ANMELDEN私、藤宮美月(ふじみや みつき)は旅行先のクスタニアで大地震と暴動に巻き込まれた。出生時の取り違えで藤宮家の娘として育った藤宮緋奈(ふじみや ひな)が行方不明になり、私は救援隊に保護されて帰国した。 空港に降り立った途端、父の藤宮正臣(ふじみや まさおみ)に頬を激しく打たれた。 「どうして帰ってきたのがお前なんだ!」 母の藤宮沙織(ふじみや さおり)は髪をつかみ、半狂乱になって私を責めた。 「全部あなたのせいよ!こんなことなら、家に連れ戻さなければよかった!」 婚約者の桐生蓮(きりゅう れん)にまで首を締め上げられた。 「緋奈に何かあったら、お前を一生許さない」 彼らが憎んでいたのは、生きて帰ってきた私だった。まるで、緋奈ではなく私のほうが消えていればよかったと言わんばかりに。 それでも私は、緋奈さえ見つければ、両親も、蓮も、また昔のように私を愛してくれると信じていた。 怪我もろくに癒えていないのに、私はもう一度クスタニアへ戻った。そこで拉致され、肋骨が折れるほど殴られ、男たちに襲われかけ、最後には片脚まで折られた。 それでも構わなかった。緋奈さえ見つければ、両親はまた私を愛してくれる。蓮も、昔のように私を大切にしてくれる――そう信じていたから。 ようやく手がかりをつかみ、傷ついた脚を引きずるようにして家へ戻った私が目にしたのは、華やかなドレスに身を包み、誕生日パーティーで笑う緋奈の姿だった。 緋奈は、とっくに無事に帰っていた。 誰も、危険の中に残された私のことなど覚えていなかった。 両親は愛おしげに彼女へ寄り添い、蓮は身をかがめてドレスの裾を整え、巨額を投じた島まで贈っていた。 その光景を見た瞬間、もう何も望む気にはなれなかった。 ――――もう、この人たちはいらない。
Mehr anzeigenその後、母も私を訪ねてきた。以前より白髪がずいぶん増え、顔には隠しきれない疲れと後悔が滲んでいた。私の手を握ったまま、なかなか離そうとしない。その目には、許してほしいという思いがありありと浮かんでいた。両親は緋奈を家から追い出し、遺言書まで作って、すべての財産を私に残すことにしたらしい。けれど、今になって差し出された愛情に、もう心が揺れることはなかった。どれだけ後悔されても、これまでのことまでなかったことにはできない。それから間もなく、母は帰宅途中に大きな交通事故に遭った。父もその衝撃に耐えられず病に倒れ、ほどなくして後を追うように亡くなった。葬儀の日は、細かな雨が降り続いていた。並んだ2つの墓石を前にしていると、ふと15歳のあの日を思い出した。私を迎えに来た両親は、手を握りながら言ってくれた。これからは、今までの分まで大切にする、と。私はずっと、その言葉を信じていた。けれど、最後まで叶うことはなかった。一方、蓮もこのところ、頭を抱える日々が続いていた。怜司が事業で桐生グループを次々と追い込み、会社は立て続けに打撃を受けていた。株価は暴落し、提携先も次々と手を引いていった。それでも蓮は、彼なりに償おうとしていた。高価な宝石に、不動産の権利書、株式の譲渡書類。次々と送られてきたものを、私はひとつ残らず送り返した。それから間もなく、私は怜司と盛大な結婚式を挙げた。指輪を交換するとき、会場のいちばん後ろに見覚えのある姿を見つけた。蓮だった。以前よりずっと痩せ、顔色もひどく青白い。白いドレスをまとった私が怜司へ「はい」と答えた瞬間、蓮はこみ上げるものを堪えるように私を見つめた。それでも彼は手を叩き、何度も私たちへ拍手を送っていた。式が終わると、蓮が私のもとへやってきた。しばらく何も言わずに私を見つめたあと、ようやく口を開く。「美月……きれいだ」「ありがとう」「この結婚式、俺も何度も想像したことがあるんだ」「……」「ほとんど、思い描いてた通りだよ」蓮は笑った。けれど、その頬には涙が伝っていた。「ただ、美月の隣にいるのが俺じゃない。それだけだ」私は何も答えなかった。しばらく黙っていた蓮は、やがて静かに言った。「絶対、幸せになれよ」「
