Masuk金髪で、青い目をした背の高い男性が、白いスーツを身に纏い、穏やかな笑みを浮かべている。彼はエリアスだった。エリアスは真衣を見ると手を上げ、流暢な日本語で礼儀正しく挨拶した。「寺原さん、ようこそ」真衣も微笑んで手を差し出した。「エリアスさん、お待たせしてすみません」「いえ、私も着いたばかりです」エリアスは紳士的に振る舞った。「さあどうぞ。中でゆっくり話しましょう」真衣は頷き、エリアスについて中に入った。亮太は後を追わず、ヨットの傍で待機していた。ヨットの中は広々として明るく、外の喧騒や海風を遮断していた。お手伝いさんがお茶とお菓子を運び、そっと退出した。二人はソファに腰を下ろした。エリアスが口を開いた。「寺原さん、今回あなたをお呼びしたのは、確かな情報をお伝えするためです。今回の材料は、すべて揃っており、品質は優れ、何の問題もありません」そう言いながら、彼は真衣の前に書類を差し出した。「材料の詳細リストと検査報告書、原産地証明書です。どうぞご確認下さい」真衣は書類を受け取り、真剣に読み始めた。彼女は、一つ一つのデータ、条項、証明書をじっくりと確認した。これは彼女の専門分野であり、責任でもある。いかなる間違いもあってはならない。エリアスは向かい側に座り、彼女が確認し終えるのを静かに待っていた。しばらくして、真衣は微笑んでエリアスを見た。「エリアスさん、資料に問題はありません。品質も我々の要求を満たしています」「それは良かった」エリアスは安堵の息をついた。「今後の我々の関係も、順調に進んでいくことでしょう。これらの材料が揃えば、我々のプロジェクトはほぼ成功したも同然ですから」真衣は頷いた。「互いの協力が円滑に進み、利益をもたらすことを願っています」「きっとそうなりますよ」エリアスはグラスを掲げて言った。「我々の関係を祝福し、今日はお茶で乾杯しましょう」真衣もグラスを掲げ、二人は乾杯した。グラスが、澄んだ音を立てた。-同刻、時正の別荘。時正は青ざめた顔をして、書斎の窓際に立っていた。彼は、できるだけ傷に触れないようにしていたが、傷は少し動くだけで、引き裂かれたように痛んだ。亮太が真衣に同行して埠頭へ向かったことは、彼はもう知っていた。礼央は電話で、重々しい口調で状
陰険で狡猾、手段を選ばない宗一郎は、彼らにとって最大の敵だった。真衣は眉をひそめて頷いた。「あなたの言う通りね。彼には警戒しなければならない。時正はすでにマークされている。これ以上は、どんなミスも許されない。警備を強化し、どこへ行くにも必ず護衛がつくようにして、君と千咲の安全を守る手配をする」礼央にとって、家族の安全は絶対に譲れない一線だった。真衣は思い出したように言った。「ちょうど良かった。午後にエリアスと埠頭まで貨物を確認しに行く予定なの」礼央は眉をひそめた。「埠頭?」埠頭では昨夜、船の爆破や襲撃事件が起きたばかりだ。そんな危険な場所に、真衣を行かせるわけにはいかない。「前に話した材料のことよ」真衣が説明した。「とても重要な材料で、今後のプロジェクト全体の進捗に関わるの。エリアスさんが自ら来るから、私が行って、材料に問題がないかどうか、確認しなきゃならないの」エリアスの正体は明かされていないが、彼は提携先の責任者で、行動は慎重だ。今回持ち込む材料は、彼らのプロジェクトの中核をなすものであり、いかなる手違いも許されない。礼央は険しい表情で、沈黙していた。彼はその材料の重要性も、真衣の責任感の強さもよく分かっている。しかし、彼女を埠頭に行かせるのは、どうしても気がかりだった。宗一郎の手下たちは、すでに埠頭に厳重な網を張り巡らせている可能性が高い。時正がそこで事件に巻き込まれたばかりだ。真衣が今向かえば、虎の穴に羊が入るようなものだ。「亮太を同行させよう」礼央は即断し、真衣に伝えた。亮太は時正の側近の中で最も有能且つ忠実な人物だ。彼がついていれば、少なくとも真衣の安全は保証できる。「でも、亮太は時正さんの部下でしょう?」真衣は少し戸惑った。「時正には俺から話す」礼央は言った。「俺たちは皆、同じ船に乗っている。今は、お前の安全が最も重要だ」彼は、どんなリスクも冒すことはできない。真衣は礼央の心配そうな眼差しを見て、頷いた。「わかった、あなたの言う通りにするわ」午後三時、郊外の埠頭。海風が吹きすさび、次々と波しぶきを巻き上げ、岸辺の岩礁を打ちつけていた。埠頭には大小さまざまな船が停泊し、労働者たちが忙しそうに働き、一見普段と変わらない様子だったが、実際はその水面下で激しい動きが渦巻いていた
