INICIAR SESIÓN年に一度のチャリティーディナー、その表彰式での出来事だった。 司会者が突然、10人の子供たちを連れてステージに上がり、マイクを握った。 「本日は、もうお一人、特別な受賞者がいらっしゃいます。 その方は、不慮の事故で命を落としましたが、生前にご自分の臓器のすべてを提供することを決意されました。おかげで今、私の隣に立つ子供たちは、こうして命をつないでいます」 客席の最前列。仕立てのいいスーツに身を包んだ光森(みつもり)家の長男、一樹(いつき)はふんと鼻で笑った。 「どこの馬鹿か知らないが、死んでもまだ名声が欲しいとはな」 その隣で、母親の涼子(りょうこ)も痛ましげな顔で口を開く。 「体が欠けたままじゃ、来世だってまともに生まれ変われないでしょうに。ご両親も薄情ね、止めもしないなんて」 父親である総一郎(そういちろう)は妻をなだめながら、傍らの秘書に低く命じる。 「どこの家か確認できたら、以後、あの家との取引は一切打ち切りにしろ」 その時、司会者の声が再びホールに響いた。 「それでは続きまして、受賞者のご両親に、ぜひ壇上へお上がりいただきましょう。 光森会長、そして奥様――どうぞこちらへ」
Ver más一樹に胸ぐらを掴まれながらも、雲雀は微塵も怯えることなく、むしろ不敵な笑みを浮かべた。彼女は小首を傾げ、挑発的な目で光森家の三人の顔を順に見つめた。「私が琴葉を陥れるたびに、あなたたち、全部信じたじゃない。私がちょっと目を潤ませただけで、琴葉がいじめたと思い込む。私が涙を一粒こぼしただけで、琴葉が悪魔だと思い込む。私が嫉妬されたって言えば、あの子を部屋に閉じ込めて一歩も出させない。ねえ、自分で言ってみなよ。あなたたちこそが、あの子を死に追いやった元凶なんじゃないの?」涼子は全身をビクッと震わせ、みるみる顔面が蒼白になっていく。雲雀の視線が一樹に移る。その口元には嘲笑が浮かんでいた。「お兄ちゃんもね。私が適当に手紙をでっち上げただけなのに、あっさり信じ込んでくれたじゃない。裏を取ろうともせず、5億も振り込んじゃってさ。胸に手を当ててよく考えてみなよ。本当は実の妹のこと、これっぽっちも信用してなかったくせに。今更になって愛情深い兄のフリなんかして、反吐が出るわ」図星を突かれた一樹は、激怒して吠え立てる。「黙れ!お前は彼女を殺しただけじゃ飽き足らず、遺体の処分まで好き勝手に決めたんだろう!」「あの承諾書にサインしたのは、私じゃないわよ」雲雀が不意に彼の言葉を遮り、光森家の三人は呆然と立ち尽くす。雲雀は一樹を見つめ、一言一言はっきりと言い放つ。「お兄ちゃん、あの絶縁協議書にサインした時、ちゃんと中身を読まなかったでしょ?その中に、琴葉の死亡届と臓器提供承諾書が紛れ込んでいたのよ。気づかずに自分の手でサインしたのは、他ならぬお兄ちゃんなんだから」一樹の顔から、一瞬にして血の気がサーッと引いていく。彼は、あの日のことを唐突に思い出す。5億円を振り込んでからしばらく経ったある日、追加の書類が送られてきた。これで正式に縁を切る手続きが完了すると言われ、渡された分厚い書類の束に、彼はもう目を通す気力すら残っていなかった。込み上げる苛立ちと嫌悪感のまま、最後のページまで無造作にめくり、自分の名前だけを書き殴った。つまり、彼がこの手で琴葉の死亡届にサインし、自らの手で妹の臓器提供に同意していたのだ。一樹は膝から力が抜け、その場に崩れ落ちる。両手で顔を覆い、獣のような慟哭を上げた。……雲雀は刑務
一樹は大きく息を吸い込むと、かすれた声で告げた。「雲雀、琴葉が死んだ」雲雀は一瞬呆然とし、目をわずかに見開く。途端に信じられないといった表情を浮かべ、目元を赤く染めながら、震える声で尋ねた。「お姉ちゃんが死んだ?どうして?」彼女は唇を噛みしめ、一樹を見上げて、恐る恐る探りを入れるような口調で言う。「お兄ちゃん、その話……嘘だよね?お姉ちゃんって昔から演技が上手だったこと、みんな知ってるでしょ。また同情を引くために芝居を打って、隙を見て私を追い出そうとしてるんじゃない?」言葉を重ねるうちに、その声には拗ねたような響きが混じり始め、哀れっぽく俯いてみせる。これまでなら、彼女がこんな顔を見せるたびに、光森家の誰もが胸を痛めて彼女の肩を持ち、矛先を「分からず屋の琴葉」に向けてきた。しかし今回ばかりは、リビングは死んだように静まり返っている。光森家の三人が、まるで赤の他人を見るような冷たい目で彼女を見つめていた。「俺たちはこの目で、琴葉の遺体を見てきたんだ」雲雀の表情が、一瞬強張る。彼女は目を伏せて涙を絞り出すと、手の甲で目尻を拭いながら、か細い声で呟いた。「そんな……どうして……はぁ、そもそもお姉ちゃんが勝手に姿を消したのがいけないのよ。逃げ出す時にお母さんを見捨てたとはいえ、一応は光森家の人間なんだから、帰ってきて謝ればよかったのに。そうすれば、こんな結末にはならなかったはずよ……」――今になってもまだ、私に罪をなすりつけようとしている。涼子の堪忍袋の緒が、とうとう切れる。勢いよく立ち上がると、雲雀の頬を力任せに平手打ちした。打たれた勢いで顔を背けた雲雀の、色白の頬に、真っ赤な手形がくっきりと浮かび上がる。「この人でなし!」涼子は全身を震わせ、目に涙を滲ませながら怒鳴りつける。「今になってまだ嘘をつくつもり!?あの時私を救ってくれたのは、あなたなんかじゃない。琴葉だったのよ!」雲雀は頬を押さえ、信じられないという顔をする。「お母さん、どうしたの?あの時お母さんを助けたのは私だよ。誰かに変なこと吹き込まれたんじゃないの?」その視線が総一郎と一樹へと移り、泣きそうな声で訴える。「お父さん、お兄ちゃん、私のために何か言ってよ」一樹は嘲るように笑い出す。
