも軽くならず、むしろ、得体の知れない重苦しさが胸の奥に沈んでいく。

その日の夜、紗雪の元へ一本の電話がかかってきた。

志保が交通事故に遭ったと言うのだ。志保本人は、幸い命は取り留めたらしい。しかし、そのお腹の子供……律との子供は、もうこの世から去ってしまった。

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ノンスケ
ノンスケ
あまりにもできた妻だと息が詰まったり、気を抜きたくなることもあるだろうとは思う。でもそれは妻の知らないところで静かに行うならまだ良かったのに、あまりにもクズ男は選択を間違え続けた。自分と似合の妻を失い、結局は釣り合わない女を選んだがためにお互いにふこうになった。しかし選んだ女も結局性悪だったなぁ。
2026-06-26 13:04:26
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松坂 美枝
せっかく釣り合いの取れた優秀な妻が何年も支えてくれたのに、それを窮屈に感じて離婚して庶民女と再婚した男の末路よ 息子くんが将来父親以上のクズ男になりそうだし愛情かけてあげてほしい
2026-06-24 11:06:40
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29 Chapters
第1話
上流階級の社交界では、こんな噂がまことしやかに囁かれていた――この世の男は誰だって浮気する可能性がある。だが、神谷律(かみや りつ)だけは別だ、と。律は己に厳しく、品格を何より重んじる男だった。そして、彼の眼差しが向く先は、学生時代から連れ添い、妻となった神谷紗雪(かみや さゆき)ただ一人。しかし結婚して5年目、紗雪のもとに、律に愛人がいるという知らせが届く。送られてきた写真を見た瞬間、紗雪は固まってしまった。なぜならその愛人というのが、誰もが想像するような若く美しい女性でもなければ、仕事で成功を収めた魅力的な女性でもなかったのだ。相手は、離婚歴のある、それも小さな弁当屋の店主。特別な家柄でもなければ、人目を引くような美貌の持ち主でもない。それどころか、律より3歳も年上だった。だが、その写真の中で律が彼女に向ける眼差しには、隠しようのない深い愛情と優しさが宿っていた。夜の9時、律が帰宅した。相変わらず、完璧にスーツを着こなした姿で、冷静で近寄りがたいほど整った佇まい。紗雪は明かりもつけず、リビングのソファに座って彼を待っていた。律が近づいてきた瞬間、彼女は手元にあった写真の束を勢いよく投げつける。写真が床に散らばり、乾いた音を立てた。「律。どういうこと?」律が一瞬だけ黙り込んだ。そしてしゃがみ込み、床に散らばった写真を一枚ずつ拾い上げていく。潔癖症気味の彼なら、本来であれば写真についた埃の方を気にするはずなのに、そのとき律が指先でそっと拭ったのは、写真に写る女性の頬についた薄い汚れだった。律は写真を手にしたまま顔を上げると、静かに口を開いた。「どういう事も何も、彼女のことが好きなんだ」その瞬間、紗雪は喉を見えない手で締めつけられたように、呼吸ができなくなり、頭の中が真っ白になった。「好き?」紗雪の声が震える。「じゃあ私は何?律、16歳の夏、あなたが私に告白してくれたとき、耳を真っ赤にしながら、一生私だけを愛し抜く、他の女なんか絶対に好きにならないって言ってくれたよね?」しかし、取り乱す紗雪の姿を見つめる律の瞳には、微塵も迷いはなく、ただ疲弊だけが浮かんでいた。「ああ」そして、相変わらず淡々とした、それでいて残酷なほどにも冷たい声で律が続ける。「でもな、紗雪。もう、お前を愛することに疲れたんだよ。付き合っ
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第2話
