しかも、会社設立するための400億円も大輝が株式売ってまで貸してくれたものだ。アンチは核心を突く質問を投げかけた。【これで二宮さんと張り合おうって?冗談じゃない。二宮さんは大学時代に自分でアトリエを立ち上げた実力者だぞ?!しかも、若くして国の文化財修復の専門家でもある!事業拡大後も初心を忘れず、かつてのアトリエには今でも師匠たちを雇って、彼女を育ててあげた恩師も講演会で何度も彼女のことを話題にしてるくらいだし。それに国の考古調査チームが必要となれば、彼女は文句も言わず、すぐに駆けつけたりしていた!それをあの小林がどうやって比べるっていうんだ?】そして冷静に質問を投稿するネットユーザーもいたのだ。【未だによくわからないんだけど、石川さんってそんなにいい人なの?400億円もの大金をポンと貸すなんて。それに自分のポケットマネーで資金援助までしない人を共同経営者にするなんてことはあるの?】この質問に、瞬く間に99件以上の返信が殺到した。【確かに!小林さんの商業的価値は上がったかもしれないけど、芸能人と経営者は違うでしょ?彼女が経営側に回るからって、石川さんがお金を貸すの?今時、そんな都合のいい共同経営者っている?】【よく言った。石川さんと小林さんの間が潔白だなんて、俺は信じないね!】【石川さんの奥さんは寛大だねえ。400億円だよ?簡単に貸しちゃうなんて。うちの夫がそんなことしたら、400億円じゃなくて、4000円でも大騒ぎにしてやったけど!】【ちょっとしたマニアックな情報だが、栄光グループの新井社長は、石川さんの奥さんだぞ!】【え?栄光グループ?北城のあの新井家?石川さんの奥さんが彼女なら、400億円もそんなに大金じゃなく感じるね】【いやいや、お金持ちにとっても、400億円は大金だよ!】【新井さんの反応が気になるなあ】【どうってことはないんじゃない?石川家と新井家は北城でも有名な富豪だし、政略結婚なんてよくある話でしょ。愛情がなくても、夫婦それぞれ好きなようにやってるんじゃないの?】【でも、二人は数年前から噂はあったけど?しかも結構大きい子供までいるらしいじゃない!】【こほん、確かな筋からの情報によると、8年前に新井さんは石川さんの親友と婚約していたんだけど、その親友が交通事故で亡くなってしまったんだ。それからずっと独
午後7時、立響グループの公式サイトが声明を発表した。大輝と杏の不倫疑惑を否定し、同時に杏のアカウントをタグ付けした。杏もすぐに対応し、広報部から送られてきた文章を編集して、自身のインスタに投稿した。恋人関係を否定し、ついでに新しい会社も発表した。ビジネスの観点から見ると、大輝にはそれほど損失していないようだった。杏はこの2年間、自立したかっこいい女性というイメージで活動していて、不倫疑惑が報じられたことで、ファンの間では既に大騒ぎになっていた。杏からの説明を待っているファンもいれば、とっくにファンをやめた者もいた。この声明によって、杏は不倫疑惑の汚名を着せられるどころか、これまで築き上げてきた自立したかっこいい女性というイメージが、さらに強固なものになった。熱狂的なファンは再び勢いを取り戻し、この出来事を大きく宣伝した。ネット上での評価がどんどん上がっていくのを見て、杏の頭にある計画が浮かんだ。......午後10時、杏は突如インスタを更新し、輝星エンターテイメントとの契約解除と芸能界引退を発表した。その投稿の中で、綾に感謝の意を表し、彼女を常に目標としてきたこと、たとえ平凡な出身であっても、努力次第で運命を変えることができるという生き方に憧れていたことを語った。そして最後に、ファンへのメッセージを添えた――【......表舞台からは引退しますが、業界から引退したわけではありません。だから皆さん、悲しまないでください。私は皆さんと過ごした日々を胸に、これからは裏方でも努力を続けいくつもりです。いつか、また新しい姿で皆さんと再会できる日を楽しみにしていますね】杏は自分の売り込み方が上手だった。この投稿は、ファンはもちろんのこと、一般のネットユーザーまでもが、彼女のひたむきな努力に心を打たれた。現代社会において、女性の意識は高まっている。自立した優秀な女性は、徐々に社会的に認められるようになってきている。特に杏や綾のように、平凡な出身の女性が成功を収める姿は、多くの女性から共感と支持を集める。一般人の成功談は、より人々に刺激を与えるのだ。杏は、この点を的確に捉えていた。そのため、引退を発表した後も、フォロワーが減るどころか、一夜にして1000万人増加したのだ。全て一般からの新規フォロ
