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第 18 話

Author: 燈ちゃん
2人の視線がぶつかる。

静まり返ったリビングには、時計の針が刻む音だけが響いていた。

一秒、また一秒。

真也は、凛の瞳をまっすぐ見つめた。そこに迷いや躊躇がないか、ただの勢いで言っているだけではないのか――そう確かめるように。

けれど、どれだけ見つめても、彼が見つけたのは自分の知っている凛ではなかった。彼女の瞳にあるのは、揺るぎのない決意だけだった。

本当に、自分から離れるつもりなのか。もう一度話し合うことも、少し時間を置くこともなく。一刻も早く、自分との関係を終わらせたいと思うほどに。

真也の胸の奥が、鈍く痛んだ。

ここ数日で、凛と会ったのはたった3回。そして、その3回とも、彼女が口にしたのは離婚の話だった。

冷たい視線。突き放すような言葉。まるで2人の間には、もう修復できないほど深い溝ができているかのようだった。

凛とは、どうしてここまで遠く離れてしまったのか。

真也には、まだ理解できなかった。

彼は深く息を吸い、胸の奥で渦巻く苛立ちを押し込める。そして、余裕を装うように口元を緩めた。「いいだろう。誕生日パーティーが終わったら、署名する」

凛は目を見張った。まさか、ここまであっさり承諾するとは思っていなかったのだ。

「じゃあ念の為、先に署名して弁護士に預けておいて。私が約束を果たした後、自分で取りに行くから」

「ふっ」真也は呆れたように笑った。「俺が約束を破ると思ってるのか?」

凛は至って真剣に答える。「その可能性がないとは言えないでしょう」

こういったことには保険が必要だ。もし後になって約束をなかったことにされたら、彼女は打つ手さえなくなる。

真也は立ち上がると、ゆっくり彼女の前まで歩み寄った。

黒い瞳が凛を捉える。そこには、どこか彼女を見下すような色が浮かんでいた。

「まさか、俺がお前なしでは何もできないって、本気で思ってるのか?」そう言うと、真也は薄く笑った。「安心しろ。約束通り署名するよ」

凛は表情を変えず、淡々と言った。「では、今日の言葉をくれぐれも忘れないでね、桐生社長」

真也は彼女を鋭く睨みつけると、眉間に皺を寄せたまま部屋を出ていった。

次の瞬間、玄関の扉が大きな音を立てて閉まる。

凛は閉じられた玄関扉を見つめ、露骨に疲れたような表情を浮かべた。

真也は、よほど苛立っていたのだろう。そうでもなければ、わざわざ20キロ以上も車を走らせてまで、自分の前に現れるはずがない。

怒りをぶつけるためだけに、ここまで来るなんて、本当に呆れる。

そう思った直後だった。

ふと、テーブルの上に置かれたグラスへ視線が落ちる。

飲みかけの水。

つい先ほどまで、真也がここにいたという証だった。

凛の表情から、わずかに苛立ちが消える。

感情に流される必要はない。真也が何を思っているのかは、もうどうでもいい。けれど――彼が自分の前に現れたことには、利用価値がある。

凛が真也の提案を受け入れた理由は、離婚届にサインをさせるためだけではなかった。もう一つ、別の目的があった。

英一の60歳の誕生日。そして、英治一家の帰国。

今回の祝いの席は、例年よりも大規模になるはずだ。そこには、西京市でも名の知れた家柄の人々や、その夫人たちが数多く集まるだろう。

これまでの経験から考えれば、真也はきっと自分を連れて会場を回り、親しい客たちへ紹介した後、いつものように夫人たちの輪へ置いていく。

以前の自分なら、その時間を苦痛に感じていた。けれど今は違う。その場に集まる人脈も、視線も、すべてが自分にとって必要なもの。

結華をもう一度立ち上げるために。

ずっと探していた宣伝の場が、自分から動かなくても向こうからやって来たのだ。

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