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第2話

作者: ひとつの甜菜
晴香は俯き、彼の目を避けてつぶやいた。「無理なら、仕方ないわ」

もともと期待などしていなかった。ただ――

ただ死ぬ前に、もう一度だけ彼に会って、その姿を心に刻みたかったのだ。

そう言って、彼女は手を伸ばし、貝殻のネックレスを取り戻そうとした。

しかし真也は、それを地面に投げ捨てた。

晴香は思わず拾おうとしたが、その手の甲を真也に踏みつけられ、悲鳴が漏れた。

さらに力が加わり、貝殻は粉々に砕け散った。鋭い破片が掌に突き刺さり、血がにじんだ。

「痛むか?だがな……お前が俺に残した傷に比べれば、こんなのは痛いうちにも入らない」

いつの間にか、周囲には人だかりができていた。「彼女って、あの時に真也社長を捨てた女よね?」

「起業の最中に心不全になって移植が必要だったのに、彼女は金持ちに乗り換えて海外に逃げたんだって」

「今さら後悔してるんでしょ。だから厚かましく近づいてきたのよ」

「ほんと最低!私なら絶対に仕返しするわ」

そう囁く声に、誰も真実を知る者はいなかった。

――あの頃、真也は心不全で移植を待つしかなく、晴香は必死に相応しい心臓を探し出した。

提供者は植物状態の男性。その父親・岸本浩司(きしもと こうじ)は新薬研究にのめり込み、臓器を渡す条件として、晴香を実験台に差し出すことを求めてきた。

真也が絶対に許すはずがないと分かっていた晴香は、浮気を演じて彼を遠ざけた。

それから三年。薬の副作用で体は蝕まれ、複数の臓器が機能不全に陥った。医師から、あと一か月もつかどうかと言われた。

真也の足はなおも力を込め、晴香の手は震えた。

彼女は顔を上げ、皮肉を帯びた笑みを浮かべる。「そんなことされたら……まだ私のこと、気にしてるんじゃないかって思っちゃうわよ」

真也は彼女を蹴り倒した。「お前にそんな資格があるか!」

胸を締めつける痛みに顔を青ざめさせながらも、晴香は声を殺して耐えた。

地に伏したまま、砕け散ったネックレスの破片をひとつひとつ拾い集め、ポケットに入れて立ち去ろうとした。

その時、華やかな服装の男が札束を手にして立ちふさがった。

「昔、一晩で二十万で寝たって聞いたけど……今ここで二十万だ。脱いで、その惨めな体を見せてみろ」

見物人は笑い声を上げ、晴香が動かないと、さらに札束を投げつけた。

「金が足りないなら、もう二十万追加してやる。さあ脱げ!」

「脱げ!脱げ!」と囃し立てる声が響く。

晴香は顔を赤らめ、屈辱に震えた。逃げようとしても、取り囲む人々で身動きができない。

隣にいた美玲が真也の腕を取り囁く。「真也、行こう。こんな女もう見る価値ないわ」

二人が車に向かおうとしたその瞬間、誰かが晴香の服を引き裂いた。

「このクズめ!裸になって見せ物にしろ!」

晴香は地面にしゃがみ込み、自分の体を抱き締めた。だが、服はすでに引き裂かれ、広く肌がさらされていた。

視界はぼやけ、心は幼い頃の孤児院の日々へと引き戻された。だが今度は誰も助けてくれない。

守ってくれた唯一の人を、自分の手で遠ざけてしまったのだ。

「やめろ!」

真也の怒鳴り声が周りの人々を押しのけ、上着が晴香の肩にかけられた。

「……晴香。お前、あの時拓海と一緒に海外へ行ったんだろ?あいつは、お前をこんな目に遭わせる男だったのか?」

彼の瞳に宿る気遣いを見て、晴香は青ざめた顔で答えた。

「彼は……遊び終わったら私を捨てたの。でも、あの時は……私もただお金が欲しかっただけよ」

「一晩で二十万……真也社長も試してみる気?」

真也は晴香を地面に押し倒し、吐き捨てた。「そこまで金に飢えて、本当に下劣だな!」

すぐに部下を呼び、二百万の札束を持ってこさせると、それを彼女の顔に投げつけた。角が頬を切り裂く。

「月契約なら安くしてもらわないとな。これから一か月、お前は俺の召使いであり、俺のものだ。じっくり楽しませてもらう」
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