INICIAR SESIÓN足音が遠ざかっていく。
一度も、振り返る気配はなかった。「お嬢様は戻りました」
そう言われるまで、俺は土下座をしたまま。
既に謝罪をする相手は、居なくなっている。 だから頭を上げてゆっくりと立ち上がる。 額と膝には、床から伝わった冷たさが残っている。 先日よりもより、はっきりと。「出口までご案内いたします」
使用人に案内されて、屋敷の外へ。
彼の言葉は、以前より淡々としている。 屋敷の雰囲気が冷たく感じた。 丁寧だが、最初に来たときよりも距離があった。 出ると、扉は静かに閉じられる。 だが音が重かった。(終わった、のか?)
屋敷を出たタイミングでも、その実感がまだ起こらなかった。
拒絶された実感すらない。 それは、『帰りなさい』や『お引き取りを』って言われず、使用人にも物理的な行動をされず、追い返されなかったのもあるが。 扉から門へと向かっていく庭の間にある道。 太陽は完全に昇っていて、空は水色に染まっている。橙色は少ない。 陽光が俺の影を長く伸ばしていく。(謝罪、受け取ってもらえなかった)
ユリアナ嬢の言葉が、ゆっくりと頭の中で反響する。
『殿下は、わたくしに謝りに来たのではありませんわ』 『”安心したい”だけですわ』 『殿下、わたくしは”二度と捨てられない未来”を約束できない方とは、関われません』 はっきりと、俺に突きつけた言葉。 庭を歩いていく度に、足音と共に反響した言葉が何度も何度も。 正論であるが、ある意味断罪するような、冷たいもの。 でもそれだけ婚約破棄によって、ユリアナ嬢を傷つけた事になる。 明らかに俺が間違っていた。 時が戻れるなら、婚約破棄直前で俺を殴りたい。(俺は、許される前提で来ていた)
土下座をして、前世の事だけじゃなくて、全部を話した。
それで許されて、戻れると思っていた。 ゲームと同じような世界だから。 パワーの強い行動をすれば、ゴリ押せると。 でも結果は違っていた。 俺がしていたのは、謝罪ではなく、回復魔法。 壊れてしまった関係すらも戻せるような、ありもしない回復魔法唱えていた。 だからこそ、『謝ったから戻る』と思っていた。 ゲームにも存在しないし、この世界にもないが。「拒絶されたんだな」
罵倒もされず、感情もぶつけられなかった。
怒りでもない、失望でもない。 距離を取られ拒絶された。 俺が運営だったら、強制的に関係を戻せたかもしれない。 でもそうじゃない。 ゲームと同じであるが、セーブポイントに戻るということも出来ない。「殿下」
視線の先には、門の外でクレア嬢が待っていた。
俺を見て、何かを考えているようだった。 そのまま門を通って、ルイッツホーフ家の敷地を出る。 額には敷地を出た後で、擦りつけた額の冷たさと膝の痛みが少し残っていた。「クレア嬢」
彼女へ最後が聞こえないような声を出した。
「お疲れ様でした」
表情に感情は持っていなくて、ただ俺に話しかけただけ。
しかも王宮へ戻る道では、何も会話をしなかった。 俺は落ち込んでいたから、クレア嬢は考え事をしていたから。(ーーああ。俺は、まだ取り戻していない)
『殿下は、わたくしに謝りに来たのではありませんわ』
頭の中で響く声。
ユリアナ嬢が言い放った声、そっくりそのまま聞こえてくる。「こちらで問題ないでしょうか」
「ああ、大丈夫だ」
ルイッツホーフ家での土下座後、公務があるのでそのまま仕事を。
クレア嬢もいつも通りの補佐をしていた。 ただ、口数は少なくて空気が気まずかった。 彼女は門の前で待機していたはずだ。 確かに土下座を見たわけでもないが、戻ってきてからクレア嬢の様子が重々しい。 謝罪したことを知っている。 なのに、どうしてだ? それでも公務は進めないといけない。 王太子として必要な事だから。(許してもらえなかったな……)
