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不死身青年と賢狼烈女の悪戯Ⅲ_02

Author: kumotake
last update Last Updated: 2026-03-09 20:38:25

 柊はそう言いかけて、口を噤んだ。

「……柊?」

「……っ」

 正確に言えば、口を噤んだというよりも、開いた口が塞がらない様な、そんな表情だった様に、僕には見えた。

 そしてその彼女の視線が捉えている景色は、一向に変わらない。

 ただ単に正面を、真っ直ぐと、見つめていた。

 そしてそんな風にしているモノだから、僕も自然と、柊の視線を追いかけて、彼女と同じ方を見る。

 大学の構内は人が多く、それでいて混雑している。

 だからきっと、普段の僕なら、わかるはずはなかっただろう。

 しかしながら、どういうわけか……この時ばかりは、柊が見据えている先に居る人物が誰なのか、わかってしまったのだ。

 名前すら知らないはずなのに、姿も見たことないはずなのに、何故だかその視線の先の人物を、僕も見据えてしまった。

 そして見据えられていたその人物は、僕等に気付くと、コチラにゆっくりと歩いて、近づいてくる。

「やっぱり、柊さんだ……」

 そう言いながら、その人物は柊に向けて微笑んだ。

 眼鏡を掛けた短髪の、短髪と言っても、艶のある黒髪が、肩ぐらいまでの長さはあるけれど、それでいて落ち着いた様子の、僕等と同
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  • 異人青年譚   不死身青年と賢狼烈女の悪戯Ⅲ_02

     柊はそう言いかけて、口を噤んだ。「……柊?」「……っ」 正確に言えば、口を噤んだというよりも、開いた口が塞がらない様な、そんな表情だった様に、僕には見えた。 そしてその彼女の視線が捉えている景色は、一向に変わらない。 ただ単に正面を、真っ直ぐと、見つめていた。 そしてそんな風にしているモノだから、僕も自然と、柊の視線を追いかけて、彼女と同じ方を見る。 大学の構内は人が多く、それでいて混雑している。 だからきっと、普段の僕なら、わかるはずはなかっただろう。 しかしながら、どういうわけか……この時ばかりは、柊が見据えている先に居る人物が誰なのか、わかってしまったのだ。 名前すら知らないはずなのに、姿も見たことないはずなのに、何故だかその視線の先の人物を、僕も見据えてしまった。 そして見据えられていたその人物は、僕等に気付くと、コチラにゆっくりと歩いて、近づいてくる。「やっぱり、柊さんだ……」 そう言いながら、その人物は柊に向けて微笑んだ。 眼鏡を掛けた短髪の、短髪と言っても、艶のある黒髪が、肩ぐらいまでの長さはあるけれど、それでいて落ち着いた様子の、僕等と同じ年齢くらいの、女の子である。 そんな彼女とは対照的に、柊の視線を冷たくて、それでいて意図的に、鋭い言葉を口にする。「......どうしてアナタが、ココに居るのよ?沙織」 相変わらず、友人に向ける様な声色じゃないな...... しかし沙織と呼ばれたその子は、そんな柊の物言いに対して、微笑みながら言葉を返す。「今日の午後に会う約束をしたのは覚えてるでしょ?コッチの予定が早目に終わったからさ、柊さんの大学に来てみたの。ただそれだけだよ?」「……そんなこと、べつにしなくても……」

  • 異人青年譚   不死身青年と賢狼烈女の悪戯Ⅲ_01

     朝のやり取りを終えた後、授業へと出席した僕と柊は、その授業をいつも通り、普通に受講していた。 しかし大学の授業というのは、どれも高校生だった時と比べて時間が長い。 その分野の研究者である教授陣からすれば、そんな時間の長さなど、なんとも思わないのかもしれないけれど、僕等学生は、少なくとも僕という奴は、そんな時間の長さがやはり、些か苦痛なわけで...... しかし別に、授業の合間を縫って何かをしなくてはならないわけではないから...... だからまぁ自然と、今朝の自分が住んでいるアパートに残された、あのペンキ塗料について考える。 あんな...... あんなあからさまな赤色を、しかもそれがすぐに、ペンキだとわかる程の異臭を放ちながら、あそこまでわざとらしく壁にぶちまけられていたアレを...... いくらあの場所が住宅街の、しかもかなり入り組んだ場所にあるからと言っても、流石にアレでは、数少ない通行人も気が付くだろう。 少なくとも、あのアパートに住む他の住人くらいは、気が付きそうなモノだけれど...... そこまで考えを巡らせて、僕は少しだけ、考える。 そういえば、僕はあのアパートに引っ越して、もう半年程の時間が経過しようとしているけれど、未だに他の住人と遭遇したことがない。 あれ......住んでいる......筈だよな......? そんな風に、考えても仕方のないことを考えて、気が付いたら授業は終わりを迎えていた。 退屈な授業の合間に考えていた事柄を、授業が終わった後の昼食頃に、僕は何気なく、柊へ口にする。「そんなの......たまたまというか、タイミングが合っていないだけでしょう?」 言いながら、昼食で買ったパンを、彼女は口にする。 そんな姿を横目に、僕は野菜ジュースを飲みながら、「そういうモノなのか......」と、ため息に似た言葉を口にする。「そんなことよりも、荒木君。ありがとうね......今日。わざわざ時間を作ってくれて......」「......なんだよ、改まって......」「......」「べつにかまわないさ。何もない時間が無くなっただけでも、僕としてはありがたい。まだバイトも、本格的に仕事をしているわけでもないし......それに、ただ単に人に会うだけだろ?」「えぇ......そうね。どうしても荒木君に会って

