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第4話

Autor: 一匹の金魚
礼央はその言葉を聞いても、眉一つ動かさずに答えた。「わかった」

彼は真衣の感情や気まぐれなど、まるで意に介していないようだった。

大橋もそれ以上何も言わなかった。以前にも似たような騒ぎはあったが、最終的には真衣のほうが折れて、ご機嫌を取りに戻ってきたのだった。

翔太は思い通りのミルクバスに入れず、不満そうだったが、最終的には萌寧がやってきて、「週末に航空宇宙・国防科学技術展に連れて行ってあげる」となだめてようやく落ち着いた。

以前、母親は彼を高い場所に行かせることは絶対に許さず、遊園地にすら連れて行ってくれなかった。

翔太は、母親が貧乏で、萌寧のようにお金持ちではないと思っていた。

でなければ、誕生日に安物の万年筆をくれたり、手作りの不格好なケーキを用意したりするはずがない。

それに比べて、萌寧は一言で彼を本物の飛行機や戦闘機を見に連れて行ってくれるのだ。

翌朝。

翔太は目を覚ますと、跳ねるようにして朝食を食べ始めた。

今朝の朝食は海老カツサンドで、翔太が前の晩に大橋に頼んで特別に作らせたものだった。母親がいるときは、絶対に海鮮を食べさせてくれず、いつも口うるさく制限してきた。

でも今は、食べたいものを好きなだけ食べられる!

一方その頃、真衣は早起きして千咲のために栄養食を用意し、彼女を学校まで送り届けていた。

彼女が車で立ち去るとすぐに、翔太がマイバッハから飛び降りてきた。

「萌寧さんが週末に本物の戦闘機を見せてくれるんだ!それに、おもちゃの粘土もたくさん買ってくれて、みんなに分けて一緒に遊べるようにしてくれた!」

翔太は胸を張って得意げに言った。「お前がくれたあのボロい積み木より、ずっといいぞ!お前も遊びたかったら、僕にお願いしなよ。そしたら萌寧さんに頼んで、一緒に連れてってもらえるようにしてあげる!

どう?萌寧さんとパパがいなかったら、ママじゃ、一生本物の戦闘機なんて見せてくれないよ!」

千咲の目は真っ赤になり、鼻の奥がツンと痛んだ。あの積み木は、全部自分が一生懸命作ったものだった。おじさんは翔太のことばかり好きで、だから自分が翔太に気に入られれば、もしかしたら「パパ」と呼ぶことも許してくれるかもしれないと、そう思っていたのに……

千咲は翔太をじっと睨みつけた。「お兄ちゃんが私のプレゼントを気に入らないのは別にいいけど……でも、なんでママのことをそんなふうに言うの?」

「ママは田舎者だ!そんなの好きになるのはお前くらいだよ!これからは、お前もママも家に戻ってくるな!高瀬家はお前たちを歓迎しない!それに、僕にはもう新しいママができたんだ!昨日は萌寧さんが僕を寝かしつけてくれたんだから!」

-

真衣が千咲を送り届けた後、空はどんよりと曇り始め、今にも雨が降り出しそうだった。

ふと顔を上げると、向かいのバス停の広告看板に、ひときわ目立つ大きな文字が躍っていた。【国防航空展へ、ようこそ——】

真衣は一瞬立ち止まり、前世のこの時期、北城で航空宇宙・国防科学技術展が開催されていたことを思い出した。

北城航空展は、世界五大航空展の一つで、二年に一度開催されており、ちょうど週末が第十五回目の開催にあたる。その展示内容は非常に多彩で、陸・海・空・宇宙・電子・ネットワークといったあらゆる分野を網羅しており、各種航空機、ミサイル、ドローン、衛星などの航空宇宙関連製品がずらりと並ぶ。

さらに、各種大型戦闘機による大規模なパフォーマンスも行われる予定だった。

真衣はそのポスターをじっと見つめてぼんやりしていた……

もしあのとき、自分が夢を諦めず、家庭に入って夫に尽くし子育てに専念するという選択をしなかったなら――今回の展示会には、彼女が設計した航空機が並んでいたかもしれない。

