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第 0066 話
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目黒様に囚われた新婚妻 第0714話
「ほんとに？」君秋はまだ疑わしげに隼人を見つめながら言った。「パパ、傷口見せて。見ないと安心できない」隼人は血のついた傷跡で小さな子を怖がらせたくはなかったが、君秋は意外にも頑固だった。仕方なく、隼人は小さな手を引いて部屋に戻った。瑠璃もあとを追った。青葉は避けるように道を開け、何度か言いたげに瑠璃を見たが、結局口を開かなかった。瑠璃はその様子に少し違和感を覚えたが、あまり気にせず、ただ微笑み返しただけだった。部屋の中。隼人がニットの上着を脱ぐと、鍛えられた白い上半身が露わになり、背中には包帯が巻かれていた。その包帯の一部からは、血がにじんでいた。君秋は心配そうに近づき、そっと息を吹きかけた。「パパ、血が出てるよ。痛いでしょ？」「寝返りでも打ったのかもしれないな」隼人は気にしていない様子で笑い、子供の頭を撫でた。「パパは痛くないよ。君ちゃん、心配しないで」その言葉が終わるころ、隼人はふと、瑠璃が薬箱を持ってきたのを目にした。彼女が自分に包帯を替えようとしていることに気づいた隼人は、まるで夢のように感じ、胸が温かくなった。瑠璃は表情を変えず、消毒用のアルコールと新しい包帯を取り出し、隼人の背中から血のにじんだ包帯を外した。傷跡が目に入った瞬間、瑠璃は一瞬動きを止めた。もしもあのとき隼人が少しでも躊躇していたら、この刃は自分に向かっていたのだ。――彼は本当に、自分の命をかけて守ってくれた。君秋は痛々しい傷を見ていられなくなり、目をそらした。そして視線の先に、ベッドの上に置かれた一枚のウェディングフォトが目に入り、興味津々に手を伸ばして眺め始めた。瑠璃が我に返ったのは、隼人の静かな声を聞いた時だった。「千璃ちゃん……傷が見苦しかった？怖がらせたか？」彼女は何も言わず、消毒綿を手に取り、無言で隼人の傷口を処置し始めた。「こんなもの、大したことないわ。私なんて、顔に傷を負ったときの方が、ずっと醜かった」……っ。隼人は思わず眉をひそめた。背中の傷の痛みなど気にならなかったが、瑠璃の言葉は胸に深く突き刺さった。かつて彼女の顔を裂いた、あの深い傷痕――その記憶が彼の胸を強く締めつけた。「ごめん、千璃ちゃん……」「そのセリフ、もう何度も聞いたわ。飽きた」瑠璃の声は冷やや
目黒様に囚われた新婚妻 第0713話
瞬は、これまでどんな女ともキスを交わしたことがなかった。あの夜、遥と関係を持ったときでさえ、彼はキスをしなかった。それなのに――この女は、恐れも知らず自ら彼の唇を奪った。――くそっ、なんて女だ。瞬は眉をひそめ、容赦なく遥を突き飛ばした。漆黒のオブシディアンのような瞳が、怯えた遥を鋭く見据えた。「警告したはずだ。俺に近づくなと」遥は倒れたまま体を起こし、涙に濡れたまつ毛を震わせながら彼をじっと見つめた。「あなたのそばにいられるなら……たとえあなたが火だとしても、私は喜んで飛び込むわ」彼女は狂おしいまでの想いを口にし、そっと瞬のそばへにじり寄っていった。彼のまだ血の滲む掌を取り上げ、愛おしげにそれにキスをした。瞬は、目の前で跪く彼女をじっと見つめたかと思うと、突然その腕を引き、遥を引き寄せた。その瞬間、目の前に現れたのは完璧すぎる彼の顔。心拍数が跳ね上がり、遥の理性はどこかへ吹き飛んでいた。