「今復縁して、式を挙げれば、注目を集め、真衣と千咲を風当たりの強い立場に追い込むことになってしまう。二人を危険に晒すわけにはいかない」礼央が求めているのは、急いで式を挙げることではなく、揺るぎない未来だった。あらゆる嵐が過ぎ去り、もはや誰も彼の家族を脅かす者がいなくなった後で、礼央は堂々と、真衣と千咲を迎え、二人に安らかな暮らしを送らせてやりたいと考えていた。真衣も友紀を見つめ、穏やかに言った。「友紀さん、私も礼央の言う通り、急ぐ必要はないと思っています。私は、派手な結婚式なんて望んではいませんから。私たち家族が一緒にいて、平穏で安らかでいられれば、それ以上のものはありません。この騒ぎが収まり、状況が落ち着いたら、またこの話の続きをしましょう」真衣は優しく、思いやりがあり、礼央に迷惑をかけるようなことはしない。友紀は、息の合った二人の姿を見て、言葉に詰まってしまった。彼女はそっとため息をつき、仕方なさそうに首を振った。「仕方ないわね。わかった。焦らずに、待つことにするわ。でも覚えておいて。あまり長く待たせないでね。あと、真衣に無理をさせないで」「わかってる」礼央ははっきりと言った。それから、少し世間話をした後、友紀は千咲の世話をしっかりするように二人に念を押し、実家を後にした。彼女はわかっていた。息子も真衣もそれぞれの考えを持っている。彼女にできるのは、支え、待つことだけなのだ。お手伝いさんが友紀を見送り、リビングは再び静けさを取り戻した。礼央は手を伸ばし、真衣をそっと腕の中に引き寄せた。彼女から漂うほのかな香りは、礼央のあらゆる疲れや焦燥感を癒してくれる。「待たせてすまない」彼は低い声で言った。真衣は彼の胸の中でそっと首を振った。「私は大丈夫。ちゃんとわかっているから」彼女は、礼央が抱えるやむを得ない事情も、彼の自分に対する気持ちも、理解していた。礼央は、普段の冷ややかな表情に戻り、しばらくの間沈黙すると、辺りの空気が重く沈んでいった。彼は真衣を見つめて言った。「さっき、ラウンジバーで時正に会ったんだ」真衣の表情が一変した。「彼の様子は?埠頭のこと聞いたわ。危険だったそうね」「時正は隠していたが、恐らく彼は重傷を負っている」礼央は眉をひそめた。「事態は、俺たちの想像
それらの出来事が、時正を崖っぷちへと追い詰めていた。そして、彼が最も案じていたのは、麗蘭のことだった。記憶喪失からようやく立ち上がろうとしている彼女は、時正にとって最大の弱点になる。礼央は眉間を揉み、運転手に指示した。「家に戻ってくれ」一度帰る必要があった。友紀に電話をし、家を落ち着かせなければならない。最近、世間では騒動が絶えず、元々神経質な友紀が少しでも噂を耳にすれば、きっと気を揉むに違いない。車は高瀬家の実家に到着した。礼央は、家の中へ歩いていった。リビングのソファに、友紀が座っていた。彼女は品のよい服を着て、落ち着いた表情をしていた。公徳が逮捕されてから、友紀はずいぶん落ち着きを取り戻していた。そして彼女の隣には、真衣が座っていた。真衣は、穏やかな表情で、静かに友紀の話に耳を傾けていた。彼女は礼央が部屋に入ってくるのを見て、微笑んだ。礼央は胸を撫で下ろして言った。「母さん、今日はどうしてここに?」友紀は息子を見つめ、少し皮肉っぽく言った。「あら、来ちゃいけなかった?最近、外でいろいろなことが起きているから、心配で様子を見に来たのよ」友紀は間を置いて言った。「今日は、あなたたちに一つ聞きたいことがあって来たの」礼央と真衣は、友紀が言おうとしていることを察し、顔を見合わせた。友紀は湯呑みを置いて言った。