公務をしていても、俺の中でその事が残り続けていた。
『”二度と捨てられない未来”を約束できない方とは、関われません』
その言葉が夕方になっても反芻していた。
ユリアナ嬢からは許してもらえなかった。という事実が残っている。 夜明けのくらいに謝罪をしたが、まだ立ち直れなかった。 夕陽が綺麗で空は橙色が大部分を占めている。水色は少しだけ。 綺麗なのに俺の心は曇っていた。 でも、『”二度と捨てられない未来”』、それさえ約束できれば、戻れるはずと思ってはいた。(ユリアナ……)
彼女の顔は見なかったが、どんなものだったんだろう。
冷たい言葉だったのだけは覚えている。「殿下、ちょっとよろしいでしょうか?」
突然、クレア嬢が話しかけてきた。
どうしたんだろうか。 俺達は誰もいない書庫へ行って、話を聞くことにした。「今朝、殿下はユリアナ様に謝罪をされましたよね?」
「ああ」
その確認から会話は始まった。
静かで落ち着いた言葉。 問い詰めている雰囲気ではなさそう。「許されたのでしょうか?」
「分からない。ただ、拒絶されたのは確かだ」
それだけははっきりと。
クレア嬢はため息を吐きながら、俺を見ている。「殿下は、許されると思って、行かれたのですね」
「そうだ」
「確かに私も上手くいくと良いって、言いました。で、殿下は何をおっしゃったのでしょうか?」
俺はクレア嬢へユリアナ嬢に俺が前世の記憶を取り戻した事や、前世から好きだったこと、そして婚約破棄が間違っていた事を伝えた。
驚いている様子だったが、受け入れていた。 特に前世の事なんて、クレア嬢は信じてもらえないはずなのにな。 空想過ぎるから。「そうですか。ですが、それは謝罪ではありません。ただの”確認作業”です」
クレア嬢はそれを聞いて、言葉は荒げていないが、はっきりとした怒りを見せていた。
「自分がまだ救われる側かどうかを、ユリアナ様に委ねただけです」
俺は何も言えなかった。
「殿下は、捨てたことを後悔したのですか? それとも、”捨てたのに戻らなかったこと”に動揺しているのでしょうか?」
また、何も言えなかった。
正論のボスラッシュだ。「あの方の痛みを、”自分が楽になるための材料”にしたことが問題なのです」
クレア嬢が言っている事。
正しかった。 何も言い返せない。(ユリアナの気持ちじゃない。”俺が救われるかどうか”しか見ていなかった)
彼女は”未来”の話をしていたんじゃない。
”覚悟が無いまま来るな”と言っていたんだ。「殿下、全部正しいことをしているつもりですよね」
クレア嬢は一瞬だけ黙った後に、口を開く。
「ああ」
それに対して返事をした。
「だからズレているんです」
突き刺さるような言葉。
クレア嬢の目線も刺さるようだ。(順番を間違えた。なら、次はーー)
同じやり方は、もう選ばない。
「それよりも、どうして殿下は”土下座”をしたのですか?」
さらにクレア嬢は言葉を続けた。
彼女は拳を握って、わなわなと震えている。「あの、それはーー」
「殿下はありえないことをしたんですよ!?」
クレア嬢は一気に声を荒げる。
やはり見ていたのか。「しかもあれは、”あなたの国”の謝罪方法です! この国ではしません! どうしてそれを行ったんですか!?」
荒げた声。
今まで聞いたことの無いような感じだ。「俺の中では、それが最も強いものだと思っていた」
「強いもの、だからそれはあなたの国で行うことだからです!」
クレア嬢は俺を刺してくるように暴走している。
「ユリアナ様には、言葉や頭を下げるといったことで、問題なかったのでは!?」
