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第4話

Author: 緋山 淹(ひやま えん)
【実習会員・蓮が、担当生徒とのリンクに成功しました】

【個別メインクエスト:枯れゆく花 開始します】

【生徒・森也に最適な学習方法を見つけ出し、蕾が枯れ果てるのを防いでください】

【任務失敗は、すなわち試練失敗とみなされます】

冷ややかなシステム音が脳内に響き渡る。背後から、教壇に立つ教師が事務的な口調で尋ねてきた。

「カウンセラーさん、その子はこのまま教室に残って、授業を受けさせますか?」

蓮は眉をひそめた。

森也の様子を見る限り、座学の効果は明らかに低い。だからこそ、彼の花は枯れかけている。

これ以上、ここで時間を無駄にすれば、状況は悪化する一方だろう。

そう判断して、蓮は森也の手を引いた。

その瞬間、森也が苦悶の声を漏らしたのを蓮は敏感に感じ取った。

「先生、お邪魔しました。この子は連れて行きます」

……

教室を出ると、スーツの男、厚化粧の女、そしてパーカーの男がまだ様子を窺っていた。

スーツの男はすぐに愛想笑いを浮かべて近づいてきた。

「おや、この子を選んだ理由を教えてもらえませんか?」

蓮は瞬きをした。

本能的に、このスーツの男のことは信用できないと感じている。

とはいえ、今のところ確実な手がかりはない。多少の推測を共有することで、相手から情報を引き出せるかもしれない。

「現実世界では漫画家をしててね。この子を選んだのは、絵を描くのが好きからなんだ」

スーツの男は鋭く、すぐにその意図を察した。

「なるほど。つまり、生徒の育成は趣味嗜好からアプローチできるとお考えで?」

蓮はただ微笑むだけで、それ以上の説明はしなかった。

その時、厚化粧の女が相変わらず見下したような態度で口を挟んだ。

「なによ。ただのしがない絵描きじゃない。漫画家だなんて偉そうに」

蓮は薄く笑って言い返した。

「どんなに貧乏な絵描きでも、特別なお仕事で汗もかかずに、大金を得るのが得意な人よりは、よっぽど清潔だと思うけどね」

女は瞬時に激昂し、掴みかかろうとしたが、スーツの男に制止された。

「まあまあ。では、如月君。また今夜会いましょう」

蓮は頷き、森也を連れてその場を離れた。

すれ違いざま、あのパーカーの男の視線に蓮は一抹の不安を覚えた。

漫画を描く上で、人物の微細な表情についての知識は必須だ。今のあの目つき……漫画であれば、快楽殺人鬼や精神が歪んだキャラクターに描かれる類のものだ。

協力しなくて正解なのかもしれない。

この中では、一見高圧的で鼻持ちならないあの厚化粧の女が、一番まともな人間なのかもしれない。

そんなことを考えながら階段を降りていた蓮は、ふと足を止めた。

何かが引っかかった。あるいは、何かを察知したのか。彼は本能的に振り返った。

背後の角で、誰かの服の裾がサッと消えたような気がした。

蓮の呼吸がわずかに乱れた。

スーツの男は、さっき自分のことを「如月君」と呼んだ。

しかし……バスに乗ってから今まで、一度も名乗った覚えはない。なぜあの男は自分の名前を知っている?

今、隠れたのはあの男か?

……

動揺を隠しつつ、蓮は俯いて森也を見つめた。脳裏には先ほどのアナウンスが蘇る。

なぜ「個別メインクエスト」なのだろうか?

つまり、選んだ生徒によってメインクエストが異なるということか?