「あなたたち、一体いつ再婚するつもりなの?」一瞬、リビングの空気が、張り詰めた。再婚。二人の再婚については、友紀はもう何度も口にしていた。礼央と真衣は、様々な誤解や外部からの圧力、一族の策略のため、やむを得ず別れることになった。ここ数年、二人は紆余曲折を経て、生死、誤解、別離、再会を経験し、二人の絆は以前よりずっと強固なものになっていた。友紀はそんな二人を見て、内心焦りを感じていた。彼女は真衣が好きだった。物分かりが良く、優しく、聡明で、礼儀正しい。何より、彼女は礼央の心を落ち着かせ、支えになってくれる。今、二人の仲は安定し、千咲もいる。友紀は二人が復縁するのは、ごく自然な流れであり、当然のことだと感じていた。真衣はほんのり頬を染め、少し恥ずかしそうにうつむき、何も言わなかった。礼央はそっと、真衣の手を握ると、心が温まり、解れていくのを感じた。彼は友紀を見て
「もう十分耐えてきました」時正は言った。「琴美が麗蘭さんに手を出し、山口社長が彼女の背後で動いている。これ以上我慢していたら、私も彼女も死ぬことになる」「麗蘭」という名を口にした時、彼の口調は一瞬だけ柔らかく緩んだ。礼央はそれを見逃さなかった。「彼女を守りたい気持ちは分かる」礼央は頷いた。「だが、君の今のやり方は、全ての攻撃を自分だけに向けさせているようなものだ。埠頭の爆発、追跡、波多野家の没落、琴美の逮捕……どれもが君を巻き込んでしまう」礼央は間を置いて続けた。「最近は風向きが厳しくなっている。上は目を光らせ、裏で動く連中は牙をむいている。山口社長は君がミスを犯すのを待っている。このまま自制を欠き続ければ、いずれ大問題になるぞ」「分かっています」時正は目を閉じて言った。「逃げ道は用意しています」「自分の逃げ道だけではダメだ」礼央は言った。「君に何かあったら、麗蘭はどうなる?彼女はようやく記憶を取り戻し始め、再び立ち上がろうとしているところだ。彼女を再び君の厄介事に巻き込むつもりか?」その言葉は、時正の弱点を突いた。彼は突然、パッと目を見開いたが、すぐに無力感に襲われ、途方に暮れた。「彼女を巻き込んだりはしません」彼は歯を食いしばった。「彼女とは線を引きましたから」「線を引く?」礼央は淡々と問い返した。「昨夜、全身傷だらけの状態で、どこへ行った?適当に見つけた病院で、治療をしたなんて言わせないぞ」時正は顔をこわばらせ、黙っていた。礼央は彼の沈黙する様子を見て、すでに答えを得ていた。彼はそっとため息をつき、珍しく穏やかな口調で言った。「君の進む道は、暗く、穢れていて、いつ命を落とすか分からない。だが麗蘭は違う。彼女は医者で、光に属する人間だ。君は彼女を守ってもいい、助けてもいい。彼女に命を救われ、借りを作ってもいい。だが、彼女を無理やり泥沼に引きずり込むようなことはするな」「していません」時正はかすれた声で言った。「昨夜は……どうしようもなくて」「君自身が一番よく分かっているはずだ」礼央は立ち上がり、重々しい口調で言った。「今日俺は、君に忠告するために来た。しばらくは、目立たないよう、行動を控えろ。埠頭の件は俺が後処理をする。波多野家に関する世論も、俺がある程度鎮める。だが、覚
「ありがとうございます、鳴海先生」「礼を言うのはまだ早いよ」鳴海は麗蘭の肩を叩いて言った。「私は、君が無事でいてくれさえすれば、それだけで十分なんだ」検査が終わり、医療チームは去っていった。麗蘭は診察室に一人残り、自身の診断書を見つめた。紙面には専門用語がびっしりと並んでおり、彼女が理解できたのはこの部分だけだった。「回復の可能性はあるが、その過程で苦痛を伴い、結果が不確かである可能性も高い」麗蘭は指先に力を込めた。不確でもいい。苦痛を伴っても構わない。今日から私は、自分のために、真実を求めて生きていく。麗蘭は携帯を取り出し、アシスタントにメッセージを打った。【今日から、毎週月、水、金曜日の午前中は、私自身の治療があるから、予約を入れないようにしてほしいの】メッセージを送信した。麗蘭は椅子にもたれて目を閉じると、初めて、未来に対し、微かではあるが確かな期待が胸に湧き上がるのを感じた。