父は青ざめたまま、その場に立ち尽くしていた。大きな体を縮こまらせるように肩を落とした姿は、ついさっきまでとは別人のように老け込んで見える。何度も何か言おうと口を開くのに、結局、言葉にはならなかった。私はもう、2人の顔を見ていたくなかった。床に散らばったネックレスの欠片を拾い集め、その場を離れようとしたところで、ふと足を止める。「蓮」振り返らないまま、名前を呼んだ。「婚約指輪なら、緋奈の誕生日パーティーで返したよ。覚えてる?」背後で、蓮が息を呑んだ。「……あれ」かすかに震える声が返ってくる。「あのときの……あれ、美月だったのか?」私は小さくうなずいた。「そう。私だった」少しの沈黙を置いて、静かに続ける。「だから、これで私たちはもう終わり。何の関係もない」視界の端で、両親がこちらへ歩み寄ろうとするのが見えた。けれど私は、その手を取ることなく怜司の腕を取った。もう、遅すぎたのだ。あの誕生日パーティーの日、ほんの少しでも私のことを見てくれていたら。あの場にいたのが私だと、誰かひとりでも気づいてくれていたら――もしかすると、ここまで迷いなく手放すことはできなかったかもしれない。けれど、今となってはどうでもよかった。死にかけて、ようやく分かったのだ。私はもう、あの人たちの愛を求めなくていい。その後も、蓮は何度となく私のもとを訪ねてきた。ある日など、私の前で膝をつき、何度も自分の頬を打った。「やめて」静かに止めると、蓮の手が止まる。「そんなことしても、私は許さないよ」その目から、また涙がこぼれた。自分が何を壊したのか、今になってようやく分かったのだろう。私は確かに蓮を愛していた。だからこそ、これまでのことを簡単になかったことにはできない。蓮は泣きそうな顔のまま、どうにか笑おうとした。「ごめん。俺は緋奈を、妹と重ねてたんだ」蓮は俯き、しばらくしてから言葉を継いだ。「俺を助けて死んだ妹のことが、ずっと忘れられなかった。あの子への罪悪感も消えなくて……緋奈に優しくしてやれば、少しは楽になれる気がしてたんだ」そこで一度、言葉が途切れる。「でも、緋奈は妹じゃない。それなのに俺は、罪悪感から逃げたくて、勝手にあの子を重ねてた」やがて顔を上げた蓮は、まっすぐ私
緋奈の目がわずかに泳ぎ、指先が無意識に服の裾をつかんだ。その様子を見ていた怜司は、ゆっくりと周囲を見渡した。「それでもまだ、緋奈の言うことを信じるのか?」父が緋奈へ向き直る。「緋奈。あのとき、お前は泣きながら電話してきたな。美月にわざと危険な場所へ置き去りにされたって。あれはどういうことだ?」緋奈の顔がこわばった。「本当だよ!」すぐさま声を上げる。「本当にお姉ちゃんが私を置いていったの!あの電話だって、もう二度とお父さんたちに会えないかもしれないって怖くて……」怜司は呆れたように笑った。その声に、緋奈の肩がびくりと揺れる。「じゃあ聞くけど、美月が命がけでクスタニアへ戻ってから、何があったか知ってる?」誰も答えない。「拉致された。何度も殴られて、散々痛めつけられて、襲われかけて……最後には脚まで折られた」「……何?」蓮の顔色が変わり、次の瞬間には緋奈の腕をつかんでいた。