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第9話
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祖父の命令で夫選び、私は宿敵を選んだ 第9話
「もういいよ、涼太。今日は十分頑張ったでしょう。次は私の番よ」涼太は「いいよ」と言いかけたが、私に強く椅子に押さえつけられ、仕方なく答えた。「わかった、行ってらっしゃい。外は車が多いから、気をつけろ」私はうなずいて、外へ出た。道路は確かに混雑している。私が立ち止まりながら人々を迎えようとしていると、誰かが人波の中で叫んだ。「危ない！」一瞬呆然とした後、振り返ると一台の車が私に向かって突進してきた。私は体をよろめかせて倒れ、視界が暗くなった。目を開けると、私は病床の上にいる。涼太が私の手を握り、声を震わせている。「無事でよかった。医者も今回は運が良くて、擦り傷だけだと言った。すぐに退院できるそうだ。でも次はもっと気をつけてくれ。心配したんだ」涼太は私を強く抱きしめた。私もそっと彼に抱き返した。でも何故か、少し物足りなさを感じた。――そうか！おばあちゃんが。私は涼太の手を離し、すぐに英樹とのトーク画面を開いた。最後のメッセージは英樹からのだ。【俺は安奈だけを彼女として認める】もし歩美が見たら、きっと激しくツッコむだろう。だが今は、頭が沈黙している。どれだけ努力しても、歩美は現れない。――おそらく、おばあちゃんは私が正しい相手と結婚したことを見て、完全に安心して離れたのだろう。歩美が本当に私の体から離れた三日後、光夫が私と涼太を連れて歩美の墓参りに行った。私と涼太は墓石に水をかけ、花を供えた後、光夫はため息をついた。「先に行ってくれ。俺はちょっと話したいことがある」涼太と目を合わせ、黙ってその場を離れた。墓前には光夫だけが残っている。彼は指で墓石に刻まれた名前をなぞり、低い声でつぶやいた。「二日前、夢で託されたな……前世で菫は間違った相手と結婚して、幸せじゃなかった。お前は心配して、善行によって積んだ徳を使い、菫の人生をやり直させたんだな。お前は相変わらず風変わりな考えをするな。話は小説みたいだが、好意から菫を幸せにしたいんだろう。安心しろ、歩美。俺が生きている限り、菫を守る。もし俺がいなくなっても、涼太が彼女を守ってくれる。だから安心して行け」光夫は長々と話した後、最後に墓石を優しくたたいた。「来年もまた会いに来る」月日は流れ、五年が経った。私と涼太には、
祖父の命令で夫選び、私は宿敵を選んだ 第8話
歩美はツッコミを入れた。「またあの悪ガキか、しつこさはこの上ないね」私はまるで愚か者を見るかのように、英樹を見つめた。「どうして私が婚約を破棄する必要があるの？どうしてあなたと結婚しなきゃいけないの？」英樹は言葉に詰まり、しばらくしてようやく口を開いた。「……認める。俺が騙したのは悪かった。お前が涼太との婚約を決めたのも、わざと俺を苛立たせるためだってことも分かってる。お前、ずっと俺のことが好きだっただろ？今ここで婚約破棄すれば、すぐにでも俺はお前と結婚する」「結婚」――かつて私が英樹の口から最も聞きたかった言葉だった。だが、彼が安奈のために何度も私を危険にさらしたとき、私は彼に対して完全に心を閉ざした。私は冷たく彼を睨みつけた。「あなたが記憶を失ったふりをしたのも、身を引いてほしいって私にお願いしたのも、全部私から離れるためだったのでしょう？最近、石持家の商売は上向きだと聞いたけど、お金も協力も足りないわけじゃないのに、どうしてわざわざ私と結婚しようとするの？」