大輝は眉間を揉みながら言った。「広報部に連絡して、彼女と話をさせろ。内容は、俺が芸能プロダクションを立ち上げる予定で、小林さんは共同経営者になるってことにしろ。それから400億円を俺が肩代わりしたというのは、彼女が俺に借りただけのことだと強調しろ。あと、輝星エンターテイメントとは円満に契約解除したんだ。今後も重要なパートナーとして協力していくつもりだから、会社の将来性と、女性の自立といった話題に話をすり替えておけ。1時間以内に広報部から、対応策の文案を提出させろ」「承知いたしました。すぐに伝えます」......大輝の指示を受けて、広報部の担当者はすぐに杏に連絡を取った。杏は、自分が広報に協力すると伝えれば、大輝はきっと感謝して、自分から連絡してくると思っていた。しかし、連絡してきたのは立響グループの広報担当者だった。担当者は事務的に、大輝の意向を伝えた。400億円は自分が借りただけだと説明してほしいと言われ、杏は呆気に取られた。おかしい。これは自分の予想と全く違う。杏が何も言わないので、広報担当者は尋ねた。「小林さん、何かご不明な点はございますか?」杏は我に返り、尋ねた。「では、私が説明した後、石川社長はどういうされるつもりなのでしょうか?」「申し訳ありませんが、私は広報の仕事しか担当しておりません。今後の協力関係については、小林さんご自身で石川社長に確認していただいた方がよろしいかと思います」杏もそうしたいのは山々だった。しかし、今は大輝が全く電話に出てくれないのだ。そうでなければ、わざわざ他の人に頼ったりするものか。しかし、今の状況では、焦っても仕方がないことも杏は分かっていた。事態は大きく広がってしまった。真奈美の性格では、黙っているはずがない。きっと、この数日、大輝と真奈美は400億円のことで大喧嘩しているに違いない。そう考えると、杏の不安は少し和らいだ。「分かりました。では、石川社長の言うとおりにします」杏は優しい声で、素直に言った。「石川社長のお役に立てて嬉しいです。ただ、新井さんが400億円のことで石川社長と揉めないか心配していました。結婚したばかりなのに、私のせいで二人の仲が悪くなったら申し訳ないですから」「小林さんのご理解、感謝いたします」担当者は少し間を置
「おばあさん、もう帰って休んで。俺は大丈夫。こんなの、初めてじゃないし」「あなたは......」楓は首を振り、諦めたように言った。「確かに浮気はしていないのかもしれないけれど、あの小林さんに400億円も使ったことは、明らかに間違っている。自分が蒔いた種なんだから、真奈美が離婚を切り出しても仕方がないでしょうね。なのに、新井家に行って彼女を責め立てるなんて。こんなに荒れたのここ何年もなかったじゃない?真奈美のことになると、昔の短気に戻ってしまうのね」大輝は目を閉じて言った。「おばあさん、今回は俺が軽率だった。反省している」しかし、楓はどうも腑に落ちなかった。「私にも嘘をつくの?」楓は眉をひそめた。「大輝、私には分かっているのよ。あなたは真奈美のことが今でも好きなんでしょ?なのに、どうしていつも彼女と喧嘩ばかりしているの?」大輝は俯いた。少し間を置いて、彼は口を開いた。「実は海外に行く前、真奈美と大喧嘩したんだ。彼女は輝星エンターテイメントの社長と知り合いで、その社長を通じて400億円の件を知って、激怒した。そして離婚を切り出してきた。俺は小林さんとはそういう関係じゃないと説明したけれど、彼女は二者択一を迫ってきた。小林さんと縁を切るのか、それとも離婚するのか、と。俺もカッとなっていたから、譲らなかった。すると彼女は、もし承諾しなかったら、俺が小林さんに400億円貢いだことをバラすと言ったんだ。だからネットでその記事を見た時、すぐに彼女がやったと思った......」楓は眉をひそめた。「私は真奈美がそんなことをするとは思えない。たとえそうだとしても、だからといって彼女に暴力を振るっていい理由にはならないじゃない!大輝、あなたは哲也の父親で、彼女は哲也の母親。あなたがこっそり他の女に貢いでいたのは、立派な裏切り行為よ!妻子からしたら、許せることじゃないことよ!」大輝は頷いた。「分かっている。昨夜、冷静になって考えてみたら、俺が彼女を誤解していたのかもしれないと思った」楓は深くため息をついた。「今さらそんなことを言っても仕方ないけど。おじいさんとお父さんには私が話しておく。ネットの騒ぎも、早く何とかしないと。真奈美との結婚については......今回はあなたがやりすぎたから、私も彼女を宥めるようなことはできないから、あなたたち
