LOGIN「天馬が助けを求めている。誇り高いあいつがこのような弱弱しい風を吹かせてまで呼んでいるということは、天馬は今自分では何もできない状態だと言うことだ。あいつが優先するはケンタウロス。ケンタウロスが滅びかけていて何もできない状態を見過ごすことはできない。だから助けてくれと、呼んでいる」 サーラは苛立ったように言った。「いい、この風を追っていけば神殿に辿り着けるだろう。シンゴ、行くぞ」「こ、この広い草原の、彼方北にある神殿に、二本足で行くと言うのか?!」「サーラ……正体ばれまくって、どうすんだよ」「天馬が必死で助けてくれと叫んでいるのだ。ケンタウロスの守護も出来ぬ己を不甲斐なく思い、私に頼む風が吹く。助けてくれと。来てくれと。恐らく封印されて、風を飛ばすのも精一杯、……敵対勢力にこの風に気付かれれば、自分の居場所すら告げられなくなる。ケンタウロスをのんびり説得している間はない。シンゴ、雲を出せ。あれなら道も迷わず一直線にこの草原を飛べる」「ま、待て待て待て!」 パールトさんが慌てて口を出してきた。「守護獣がヒューマンとエルフとドワーフとフェザーマンを連れて、ドワーフの守護をおいてこんな所まで来ているというおかしい話が……」「シンゴ、いや」 サーラは言った。「我が主たる生神よ。神子の頼みを聞いてほしい。我が朋友と、朋友が守護する種族を救うため、神具、自在雲と導きの球を使ってくれ」 俺は溜め息をついた。 ここまで焦っているサーラは初めて見る。同じ守護獣で仲が良かったのであれば、救いたいと思うだろう。 助けを求める人を助けられる人間に。 それが、おじさんの言ったことだった。 だから、俺は。 もももももっと空間から出てきた雲に、ケンタウロス三人が目を丸くした。「生神、だと?」 パールトさんが呟いた。「世界が滅亡する時再生するために降臨する生神が? 守護獣を連れ?」 俺はもう一個、導きの球も引っ張り出し、自在雲の真ん前に置く。「導きの球よ、天馬の居場所を告げろ!」 ほわんと水晶球に宿った光が、真っ直ぐ北を指した。「それってそうやって使うものなんだあ」 ミクンが感心したように言った。そう言えば前に空から落ちてきた大人のアウルムを救う時使ったっきり、後で見せてやるって約束してたっけな。「グライフ、君も乗ってくれ」「ぐる?」「君の
カルさんとパールトさんは、勢いに押されて頷いたものの絶句している。そりゃ、いきなり守護獣とか言われてもそりゃ信じられんよな。でも恐らく成人の旅に出る前に自分たちの守護獣を会っているらしいから、ケンタウロスでもないのにその正体を知っているのは守護獣か神だけとなるんだから。……俺は神だけど例外だな。「ケンタウロスの方々に、我らが神殿に征くことをお許し願えまいか」「いいや、それは……」「気配がそう言っているのだ、我らは従うのみ」 そう言ったのはプフェーアトさんだった。見ると、サーラに向かって膝を折っている。ヘルプ機能の豆知識で、ケンタウロスは信頼した相手にしか膝を折らないって出てたな。背中に乗せて、それで何か分かったのか。「大地の民の守護獣よ、我らの代わりに神殿の無事を確認してはもらえまいか」「プフェーアト!」「ケンタウロスは三度、神殿には行けない。パールトはダメだ」「我はどうするのだ」「カルは行ける。だがカル、お前はこの方々を信頼してはいないだろう」「当たり前だ。唐突に守護獣など……守護獣とは獣。人の姿をしているではないか」「守護獣ならば人の姿も作れよう。そして、サーラ様が大地と炎の守護獣であるのならば、風と大地……同じ属性を持つ我らが守護獣を知っていてもおかしくはない」 あれ? サーラってケンタウロスに会ったことがないって言ってたような?「ケンタウロスにはな」 心の中を読んで答えるのは声でも意思でもやめて欲しい。「天馬とは仲が良かった。我らは積極的に人間と関わる方針だったから、私がドワーフの、あいつがケンタウロスの守護獣として人界に降りると決めた時に別れを決めた。ドワーフとケンタウロスは同じ大地でも岩と草原。交わることも難しいだろうと、袂を分かった。六千年ばかり前のことだ」「その聖地が荒らされていて、天馬が封じられている可能性もあるのだ。守護獣は封じられていても守護する人間に恩恵を与えることができる。あいつは弱っている」 サーラは彼方を……神殿があると言う方向を見た。ひゅう、と風が舞う。「風が助けを求めている。私がここにいることに気付いている。早く来いと」 ぽつり、サーラが呟いた。「風の声が聞けるのか!」「ケンタウロスでも滅多に聞けないと言うに?!」「だから言っているだろう、守護獣と」「気配が言う存在だ
