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第210話

Author: 雲間探
辰也が玲奈と話しているのを見て、結菜は目を大きく見開き、思わず清司に詰め寄った。「辰也さんがどうしてあの人と話してるの?」

清司が答える前に、彼女はそのまま足を向けた。

佳子がすっと彼女の腕を取って、淡々と告げた。「仕事の話をしてるだけよ」

「仕事の話?」

「うん」

結菜は唇をきゅっと結び、不満げに鼻を鳴らしたが、衝動を抑えて立ち止まった。とはいえ、目線はずっと辰也と玲奈のほうに釘付けだった。

今日の玲奈はロング丈の冬服ワンピース姿。特に気合いを入れていた様子はないが、それでも人目を惹く。辰也と並んで立つ姿は、妙に絵になっていた。

結菜は二人の間に何かあるとは思っていないものの、胸の奥がざらついた。

彼女は思わず清司の袖を引いた。「清司さん、あの二人、何を話してるの?なんであんなに長く話してるの?」

結菜の辰也への気持ちは、もはや隠す素振りすらなかった。

清司は長年辰也と付き合いがあるから、辰也がどんな女性を好むかよく知っている。少なくとも、彼が結菜のようなわがままで気の強いタイプに惹かれることはない。

そして、辰也が彼女の想いを断っている態度も、決して曖昧ではなかった。

彼は苦笑して答えた。「まあ、付き合いなんてそんなもんだよ」

「でも、公の話なら平日にすればいいのに」

清司も正直、彼女と長く話す気はなかった。自分も中に入ってお茶でも飲みたかったが、辰也がまだ戻っていなかった。

ちょうどその時、智昭と優里がようやく現れた。

彼はすぐに二人に手を振った。「こっちだよ」

二人の姿を見て、正雄たちは皆ぱっと笑顔を浮かべた。

「智昭、優里ちゃん、来てくれたのね?」

智昭は軽く頷き、返事をしようとしたが、ふと視線の先に玲奈と辰也の姿を見つけた。

大森家と遠山家の人々は、彼がその方向を見たことに反応を期待していたが、智昭は視線をすっと戻し、「ちょっと挨拶してくる」と言った。

遠山おばあさんと佳子は、その言葉にほんのわずか反応を見せた。

智昭はそのまま歩き出した。

優里は微笑みを浮かべて言った。「あの人、藤田おばあさんと仲がいいし、たとえ離婚しても、そう簡単に関係を断ち切るような人じゃないよ」

だから、外で会ったら軽く挨拶くらいはするのが礼儀だ。

それ以上のことは、特にない。

遠山おばあさんたちはその説明に安堵した様子だった。
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Comments (4)
goodnovel comment avatar
yoshi horarara
辰也は信じないほうがいい クズ旦那はもうー無視すればいい
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せんのはる
あのズーズーしい不倫一族といるより、玲奈達と一緒にいたかった辰也(笑)智昭はわざと辰也を戻した感じする。
goodnovel comment avatar
お神楽
辰也も智昭も何がしたいんだか、婚姻中にずっとスルーしといて、離婚協議中に挨拶されても嫌な気分にしかならないのにね?
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