自分が選んだ森也は花が枯れかけているため、「凋落の阻止」が任務となった。

だとすれば、あの少年が言っていた「全員が競争相手だ」という言葉も、あながち間違いではないのかもしれない。

全員のメインクエストが違うのであれば、互いの任務が真っ向から対立する可能性だってあるのだから。

「お兄さん、さっき、漫画家だって言ってましたよね。

絵を教えてくれますか?」

森也のおどおどした声が、蓮の意識を引き戻した。蓮は親しみを込めた笑顔を見せ、森也の頭を撫でた。

「もちろんよ!蓮って呼んでいいからね。

森也、これ、あげるよ」

そう言いながら、蓮はリュックサックから画板と色鉛筆を取り出した。

森也は恐縮しながらそれを受け取った。顔の花びらが嬉しそうに震えている。

【クラブからのヒント:森也のあなたに対する好感度が5%に上昇しました】

蓮は心の中で頷いた。

やはり、好感度という概念が存在するのか。

となれば、主要なNPCの好感度によって、得られる手がかりも変わってくる可能性がある。

蓮はすぐに持ち歩いていたリュックから半欠けのキャンディを取り出した。

それは定期検診のたびに千暁からもらってくる高エネルギーキャンディだ。

貴重で高価なものだから、普段はもったいなくて一度に食べ切ることなどできない。残っていた半分は、試練中の非常食として体力を補給するために取っておいたものだ。

今は、先行投資だと割り切るしかない。

「森也、キャンディは好き?ほら、あげるよ」

しかし、森也は全身を震わせ、怯えたように拒絶した。

「わ、私は……キャンディは食べちゃいけないんです!

私たちみたいな悪い子が校則を破ったら……寮にいる白衣のおじさんに連れて行かれちゃうと教頭先生が言ってました」

蓮の目が鋭くなる。

やはり、この子供たちが重要な手がかりを持っている。

彼は森也の隣に座り込み、優しく問いかけた。

「森也、さっき白衣のおじさんって言ったね?それは誰のこと?」

森也の小さな手が不安そうに色鉛筆を握りしめた。

「白衣のおじさんが誰なのか、誰も知りません。

でも、毎晩、白衣のおじさんは寮の廊下に現れるんです。

何度も校則を破ったり、夜の十二時過ぎに出歩いたりすると、連れて行かれてしまいます。

連れて行かれた子は……二度と戻ってこないんです!」

蓮は頷いた。

漫画家としての観察眼は鋭い。

森也がキャンディを食べたがっているのは明らかだ。ただ、恐怖が勝っている。

しかし……食べてはいけないとしても、持っていてはいけないとは言われていないはずだ。

「じゃあ、今は食べなくていいよ。

このキャンディはやっぱりあげる。ポケットに入れておきな」

そう言って、蓮はキャンディを森也のポケットにねじ込んだ。

「よし、これで森也も小さなお宝持ちだね!」

親和力が高いせいか、あるいは蓮の態度が柔らかいためか、森也は照れくさそうに自分の服を掴んだ。

その時、蓮は森也の手首にある痣に気づいた。

その痣は、花が枯れる直前に現れる、内側から腐敗していく斑点のように見える。

「森也、さっき教室で手を握った時、痛がっているのは……このせいか?」

その時すでに、森也は我慢できない様子で絵を描き始めていた。

「勉強ができない子には、培養液をあげるわけにはいかないって先生が言ってました。

培養液がないと、私たちの体はだんだん腐って、枯れていっちゃうんです」

培養液?