確かにクレア嬢が言っている事も正しい。
あの”成功例”と同じようにやったはずだ。 なのに、現実は違う。 ユリアナ嬢は土下座を知らなかった。 確かに謝罪の意志は伝わっていたが。「なのにどうして」
怒りを通り越して呆れながら、俺を見ている。
クレア嬢が怒ったのは、土下座をしたことに対してのようだ。 あれ?「クレア嬢、どうして”土下座”を知っているんだ?」
俺はふと気になったことを質問してみた。
すると、一瞬だけ動揺していた。「そ、それは」
クレア嬢の声が震えている。
落ち着かせようと、軽く机の端を叩いていた。「君に土下座という言葉を言っていない。なのに、君は土下座って言っていた」
しかもこの世界において、土下座という謝罪方法は誰も知らないはず。
なのに知っているって、どういうことなんだ。「それは……本で読んだことが」
わずかに間を置いて、そう答えた。
だが、その言い方に妙な引っかかりを覚えた。「本で読む、か」
この世界にそんな謝罪方法があるとは思えない。
それにーー彼女の反応は、”知っていた”というより、”見慣れていた”ようだった。「じゃあ、”スマホ”って言葉は?」
試すように口に出した。
一瞬だけ、クレア嬢の視線が揺れた。 ーー確定だ。「……やめて」
ぽつりとその一言を口にした。
クレア嬢は頭を叶えながら、疲れた笑みを見せる。「やっぱりな。君も、こっち側か」
そう言うと、クレア嬢は観念したように小さく息を吐いた。
「君ももしかして、転生したのか?」
「……はい。殿下と同じように」
やはりか。
というか、”土下座”で発覚するなんてな。 だから知っていたのか。「何だろうな。転生した人に出会ったのって、不思議な繋がりだな」
「それ、言わないでください」
苦い顔で、そう言った。
「こっちも同じ気分だから」
はにかみながら、疲れた表情をしている。
クレア嬢に怒りの表情は無くなっていた。 転生バレで、それどころじゃ無くなったかもしれないが。「ゲームのヒロインになれて、王太子と結ばれると思っていたのに」
確かにそうだよな。
その姿って、ヒロインだから。 あのゲームの主人公って、ヒロインだったし。 レオポルドは攻略対象だったから。「ユリアナと婚約破棄したから、これで結ばれると思ったら、謝罪するなんて……」
完全に呆れていて、クレア嬢も狙っていたんだなって思った。
ヒロインだからそうなるよな。 王太子と結ばれるのが、ハッピーエンドの一つだったから。「謝罪をするのも良くなかったのか?」
「そんなことはない、と思いたいだけれどね」
乾いた笑いを見せるクレア嬢。
やっぱり嫌だったんだな。 ハッピーエンドフラグが立ったのに、折れようとしているからな。 それでも、クレア嬢は背中を押そうとしていた。 謝罪が成功するのも祈っていた。「だけどそれで殿下とユリアナが幸せなら、私は我慢しようかなってね」
よくあるのは、何が何でもハッピーエンドを狙うっていう感じなのにな。
俺を言いくるめたり、惚れ薬を使ってたりして、結ばれようするとか。 でも彼女は違っていた。 それでいいんだ。 気持ちを押し込んでいるだけかもしれないが。「まあ、攻略対象はまだいるんじゃないのか?」
「うるさいって」
はにかみながらクレア嬢は、そう言い放った。
そしてクレア嬢は一瞬だけ視線を落として、言葉を続ける。「私も同じ事をやりましたから」
再び困った顔で。
視線をどこか遠くに向けて。「分かってるつもりで、全部選んで」
軽くため息をついた。
「それで、全部外しました」