大輝の額には血管が浮き出て、背中の傷は手当てが遅れたせいで炎症を起こしていた。彼は突き刺すような痛みに耐えながら、繰り返した。「俺は小林さんとは本当にそういう関係じゃない。誤解は必ず解くから、真奈美を笑いものにはさせない。彼女の誇りを取り戻してやる」「今更そんなことを言っても遅い。どんなにうまく火消しをしたところで、一度ついたスキャンダルは世間から完全に消えることはない。真奈美に与えた傷は消えないんだ。大輝、まだ分からないのか?お前が真奈美に与えた傷は、もう償えないんだよ」「お父さん、言いたいことは分かる。でも、もうここまで来てしまったんだ。真奈美を諦めることなんてできない。何とかして事態を収拾する。今回のことは......」大輝は目を閉じ、深呼吸をした。「とにかく、俺は離婚しない」「ふん!」隼人は首を横に振った。「離婚しないだと?随分自信があるんだな!俺たちは、もうお前の肩を持つことはない。これからは真奈美の決断を尊重するつもりだ。ついでに、最後に警告しておく。小林さんとは完全に縁を切れ!」大輝は唇を固く結んだ。この件に関しては、隼人に何も答えなかった。だが、隼人は息子の沈黙を承諾と受け取り、それ以上何も言わなかった。......正午、楓は隼人が病院に行った隙に、薬と食事を持ってこっそり大輝の様子を見に行った。楓もまた、真司から大輝の味方をするなと厳しく言われていた。石川家の男たちは普段は妻の言いなりだが、重要なことになると主導権を握るのはやはり男たちなのだ。大輝が反省させられるのは今回が初めてではない。しかし、こんなにひどい仕打ちを受けるのは初めてだった。楓は近づくとすぐに、大輝の背中の鞭の痕を見た。傷口は見るも無残で、楓は一目で涙が溢れ出た。「大輝......」大輝は声を聞いてハッとなり、振り返った。「おばあさん、どうしてここに?」楓は近づき、かがんで大輝の顔に触れ、震える声で言った。「顔色が悪いね。痛かった?」「おばあさん、心配かけてごめん」大輝は胸が痛んだ。36歳にもなって、まだ家族に心配をかけている。こんなにも自分が情けないと思ったのは初めてだった。「大輝、どうしてこんなバカなことを......」楓は、やはり孫を不憫に思った。大輝は初孫だが、幼い頃は両親と過ごす時間が
その日は午前4時。雷雨がおさまり、静かな雨が降り続いていた。すると、石川家の先祖代々祭られた敷地内から、鞭で打つ音が響いていた。真司と楓は部屋に座っていた。二人とも高齢で耳が遠くなっていたため、はっきりとは聞こえない。それでも、自分たちが見守ってきた孫が、今夜は激しい叱責を受けていることを感じていた。若葉から電話があった。詳しいことは話さなかったが、大輝が真奈美を病院送りにしたとだけ伝えられた。そして、二人は絶対に止めに入らないようにと念を押された。病院送りになるほどの事態。二人は何が起こったのか分からなかったが、今は孫を庇うべき時ではないと二人は感じていた。その夜、大輝は36回も鞭で打たれた。隼人は言った。「36発の鞭は、お前が36歳の立派な大人であることを思い知らせるためだ!男は30歳で身を立てるというのに、お前はどうだ?大輝、この鞭で目が覚めて反省しないなら、今後、石川家はお前を勘当するから!」そう言うと、隼人は鞭を投げ捨て、踵を返して去っていった。大輝は背中を丸め、鞭で裂けた傷の痛みで汗びっしょりだった。うつむいた大輝の目は充血していた。背中の痛みではなく、今夜真奈美にした仕打ちに対する後悔の念からだった。そして、彼の心の中である声が響いた。こんなことするべきじゃない。本当に間違っていた。大輝は目を閉じ、荒い息をつきながら、心は迷いの中に沈んでいった。......明けかた、雨は上がり、東の空が白み始めた。石川家の先祖代々祭られた敷地の入口にあった彫刻が施された扉が開かれた。隼人は入ってきた。彼はまずご先祖に線香をあげ、それから振り返り、床に膝をついた大輝を見下ろした。大輝はまだ膝をついている。背中の傷はそのまま、赤く腫れ上がり、かさぶたができていた。楓は5時過ぎに、こっそり大輝の様子を見に来ようとしたが、居間にいた隼人に見つかってしまった。すると、親子で口論になり、楓は怒って自分の部屋に戻った。6時過ぎに若葉から電話があった。真奈美の熱は下がったが、まだ意識は戻っていないとのことだった。隼人は若葉に病院で真奈美の看病をするように言い、自分は家で大輝を見張ると伝えた。やはり若葉は杏のことが気になっていたようで、隼人に大輝から話を聞くように頼んだ。実際のところ隼人も気になった