LOGIN俺を育ててくれたおじさんも言っていた。困っている人がいて、今自分が助けられる状態にあったら可能な限り助けなさいと。それはいずれ回り回って自分の所に帰ってくるから。ただし、見返りを求めて助けた途端に、それは意味がなくなるとも。 俺はおじさんのその言葉を胸に刻んでいる。 あの日、シャーナさんが世界を救ってくれと言って、この手に救う力があったから、俺は世界の【再生】を決めた。 エルフが、ドワーフが、ヒューマンが、助けてくれと言ったから救ってきた。 それだけのこと……なんだけど。『だが、理不尽にも遭っている、そうだろう?』 ……確かにな。 ビガスの人々は、俺の力を見て明らかに怯えていた。 エルフの長老は、あからさまにドワーフやヒューマンを蔑視している。 ここは決して理想郷ではない。 だけど。 この世界を救って、みんなが仲良くなれれば……もしかしたら、この世界は、理想郷になれるかもしれない。 誰も、理不尽に悔やむことがないように。 皆で、幸せに生きていける世界に。『お前の本当の望みは、皆が理不尽に遭わず幸せに生きられる世界か』 火蜥蜴に言われて,ようやく俺が本当に欲しかったものを探し当てた。 俺が目の前で両親を亡くした時のように、理不尽に大事なものを失わずに済むこと。 人間はいずれ死ぬ。世界はいつか滅び、神と呼ばれている俺もいつかは消えるだろう。 だけど、理不尽で大事なものを失わずに済む世界ならば、創れるんじゃないかと。 俺はそう思ってたんだ……。『それは困難な道だぞ?』 火蜥蜴は笑い含みに言う。 分かってる。 エルフとドワーフのように種族間で諍いを起こしている人たちもいる。 このまま俺が強くなっていけばビガスの人々のように俺は怯えられる存在になるだろう。 でも。 レーヴェとドワーフが少しでも分かり合えたように。 原初の神殿で守られている子供たちのように。 困難な道だけど、決して不可能ではないはずだ。 俺はそう思う。そう信じている。『甘いな』 甘いかな。いや甘いな。すごく甘い。 だけど、それが俺がやりたいことだった。『そうか』 そうだ。 ……って、いつの間に俺は頭の中で火蜥蜴と会話してたんだ?!『全く、生神は疎い』 どんくさいって言われちゃったよ……。『では、我はお前の神子となろう』「え?」
ゲーム好きな友人が見せてくれた本の中に出ていた、炎の精霊、火蜥蜴。 炎の守護獣だ。 蜥蜴にも小竜にも見える火蜥蜴は、ちろちろと火を吐きながら笑う。『なるほど、無窮山脈も随分と力を失ったようだ。我の力を受け取りながらも炎水を神鉱炉まで上げる力がないのだね。もう少し我の目覚めが遅ければ……』 火蜥蜴は俺をチラッと見た。『このまま炎もろとも我が消え去ったか、あるいは我を封じる力が暴走して無窮山脈を巻き込んで噴火したか。どちらにせよ世界の破滅が一層早まったであろう』 いや、どちらにせよって言っても選択肢によってはエライ違う結果が出るぞ?! 火山が休火山になってそのまま力を失ったならゆっくりとした滅びだけど、この無窮山脈が噴火したら文字通りとんでもないことになってたぞ?! 少なくともドワーフは全滅。この規模の火山だったら下手すれば森エルフの聖域まで噴煙が届いて火が陰り、世界中暗くなっていたかもしれない。 まさに黙示録の世界だ。「……とりあえず俺的には世界滅ぼしたくないんで、目覚めてくれて嬉しいです」『くくく、眠りにつく時は、二度と目覚めることのなきようにと願ったものだが……嬉しいと言ってくれれば我も嬉しい』 その声は、耳に届くのではなく、直接脳みそに伝わっているようだ。『さて、ここまで炎水が失われれば、文字通り無窮山脈も終わりを迎えかけているわけだが……生神よ、お前はどうしたい?』 へ?『我は人間とは違う。神の力を継ぐ炎の守護獣。故にお前が何処から何故に来たかも知っている。何処かの世界での生を全うし、その心が認められて神としてこの世界に来ることとなったのだろう?』「知ってんの?!」『知っているとも。神とはそうして世界を訪れ、救うもの』「じゃあ、俺がいた世界にも神はいる……あるいは、いた、のか?」『ああ、そうだとも。神のいなかった世界はない。神を決める存在が何者か迄は知らぬが、かつて生きた世界でかくありきと望んだ世界を、呼ばれた世界で創り上げるのだ』「じゃあ……なんで生まれた世界じゃできないんですか?」『我を生み出せし神は言っていた。己が生まれた世界であれば、必ず邪心が入っただろう、生前の心を失くさない限り世界を平等になど扱えぬと』 なるほど……確かに。 俺は真面目に生きてきたつもりだけど、嫌いな奴もいたし苦手な奴もいた。もしそ
