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第5話

Author: 緋色の追憶
綾子は竜之介をじっと見つめた。「5時間の手術、執刀したのはこの私よ。なのにどうして、安西さんが重要なアシストをしたってことになってるの?」

竜之介は少しイラついたように眉間を揉んだ。

「綾子、あの時は現場も混乱してたんだ。大勢が、美咲が器具を手渡したり、患者を励ますのを見ていた。美咲の報道にはそういう映像が必要なんだよ。

彼女のキャリアのためにも、部隊のイメージアップにもなる。実際に執刀したのがお前だってことは、俺が分かってる。だから功績を少し分けてやったって、大したことじゃないだろ」

「つまり、私の手術が、安西さんの手柄になったってことね」

綾子は続けた。「そして、私の帰国の話も、これでお流れになった。そういうことでしょ?」

綾子はすでに除隊を申請していた。だから竜之介が出す異動辞令はもうなんの意味もないのだが、それでも、竜之介が直接約束してくれたはずの辞令を果たしてくれなかったことは、棘のように深く心に刺さったのだった。

彼女はほんの僅かな可能性に、賭けていたのかもしれない。竜之介がすべての計算を捨てて、ただ自分という人間への思いやりから、5時間にわたる自分の努力を認めてくれることを。

だが、今そんなみじめな期待を抱いた自分自身にさえ、嫌気がさしてきたのだった。そして、心臓もまるで自分の執念に心を貫かれたようで、狭心症の発作よりも鋭い痛みが胸を襲ったのだった。

「そんな言い方をするな」

竜之介は綾子の前に歩み寄り、口調を和らげようとした。「お前の貢献は、俺が一番よく分かっている。だけど今は状況が複雑でな。美咲と、彼女の後ろにいるメディアの力が必要なんだ。帰国の件については……」

竜之介は綾子を見つめ、声をひそめて言った。「国内に戻ったら、結婚しよう。今までのことは……もう水に流すんだ。お前には落ち着いた環境が必要だ。俺も国内勤務を申請するから」

綾子は竜之介を見た。その瞳に浮かぶ、いつもの、すべてを天秤にかけるような傲慢さ。上に立つ人間の、当たり前だという表情。

そう感じて、彼女は突然、すべてが馬鹿馬鹿しくなり、ひどく疲れてしまった。

そして、心臓にいつもの鈍い痛みが走った。でも、それよりも辛いのは、打ちひしがれた後の痺れた感覚だった。

「結婚?」綾子は繰り返した。

「そうだ」竜之介は、綾子の顔に昔のような信頼や感動を探すように言った。「お前がずっと望んでいたことだ。叶えてやる。だから、もうごねるのはやめて、大人しく帰国して俺を待ってろ」

綾子は顔を上げた。その眼差しは、凍りついた湖面のように静かだった。

「竜之介、あなたとは結婚しないよ」

竜之介は一瞬きょとんとした後、「またご機嫌ななめか」と言いたげな顔になった。

「綾子、意地を張るな。つらい思いをさせたのは分かっている、だが……」

「意地じゃない」綾子は竜之介の言葉を遮った。その声ははっきりしていた。「あなたが私に、命がけで安西さんを守れと言った時から。母の形見を燃やして、ただの古い物だと言った時から。私を独房に閉じ込めた時から。ううん、もしかしたらもっと前から」

綾子は首を振った。「私たち、とっくに終わってたのよ。私がそれを認めたくなかっただけ」

綾子は異動辞令を手に取ると、背を向けて歩き出した。

「綾子!」竜之介は立ち上がり、怒りを込めて叫んだ。「よく考えろ!このまま突っぱねても、お前には何も残らないだろ?俺の他に、お前みたいな体がボロボロで傷だらけの女なんか、誰が相手にすると思うんだ……」

だが、綾子は振り返らず、ドアを開けて外に出た。こうして竜之介の声は、ドアの向こうに閉ざされた。

それから数日、基地内では次第に噂が広まり始めた。

指揮官と婚約者がどうやら破局したらしいこと。指揮官は今や一日中、あの美しい女性記者に付き添って会議などに出入りしていること。そして、綾子は完全に冷遇されているらしい、ということ。

そんな噂を耳にしても、綾子の心は少しも揺らがなかった。

彼女はただ待っていた。除隊の手続きが終わるのを。あるいは、ここを去るチャンスが来るのを。

狭心症の発作は以前より頻繁になり、綾子は黙って薬の量を増やした。

左耳の聴力も、少しずつ落ちているようだった。時々、相手にかなり大きな声で話してもらわないと聞こえないことがあった。

でも、そんなことはもうどうでもよかった。

彼女はただ、ここを去りたい。それだけが望みだった。

竜之介も噂を耳にして、苛立ちながらも、信じがたい気持ちでいた。

彼は自分で綾子という人間をよく知っているつもりだった。彼女は自分から離れられない。今はただ、機嫌を損ねているだけだと彼はそう思っていた。

綾子が冷静になり、自分が手配してあげた帰国後の手筈を知れば、自然と自分の元へ戻ってくるだろう。
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