紗雪は雷に打たれたような衝撃を受け、その場に立ちすくんだ。自分でも何にこれほど動揺しているのか、分からない。志保が突然事故に遭ったから?いや、違う……きっと、あの女がすでに律との子供を孕んでたからだろう。律と結婚して5年間、律はずっと避妊具を使用していたから、二人の間には子どもができることはなかった。それなのに、律は一緒になって間もない志保と……1週間後、律が帰ってきた。彼は何も言わない。問い詰めることも声を荒げることもなく、ただ紗雪には意図が読めない、底知れぬ瞳でじっと彼女を見つめていた。それから急に紗雪の手を強引に引き、無理やり衣服を脱がせ始める。「律!何するの!」恐怖を感じた紗雪は、抵抗した。それでも律は耳を貸さず、そのまま紗雪をベッドに押し倒すと、まるで狂ったように彼女を求めた。その夜から丸2ヶ月の間、律はまるで人が変わってしまったようだった。会社にも行かず、志保に連絡をすることもなく、昼夜関係なく紗雪を激しく求め続ける。一日に何度も、休む暇さえない激しさは、自傷行為にも思えるほどで……体も心も限界に達した紗雪は屈辱を味わいながらも、心のどこかでは淡い望みを抱いていた。もしかしたら彼は、深く傷ついているのかもしれない。それとも目が覚めたから、こうやって志保を忘れ、自分の元へ帰ってこようとしているのか?だから、紗雪は黙ってすべてを受け入れ、されるがままになった。そんなある日、激しい吐き気に襲われた紗雪は、ある胸騒ぎを覚え、ひとりで病院に行って検査を受けた――結果は妊娠。まだ平らなお腹をなでる。もしかしたらこの子が、夫婦の間の溝を埋めてくれるかもしれない。だが、現実はそんなに甘くはなかった。律に妊娠を伝えても、かつてのような優しい表情はなく、その表情は氷のように冷たいものだった。少しの沈黙の後、彼はボディーガードの一人に目配せをすると、淡々と命令を下す。「こいつを2階から投げ落とせ」紗雪は自分の耳を疑った。「律、な……何言ってるの?お腹の中には、あなたの赤ちゃんがいるんだよ!」だが紗雪を見つめる律の瞳には、かつての優しさも、深い愛情も、もう残ってはいなかった。そこにあるのは、怒りと悲しみ……そして、抑えきれない憎しみだった。「じゃあお前は、あの時、志保さんのお腹に俺の子がいたこと
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第3話
紗雪は書類に署名をすると、弁護士を呼んだ。「離婚に関する手続きをお願いします」紗雪の声は、少し恐怖を感じるほど、静かだった。弁護士が頷く。「承知いたしました。離婚届にはご主人様の署名がありませんので、先ほどお持ちいただいた署名入りの書面を代用したい、ということでよろしいですね?ただ、かなり特殊なケースですので、手続きには一か月ほどお時間をいただくかと思います」「分かりました」無表情のまま、紗雪は言った。「なるべく急いでください」弁護士が部屋を出ると、病室には紗雪だけとなった。そっと目を閉じたが、涙はもう出ない。心が空っぽになってしまい、悲しむ力さえ残っていなかったのだ。その時、病室のドアが静かに開いた。弁護士が戻ってきたのかと思い紗雪が目を開けると、そこには一番会いたくない相手、志保が立っていた。志保が自分から訪ねてくるとは思ってもみなかった。「何の用ですか?」紗雪の声が掠れる。「紗雪さん」相変わらず、気弱でおとなしい雰囲気の志保。その手には、保温ジャーが握られていた。「律くんが、紗雪さんにしたことを聞きました。もし、私がその場にいたのなら、絶対に止めたのに……」そんな芝居がかった言葉など、聞きたくもなかった紗雪は、冷ややかな目で志保を見つめた。しかし、志保は涙ぐみながら一方的に話し続ける。「でも、律くんの気持ちも分かってあげてください。私たちの子供を失った時の律くん、私に抱きつきながら、子どもみたいに泣いていたんです。あの子どもは二人の愛の結晶だったのに、って……それに、律くんは一睡もせずに、何日も私の看病をしてくれて……」その一つ一つの言葉が、まるで毒を含んだナイフのように、ボロボロになった紗雪の心をえぐっていく。「もし、そんなことを言いにきたのであれば」紗雪の掠れた声が、志保の話を遮った。「帰っていただけますか?」すると、怯えたような表情を浮かべた志保が、すぐに手元の保温ジャーを紗雪に差し出す。「ち……違うんです。栄養のあるものを食べて欲しくて、野菜スープを作ってきたんです」「結構ですので、持ち帰ってください」紗雪は嫌悪を隠さずに、顔を背けた。その瞬間、志保から怯えるような雰囲気が消え、冷たい表情がその顔に浮かぶ。「そんな……このスープは絶対に飲んでもらわないと……」次の瞬間、なん