だが次の瞬間、瞬は彼女を机の上に押し倒した。「本当にそんなに俺が好きなら――後悔するなよ」冷たい微笑を浮かべる彼は、まるで闇の王のようだった。遥は恍惚とした表情で彼を見つめた。「後悔なんてしない。たとえあなたにとって私は闇の中の玩具にすぎなくても、それでも構わない」その言葉に、瞬は一瞬目を細めた。彼女の狂おしいほどの執着は、想像以上だった。――だが、それがどうした。彼の心にいるのは、ただ一人――暗闇の中で唯一、光を見せてくれた、瑠璃だけだった。……夜が明けて。翌朝、青葉はニュースで雪菜が逮捕されたことを知った。報道によると、雪菜は車の爆発に巻き込まれ、全身の85%に及ぶ重度の火傷を負い、片足を切断。もはや廃人同然の状態だという。まさか、あの女がこんな末路を迎えるとは。青葉はしみじみとした気持ちにはなったが、同情の念など微塵もなかった。自分を殺そうとした相手に、情などあるはずもなかった。さらに画面には、もう一人の女が重傷を負ったという報道もあった。頭部から流血し、顔面は無残にも切り裂かれていた。その瞬間、青葉の脳裏に瑠璃の顔が浮かび、彼女は思わず立ち上がった。ちょうどその時、隼人が階段を降りてきた。「隼人、昨日の件だけど……」「千璃ちゃん？」問いかけるより
目黒様に囚われた新婚妻 第0712話
車がまもなく爆発しそうな「パチパチ」という音が鳴り響き、瑠璃の心中は複雑な感情でいっぱいだった。だが自分はまだ無傷であることに気づいた雪菜は、怒りに震えた。「瑠璃、絶対に殺してやる……絶対に！」「ドンッ！」「うああああっ！」隼人は力強く一蹴して雪菜を吹き飛ばし、一方で瑠璃を腕の中に抱きかかえ、険しい表情で前方へと走った。「千璃ちゃん、早く！車が爆発する！」えっ！？車が爆発する――？木に縛られていた蛍はその言葉を聞いて完全に凍りついた。その瞬間、炎が立ち上がり、直後に大きな爆発音が轟いた。「ドーン！！」爆発による衝撃波で周囲の草木が一斉に揺れ、風が唸った。隼人は一方の腕に陽ちゃんを抱き、もう一方の腕で瑠璃をしっかりと抱き寄せ、二人をその広い背中で守った。しばらくしてようやく、空気が静けさを取り戻した。瑠璃はハッとして顔を上げ、まず隼人の背中を見た。そこにはまだナイフが突き刺さったままで、雪菜の殺意がいかに強かったかを物語っていた。「千璃ちゃん……陽ちゃんが……気を失った……病院へ行こう」隼人の言葉に、瑠璃はようやく陽ちゃんが意識を失っていることに気づいた。彼女は急いで隼人の車を運転し、一刻の猶予もなく病院へと向かった。その頃、瞬も車の爆発の直前に現場へ到着していた。車から降りる前に、彼の目にはすべてが映っていた――隼人が瑠璃と陽ちゃんを抱えて危機を乗り越えるその姿を。彼の心に、思わぬ棘が刺さる。危機が去ったその後も、瑠璃がまず心配したのは隼人だったのだ。瞬はハンドルを強く握りしめ、漆黒の瞳の奥に波立つ激情を隠しきれなかった。遠くから警察のサイレンが近づいてくる音が聞こえ、瞬はハンドルを切り、その場を離れた。病院。陽ちゃんが目を覚ましたことにより、瑠璃はようやく安堵の息をついた。しかし診察室の前に差し掛かったとき、彼女は医師が隼人の傷について話すのを耳にした。「背中の刃は骨にまで達していて、かなりの重傷です」その言葉に、瑠璃の胸はざわついた。だがその直後、隼人の声が廊下に響いた。「千璃ちゃんと陽ちゃんは……無事なんだろうか？」彼はまず彼女たちのことを心配し、二人が無事だと知ると、ようやく安堵の息を吐いた。その後、血に染まったコートを羽織りながら、疲れた
