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第5話

Author: ちょうどよく
私はすぐに警察に通報し、住宅への不法侵入の罪で蒼真を連行させた。

連れて行かれる時、彼はヒステリックに叫んでいた。

「美咲!俺は必ずまた戻ってくる!待ってろ!

俺たちこそ一番相応しいんだ!結婚の届けを出すって約束しただろ?!」

私は大声で反論した。

「蒼真、これで最後にする!私たちに未来なんてない、もう絶対にありえない!私はあなたと結婚なんてしない!

二度と私を付きまとわないで!生活を壊さないで!!」

ここまできっぱりと言ったのに、まさかまだしつこく絡んでくるとは思いもしなかった。

一か月後、私の初めての舞台演奏の日がやってきた。

この一か月間、私はほとんどピアノ室にこもりきりで練習してきた。幸い、直太朗がずっとそばにいてくれて、私の一番の聴衆でいてくれた。

時折、蒼真のことが頭をよぎる。静かすぎるのがむしろ怖い……また妙なことを企んでいるんじゃないかと。

舞台袖でドレス姿の私は、久しぶりのステージに緊張していた。

「美咲さん、がんばって!」

直太朗が励ましてくれる。

「俺、客席で待ってるから!今日の美咲さんは絶対に成功するよ!」

彼はなぜかすごく嬉しそうに、私をギュッと抱きしめた。

演奏が始まると、最初は硬かった指もだんだんと自由になってゆく。最後の音が落ちると同時に、波のような拍手がホールを満たした。

私は大きく息を吸い込み、そっとピアノの蓋を閉じた。耳に響く熱い拍手。胸の奥に久しぶりの満足と達成感があふれて、目の端に涙が光る。

夢を諦めなくて本当によかった――

深々と一礼して退場しようとしたその時、突然スポットライトが客席の一点に当たった。

目を凝らすと、そこに立っていたのは蒼真だった。

……やっぱり、金の力は伊達じゃない。

蒼真は99本ものバラの花束を抱えてゆっくりと舞台に上がってくる。顔には愛情をこれでもかと書きつけて。

「美咲、演奏の成功おめでとう!」

彼の目には驚きと感動が混じっていた。家で地味に片付けばかりしている私しか知らなかったから、この姿が衝撃だったのだろう。

今さら何を取り繕っているのだろう。

楽団を立ち上げたばかりのころ、私は彼にチケットを渡し「バラの花束を持って見に来てほしい」と言ったことがある。だが蒼真は即座に拒絶した。

「俺は
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