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第206話

Author: 一匹の金魚
やっぱり萌寧には、プライドと礼儀が備わっていた。「礼央に直接聞いてみるわ」

その直後。

萌寧は翔太の手を取った。「さあ、行くよ」

真衣は鼻で笑った。

自分はもともと、外山さんたちに穏便に引っ越してもらいたかっただけ。自分にはもっと大事な用事があるから、外山さんたちとややこしく関わる気はない。

でも強引に居座って威張り散らすなら、自分も強硬手段を取るしかない。

-

翌日の早朝。

真衣は仲介業者から電話を受け、家の買い手が決まったから、いつ契約に来られるかを聞かれた。

真衣は意外に思った。

外山さんたちは、もう引っ越したのかな?

真衣と仲介業者は、退勤後の時間に約束した。

真衣は通常通り、九空テクノロジーに出勤した。

萌寧は予定よりも1日早く出社することになった。

しかし待てど暮らせど。

1時間以上も遅刻しているのに、まだ萌寧は現れない。

沙夜は激怒した。「本当に自分を偉いと思ってるんだね、九空テクノロジーを何だと思ってるのかしら?」

安浩は手を上げて腕時計を見た。「もう待たずに会議を始めよう」

本来なら、新入社員の紹介をする流れだった。

まるでわざと遅刻して、全員に威圧感を与えようとしているようだ。

「遅れて申し訳ございません」

会議が半分まで進んだ時、萌寧がドアを開けて入ってきた。

萌寧は中性的なスーツを身にまとい、全体的にきりっとした印象を与えた。そして皆を見渡して言った。「私に何をすればいいか教えていただけますか?」

「まず自己紹介をお願いします」

萌寧は自分の経歴を包み隠さず紹介した。

話し終わると、その場にいた全員が拍手した。

「こんな若さで博士号を二つも……すごいなあ」誰かがヒソヒソと話している。

確かに萌寧の経歴は見事だ。

会議が終わった後。

技術部門の中心人物である真衣は、萌寧に全ての書類を整理してもらうよう仕事を割り当てた。

萌寧は信じられないという表情で、怒りのあまり逆に笑みを浮かべた。「この私が?書類整理をするの?」

真衣はオフィスチェアに座り、萌寧を見上げて淡く笑った。「仕事なので。何か質問があれば常陸社長に聞いて」

自分は、この会社の重要プロジェクトに参画するために入社したが、寺原さんは自分をなるべくプロジェクトから排除しようとしているのか、重要な資料には一切触れさせてもらえない
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Comments (1)
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璃花🌷
萌寧の愛されてるって、本当かなぁ?
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