蓮は眉をひそめた。

「森也、その培養液がどこにあるか知ってる?」

森也は少し考えてから答えた。

「いつも、保健室にいる学校医のおじさんが直接注射してくれるので、……たぶん保健室にあると思います。

いつも先生に連れられて行きますから」

話している間にも、森也の花びらは黒ずんでいき、明らかに限界が近づいている。

蓮は決意を固めた。

「よし……その絵を描き終わったら、保健室のおじさんに会いに行こう。

俺がなんとかして、培養液を手に入れてあげるから!」

森也は嬉しそうに何度も頷いた。

蓮は立ち上がり、校舎の方を振り返った。

学校の廊下は吹き抜けになっているため、遠くにスーツの男たちの姿が微かに見えた。

ただ……彼らは何か言い争っているようにも見える。

森也がふいに声を上げた。

「蓮さん、できましたよ!」

視線を落とすと、蓮の顔から笑みが消え、表情が凍りついた。

それはあまりにも異様な絵だ。

空は赤く、草地は黒い。校舎の時計塔には、滲んだような赤い染みが描かれている。まるで、時計塔から鮮血が流れ出しているかのようだ。

そして草むらの中には、無数の「目」が描かれている。それらはすべて、昆虫の複眼のような形をしている。

心理プロファイルで見たあの教頭の真の姿と酷似している。

蓮は無意識に顔を上げた。目の前にあるのは、画用紙に描かれたのと同じ時計塔だ。

周囲の植え込みや配置も、絵とほぼ一致している。

森也が明るい声で尋ねた。

「蓮さん、私の絵、上手ですか?」

蓮は引きつった笑みを浮かべた。

「さすが、絵が得意だっていうだけあるね。

すごくリアルで、線の使い方も上手い。才能があるよ。

でも……ひとつだけ気になることがあるんだ。なぜ空を赤く、地面や草を黒く塗ったんだ?」

森也は不思議そうに小首をかしげた。

「えっ?だって……空は赤くて、草は黒いのが普通でしょう?」

瞬間、蓮の呼吸が止まった。

どこからともなく吹いてきた陰湿な風に、全身の毛が逆立った。

彼はたまらず周囲を見回した。

つまり自分と森也とでは、見えている世界の色が……違う?

だとしたら、森也の視点では今の自分たちは周囲に潜む無数の複眼に監視されているということになるのではないか。

蓮は生唾を飲み込んで、複眼について尋ねようとした。

だが、胸の内の不安と背筋を這うような寒気が、これ以上聞いてはいけないと警告している。

彼は深く息を吸った。

「そうか。森也はすごく絵が上手だよ!今夜時間があったら、もっと素敵な絵の描き方を教えてあげる」

【生徒・森也のあなたに対する好感度が10%に上昇しました】

【森也は、あなたを親しみやすいカウンセラーだと認識しています】

【森也の自信が向上し、身体の腐敗度が2%減少しました】

蓮は心の中で指を鳴らした。

やはりか……

森也の「凋落」は、勉強ができないという劣等感による自己肯定感の欠如が原因なのか?

自分の理解は間違っていない。

資料にあるのは「学習ランク」であり、試験の点数そのものではない。

つまり、趣味であれ勉強であれ、要は森也に自信を持たせることだ。これこそが、培養液以外で森也の状態を好転させる鍵だ。

……

蓮はそれ以上花壇のそばに留まる気にはなれなかった。森也に案内され、絵に描かれていた時計塔のある建物へとやってきた。

ギィィ……

きれいに磨かれたガラス扉を押すと、古びた蝶番が耳障りな音を立てた。

鼻をつく消毒液の匂いが漂ってくる。

「蓮さん、あそこですよ!」

森也が廊下の突き当たりを指差した。

そこには「保健室」というプレートが掛かっている。

蓮は森也を連れて廊下を進んだ。

だが、周囲があまりにも静かすぎることに違和感を覚えた。

校庭が騒がしいわけではないが、ここでは森也が絵を描く際の、紙と鉛筆が擦れる音さえも鮮明に聞こえるのだ。

蓮は何気なく視線を落とした。

森也はすでに二枚目の絵を描き始めている。

それは、頭部が昆虫によく似ており、人間の体をしている生物である。その生物は白衣を纏い、両手にはコイルのような何かが巻き付いている。

皮膚はなく、蠢く筋肉の繊維が森也の手によって生々しく描写されている。

蓮は思わず尋ねた。

「森也、それ……何を描いているの?」

森也が顔を上げた。

「白衣のおじさんですよ!蓮さんが知りたいって言ったでしょう」

突然、背後から冷たい風が吹き抜けた。

静寂に包まれた廊下に、心臓を鷲掴みにするような重い足音が響き渡る。

ドスン……ドスン……

壁が歪み始め、血管が脈打つような音が聞こえ始めた。

【クラブからのヒント:特殊任務発生――隠れ家】

【部屋を一つ選び、白衣のおじさんの追跡から身を隠してください】

【制限時間:三十分】

【承諾しますか?】

蓮はぎこちない動作で振り返った。背後の廊下が、無限に伸びているように見えた。

霧の奥から、身長二メートルはあろうかという、画板の絵と寸分違わぬ怪物が姿を現した。ホッチキスで瞼を留められた複眼が、ギョロリとこちらを見据えている。

ドッ……ドッ……ドッ……

ドドドドドド!

異形の怪物が、猛烈な勢いで走り出した!

蓮は迷わず任務を承諾した。

その瞬間、血肉でできた壁の上に無数の木製のドアが現れた。
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