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第4話
ドアを開けた律は、ちょうど紗雪が志保に平手打ちを叩き込む瞬間を目撃した。一瞬で険しい表情を浮かべた律が、大股で病室の中へと入ってきて、紗雪を乱暴に突き飛ばした。ただでさえ意識を取り戻したばかりの紗雪は、バランスを崩し、背中を冷たい壁に強打した。あまりの痛さに息を呑む。「紗雪!何しているんだよ!」志保を庇うように立っている律が、怒りに震える目で紗雪を睨みつけた。すると、志保はすぐに律の胸に顔をうずめ、泣きじゃくりながら出鱈目なことを言い始める。「律くん……紗雪さんのこと、責めないであげて。私が悪いの……私なんかがここに来るべきじゃなかったから……」赤くなった志保の頬を見て、心を痛めた律は、紗雪を再び睨みつけ、声を荒らげた。「紗雪、まさかお前がこんなことする女だったとはな。志保さんはお前のことを心配して、お見舞いに来てくれたんだぞ?なのに、どうしてそんな態度を取るんだ?」怒りで完全に我を忘れた律は、入り口に控えさせていたボディガードへ冷酷に命じる。「こいつに100発平手打ちをしろ。志保さんを傷つけたんだ。何倍にしてでも、苦しめてやる」志保がわざとらしく、律を引き止めた。「そんなの駄目だよ、律くん!紗雪さんは意識を取り戻したばかりだし、何より子どもを失ったの。そんなことしたら、体がもたないよ……」律は志保を強く抱きしめ、紗雪への怒りをあらわにする。「志保さん、あなたは本当に優しい人だ。でも、そんなんだから、いつも付け込まれるんだぞ?今日という今日は、こいつに分からせてやるんだから」そう言って、ボディーガードへと視線を向けた。「おい、お前ら。やれ!」指示を受けたボディガードが紗雪の方へ詰め寄ってくる。9年も愛し続けてきた夫が、自分ではない別の女を庇い、自分に対しては無慈悲なまでに残酷だった。かつて、その手で守られていたのは、紛れもなく自分だったのに!ボディーガードの手が振り下ろされるその瞬間、紗雪は力の限り叫んだ。心の底に溜まっていた悲痛な叫びが、かすれた声となって溢れ出る。「律!忘れたの?!あなたが私の両親のお墓の前で何て誓ったか!一生かけて私を守るって、泣かせることは絶対にしないって言ったよね?!これ全部……忘れちゃったの?!」その瞬間、志保を抱きしめている律の腕がぴくりと震えた。彼の瞳に一瞬だけ何か複雑な揺ら
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第5話
紗雪は1週間の入院生活を送った。この1週間、彼女は魂が抜けたようだった。決まった時間に食事をし、薬を飲み、治療を受ける。泣くこともなく、騒ぐこともなく、口を利く事もなかった。看護師が薬を変えに来ればされるがままになり、使用人が運ぶ食事を機械的に口へ運ぶ。胸に空いた大きな穴は、冷水で満たされているようで、無感情に等しかった。ひどくどんよりとした曇り空の日、紗雪は退院した。暗い雲が立ち込め、息苦しさを感じる。退院手続きを済ませた紗雪が、病院の玄関でタクシーを呼ぼうとしていると、そこへ、見覚えのあるロールスロイスがゆっくりと停まった。窓が開くと、律の冷ややかだが気品溢れる横顔が見え、その横の助手席には志保が座っていた。まるで、血液が凍りついたかのように、紗雪の体が固まる。紗雪のやつれた顔が目に入ると、律はわずかに眉をひそめたが、すぐいつもの無表情に戻った。彼が無意識のうちに志保を引き寄せ、その肩を抱いた。まるで大切なものでも守るように。「乗れ」その声は、今日の空模様と同じ、微塵も温かみが無かった。紗雪はその場に立ち尽くし、爪が食い込むほど拳を強く握りしめた。志保が申し訳なさそうに口をひらく。「紗雪さん、外は風が強いですから、早く乗ってください。私が律くんに、紗雪さんを迎えに行こうって言ったんです。それに……これまでのことは誤解ですから、律くんのことは責めないであげてください」それを聞いていた律は志保を一度見つめ、優しく微笑む。しかし、再び紗雪へ向き直った時には、いつもの無表情に戻っていた。「志保さんがどうしてもって言うから、お前を迎えに来てやったんだ。紗雪、志保さんはお前にこんなによくしてくれるのに、お前はどうだ?言っておくけど、俺が守るのは志保さんだから、お前はしっかり神谷グループの社長夫人をこなせ。これ以上志保さんを傷つけるなよ」神谷グループの社長夫人?紗雪は苦笑いを浮かべる。もう何も言いたくないし、この目の前の男と二度と関わりたくなかった。紗雪は車を避け、その場を離れようとした。「紗雪!」律が車のドアを開けて降り、紗雪の腕を掴む。その力の強さに紗雪は顔をしかめた。「いい加減にしろ。車に乗れ!」苛立った彼の声を聞いていると、自分の拒絶がまるでわがままでしかないように思えてくる。紗雪は振り払