英樹は目を泳がせ、言葉にできない複雑な思いを抱えている。――ただ、菫がいないと心にぽっかりと穴が空いてしまうのだ。私は深く息を吸い込み、言い放った。「どう考えようと構わないけど、あと十日で私は結婚するの。過去はもう終わったことだから、これ以上邪魔しないで。お願いだから、去って」英樹は私の目の前に座り、俯いたままで何も言えない。しかし、どうしても立ち去ることができないらしい。その時、遠くから涼太の嘲笑する声が聞こえてきた。「おや、珍しい客だな。中で僕の妻と喋って、恋人を外で立たせっぱなしにするのはどうかと思うが」空気がピリリと張り詰めている。英樹は冷笑した。「得意がるな。俺と菫は長い間愛し合ってきたんだ。お前ごときが何様だ」その言葉に涼太は怒らず、ポットを手に取って英樹にお茶を注ごうとした。「愛し合うというのは確かに先着順があるが、どっちがより大切かも重要だ。僕は菫にとって、君よりはるかに大切な存在だ」英樹が嗤った。「どうしてお前が大切だって決めつけられるんだ。俺だって……ああっ！」言いかけたところで、涼太はうっかりお茶を英樹の服にこぼれた。「すまない、手が震えただけだ。わざとじゃない」しかし、英樹の怒りは瞬時に燃
祖父の命令で夫選び、私は宿敵を選んだ 第7話
涼太はやはり口を開いた。「僕たちの芝居も、そろそろ限界だろう。みんなにいつ打ち明けるつもりなんだ？」私は驚いて彼を見つめた。「打ち明けるって……何のこと？私、あなたとの結婚は本気で考えてるわよ」涼太は自嘲気味に笑い、その目に一瞬だけ寂しさがよぎった。「無理に騙さなくていいよ。君はずっと英樹のことが好きだったんだろ？僕を選んだのも、どうせあいつを刺激するためだろう？どうせ、そのうちあいつが狂ったように君を追いかけてきたら、僕なんて捨てるんだろう？」その言葉を聞いて、私の胸にちくりと痛みが走った。罪悪感と、勝手な思い込みへの苛立ちが入り混じっている。すると歩美が笑いながら、一言で的を射た。「あらまあ、涼太はやきもちを焼いてるね」その一言で、私の胸の中のモヤモヤが一気に晴れた。私は涼太の手を握り、静かに言葉を紡いだ。「もし、私が本気だって言ったら？」涼太が手を引こうとしたが、私はしっかりと握り返して逃がさない。彼は、何かを押し殺すような目で私を見つめている。「菫、本当に英樹への未練はないんだな？本気で僕と結婚するつもりなんだな？」私は眉をひそめた。「当然でしょう？まさか、そんなに私と結婚したくないっていうの？」言い終える前に、ぎゅっと抱きしめられた。涼太は、まるで長年しまい込んでいた想いをすべて託すかのように、強く強く抱きしめてきた。その声は、これまでに聞いたことがないほど優しく響いた。「……結婚しよう」……私と涼太の結婚式は、一週間後に行われることが決まった。昨日の出来事を経て、私たちの関係は急速に温かくなり、彼が「夕飯に行かない？」と誘ってくれたとき、私は自然にうなずいた。けれど、ショッピングモールに入ってすぐ、二つの見覚えのある姿が目に入った。私の隣にいる涼太を見て、英樹は眉をひそめた。「……お前、なんでここにいるんだ？」涼太は眉をひそめ、鋭く言い返した。「そっちの男女二人は一緒にいてもいいのに、僕たち新婚夫婦がデートするのが悪い理由でも？」「新婚夫婦」という四文字を、これでもかと強調して。その瞬間、英樹の顔色はみるみるうちに悪くなった。「……俺と彼女には何の関係もない。勝手なことを言うな」初めて彼が安奈との関係を否定した。案の定、安奈は悔しそうな表情を浮かべたが、怒
祖父の命令で夫選び、私は宿敵を選んだ 第6話
