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第103話

Author: 花朔
音が洗面所にまで響き返るほどの大きさだった。

千歳は一瞬ぽかんとし、自分が焦りすぎたと気づいて気まずそうに口を開いた。

「えっと、いや、その......そういう意味じゃなくて......」

「じゃあ、洗って返しますね」

紗夜は表情を変えず、静かに言った。

千歳は彼女の顔を見つめ、ぼんやりと頷く。

紗夜はそれ以上話す気もなさそうにハンカチを鞄へ入れ、軽く一礼した。

「では、お先に失礼します」

背を向け、歩き去る。

千歳はその細い背中が完全に消えるまで、視線を動かせなかった。

彼の視線がふと、彼女の手に提げられた、先ほど自分が押し潰してしまったバッグに移る。

目の奥に、複雑な光がかすかに揺れた。

......

帰宅すると、理久がリビングでレゴを組み立てていた。

紗夜を見るなり、跳ねるように駆け寄る。

「お母さん!」

「うん」

靴を脱ぎながら応じる。

「ねえお母さん、今日ね、学校ですごく頑張ったから先生がお花くれたの!」

紙で作られた赤い花を誇らしげに差し出す。

「すごいね」紗夜は褒めた。

「これ、お母さんにあげる!お母さんは、好き?」

紗夜は、理久が彩に渡した千羽鶴を思い出す。

胸の奥が少しだけ冷える。

それでも口元だけは笑ってみせた。

「うん、好き」

「じゃあお母さん、おやつ作ってくれる?

お母さん、作ってくれてないから......食べたい......」

ぱちぱち瞬く目は、まるで捨てられた子犬みたいだった。

本当は横になりたかった。

でも、その顔を見たら断れない。

「いいわ」

──これが、彼に作ってあげる最後のおやつになる。

「やったー!!お母さんのおやつ大好き!!」

無邪気な笑顔に、紗夜も思わず小さく微笑む。

池田もすかさず動き、材料を揃えた。

「お坊ちゃんはずっと楽しみにしてましたからね。やっぱり奥様が作るのが一番です」

紗夜は淡く唇を上げ、準備された器具を手に取る。

一時間以上かけ、丁寧に作り上げた。

オーブンから香りがあふれた瞬間、池田が歓声を上げる。

「わあ!いい匂い!絶対気に入りますよ!」

紗夜は焼きあがったおやつをテーブルで冷まし、袋詰めの準備をする。

池田は一部を皿に盛り、嬉しそうに言った。

「お坊ちゃんにお届けしますね!」

そこへ、ちょうど理久が階段を駆け降りてき
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