「ついにこの日ですわね」「ああ」「来ちゃったか」 あの王室会議から一年後。 王宮にある礼拝堂、そこで俺達の結婚式が行われていた。 出席しているのは陛下《父上》、ペテル、デメルジス宰相、レーナなど数えれば30人もいないであろう。 かなり簡素なものだが、温かさははっきりと感じる。「俺は、これから二人を一生幸せにすると誓います」 白い軍服に身を包みながら、参列者に対して宣言する。 続いて指輪を手にして二人の前へ。「わたくしも、殿下と共に歩むことを誓いますわ」 ユリアナ嬢は純白に近い優美なドレスに身を包んでいる。 そんな彼女の薬指に一つ目の指輪をはめていく。「私も殿下の側にいられることを、幸せに思います」 クレア嬢は柔らかい淡い色のドレスを着こなしていた。 続いて二つ目の指輪を彼女の薬指へ。「レオポルド、誓ったからには、必ず二人を幸せにするように。これからが大変だからな」 父上は静かに頷いて、短い祝福の言葉を述べていった。 会場は拍手に包まれていく。「盛大な式じゃなくても、十分ですわね」 式が終わって、俺達はゆっくりと庭園を歩いていく。 庭園の花々も祝福してくれるようだった。 軍服やドレス姿のままだが。「ええ。私も、こうして三人でいられるだけで、隣に立てるだけでもう十分だと思えます」 俺は二人の手を握って、静かに笑った。「これでいいんだ。完璧じゃなくても、俺達は三人で生きていく」 小さな式ではあったが、その選択はすでに王国中に広まり、誰もがこの結婚を見守っていた。「まだ慣れませんわね、この席」 執務室には俺とユリアナ嬢とクレア嬢の三人で公務をしていた。 ユリアナ嬢が少しだけ愚痴《ぐち》を。「お疲れ様ですわ」 それでも彼女は微笑みながら、作成を手伝っていった。「ありがとう」 感謝を伝えながら、次の書類の作成を。「これは、どう思うんだ?」「そうですわね」 意見を求めると、ユリアナ嬢は彼女の考えを述べていった。 それを聞きながら、公務に活かす。「クレア様、頑張っていますね」 資料を持ってきながら、クレア嬢がにっこりとしていた。 続いて作成が終わった書類を片付けていく。「貴女もね」 ユリアナ嬢が彼女を見つめながら、優しい笑みを。 クレア嬢はいつものように肩を揉んでいく。「丁度良いな」 固まっ
翌日の昼下がり。 離れの庭園の見える応接室へ、ユリアナ嬢とクレア嬢を呼んだ。 一昨日の夜とは違って、くっきりと応接室からは庭園の花々が見えていて、見飽きない場所。「レーナ、今日は君が見届けるんだな」 二人がやってくる前、レーナが紅茶を用意していた。 侍女なのもあって淡々としているけれども、色々と考えているようだった。「はい。陛下よりご命令がございましたので」 宰相よりも話しやすいのかもしれない。 変なことも言わなそうだから。「お待たせしましたわ」「殿下、今日はどんな話し合いをするの?」 やがて応接室へ二人がやってきた。 落ち着き払っていて、微笑みのまま部屋の中へ入っていく。 レーナは部屋の端に立って、様子を見守る。「座ってくれ」 ユリアナ嬢とクレア嬢は隣り合うように。 俺は向かい合う形でソファに座って、話し合いが。 ただ、座った瞬間に言葉が交わされず、少しの間沈黙が応接室に流れていく。「婚約の事が片付いたわけなんだが」 それを破るように、俺はゆっくりと口を開いた。 何だろうな、少しドキドキする。「ユリアナ嬢。約一ヶ月前、俺は君の完璧さに耐えきれず、婚約を破棄してしまった」 まず俺はユリアナ嬢に向けて言葉を。「申し訳ないことをしてしまった」 深く頭を下げて、ユリアナ嬢に謝罪する。「恥ずかしいことだが、破棄してから後悔が起こった。しかも、前世の記憶を取り戻す形という、誰にも信じてもらえないような状況で」 二人は口を挟むことなく、静かに耳を傾けていた。「俺はやっと君への愛を感じることが出来た」 少し上を向いて、謝罪のための講習を行った事を思い出す。「君の完璧さに想い、それを受け入れられた」 ユリアナ嬢への気持ちを伝えた後、彼女は口を開く。「わたくしもですわ」 たった一言だけれども、何倍も伝わってく