ほぼ同時刻。郊外にある、人目につかないプライベートラウンジバー。礼央は、手つかずの緑茶を前に、窓際の席に座っていた。彼は重苦しい表情を浮かべながら、指先でそっとテーブルをなぞった。向かい側のソファには、麗蘭のクリニックを後にしたばかりの時正が座っていた。彼は着替えを済ませ、脇腹の傷を隠していた。顔色は優れなかったが、いつもの落ち着きを取り戻し、負傷していることなど微塵も感じさせなかった。部屋は長い間、静まり返っていた。礼央が先に口を開いた。「昨夜の埠頭での件を耳にした」時正は、落ち着いた表情で顔を上げた。彼は礼央の情報網の広さを知っている。「船が一隻吹き飛んだ」礼央は淡々とした口調で続けた。「支社に連絡が入り、上層部がこの件に関する手がかりに目を光らしている。相変わらず手際がいいな。証拠は全く残っていない」「証拠を残せば、残された者が命を落とすことになりますから」時正も淡々と言った。「あれらは、陽の目を見てはならないものです」「ああ」礼央は頷いた。「俺は君を問い詰めに来たわけじゃない。ただ一つだけ聞きたい――怪我はしなかったか?」最後の言葉を、礼央は語気を強めて尋ねた。彼と時正は長年の付き合いで、共に境界線を越え、困難を乗り越え、生死の淵を彷徨った。周りの者たちは、時正の冷酷さ
部屋の中は全て真衣が去った時と同じままで、まるで時間が止まっているかのようだった。真衣はドアの開く音に振り向き、複雑な眼差しで礼央に尋ねた。「ずっとここに住んでいるの?」礼央はドアを閉め、上着をハンガーにかけながら淡々と答えた。「ああ」実際のところ、礼央は多忙で会社で過ごすことも多かった。だが、感情が極度に混乱すると、必ずこの場所に帰ってきていた。真衣の気配が残るこの空間に身を置くだけで、張り詰めた神経が少しだけ緩むような気がした。真衣はウェディングフォトを見つめた。写真に映る二人は並んで立ち、優しく微笑んでいる。しかし現実では、二人は回り道をし、今の状況に至っている。
「安浩さんが嫌だと言っているんだから、無理強いする必要はないと思いますよ」「あなたは誰?あなたに口を挟む権利があるの?」瑞希は軽蔑と敵意を浮かべた目で沙夜を睨みつけた。瑞希はさきほどから沙夜が安浩と親密に並んで座っていることを不快に思っていたが、今沙夜に口を挟まれたことで、さらに苛立った。「私は彼の友人です」沙夜は怯まず瑞希の視線を受け止めて言った。「友人として、彼が嫌がることを強要されるのを見ていられないだけです。本郷さん、ここでしつこく話すより、この縁談が双方の合意によるものなのかを、お父様に聞いてみたらどうですか」瑞希の顔が青ざめた。彼女はまさかここまで安浩に
安浩は沙夜を見て、真剣な眼差しで言った。「僕たちはずっと友人同士だったんだから、冴子さんが疑うのは当然だよ。今日の僕の振る舞いが至らなくて、冴子さんは拒否したのかもしれないし」安浩は簡単には諦めない。これは沙夜の名声や自由に関わることなのだ。沙夜の胸に複雑な感情が込み上げた。感動、後悔、そして言葉にできないようなときめき。運転に集中する安浩の横顔を見て、ふとこの結婚が、悪いものではないと思った。「そうだ、今夜僕も両親とあることについて相談するつもりなんだ」安浩が突然口を開き、車内の沈黙を破った。沙夜は訝しげに安浩を見た。「相談って、何を?」「君と正式に縁談を進め
その時、湊が真衣に用事があると言って呼びに来た。入札会場の喧騒が微かにドア越しに聞こえる中、真衣は湊について廊下を進んだ。湊は黙って歩き、目立たない休憩室の前で立ち止まった。湊は軽くドアをノックすると、その場を離れた。真衣は深く息を吸い、ドアを開けて中に入った。薄暗い部屋の中、窓際のソファに礼央が座っているのが見えた。昨日の食事で見た礼央とは違い、まるで一晩で別人になったかのように、彼の顔は青白く、目の下には濃いクマがあった。真衣は胸が突然締め付けられたように苦しくなり、言葉を詰まらせた。真衣は彼を見て、唇を動かしたが、言葉が思うようにうまく出てこなかった。「礼