「お前、俺に何て言った?」「蓮さん……」「美月が全部仕組んで、お前を置き去りにしたって言ったよな?」声が荒くなる。「美月はちゃんと準備してるから安全だ、心配する必要なんかないって……そう言っただろ!」蓮は緋奈を睨みつけた。「だから俺は、少しくらい苦労すれば反省するだろうって……放っておいたんだぞ!」緋奈の体が震え始める。「全部、お前が仕組んだのか?」怜司の声には、はっきりと怒りが滲んでいた。「美月は何度も死にかけた。それがお前の言う安全か?」緋奈は答えられない。「折れた脚を引きずって、それでもお前を捜してた。少しでも手がかりが見つかれば、すぐ家へ知らせようとしてたんだ」怜司は両親へ視線を移した。「その間、あんたたちは何してた?」両親も、顔を上げられなかった。「こいつの誕生日を祝ってた」誰も動かなかった。「3か月だ。3か月もの間、美月を捜した人間はひとりもいなかった」怜司の話によれば、緋奈は最初から旅行を利用して私を消すつもりで、現地の男たちに拉致を依頼していた。ところが地震と暴動によって計画が狂うと、自分だけ安全な場所へ逃げ、それでも私を陥れるため家へ電話をかけたという。そして3日後、今度は自分が被害者であるかのように振る舞って救助されていた。話を聞くう
重い沈黙を破ったのは、緋奈だった。私のそばまで駆け寄ると、傷ついたような顔でこちらを見上げる。「お姉ちゃん。お父さんとお母さんを恨んでるのは分かるよ。でも、蓮さんは悪くないでしょう?」一度ためらうように口をつぐんでから、ぽつりと続けた。「ほかに好きな人ができたからって、蓮さんまで……」その言葉に、蓮の表情が変わった。「……ほかに好きな男がいるのか?」答える間もなく腕をつかまれ、そのまま物置へ連れ込まれたかと思うと、扉が勢いよく閉まり、暗闇の中に蓮の声だけが響いた。「少しそこで頭を冷やせ」「それから、本当に婚約をやめるのか、もう一度よく考えろ。落ち着いたら話を聞く」足音が遠ざかっていく。その瞬間、閉ざされた暗闇の中で逃げ場を失ったクスタニアの地下室での恐怖が一気に蘇り、背中を冷たい汗が伝った。「いや……やめて……」脚から力が抜け、震える声とともに呼吸もどんどん浅くなっていく。耳の奥では、自分の心臓の音だけがやけに大きく響いていた。「開けて!」堪えきれずに叫ぶと、すぐに足音が戻ってきて、ドアノブが回った。扉が開く――そう思った瞬間、私は泣きながら叫んでいた。「怜司、助けて!」ドアノブの動きが止まった。「……今、誰の名前呼んだ?」蓮の声が、一段低くなった。「ほかの男の名前を呼べるくらいなら、そこでしばらく頭を冷やしてろ」足音はそのまま遠ざかっていった。私は壁際にうずくまり、震える手で何度も扉を叩いた。やがて声も掠れ、指先にも力が入らなくなっていく。もう耐えられないと思ったそのとき、外がにわかに騒がしくなり、次の瞬間、激しい音とともに扉が開いた。蓮と怜司が、ほとんど同時に中へ入ってくる。私は考えるより先に怜司へ駆け寄っていた。「怜司……!」その胸にしがみつき、肩へ顔を埋めた途端、堪えていた嗚咽がこぼれた。「大丈夫」怜司が私の腰を抱き寄せる。「もう大丈夫だ。怖がらなくていい」そう言いながら、ゆっくり背中を撫でてくれた。その様子を見た蓮の顔が険しくなる。「美月から離れろ!勝手に触るな!」蓮は怜司を引き離そうと私へ手を伸ばしたが、触れられる寸前、私は反射的に身を引いた。それを見て、蓮の手が止まった。「……美月?」そこでようやく、私
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