「終わったな」 会議が終わって、王族や貴族達がそれぞれ会議室を後にする。 俺も会議室へ出ると、緊張が解けて安堵感が身体を包んでいく。 大きく息を吐いて、さっきまでの重さを身体から出していった。「二人の婚約者が認められるなんて」「これから大変になるぞ」 廊下で貴族達がひそひそと噂話をしていた。「婚約の問題は解消した。あのお二人ならお似合いだろうな」「そうかもしれない。無事に婚姻まで進めるだろうか」「再び破棄なんて事にならないといいが」 賛同する意見や懐疑的な意見が飛び交っていて、評価は分かれているみたいだ。 当然だろうな。 ユリアナ嬢とクレア嬢を選んだから。 ただ、俺への視線は冷たいものから畏敬の念を覚えたものであった。「これで、やっと始まるな」 俺は少し前に出た二人にそう言葉を告げる。「ええ。これからですわね」 笑みを見せながら、頷くユリアナ嬢。「おめでとうございます、殿下」 軽く拍手をしながら、はにかむクレア嬢。 俺は廃嫡の危機を乗り越えたのであった。「さて、本日は失礼いたしますわ。再びよろしくお願いいたしますわ」「ああ」 ユリアナ嬢は微笑みを見せながら、王宮を後にした。「私、今日の分の残った書類を片付けてきますね」 続いてクレア嬢も、先に執務室へと向かっていった。 にっこりとしたまま廊下を歩いている。「殿下、お疲れ様です」 レーナが駆け寄ってきた。 会議には参加していないが、気になっていたのだろう。「ありがとう」 笑みを見せながら彼女に返事をする。「無事に終わりましたか?」 心配そうにしながら、会議の結果を確認してきた。「ああ。無事に終わったよ」 俺は簡単に返事をする。 すると、レーナの目には涙が浮かんでいた。
話し合いの翌日午後、再び会議室にて王室会議が開かれた。 出席者は昨日と同じような感じ。 ただ、人数は多い気がする。 貴族達の俺を見る目は冷たくて、劣勢を始まる前から感じさせた。「これより、王室会議の続きを行う」 陛下《父上》が宣言をした。 とうとう始まったな。 重々しい空気が会議室に広がっている。「本日は、王太子レオポルドの婚約問題に関して、最終的な判断を下す事になる」 宰相の言葉で、今日の概要《がいよう》を説明していた。 これしかないだろうな。 オリエッタ嬢は扇子を口元に隠して、空気感をものともせず微笑みを維持していた。 続くようにアルマータ派の貴族達は優越感《ゆうえつかん》に浸っている。 俺が負けると思っているんだな。「最初に、よろしいでしょうか?」 オリエッタ嬢が立ち上がって、笑みのまま俺を凝視した。「何だ。申してみろ」 父上が発言を許可した。「殿下の私情は、王室の信頼を大きく損ないました。偽装の婚約を行い、ユリアナ様との再縁も過去の破棄を無視ししたもの。王太子として相応しくありません」 オリエッタ嬢は俺を口撃して、信用を落とそうとしていた。 今って、格好の状況だからな。「国益を無視した私情優先は許されん」「外交にも影響が出る」「王太子としての自覚はあるとは言えないな」 アルマータ派の貴族達が同調して、俺を批判していた。 誰もが睨《にら》み付けるような目をしている。「年少であるがペテル殿下の方が良いかもしれないな」 弟の名前まで出してきた。 俺よりも弟の方を王太子にするつもりなのか。「私でしたら、殿下を支える覚悟がございます」 オリエッタ嬢は、自薦して俺と彼女と結ばれることを誘導しようとしていた。 この王室会議の場にて、反論できないように。「国を第一にお考えください」 念を押すように、