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第6話
焦った使用人は右往左往しながら、何度も律に電話をかけていたが、一向に出る気配はない。紗雪は重い瞼を開け、掠れた細い声で呟く。「もうかけないでいいよ……どうせ、出ないから」そう言う紗雪の笑みは泣き顔よりも痛々しかった。「律は今……小池さんの誕生日を祝ってるから」使用人はため息をつき、それ以上は何も言わなかった。ただ黙って解熱剤を持ってきて、紗雪にそっと飲ませた。薬を飲んだ紗雪は、深い眠りについていたのだが、夜遅く激しい音を立ててドアが開けられたことにより、目を覚ました。酒の匂いと外の冷気をまとった律が入ってきた。その顔は、恐ろしいほどに引きつっている。「紗雪!」律はベッドに近づくと、骨が折れそうなほどの強さで彼女の手首を掴んだ。「どうして来なかったんだ?志保さんは一晩中、お前を待っていたんだぞ!目が真っ赤になるくらい泣いていた。俺はあの人に一滴の涙も流させたくないのに、お前はこんなことしやがって!」激しく揺さぶられて、紗雪は眩暈がした。もう何も感じないと思っていたのに、胸にはまた激痛が走る。かつて、彼が涙を流させたくない相手は自分だったのにな。紗雪は重い瞼を持ち上げ、心の底から愛していた男の顔を見つめた。しかし、今では恐ろしいほどに他人に見える。そう思った瞬間、ひどく滑稽に感じた。「だから何?」熱のせいで声は掠れていたけれど、不思議なほど静かで、とても冷え切っていた。「私を殺すの?」律が鼻で笑う。「そんなことはしない。あの人を泣かせたんだから、お前のことを徹底的に泣かせてやる」そう言って律は携帯を取り出し、電話をかけた。「紗雪の親友、同僚、親戚……とにかく紗雪に関係するやつを集めろ。紗雪を泣かせた奴に、20億円くれてやる」30分も経つと、家の中は人でごった返した。一番初めに出てきたのは、親友だと思っていた吉川杏奈(よしかわ あんな)だった。これまで、一緒に買い物をし、秘密を分かち合い、落ち込んだ時には支え合ってきたのに。「紗雪、お願いだから泣いて」杏奈の声は震えていた。「20億円あったら、一生遊んで暮らせるんだよ?」紗雪が全く反応を示さないのを見て、杏奈はいきなり彼女の頬を張り飛ばす。「何、澄ましてるのよ?神谷社長の奥さんだからって何様のつもり?」紗雪の頬は焼けるように痛んだが、それでも依然として涙は
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第7話
高熱の中、さらに精神的な追い打ちをかけられ、そのまま意識を失った紗雪。再び目を覚ますと、ぼんやりとした意識の中で、律の声が聞こえた。「医者を呼べ!」どうやら、自分は病院に運ばれたらしい。すると、いつの間にか現れた志保が、優しい声でそれを止めた。「律くん、お医者さんは呼ばなくて大丈夫。うちの田舎にね、すぐに目を覚まさせる方法があるの。私を信じて。ただ、他の人には部屋から出ていって欲しいの」紗雪は、人々がその場から離れていくのを感じていた。そして次の瞬間には、背中に激しい痛みが走った。何とか目を開けると、なんと志保がカミソリの刃で彼女の背中を傷つけていたのだ。「痛っ!」激しい痛みに襲われ、紗雪は必死に逃れようともがく。しかしそんな彼女を、志保が力任せに押さえつけた。「動かないでください。これはうちの地元に伝わる民間療法なんです。早く良くなりますから、我慢してください」「こんな民間療法……あるわけないじゃないですか……」紗雪は冷や汗を流しながらも、さらに激しく抵抗する。こんなの治療なわけない。ただの拷問だ!