「減っていくって」「ケンタウロスは成人の旅を終えないと仔を残すことができないのだ」 俺はひゅっと息を飲んだ。 それじゃあ、ケンタウロスは種族の存続の危機に晒されてるんじゃないか。「神殿に調べに行こうとか、考えなかったんですか?」「ケンタウロスにとって使命と神殿は絶対だ。気配もないのに神殿に行くなど……」「ケンタウロスさんって、神様の声が聞こえるんだね」 それまでグライフの上で黙って話を聞いていたアウルムが口を開いた。「ほう? フェザーマンにそう言われるとは思わなんだ。神の声を聞けると言い神に愛された種族と言うフェザーマンが」 パールトさんの言葉には明らかに皮肉が隠されていた。フェザーマンの話を色々聞いているんだろう。旅を終えて戻ってきた大人なら。 だけど、アウルムは気付いた様子もなく続けた。「わたしには神様のお声は聞こえない。でもケンタウロスさんたちは、神様の、やっていいとか、やっていけないとか、そう言う声を聞けるんだね。すっごい。すっごい。すっごいよ」 皮肉に気付かれず真っ直ぐに返されて、パールトさんは複雑な顔をした。「神殿って、どんな形をしているのか、それを教えてくれないか?」「……洞窟だ」 しばらく悩んだ後、パールトさんは言った。「教えてくれるんだ。……もしかして、気配?」「……ああ。全員に帰草の気配がしてから、気配が吾輩たちに下ることはめっきり少なくなった。ケンタウロス狩りが起きて、それでも気配はしない。だが、唐突に、気配がしたのだ。吾輩たちが、お前たちに頼らなければならないと言う気配が。だから話した」「ケンタウロス族の守護獣は?」「風と大地の守護獣、天馬」 俺の問いにすかさずサーラは言った。「ケンタウロスたちに気配がしなくなったのは、恐らくは飽きた日だ。神がモーメントを見捨てると決めた日。だが、守護獣は残っている。天馬は恐らくは神殿で、封じられている」「何故それが分かる!」「私が守護獣だからだ」 サーラはあっさりと言った。「岩と炎の守護獣、火蜥蜴」「おい、サーラ!」「天馬はまだ在る」 真剣な声で、サーラは言った。「気配は、天馬がケンタウロスに与えた恩寵だ。それが我々が
三人は端末の画面をまじまじと見つめていた。「この辺りはプレアリーの縄張りだ」「ここは雨季に川が出来て、洞窟などない」「ここは一面草原で、建物などない」 ていうかこんな草原にケンタウロスの住む建物あるんだろうか。見た限りないんだが。 こっそり頭の中でヘルプ機能を展開。端末に出たらどうしようと思ったが。ちゃんと頭の中に出てきた。【ケンタウロス族は基本屋外で立って眠る。雨季などは水に浸からない高地を縄張りとして選ぶ】 サバンナみたいなもんかな? サバンナにいるのはシマウマだけど。ていうかほんとケンタウロスは本能のままに生きてる。ある意味理想だなあ。自然と共に生きている、か。そう言う人間なんだな。「ん? ここは……」 パールトさんがふと指を止めた。「プフェーアト。この辺りは……」「……ああ。だが、まさか」「どうしたんです?」「ここはケンタウロス族は滅多に近付かない場所だ」 パールトさんは、北の果てを指した。「何で近付かないんです? 戦争でもあったとか……」「いや、逆だ」 カルさんが首を横に振る。「ここにあるのは、我らが神殿だ。ケンタウロスの守護神と守護獣が共に奉られている。だが、ケンタウロスがこの神殿に行けるのは一生のうちに、二回だけだ」「……成人の旅?」「何だ、知っているではないか」「いや、彼女が」 俺はレーヴェを指した。「成人の旅をしているケンタウロスに昔出会ったと言っていて。それを覚えてただけ」「では、一から説明せねばなるまいな」 カルさんはこほんと一つ咳払いして、語り始めた。 曰く。 ケンタウロスは、成人に認められたその日に、『我らが神殿』へと向かう。ケンタウロスには誕生日や成人と言う感覚はないのだが、あの気配で自分が親元から離れる時が来たと知る。そして神殿へ向かう。ケンタウロスはその日を迎えるまで神殿の場所を知らないが、あの気配がケンタウロスを導くと言う。神殿でケンタウロスはこれからもケンタウロスとして生きていくと誓う。そうすると、神から使命が与えられるのだ。使命の内容は、与えた神と、受けたケンタウロスしか知らない。ただ、その使命を「成人の旅」と呼び、世界を駆けて使命を果たし、再び神殿に戻る。そうして、ケンタウロスは成人と認められて草原に戻れるのだ。「じゃあ、三人とも成人の旅を……」「い
