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第 16 話

Author: 燈ちゃん
自分自身のデザイン力が伸びるだけではない。結華というブランドに、より大きな信頼と価値を与えることもできる。

電話越しの陸の声は、いつもより少し柔らかかった。「俺が君に嘘をついたことなど、一度もないだろ?」

少し考えた後、彼は続ける。「俺は前田さんとは面識がある。もし必要なら――」

「いらない」凛は彼の言葉の続きを察し、すぐに遮った。「あなたの力は借りない。自分で挑戦したい」

陸は予想していたように、小さく笑った。「そう言うと思ったよ」

ポテンシャルがあるデザイナーほど、唐突の紹介は逆効果になることがある。

結華を誰かに見つけてもらいたいなら、まず経営者自身が認められる存在にならなければならない。

凛はゆっくり息を吸い込み、応募ページを開いた。

必要事項を一つずつ入力していく。カーソルが「送信」ボタンの上で2秒ほど止まった。

そして――

静かにクリックする。

結果がどうなるかは分からない。それでも、彼女は全力で挑むと決めた。

……

北青山へ戻った時には、すでに夜の9時を回っていた。

疲れ切った身体で車を停め、家へ向かった凛は、隣の車にもたれかかる人影に気づく。

真也だった。

その指先には煙草の火が赤く燃えている。薄い煙が夜気に溶け込み、彼の端正な顔立ちをより深く、どこか気だるげに見せていた。

足音に気づいた真也は、吸い終えた煙草を灰皿に押し込む。そして振り返り、凛へ視線を向けた。

「こんな時間にまで仕事か?」

煙草を吸ったばかりなのか、少し掠れた声だった。髪も少し乱れ、まるで長い時間外で待っていたようだった。

凛は彼の質問に答えず、ただ淡々と言った。「どうしてここにいるの?」

真也は一歩近づく。「俺が来ちゃいけないのか?」

その当然のような、どこか見下ろすような口調が、簡単に凛の胸の奥に燻っていた怒りへ火をつけた。

「……離婚届には、もうサインしたの?」凛は冷たい視線を向ける。

真也は眉間に皺を寄せ、不満そうに言った。「またそれ?他に言うことはないのか?」

「じゃあ何を言えばいいの?」凛は小さく鼻で笑った。

――ここに来る暇があったら、伊織の父親のところへ行って甲斐甲斐しく世話でも焼けばいいのに。わざわざ喧嘩を売りに来る必要なんてどこにもない。

これ以上真也を相手にする気もなく、凛は鍵を取り出して玄関前の庭へ向かった。

扉が開くと、真也はまるで当然のように中へ入ってくる。庭いっぱいに植えられた花々を眺め、静かに頷いた。「悪くないな」

凛は鍵を抜きながら、あまりにも自然に庭を歩く男を見て眉をひそめる。「……何か用があって来たの?」

真也は首を傾げた。「別に用はないさ。俺たちはまだ離婚してないから、夫としてお前の新しい住まいを見に来るくらい構わないだろ?」

――新しい住まいを見に来た。

本当にそうだろうか。

もしかしたら、彼から離れた自分が、どれほど惨めな生活をしているのか、確かめに来ただけなのかもしれない。

そうだとしたら、彼の期待が外れてしまうことになる。

「好きにすれば」

凛はもう、彼がどうやって自分の住所を知ったのか尋ねる気にもならなかった。真也なら、指一本を動かすだけでその程度の情報はいくらでも調べられる。

凛は彼の横を通り過ぎ、玄関へ入る。照明をつけ、鍵をシューズボックスの上へ置いた。「お客さん用のスリッパはないから。そのまま上がって」

「……ああ」真也は短く返事をする。

凛がリビングへ向かった後、彼はふと視線を落とし、何気ないふりをしてシューズボックスの中を確認した。

並んでいるのは、女性用の靴ばかり。どれも凛が普段履いているような、彼女らしいものだった。

「紅茶とコーヒー、どっちにする?」

「水でいい」

室内は落ち着いたアメリカンスタイルの内装で、リビングの大きな窓からは庭一面に咲く薔薇の壁が見える。

真也の視線は何気なく室内を巡った。

玄関。リビング。階段。

家の隅々まで確認するように。

そして――

男の存在を感じさせるものが何一つないことを確かめてから、ようやくゆったりとソファへ腰を下ろした。

黒い瞳がわずかに揺れ、探るような声音で尋ねた。「この家は……お前が買ったのか?」

凛は水をテーブルに置き、不機嫌そうに答える。

「あなた、離婚協議書にはまだサインしていないでしょ?財産分与も終わっていないのに、私がこの家を買えると思うの?」

彼女の冷たい態度にも、真也は怒ることなくグラスを手に取った。そして目を少し細め、彼女を見る。「じゃあ、誰に買ってもらった?」

一拍置いて。

「若葉陸か?」

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