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第169話

Author: 花朔
一輝は、文翔の口中の「その人」が紗夜だとよく分かっていた。

だが彼は表情一つ変えず、真正面から文翔の視線を受け止め、隙を見せない。

「冗談を。長沢社長の人を、俺が隠せるわけないでしょう?」

文翔は唇を引き結び、じっと彼を見据えた。

信じていない。

爛上に紗夜がいるなら、自分の部下の腕なら二日以内に必ず手掛かりが掴める。

だが、もう四日経ったのに、影すら掴めない。

一輝以外、誰がこんなことできる?

それでも一輝は落ち着いたままで、わずかな揺らぎすらない。

「もし長沢社長が誰かをお探しなら、手伝えることも可能でしょう」

「そうだといいが」

文翔は低く鼻で笑い、視線をそらした。

一瞬の沈黙。

そして、唐突に文翔が口を開いた。

「俺の妻だ」

一輝は眉を僅かに動かし、横目で見る。

文翔はもう隠さなかった。

「妻がいなくなった。爛上に来ていることは分かっている。ここは瀬賀家の縄張りだ。だから、頼む。妻の行方を探してほしい」

「妻?」

一輝は唇をゆっくりと歪め、わざとらしく首をかしげた。

「聞いたことないね。そういえば長沢社長、結婚はまだだったよね?奥様なんて
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