自らスタッフとして登壇し、設計の過程やエピソードを語っていたかもしれなかった。

それは、何ものにも代えがたい至高の栄光だ。

真衣は視線をそらし、スマートフォンを取り出して公式サイトで航空展のチケット情報を調べた。しかし、すでにすべてのチケットは完売していた。

スマホをしまったその瞬間、突風とともに激しい雨が突然降り始めた。

朝は子どもを送り届けたり、出勤する人々が一斉に動くラッシュの時間帯。学校の前は特に混雑していて、タクシーを拾うどころではなかった。

真衣は豪雨をものともせず、近くのカフェへと駆け込んだ。

ガラス扉を押し開けた瞬間、ちょうど出ようとしていた男性と正面からぶつかり、熱いコーヒーを彼にぶちまけてしまった。白いワイシャツには、目立つ汚れがはっきりと染みついた。

「すみません、弁償します!」真衣は慌てて顔を上げて謝った。

常陸安浩(ひたち やすひろ)は真衣の顔を見るなり、少し驚いた表情を見せたが、すぐに笑みを浮かべた。「寺原さん、航天局のシミュレーター試験のときも、君に試薬をぶちまけられたっけな。今度はコーヒーか、全然変わってないな」

真衣は呆然とした。まさか、こんな場所で安浩に出会うとは思ってもみなかった。

安浩は、彼女の学生時代の先輩であり、同じ博士課程の指導教授の下で学んだ仲だった。

2人の恩師・加賀美龍平(かがみ りゅうへい)は現在第五一一研究所の所長で、この国における航空宇宙分野の重鎮だ。彼のもとで学びたいと願う人は数知れない。

真衣は彼のシャツを見て言った。「常陸先輩も変わってないわね。相変わらず口が達者で。

その服、もう洗っても落ちないだろうから、弁償するよ」

彼は笑って返した。「大丈夫。君が結婚してからずっと会ってなかったし、せっかく偶然会えたんだから、少し話さない?」

「実は私も、連絡しようかと思ってたところだったの」

安浩は眉を少し上げた。「じゃあ、研究所で話そう。僕はちょっと着替えてくるよ」

-

真衣は研究所の来客用ロビーに座っていた。

訪れるのは、本当に久しぶりだった。

見渡す限り、懐かしさを感じる風景。脳裏には当時の記憶が次々とよみがえり、その一つひとつがまるで昨日のことのように浮かんでくる。

客としてこのロビーに座るのは初めてだった。胸の奥では、言葉にできない複雑な思いが渦巻いていた。

安浩は着替えて戻ると、真衣の正面に腰を下ろし、微笑んだ。「どうだい?変わったところは多いか?」

「科学技術の進歩は速くて、研究所もずいぶん変わったわ」

「何の話がしたいんだ?航空宇宙の研究に身を捧げたいと言ってた君が、突然学業も研究も放棄して結婚し、子供を育て、連絡も途絶えたんだから……」

真衣はそっと視線を落とした。胸の奥に、どうしても拭えない後ろめたさが広がっていた。彼らに顔を合わせる資格なんてない――ずっと、そう思っていた。

「青い鳥―X7生態修復機が完成して、週末の航空ショーでお披露目されるって聞いたわ」真衣は唇を軽く引き結び、静かに言った。「突然去ってしまったこと、謝らなきゃと思ってたの」

「情報通だな」安浩は変わらず柔らかい笑みを浮かべた。「君が抜けた時、チームのプロジェクトはしばらく止まっちゃってさ。前に進めなくて大変だったんだ」

「私……」真衣は胸に広がる後悔をどう言葉にしていいかわからなかった。「本当に、ごめんなさい……」

謝罪以外に、何と言えばいいのかわからなかった。

自分の勝手な決断で、皆の歩みを止めてしまったのかと思うと――胸の奥が重く沈んだ。

日々進化する科学の波に取り残されないよう、たとえ家に入り、夫と子を支える日々を送っていたとしても、専門分野の勉強だけは片時も止めなかった。だから――もう一度この世界に戻ったとしても、自分はきっと遅れを取らない。