目黒様に囚われた新婚妻 第0711話
隼人が身を挺して走り出す姿を見て、瑠璃は一瞬、呆然と立ち尽くした。その時、後方で足音が響き、雪菜が驚いたように振り向いた。隼人の姿を見た瞬間、彼女の顔色が変わり、再びナイフを手に取り、地面に縛られた蛍のもとへと向かった。そしてナイフの先端を彼女の喉元に押し当てた。「お兄さま！近づくな、さもないと瑠璃を殺すわよ！」雪菜は隼人に向かって叫び、脅迫するように言い放った。隼人は一心に陽ちゃんを助けることしか頭になかったが、突然耳に飛び込んできた「瑠璃を殺す」という言葉に、反射的に振り返った。そこには、血だらけで木に縛られている女がいた。彼はよく目を凝らして見た――それは瑠璃ではなく、蛍だった。おそらく、明日香……いや、蛍と瑠璃の顔があまりに似ているため、雪菜が勘違いしていたのだ。彼女は蛍を瑠璃だと思い込み、その憎しみすべてを彼女にぶつけていたのだ。その顔と頭に刻まれた傷の数々を見て、隼人はぞっとした。そして何より、瑠璃が無事であることに、心底安堵した。彼はもう振り返ることなく、陽ちゃんの元へ駆け寄った。「きれいなお兄ちゃん！」陽ちゃんは車内から声を上げ、泣きながら叫んでいた。「ママ……ママをいじめないで……ママ……ううう……」小さな目は腫れ上がり、声も枯れ気味だった。隼人の心は張り裂けそうだった。急いでドアを開けようとしたが、ロックされていて開かなかった。すべての窓は閉まっており、かろうじて陽ちゃんの前の窓に小さな隙間が開いていた。「隼人、助けて！この女、頭がおかしいのよ！あの女は狂ってるの！」蛍は隼人に助けを求め、彼が一度でも自分を振り返ってくれることを願った。だが隼人は完全に無視し、ただ車の中に閉じ込められた陽ちゃんを助け出すことしか頭になかった。「きれいなお兄ちゃん……ううう……」「陽ちゃん、怖がらなくていい……パパが絶対助けるから、絶対に！」混乱の中でも隼人の声は落ち着いていた。娘を安心させるため、必死に気持ちを抑えていた。「隼人！助けて、助けてよ！」蛍は叫び続けたが、隼人は一切彼女に目もくれなかった。雪菜は違和感を覚えはじめた。あれほど瑠璃を愛していた隼人が、どうして目の前で危険に晒されている瑠璃を放っておけるのか？不審に思って蛍の顔をよく見ようとしたそ
目黒様に囚われた新婚妻 第0710話
蛍が血を流しながら苦しむ様子を見て、雪菜はまるで悪魔に取り憑かれたかのように「ハハハッ」と狂ったように笑い出した。蛍は歯を食いしばりながら、怒りに満ちた目で睨みつけた。「狂ってる……あんた！」「スッ！」またもや一閃、匕首が振り下ろされ、蛍の頬にはX字の切り傷が刻まれた。熱い血が皮膚を伝い、じわじわと流れ落ちていく。耐えがたい痛みに、蛍は身をよじったが、縄でしっかりと縛られていて動けなかった。そのとき、雪菜がライターを取り出したのを見て、蛍の表情に焦りが浮かんだ。雪菜の中にある瑠璃への憎しみは、もはや常軌を逸していた。そして今、狂ったような錯覚の中で自分を瑠璃と誤認し、すべての怨念をぶつけていた！「な、なにする気！？あんた、本当に頭おかしいの！？やめなさいよ！」雪菜は冷酷な目を光らせ、ライターに火をつけながら、車の方へと向かった。車の窓辺では陽ちゃんが「ママ！ママ！」と泣き叫び続けていた。「瑠璃！見せてやるよ。あんたが産んだそのガキが、目の前で焼き殺されるのを！」どうやら、ターゲットは子供らしい。それを察して、蛍は逆に安堵の息をついた。「好きにすれば？