夜になって、俺は王宮の離れにある小さな応接室へとやってきていた。 ここは庭園に面していて、室内から花々を眺めることが出来る。夜なので暗くて庭園はあまり見えないが。「クレア嬢もユリアナ嬢もやってくるよな」 陛下《父上》が招集している。 来ない理由は無いだろうな。 緊張しながら、彼女達がやってくるのを待つことにした。「父上は来ていないな」 果たして来るのだろうか。 それとも。「殿下が先に来られていたんですか」 クレア嬢がやってきた。「ああ」 肯定の返事をすると、クレア嬢は微笑んだ。「丁度良いですね。会議後に言った講習内容は出来ましたか?」 最後の講習か。 ユリアナ嬢に想いを伝えるっていう事だったな」「まだ完全には」「そうでしょうね 俺が答えると、はにかみながら俺を見つめた。「このタイミングですから、伝えてくださいね」 やはりどこか寂しげな様子を見せ、教えていった。「これで私の講習は終わりです」 短かったかもしれないが、本当に再縁が出来そうなところまで来た。 正しかったのかな。「ありがとう」「いえ、殿下の力ですよ」 クレア嬢は軽く頷いた。「殿下にクレア嬢、お早いですね」 次に部屋に入ってきたのは、宰相のデメルジスだった。 ポットを手にしながら。カップは既に人数分、応接室の机に置いてある。「宰相閣下が立ち会うのでしょうか?」「そうだ。陛下ではあまり話せないかもしれないという、ご配慮だ」 宰相でも、重々しくなるかもしれないが。 考え方によっては、ほんの少しだけ軽いのだろうか。「心配しないでくれ、私はただ聞いているだけ。後で陛下に報告するが」「分かりました」 余計に緊張するよな。 深呼吸をしながら、ユリアナ嬢が入ってくるのを
この日の王室会議は終わった。 クレア嬢との仮の婚約に関しては、ほぼ破綻《はたん》することに。 こうなるのは分かっていたが。 それでも、ユリアナ嬢に対する想いは、王族や貴族達に伝えられたはずだ。「ふぅ」 大きく息を吐いて、会議室を後にした。 貴族達は俺と距離を取りながら、出て廊下を歩いていった。 アルマータ派に関しては、廊下の端でひそひそと噂話《うわさばなし》をしていた。「レオポルド殿下の王太子の資質に関しては、大きく疑問符がついたな」「私情優先にするなんて。許されないことだ」「ユリアナ嬢と婚約を破棄してから、様子がおかしくなっていたが」「破棄したのに、再縁を選ぶとはな」 俺に聞こえるか聞こえないかの音量で、話している。 こっちをチラチラと見る目は、ゴミを見るような感じで、敵意を見せていた。 俺はオリエッタ嬢を選ばない王太子だからな。 再びため息をついて、廊下を歩いていく。(間違っているかもしれない。それでも) そう思うことにしたが、手は少し震えている。 中立であろう王族や貴族に、呆れたような表情をして「終わったな」という空気を出していたからか。 王太子の座を捨ててもいいと言ったからか。 大きな事を言ってしまったな。(それでも、オリエッタ嬢を選ぶつもりはない) だが、後悔していない。 むしろこうなったら、突き通すしかないから。「殿下、お疲れ様でした」 後ろから、クレア嬢がやってきた。 笑みを出しながら、俺を見つめていた。「ああ」「良かったです」 クレア嬢は笑みのまま、思ったことを打ち明けていた。「ありがとう」「私、ちゃんと役に立てましたね」 瞳を軽く閉じて、軽く息を吐いていた。「そうだな」 彼女のおかげで、一旦は最悪の状況は逃れられたと思う。「これで終われますね