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    「やっぱり、柊さんだ……」そう言いながら、その人物は柊に向けて微笑んだ。しかしそんな彼女とは対照的に、柊は視線を冷たく、鋭くして言葉を返す。「どうしてアナタが、ココに居るのよ?沙織」「今日の午後に会う約束をしたのは覚えてるでしょ?予定が早目に終わったから、柊さんの大学に来てみた。ただそれだけだよ?」「……そんなこと、べつにしなくても……」 そう言いながら、柊は彼女から視線を逸らす。 しかしそんな彼女とは裏腹に、目の前のその人物は、穏やかな視線で彼女を見つめる。 そして綺麗に、流れる様に視線を滑らせて、僕の方へ向けるのだ。 向けながら、その人は言う。「それで、君が柊さんが言っていた、例のお友達?」 その人の視線は、その人の瞳は、あまりにも綺麗で、けれどその綺麗さには不釣り合いなほどに、彼女は普通の女の子だった。 そんな女の子は、僕の方へ続けて、言葉を紡ぐ。「初めまして、花影 沙織(はなかげ さおり)です。柊さんから、色々とかりは、柊が見据えている先に居る人物が誰なのか、わかってしまった。名前すら知らないはずなのに、姿も見たことはないはずなのに、何故だかその視線の先の人物を、僕も見据えてしまった。そして見据えられていたその人物は、僕等に気付くと、コチラにゆっくりと歩いて、近づいてくる。「やっぱり、柊さんだ……」そう言いながら、その人物は柊に向けて微笑んだ。しかしそんな彼女とは対照的に、柊は視線を冷たく、鋭くして言葉を返す。「どうしてアナタが、ココに居るのよ?沙織」「今日の午後に会う約束をしたのは覚えてるでしょ?予定が早目に終わったから、柊さんの大学に来てみた。ただそれだけだよ?」「……そんなこと、べつにしなくても……」

  • 異人青年譚   不死身青年と賢狼烈女の悪戯Ⅲ_4

    柊はそう言いかけて、口を噤んだ。 「……柊?」 「……っ」 正確に言えば、口を噤んだというよりも、開いた口が塞がらない様な、そんな表情だった様に、僕には見えた。 そしてその彼女の視線が捉えている景色は、一向に変わらない。 ただ単に正面を、真っ直ぐと、見つめていた。 そしてそんな風にしているモノだから、僕も自然と、柊の視線を追いかけて、彼女と同じ方を見る。 大学の構内は人が多く、それでいて混雑している。 だからきっと、普段の僕なら、わかるはずはなかっただろう。 しかしながら、どういうわけか…… この時ばかりは、柊が見据えている先に居る人物が誰なのか、わかってしまった。 名前すら知らないはずなのに、姿も見たことはないはずなのに、何故だかその視線の先の人物を、僕も見据えてしまった。 そして見据えられていたその人物は、僕等に気付くと、コチラにゆっくりと歩いて、近づいてくる。 「やっぱり、柊さんだ……」 そう言いながら、その人物は柊に向けて微笑んだ。 しかしそんな彼女とは対照的に、柊は視線を冷たく、鋭くして言葉を返す。 「どうしてアナタが、ココに居るのよ?沙織」「今日の午後に会う約束をしたのは覚えてるでしょ?予定が早目に終わったから、柊さんの大学に来てみた。ただそれだけだよ?」「……そんなこと、べつにしなくても……」

  • 異人青年譚   不死身青年と賢狼烈女の悪戯Ⅲ_3

    「そんなことよりも、荒木君。ありがとうね......今日。わざわざ時間を作ってくれて......」「......なんだよ、改まって......」「......」「べつにかまわないさ。何もない時間が無くなっただけでも、僕としてはありがたい。まだバイトも、本格的に仕事をしているわけでもないし......それに、ただ単に人に会うだけだろ?」「えぇ......そうね。どうしても荒木君に会って欲しいのよ......」「......その人は、一体どんなヤツなんだ?」「......そうね、なんて説明すればいいのかしら......」大学という教育機関は、中学までのような義務教育ではなく、また高校のような場所とも違い、全国の様々な場所から、様々な年齢層の奴等が集まる場所だ。 だから別に、同期の中で多少の歳の差が生まれることも、しばしばあることなのだ。 だから僕は、そんな彼女に対して、小言の様に言うつもりはないけれど… やはり友人なら、思ったことは隠さずに言うべきなので、言おうと思う。 「あのな…そういうことは出来れば最初に言うべきじゃないのか…残念ながらもう僕は柊のことを歳上として扱うことが出来る気がしないんだけど…」  

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