紗雪は残った最後の力を振り絞り、志保を思いきり突き飛ばした!不意をつかれた志保が、声を上げながら、そのまま床に倒れ込む。ちょうどその時、律が部屋に飛び込んできた。「志保さん、大丈夫か!」律は慌てて志保に駆け寄り、彼女を心配そうに抱き起こす。そして怒りに満ちた目で紗雪を睨みつけた。「そもそもお前が先に志保さんを傷つけたんだろ!それなのに志保さんは嫌な顔一つせずに、お前を助けようとしてくれてるんだ。それをそんな態度を取るなんて、どうかしているぞ!」紗雪は痛みのあまり声が出ず、ただ彼をじっと睨みつけることしかできなかった。志保が律の胸にしがみつき、涙を浮かべる。「もういいの、律くん。これは、痛みが強い方法だから、紗雪さんもわざとじゃ無かったと思うし……だから、責めないであげて……」「だめだ!」律は志保をひどく不憫に思い、言った。「絶対に謝らせるから!」紗雪に向き直り、冷たく命令する。「紗雪、志保さんに謝れ!」紗雪は歯を食いしばったまま、顔をそむけた。その態度に、律の怒りは頂点に達し、ドアの方にいるボディーガード一に言い放った。「紗雪を謝らせろ!」ボディーガード一はすぐに命令に従い、一人が紗雪の膝裏
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第8話
すると律が足を止め、少し迷う素振りを見せながらも、なんと引き返してきたのだ。紗雪の胸に一瞬、かすかな期待がよぎる。しかし、律は紗雪に見向きもせず、志保がさっき倒れたあたりをすばやく手で探り、端が少し焦げたお守りを拾い上げたのだった。それは、志保がいつも大切に持ち歩いていたもの。なんだ、それを拾いに戻っただけだったのか。「ふふっ……ふふふふ……」紗雪は笑った。蔓延する煙と燃え盛る炎の中で、涙を流しながら笑い転げた。昔、自分が少し指を切っただけでも、彼は大げさなほど心配して、抱きかかえて病院まで走ってくれたのに。今は、火の中で死にそうになっていても、別の女のためにお守りを優先する。律はお守りを見つけると、再び志保を腕に抱き、紗雪を振り返りもせず立ち去っていった。二人の背中が見えなくなったそのとき、激しく燃え上がる梁が大きな音を立てて、紗雪の上へ崩れ落ちてきた。再び、意識が闇の中へと消えていったのだった。再び目を覚ますと、紗雪は自分のベッドの上にいた。枕元に立つ律が、ばつが悪そうにそっけない声で言った。「昨日は少し混乱していたから、お前があそこにいるなんて気づかなかったんだ。もし知っていたら、俺は……」知っていたら、どうしたというのだ?紗雪は心の中でそっとつぶやき、皮肉な笑みをうかべた。志保を放り出して、自分を先に助けてくれたとでもいうのか?そんなこと、ありえない。昔は自分のことだけを見てくれていたから、いつでもすぐに駆けつけてくれた。だが、今の彼の心には志保しかいないのだから、志保以外の姿など、見えるはずがない。あまりの虚しさに、紗雪は律と言葉を交わす気力さえなかった。何も言わずに寝返りを打ち、彼に背を向けて目を閉じる。自分と話すことを拒絶する紗雪の姿を見て、律は眉間にしわを寄せた。何か言いたかったが、結局は眉間を揉み、枕元のテーブルに水と薬を置いただけだった。「薬、飲んでおけよ」それから数日間、律は予想外にも仕事に行かず、家に留まって書斎で仕事をしていた。それでも紗雪は、律を完全に無視し続けた。この徹底した沈黙が、律の胸を少しずつ刺激し、ひどくいら立たせた。そして紗雪が黙り込んで5日目の夕方、律はとうとう仕事を切り上げ、紗雪のベッドへと歩み寄った。「紗雪」律は少し不
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第9話