……いや。 ぼこっ。 ぼこっ、ぼここっ。 何かが沸き立つ音。 そして、見通しの眼鏡を使っても歪む視界。 これは……。 少しずつ向こうが白く見える。 眼鏡は視界の邪魔をしない。 遠くを見るスキル【遠視】でじっと目を凝らすと、炎水路の果て、赤く白く熱を発する空間があった。 その真ん中には、黒い岩で造られた神殿。 周囲の溶岩が神殿を守るように取り巻いている。 守護獣の居場所はあそこか? 自在雲で行けるか? とりあえず雲の進行速度を遅めて、少し溶岩から離れるように上に浮いた。 神衣がなければ、今頃熱死していたかもな。自在雲も神具じゃなけりゃ蒸発してたかも。 そっと溶岩の上を通りかかると、突然熱が渦を巻いた。 なんだ? 見回して。 溶岩が高波のように伸びあがって四方からこっち目掛けてきている! やべぇ、どうしよう、何か使えるか、俺の防御魔法は木壁だけだし、いや、水流もあるなでもあれは攻撃だしいやそれを防御に生かせばとりあえずどうにかしなければ!「水壁!」 自在雲に乗った俺の周りに水の膜が張り巡らされ、突き抜けてこようとした溶岩と同士討ちして黒い岩と化した。「た、助かった……」 と思って、思い直す。「白き神衣って、炎からも守ってくれるんだっけ?」 咄嗟の新防御魔法が出来たけど、意味がなかったらしい。「ま……まあ、自在雲がヤバかったかもしれないし、これはこれで」『これはこれで、ではないだろう?』 凛とした声が届いた。 男か? 女か? どちらともとれる不思議な声。『焦って力の無駄遣いをしたのは間違いないだろうに』「いや、分かってるけど、とりあえず納得させなきゃね」 誰とも知れない相手に言い訳して、そして俺は慌てて顔を上げて目の前の神殿を見た。「もしかして、あんた……炎の守護獣か?!」『だけど、ここまで来れる力の主がここへ来たということは、我が目覚めなければならない時が来たということだろうね』 敵意がないようなので、神殿の床に降りて自在雲を戻した。 熱気は神殿の奥から発せられている。 俺は恐る恐る前進した。 神殿の一番奥に、炎を球にしたような珠が捧げられていた。 そういや、俺が落ちてきた原初の神殿も、そっくりな形してたような……。『もしお前がここへ来られる力の主ならば、こ
マントを羽織って、神鉱炉の上に立ち。 透過するイメージを持つ。 すると、すーっとエレベーターで降下していく感覚。 ……真っ暗。 そりゃそうか、岩の中だし、光もないし。 一応眼鏡はかけているから、見下ろせば炎水路と呼ばれる炎水を導く水路は視認できるので、無事に辿り着けはしそうだ。 今のところ真下に向かって続いている。 しかし、何処まで続いているのか……。 俺が来た居住区は、無窮山脈の中腹付近にあった。中腹と言っても世界一高い山脈、エベレストなんざ屁でもないって感じで高い山の中腹から、溶岩が流れているような地下まで行くのは時間がかかるだろう……。 一応白き神衣を着ていれば熱気や炎からは守られるだろうけど、そこに行くまで時間がかかりそうだなあ。 炎の守護獣ってどんなものなんだろう。炎と言うと、有名なのは不死鳥フェニックスとか……? いや、フェニックスは鳥だから大地のドワーフとは相反するだろうし……。 と、視界に違和感を感じて降下を止めた。 穴が斜め下に曲がっている。 俺はその穴に沿って移動する。 随分降りた気がするが……もう数百キロ単位は降りた気が……結構時間も経ってるし……そう言えばこれまでトイレとか行きたいとかならなかったな……食べ物は食べれたけどお腹空いたとかはなかったし……。 ぼーっと考えてると熱くなってきた。 ……いや、精神的なものじゃなくて、実際に熱を帯びて来たって言うか……俺が熱出したってわけじゃなきゃ……。 間違いない。 確実に周囲が熱くなっている! てことはあれだ、溶岩地帯に近付いてるってことか? 神衣が守ってくれるって言ってたけど、そういや靴は革靴のままだった。神衣の加護は足も込みか? 唐突に視界が広まった。 と、唐突に落下の感覚っ! そうか、透過のマントの移動能力は透過中だけなんだっ! 足元に不安があるから慌てて自在雲を引っ張り出す。 ぼふっ。 雲にキャッチされて、やっと俺は安心して辺りを見回せた。 ……あれ? てっきり溶岩地帯に落ちてきたと思ったのに、辺りは真っ暗。 じゃあ、あの熱は何なんだ? 振り向いて、眼鏡をかけなおして俺が降りてきた炎水の通る道を見た。 炎水の道は床らしき所で、真っ直ぐ奥に向かって伸びている。 ここを通って来ていたってことか? この先に行くのか。 何がある