パールトとカルが不思議そうな顔をしている。いけねえ、俺が異世界から来た生神ってのは内緒だったのに監視員がいなくなった途端に口から出てしまった。「お前の国に馬はいないのか?」「いない。ケンタウロスもいない」 背筋に疲れとは別のイヤーな汗が流れるが、カルに向けた顔は笑顔だった。これを人は演技と言う。「馬は高貴な生き物だから、俺には乗れなかった」「なるほど」「お前の国は我らの血を尊んでいるのだな」「うん、まあ、そう」 そう言うことにしておこう。「道理で乗り方が慣れていなかったわけだ。プフェーアトの背から落ちぬか、心配したぞ」「ハハハ……」 笑う笑う。笑ってごまかせわっはっは。「で、サーラとプフェーアトさんは何処まで行ったんだろう……」 彼方を見ると、凄まじい勢いで向かってくる影。「おお、戻ってきた」「プフェーアトにしては早い。背にいい女を乗せればよい所を見せざるを得んな」 サーラはねー、やめといたほうがいいですよー? あの人頭に来るとこの草原全体丸焼けにだってしちゃうんですからー。フェザーマンの翼だって焼き尽くしちゃった人なんですからー。てうかサーラって本当に女かー? 確か最初に会って名前つけた時、サラマンダーかー、じゃあサーラだなー。でもサーラって女の名前だっけー? とか考えながらつけたから女の姿になっただけで、本当はどっちでもないみたいなことを言ってた気がするよ。 これ以上考えたらこわいことになってしまうのでやめておこう。 サーラを乗せたプフェールトはすごい勢いで走ってきた。 俺たちの前で華麗に止まって見せる。動から静へ、一瞬で切り替えるその早業お見事。「早かったな」「サーラ殿が羽根のように軽いからだ。何も乗せていないようだったぞ」 ……多分浮いてたな。浮けるからな。「シンゴ、考えてないで地図を出せ」「はいはい」 ……考え読んでたな。今はそれどころじゃないから心の中で俺に突っ込んでこないだけだな。それはそれでいいけどな。 俺が取り出した端末に、サーラは指を伸ばした。「現在地がここ」 ぴ。と真ん中に印が入る。「で、プフェールト殿の言う「巨犬木と奥の岩を並足で」と言う時間から考えられるのは、この辺り」 真ん中の印を囲むように、神にしか使えない端末に円を描く。「で、ここから来たから、この近辺は候補から外される
なるほど、ケンタウロスが俺たちを簡単に連れてきた理由が分かった。 ケンタウロスは野生動物に近い。本能で、目の前の事態が自分たちで対応できるかどうか、誰かの助けが必要か、必要になる誰かは誰か、読み取ることができる。だから、最初敵だと疑っていた俺たちを素直にここまで連れてきたんだ。 ……恐らくは。敵対勢力もその本能からケンタウロスを魔獣化させる相手に狙ったんだろう。 魔獣化したケンタウロスを見た限り、ほとんど敵対勢力の命令と本能しか聞かない獣と化していた。人間の武器である知恵はそこでは出せない。だから、ケンタウロスの予知にも近い本能……危険察知能力とでもいうものに目をつけた。目の前の敵に勝てそうなら攻めるし、負けそうなら特定の命令された場所まで退却する、それくらいの本能と知性があれば十分魔獣化しても役に立つ。 ……ほんっとムカつくな、敵対勢力。 考えに浸っていると、上下の揺れが少なくなった。「俺のことは気にしなくていいから……」「いいや、違う。着いた」「着いた?」「オレたちが捕らえられたところだ」「え、もう?」 ゆっくりとスピードを落とし、立ち止まる。 見下ろせば、無数の蹄跡。 混乱したケンタウロスたちが逃げ回ったんだろう、蹄の跡は滅茶苦茶で、あちこちに逃げ回ったんだろう。「次に、プフェーアト殿」 俺を乗せていたプフェーアトがサーラの方を見る。「並足の速さで、あの時言った距離を今から歩いてくれないか? ああ、シンゴは降りろ。速度が変わる」 馬の背から滑り降り……。 そのまま座り込む。「うおえ?」「どうしたシンゴ」「すげー……」 乾いた笑いが起きる。「すごいって何が」「足、立たねー……」 膝は笑うし太ももは震えるし足首は力入らないし。神様ってのは疲れたりしないんじゃないのか? 馬に乗るのが苦手そうなヤガリだって、しゃんと立っているのに。「お前の世界に馬はいないのか」 お前自転車乗ったことないの的に言われて、俺は笑うしかなかった。「いるよ? いるけど、お金持ちしか乗れないんだよ。乗馬って上流のスポーツだし、競馬で乗るのは選ばれた騎手だけだし」「馬なんて、何処にでもいるのに……」「だからいないんだって。少なくとも気楽にちょっと隣行ってくるわ馬借りるね的な馬はいない。だから、俺の生まれた国で馬に乗ったことがある人