「みんなは君の謝罪より、具体的な行動を望んでいる」

安浩は、真衣が戻ってくることを心から願っていた。こここそが、彼女の才能が本当に輝く場所だった。

「航空展を直接見に行ってもいい?」

「青い鳥の設計の大半は、すでに君が完成させていた。僕たちがそれをまとめあげて仕上げるのに、何年もかかった。君は家庭に閉じこもる人間じゃない。君は、この国の航空宇宙事業に必要な人材なんだ。

なぜ見たいと思った?戻ってくることに決めたのか?」安浩は真衣をまっすぐに見つめ、その答えを待っていた。

彼は手にしていたコップを静かに置いた。「航空展のチケットは簡単に取れない。もし本当に見たいなら……電話してくれ。僕が連れて行くよ」

真衣は唇を引き結び、そっとうなずいた。「はい。私も……航空宇宙事業に、自分が属してるって思う」

彼女は幼い頃から、空と宇宙に強い憧れを抱いていた。

彼女の夢は、ただ飛行機を設計することではなかった。彼女の夢は星の海を越えて、無限の宇宙へとつながる未来だった。

いつからだろう。自分自身を、見失っていたのは。

前世の航空展の時、彼女は千咲を連れて家にいて、翔太のやり残した宿題を一緒に手伝っていた。礼央が翔太を病院に連れて行ったと思っていたが――後になって、彼らが萌寧と一緒に航空展に来ていたことを知った。

今でもはっきりと覚えている。あのとき、戦闘機のパフォーマンスを生で見ている翔太たちを、千咲がじっと羨ましそうに見つめていたことを。でも千咲は、口に出さず、騒ぎ立てることもせず、ただ静かに耐えていた。

母親として、彼女は、あのとき間違いなく失格だった。

だが今は違う。もう二度と、千咲に翔太を羨ましがらせたりはしない。

人生をやり直したこの一度きりの機会で、彼女は自分自身を取り戻す。そして、千咲の支えとなり、誇りとなる母親になるのだ。

たとえその時、恩師に会っても、もう受け入れてもらえなかったとしても。それでも展示を見て、昔の仲間や、業界の重鎮たちに顔を出すだけでも意味がある。

少なくとも業界の人々に、彼女という存在を知ってもらう――

安浩は満足そうに微笑んだ。「研究所には、新しい研究計画がある。主任技術者も、人手も必要だ。だが、いまだに適任者が見つかっていないんだ」

真衣は、その言葉が自分に向けられたスカウトであることを、すぐに察した。

主任技術者だなんて、自分にはまだ荷が重いかもしれない。けれど基礎からなら、また始められる。

「履歴書を送ります」

そう答えると、安浩は真衣をまっすぐに見つめ、言葉を継いだ。「ただし、うちの条件として――候補者は婚姻が安定していることが前提だ」

真衣は一瞬、動きを止めた。そんな条件、以前はなかったはずだ。今それがあるのは、きっと、彼女自身の前例があったからなのだろう。

「離婚するつもり」

安浩は一瞬、驚きに目を見開いた。かつて彼女は、幸福を選ぶために何もかもを捨て、迷いなく家庭へと進んだ。まさか今になって、そんな決断を下すとは思ってもみなかった。

そのとき、真衣のスマートフォンが、まるで空気を読まないかのように鳴り出した。

「高瀬翔太くんのお母様でしょうか。翔太が突然、全身に赤い発疹が出て、お腹も痛がっています。これから病院に連れて行きますので、すぐに来ていただけますか」

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Comentarios (2)
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中山晶子
アレルギーは夫は判ってないのも、復讐になりますね 生意気なガキにはよい薬かもしれない
goodnovel comment avatar
中山晶子
だんだん正体が解ってきて面白くなりました
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