言ったろ、私は瑠璃じゃない。あんなガキ、どうなろうが知ったこっちゃないわ。ふっ……」言葉に力を込めすぎて、頬の傷が引き裂かれ、激痛に歯が震えた。だがその言葉を聞いた雪菜は、即座に振り向きざまに平手を振り下ろした。「このクソ女、やっぱりな！そう言うと思った！私はもう二回も騙されてるのよ、今度こそ絶対に引っかからない！」「……」蛍が茫然としていると、雪菜は憎々しげに叫んだ。「いつもそうやって、無関心を装って私の警戒を解こうとする！二度も騙されたけど、三度目はないんだから！」「……」「今から火をつけて、あのガキを焼き殺してやるわ！一生苦しめ、瑠璃！ハハハハ！」……隼人は瑠璃を車に乗せ、監視カメラの映像を頼りに郊外までやってきた。すると、不意に雪菜の狂気に満ちた笑い声が耳に届いた。「瑠璃！怖くなった？その顔、もう台無しよ！お兄さまを誘惑できるもんか！でも殺しはしない。あんたの目の前で、娘が火に焼かれるところを見せてやるんだから！」その言葉を聞いた瞬間、瑠璃と隼人は顔を見合わせた。すぐに車を降り、走り出す。近づくにつれ、何かが焦げる
目黒様に囚われた新婚妻 第0709話
蛍は蹴り飛ばされて地面に倒れ込み、激しい痛みにしばらく起き上がることもできなかった。その時、不意に雪菜の口から「一緒に地獄へ送ってやる」などという恐ろしい言葉が飛び出し、蛍は慌てて顔を上げた。狂気を宿した目で匕首を握りしめ、自分に迫る雪菜の姿が目に入った。「あんた、気が狂ったの！？私は瑠璃じゃない、よく見て！」必死に身をよじらせ、後ずさる蛍。「ママを叩かないで……おばちゃん、お願い……ママを叩かないで……」その時、陽ちゃんが車の窓をたたきながら泣き叫び、必死に雪菜に懇願していた。その声を聞いた雪菜は、ゾッとするような笑みを浮かべた。泣き声、懇願の言葉、そして連日の煙草や酒、幻覚作用のある薬物の影響――夕暮れのぼやけた光の中で、彼女の目には蛍がまさしく瑠璃にしか見えなかった。「このクソ女……私を騙すつもり？この顔、間違えるわけないでしょ！」怒り狂ったように、雪菜は再び平手を振り下ろした。「きゃっ！」蛍もついに怒りが爆発しそうになった。この顔は整形したばかりで、激しく殴られるなど到底耐えられない。そしてまた匕首を振りかざしてきた雪菜に対し、蛍は必死の抵抗として思い切り蹴りを食らわせた。予想外の反撃に、雪菜はよろめいて転びそうになった。逃げようとした蛍を見て、彼女の瞳がさらに冷たく光った。次の瞬間、雪菜は蛍の長い髪をわし掴みにし、無理やり引き止めた。「いったぁ……放せ、このイカれた女！！」「イカれた！？私をイカれたって言ったなああああ！！」まるで地雷を踏んだかのように、雪菜は激怒し、蛍の頭を掴んで近くの木の幹へと叩きつけた。頭がガンガンとぶつけられ、蛍の額からはすぐに血が噴き出した。意識がぼやけ、めまいがする。反撃しようにも、相手は刃物を持っていた。下手に動けば、命すら奪われかねない。「瑠璃……このクソ女！全部、あんたのせいなんだ！あんたが私をここまで追い詰めた！どうせ刑務所に行くなら、あんたを道連れにしてやる！！」雪菜は絶叫しながら、力任せに蛍を地面に突き飛ばした。「ドンッ」と鈍い音を立てて地面に倒れ込んだ蛍。耳がキーンと鳴り、頭の中がぐるぐると回った。額を手で触ると、ぬるりとした感触が――手のひらは血でびっしょりと濡れていた。「……ッ！」その事実に顔色が一気に青ざめ
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