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第29話

Author: Hare Ra
「……どうした?泣いているのか?」祐樹が心配そうに尋ねた。

「……もう切ります」

「迎えに行く!」

聖羅の肩が跳ねた。祐樹が本気で家まで来かねないことが分かっていたからだ。

「大丈夫です。明日の朝、会社で会いましょう」

電話の向こうで、祐樹が重いため息をついた。「本当にいいのか?」

「はい。眠いので、もう休みます」

「分かった。明日は早めに会社で待ってる」

「はい」

聖羅は通話を切ると、スマホの電源を落とした。それから毛布を頭の先まで引き寄せ、声を殺して泣いた。

ふと、祐樹の言葉が耳の奥でよみがえる。

「耕平と離婚するなら、俺は君と結婚する」

聖羅は慌てて首を振った。男は口説くときだけ甘いことを言うものだと知っていた。

かつて耕平もそうだった。結婚する前の彼の言葉は、あんなにも優しく、たくさんの約束に満ちていた。

けれど結局は裏切られ、耕平はすっかり別人のようになってしまったではないか。

「明日の朝、お袋が金を取りに来る。ついでにお袋の朝飯も用意しておけよ」耕平が浴室から出てきて言った。

聖羅から返事がないことに苛立ち、耕平は妻の毛布を引っ張った。

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    「……どうした?泣いているのか?」祐樹が心配そうに尋ねた。「……もう切ります」「迎えに行く!」聖羅の肩が跳ねた。祐樹が本気で家まで来かねないことが分かっていたからだ。「大丈夫です。明日の朝、会社で会いましょう」電話の向こうで、祐樹が重いため息をついた。「本当にいいのか?」「はい。眠いので、もう休みます」「分かった。明日は早めに会社で待ってる」「はい」聖羅は通話を切ると、スマホの電源を落とした。それから毛布を頭の先まで引き寄せ、声を殺して泣いた。ふと、祐樹の言葉が耳の奥でよみがえる。「耕平と離婚するなら、俺は君と結婚する」聖羅は慌てて首を振った。男は口説くときだけ甘いことを言うものだと知っていた。かつて耕平もそうだった。結婚する前の彼の言葉は、あんなにも優しく、たくさんの約束に満ちていた。けれど結局は裏切られ、耕平はすっかり別人のようになってしまったではないか。「明日の朝、お袋が金を取りに来る。ついでにお袋の朝飯も用意しておけよ」耕平が浴室から出てきて言った。聖羅から返事がないことに苛立ち、耕平は妻の毛布を引っ張った。「おい聖羅!聞いてるのか?」聖羅は寝たふりをした。これ以上言い争いを続けたくなかった。ただ言葉を交わすだけでも、まだ胸が痛んだ。「まったく、この寝ぼすけが!勝手に寝てろ!」聖羅は、耕平が隣に横たわる気配を感じた。抱擁も、おやすみのキスも、労いの言葉もない。新婚の頃とは、何もかも違っていた。耕平は必要なときだけ聖羅の身体を求める。今では、仕方なく触れているだけのようだった。……翌朝、聖羅は早くから出かける支度を整えていた。「朝飯はどうした?」まだ何も置かれていない食卓を見て、耕平が尋ねた。「外で食べて。今日は料理する気分じゃないの」聖羅はすでに仕事用のバッグを持ち、あとは配車したタクシーが来るのを待つだけだった。「は?昨夜、俺が何て言ったか聞いてなかったのか?」「何て言ったの?」聖羅はおうむ返しに尋ねた。「お前が作らなきゃ、お袋に何を食わせる気だ!もうすぐ来るんだぞ!」耕平は聖羅の問いを無視して怒鳴った。「お義母さんが来るの?何のために?」聖羅は知らないふりをして尋ねた。「お前、本当にイライラさせるな、聖羅!働いてても働いてなくても、

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