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第39話「砂竜との決戦」

Author: fuu
last update Last Updated: 2025-09-23 16:15:40

砂漠を揺らして、砂でできた巨大な竜が咆哮を上げた。

その声は空気を震わせ、耳の奥まで響き渡る。

「くっそ……デカいな!」

『ナギ、気をつけて! 砂竜の動き、時間が歪んでる!』

言われた瞬間、竜の首が突き出された。

速い。いや、速すぎる。

視界に映ったと思ったら、すでに目の前に迫っていた。

「っ……やべぇ!」

間一髪で転がり、砂の牙を避ける。

背後の岩が一瞬で砕け散り、砂塵が舞った。

『今の一撃……“時間を飛ばして”攻撃してきたんだ!』

「時間を飛ばす……だと!?」

砂竜が尾を振り上げる。

その軌跡は途中で途切れ、瞬間移動するように俺の頭上へ迫った。

「ぐっ……!」

俺は銃を構え、引き金を引く。

——バンッ!

白光が尾を撃ち抜き、砂が四散する。

だが竜はすぐに形を取り戻した。

「やっぱ普通に撃っただけじゃダメか……!」

『ナギ! 竜の核は砂時計と繋がってる! そこを狙わないと!』

「なるほど……なら、やるしかねぇ!」

俺は竜の胸部に揺れる光を見据えた。

そこだけが、時の歪みを凝縮した“核”のように見える。

「リィナ、全力で撃ち抜く!」

『うん! 一緒に!』

砂竜が大きく口を開け、砂嵐を吐き出した。

まるで砂漠全体を呑み込むような暴風。

視界が消え、身体が削られるような痛みが走る。

「ここだ……!」

俺は銃口を核に向け、引き金を引いた。

——轟ッ!

白い閃光が砂嵐を切り裂き、竜の胸を直撃した。

竜が苦悶の咆哮を上げ、砂が一気に崩れ落ちる。

「……まだだ!」

俺は追撃の弾を放ち続けた。

リィナの声が重なる。

『ナギ! “今を選ぶ力”を込めて!』

「うおおおおっ!」

最後の光弾が核を撃ち抜いた瞬間、竜の身体は完全に崩れ、砂となって風に消えた。

広間に静寂が戻る。

砂時計の守人は、その光景を無言で見つめていた。

「……見事だ」

彼の声は、わずかに震えていた。

「お前は“今”を選び……勝ち取った。

だが……それが本当に正しいのか……?」

守人の目が、なおも鋭く俺を射抜く。

——戦いはまだ、終わってはいなかった。

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