「俺はこの山脈の一番地下まで降りて行って炎の守護獣を起こして炎水を持ってこなきゃならないってことか」「おとぎ話だけど本当かどうかは分からない」「神が実在していた世界でそこまでしっかり伝えられた伝承がただのおとぎ話ってことはないだろ」 はあ~。 思わずため息が出た。「下まで潜るしかないかあ……」「ぅなー」 っと、そう言えば。 灰色虎は岩山の王者とか神の獣とか呼ばれていたけど、守護獣とはどう違うんだろう。 ヘルプをタップすると、すぐに回答が出る。 聖獣、神獣は、人間が神の使いとして崇める獣。神に等しい力を持つこともあるが、神そのものではない。 守護獣は、神の創り出した存在を守るために生まれた獣。守護神の力を受けた守護するものの化身でもある。 つまり、炎の守護神は炎の化身でもあるってことか。 神が去ると共にほとんどの守護獣もモーメントより去ったが、特に人間に親しい守護獣は眠りについたりしてこの神亡き破壊の時をやり過ごしていると言う。 炎の守護獣も、そんな一頭なんだろう。「う~ん」「今更悩むことはないのでは? シンゴ様」 レーヴェが声をかけてきた。「真悟様はこの世界を再生するために降臨されたはず。ドワーフの守護でもある炎の守護獣様を見過ごすつもりはないだろう」「まあね。ただ……」 俺は息をついた。「俺一人で行くしかないらしい」「シンゴ?!」「ぅなお?」「何故だ」「多分、この地下は溶岩地帯だ」 俺は神鉱炉の穴を指して言った。「溶岩ってのは俺の世界での炎水のことで、この底ではマグマがぐらぐら沸き立っていると思う。俺はこの服で守られるけど、水の属性魔法を持っていても全員熱と炎から守れるとは思えないし」「そう……か」「ドワーフのことを任せきりにするのは心が痛むが……」「気にすんな。【再生】は俺の仕事だ」「それなら、あれが役立つかもしれんな」 鉱山長が「持って来い」と子供ドワーフに合図した。 ドワーフ……最初にアシヌスを受け取ったあの子だ……は栗毛のアシヌスに乗って駆け去り、すぐに戻ってきた。「これ! リウスと一緒に見つけたお宝!」 ヤガリくんが目を見開く。「まさか、神具か?」「多分そうだと思う」 ボロボロの布のようなものと、枠だけ残った眼鏡。「ボロボロなのに破れないし壊れないから、もしかしたら神具かも知
「ここが神鉱炉だ」 案内されたのは、採掘区からも居住区からも離れた開けた場所だった。 何か大きな建物と熱気を期待していたけど、熱気もないし建物らしい場所もない。……確かに鉱山の中だから建物を建てる必要はないだろうけど……。「がっかりと言った顔だな」「あ、ごめん」「いや、謝られる必要はない。あちらに普通の溶鉱炉はあって、そこは稼働しているんだが、鉄や金銀が限度、神聖銀やその他の特別な鉱石は神鉱炉でしか加工できないから、まだ完璧にこの鉱山は再生されたわけではない」「う~ん……」 俺は思わず考えてしまった。「属性のことか?」 ヤガリくんに言われて、俺は頷く。「神鉱炉に足りないのは熱……つまり炎。俺の属性の中には炎がない。となると、神鉱炉を復活させるのは……」「とりあえず見てはくれないか?」 言われ、俺は炉の中を覗き込んだ。 炉には……穴? 深いぞ。 かーなーりー深いぞー?「神聖なる炎水が、昔は無窮山脈の一番奥に眠る「炎の道」と呼ばれる場所から導かれていた」 エンスイ? 即座に端末でタップしたところ、「溶岩」と言う回答が出てきた。 なるほど、溶岩ね。「世界が滅びに導かれ、炎水も沸き出す量が減り、終いにはこの通りだ。炎水がなければ神の鉱石は加工できない」「う~ん……」 俺は頭をガシガシ掻いた。「溶岩……炎水が枯れ果てたって可能性もあるぞ……。とすると、やっぱり炎の属性がいるなあ……」「炎水果てる時、神は炎の守護獣を目覚めさせる」 ぼそりと鉱山長が呟いた。「何それ?」「無窮山脈に昔から伝わるおとぎ話だ」 炎の守護獣。 炎の属性を持つ神獣?「工場長さん、詳しく教えてくんない?」「……俺もしっかりとは覚えてないんだが、この無窮山脈にずっと伝わっていてな」 ……無窮山脈の真の財宝は、炎水である。 世界の始まりの時、ドワーフの守護神は、炎の守護獣を使わして、地の最も奥底に流れる炎水を神鉱炉まで導き上げた。 炎の守護獣はそれを認めて長き眠りについた。 地の滅びの時、炎水が枯れ果てたなら、新たなる神の訪れを待て。 神は地の奥底へと赴いて、炎の守護獣を目覚めさせ、世界の再生と共に炎水を導き上げるだろう。「……って話だ」「あー……つまりだ」 俺は頭を抱えたくなった。