その日、律は志保を家に連れて帰ってきた。「紗雪、これまでのことはもう水に流そう。志保さんの体はまだ休養が必要で、このまま一人暮らしを続けさせるのは心配だから、今日からここに住まわせることにした。だから、お前も……志保さんと仲良くしてほしい」その日から、かつて紗雪と律だけの場所だったはずの「家」は、完全に律と志保の愛の巣へと変わってしまった。二人の遠慮のない笑い声が嫌でも耳に入ってきたし、律が志保をどれほど甘やかしているかも見せつけられる日々。彼らはリビングのソファでキスを交わし、ダイニングテーブルで互いを求め合っていた。それどころか、かつて紗雪が毎日のように弾いていたピアノの前でさえ、情事を重ねていたのだ。使用人たちは誰もがうつむいて、足早に通り過ぎ、見て見ぬふりをした。ある日の深夜、紗雪は慌ただしい足音と動揺に満ちた叫び声のせいで、目を覚ました。ドアを開けると、服が乱れている律が、これまでに見たこともないほど慌てふためき、同じく衣服の乱れた志保を抱きかかえていた。それに、志保の下半身からは血が流れ出していて、苦しそうにうめいていた。律は狂ったように階段を駆け下り、外へ飛び出していった。しばらくして執事がやってくると、複雑な表情で言った。「奥様、旦那様が病院に来るようにと」紗雪は多くを聞かずに、黙って車に乗り込む。病院に着いて初めて、紗雪は何が起きたのかを知った。激しすぎる行為が原因で、志保は黄体破裂を起こし、さらに搬送後に妊娠していることも発覚したらしい。その影響で大出血を引き起こし、母子ともに危険な状態に陥っていた。一刻を争う状況のため、大量の輸血が必要だったが、あいにく志保は希少なRhマイナス血液型で、病院には備蓄がなかった。そして紗雪もまた、同じRhマイナスだった。だから律は、紗雪に有無を言わせず、無理やり採血室へと閉じ込めた。「抜け!」律が医師に怒鳴り散らす。「抜けるだけ抜け!志保さんの危険がなくなるまでずっとだ!」医師は躊躇しながら言った。「神谷さん、奥様の体はかなり弱っていますので、これ以上採血すると、命に関わって……」「紗雪はどうなったっていい!」律が医師の言葉を遮った。「何が何でも、志保と俺の子供を助けろ!」紗雪はどうなったっていい……ベッドに横たわる紗雪は、その凍てつくほ
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第10話
紗雪が投稿した短い投稿文は、静かな湖に投げ込まれた巨大な石のように、瞬く間に大きな波紋を広げた。【16歳のとき、あなたが私を一生愛し続けると言ってくれたね。そして、20歳のとき、私たちは結婚し、あなたは永遠の愛を誓ってくれた。でも25歳……あなたは他の女性を愛するようになってしまった。だから今日、私たちは離婚するんだよ。あなたが誓ってくれた今までの言葉、あなたに返すね。それに、私の気持ちももうあなたのところにはないから。もう私は、神谷グループの社長夫人なんかじゃない。あなたとは一切関係ない、一人の女、椎名紗雪に戻るから@神谷律】告発や非難ではない。ただ静かに語られた9年間の男女の変遷。しかし、その一言一句が見る者の胸を締めつけ、紗雪の深い絶望と断固たる決意を感じさせた。【#神谷夫婦離婚】というワードは、猛烈な勢いでトレンドの1位に躍り出た。その横には、「急上昇」の文字が。ネット界隈は騒然とし、誰もが言葉を失った。【嘘でしょ!神谷夫婦が離婚?!そんなわけないじゃん。東都で一番お似合いの夫婦だったのに!】【16歳から25歳まで……9年だよ!学生の頃から一緒で、結婚までしたのにどうして?】【『他の女性を愛するようになってしまった』ってことは……不倫?!あの神谷社長が?あんな潔癖で有名なのに?】【神谷夫人は私たちの女神なのに!ピアニストとしての才能もあって、家柄も美貌も完璧。なのに、神谷社長は他の女にうつつを抜かしてるわけ?】【@神谷律、どういうことなの!】【『あなたが誓ってくれた今までの言葉、あなたに返すね。それに、私の気持ちももうあなたのところにはないから』苦しい!あまりにも悲しすぎる】神谷グループと律の個人の携帯には、取材の電話が嵐のように押し寄せ、パンク状態に陥っていた。仕事関係者や共通の友人たちからも、信じられないという様子の連絡が次々と届く。【神谷社長、これ……本当ですか?どうして奥様とそんなことに……】【律、一体何があったんだよ?あんなに上手くいっていたじゃないか】【律、ネットの記事は何かの間違いだよな?紗雪ちゃんとお前のことはずっと見てきた。なのに、長年積み上げてきた愛はどうしたんだよ?】その頃、律は重要な国際Web会議を行っていた。それでも、秘書は慌てて会議室に飛び込み、律の不機嫌
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