光森家の面々は、真っ先に「あり得ない」と思った。虫も殺せないほど心優しく、誰からも「性格が良くて素直な子」と褒められ、大声を出すことさえできない――それが雲雀だ。そんな彼女が、こんなことをしでかすはずがない。涼子が誰よりも早く首を振り、きっぱりと言い切った。「そんなはずないわ!雲雀は本当に心優しい子なんだから、きっと何かの誤解よ。一樹、もう一度よく調べ直してちょうだい」しかし、調査が進めば進むほど、三人の顔色は、少しずつ土気色に変わっていった。銀行の入出金記録、通話履歴、振込明細――どの手がかりも、最終的には同じ人物へとたどり着いていた。雲雀はあの手紙を偽造し、私の死に関するすべての情報をもみ消しただけでなく、私の死そのものにまで深く関与していたのだ。一樹は三日三晩をかけ、あらゆる人脈を駆使して、ついにあの事故を起こしたトラック運転手を見つけ出した。脅したりなだめたりを繰り返した結果、ようやく相手の口を割らせることに成功した。「誰かに頼まれたんです」運転手はうつむきながら白状した。「女でした。俺に2000万振り込んで、ひき逃げしろって。後始末は自分がやるからって」一樹がその振込元の口座を調べると、2000万円という金は、3回に分けて別々の個人口座から振り込まれていた。そして調査の行き着いた先は――またしても、雲雀だった。涼子はその場で気を失って倒れた。総一郎は一晩で10歳も老け込んだようになり、その両手は絶え間なく小刻みに震えていた。一樹はソファに座り込んだまま、3時間もの間、一言も発することができなかった。目頭は乾ききって痛むのに、もう一滴の涙も流れてはこなかった。彼らが目に入れても痛くないほど大切に育て上げた雲雀が、実の娘である琴葉を、その手で殺していたのだ。3日後、雲雀が旅行から帰ってきた。両手には高級ブランドの紙袋をいくつも提げ、顔には屈託のない満面の笑みを浮かべている。「お兄ちゃん!ちょっとは手伝ってよ」彼女はわざとらしくむくれて一樹を睨むと、買い物袋を彼の目の前で揺らして見せた。「お土産に買ってきてあげたのに。いらないの?」けれど、誰も答えない。雲雀は一瞬きょとんとしてから、ようやく家の中の異様な空気に気がついた。総一郎と涼子はソファに座ったま
光森家の面々は途端に言葉を失った。呆然としたまま、壇上に並んだ子供たちを見つめている。そうだ、この子たちは皆、琴葉が救ったのだ。琴葉が、悪い子であるはずがない。先頭に立つ女の子は、大きな瞳を輝かせている。その微笑む様子が、なぜか琴葉の面影と重なって見えた。「琴葉……」涼子は突如として声を上げて泣き崩れ、長く抑え込んでいた感情がとうとう決壊した。総一郎は顔を背け、肩を微かに震わせている。一樹は目を赤くし、唇を固く引き結びながら、喉仏を上下させた。彼らはようやく悟ったのだ。私は、本当に死んでしまったのだと。彼らが口を極めて「意地悪でわがまま」と罵った娘。いっそ家に戻ってこなければよかったとまで憎んだ琴葉は、本当に死んでしまったのだ。……光森家の強い懇願を受け、菊之助は彼らを私の遺体の元へと連れて行った。解剖室の冷たい白い照明が私の顔を照らし出す。まるで眠り姫のように、静かに横たわっている。かつては泣いたり笑ったりと、生き生きとした表情を浮かべていたはずのこの顔に、今はただ、青白さと静けさだけが残っている。涼子は解剖台にすがりつき、震える手を伸ばした。けれど、その手は宙に浮いたまま、冷たくなった私の頬に触れることを躊躇っている。「彼女は当時、やっとの思いで雪山から下りてきたんだ。全身が凍傷だらけで、体はほとんど動かせない状態だった。救助隊は先に彼女を病院へ運ぼうとしたが、彼女は頑として、母親を先に助けてほしいと言い張ったのだ。自分はまだ持ちこたえられるから、道端で待っていると」菊之助はふうっとため息をつく。世の酸いも甘いも噛み分けてきたその目にも、薄らと涙の膜が張っていた。「ところが、まさかそこへ暴走したトラックが突っ込んでくるとは……病院に運び込まれた時には、もう助からない状態だった」それを聞いた涼子はもう耐えきれず、私の遺体のそばに崩れ落ちるようにして寄りかかり、堰を切ったように溢れた涙が、私の青白い手の甲へと零れ落ちていく。「琴葉、ごめんなさい……お母さんが悪かったわ。あなたを責めるべきじゃなかった!あなたはお母さんを見捨てたわけじゃなかったのね!」その声は悲痛に満ち、ひどく掠れている。「お母さんがあなたを誤解していたの……ごめんなさい……死ぬべきだったのは、お母さんの方