そう言い残し、涼太は逃げるようにその場を去った。歩美がしみじみと言った。「この子は、ずっと今みたいに照れ屋でいてくれたら可愛いのにね。そうやって人を傷つける言葉さえ言わなければ、みんなに好かれるよ」私も同意してうなずき、顔を上げた瞬間──英樹とばっちり目が合った。さっきの私たちのやり取りを一部始終見ていたのだろう。彼の顔は真っ青になり、信じられないという表情でこちらを見つめている。安奈に何度も肩を押されても、まったく反応しない。歩美は鼻で笑いながら言った。「選ばれたら不満、選ばれなくても不満。まったく、人というのは失って初めて大切さに気づくものだね」私は英樹を無視し、祝いに来た人たちに軽く応じた後、カバンを持って外の空気を吸いに出かけようとした。その時、不意に腕をつかまれた。振り返ると、不満げで、どこか焦ったような英樹の目があった。「どうして涼太なんだ？お前たち、いつから付き合ってたんだ？」私は嘲るように彼の手を振り払った。「言葉遣いには気をつけて。私の私生活があなたに関係あるの？もし私の婚約者が涼太じゃなかったら、誰だっていうの？」英樹の口元が震えた。「だって……俺たち、昔は付き合ってたんだろう？お前……俺のこと、大好きだったじゃないか」私は呆れたように笑った。「あなた、自分で記憶を失って安奈だけ覚えてるって言ってたよね？自分の口で、私に身を引いてほしいってお願いしたんじゃないの？」――そう。菫が身を引いたのは、俺自身がそう願ったからだった。それなのに、なぜこれほどまでに取り乱してしまうのか。まるで、今まさに何か大切なものを失いかけているかのような必死さで。英樹は唇を開き、ゆっくりと言葉を紡いだ。「でも、やっぱりまだお前のことが好きだと感じている。ほら、俺たちには積み重ねてきた時間があるだろ？もしかしたら、結婚して一緒にいれば……そのうち全部思い出すかもしれない」ほぼ同時に、歩美が頭の中で叫んだ。「まだ嘘をついて菫を騙そうとしてるの？私たちを彼と同じバカだと思ってるね！」私はもうこれ以上彼の芝居に付き合う気はないので、はっきりと切り捨てることにした。「英樹、誰かに言われなかったの？記憶を失ったふりをして、両方をキープしようとしてるあなたは滑稽だって」英樹は固まった。私の袖を
祖父の命令で夫選び、私は宿敵を選んだ 第5話
「私の婚約者は──川連家の御曹司、川連涼太です」その瞬間、会場がしんと静まり返り、まるで空気まで凍りついたかのようだ。敦史は信じられないという表情で私を見つめ、驚きを隠せずに言った。「菫、まさか言い間違えたんじゃないか？お前の婚約者は英樹じゃなかったのか？どうして涼太なんだ？」周囲の人々も一斉に同調し、私が英樹を選ばなかったことをどうしても信じられない様子だ。「私は言い間違えてないわ。私が自分で選んだ婚約者は涼太よ！」私は壇を降り、家族の継承を象徴する守り札を涼太に手渡した。彼の表情は複雑で、なかなか手を伸ばそうとしない。私の胸は一気にざわつき、不安が込み上げてきた。「……もしかして、嫌なの？」涼太は一瞬黙り込み、やがてふっと口元をほころばせた。「喜んで。僕にとっても川連家にとっても光栄なことだ」彼は守り札を受け取ってポケットにしまい、光夫に最敬礼をした。私の張りつめていた胸の鼓動は、ようやく落ち着きを取り戻した。周囲には場の空気を読む人々が揃っている。ここまで話がまとまると、皆は内心とは真逆の祝辞を口にした。「まあまあ、私はずっと前から花田さんと川連さんはお似合いだと思っていましたよ。まさに生まれつきのご夫婦ですね」すると、頭の中で歩美が舌打ちした。「さっきまでうちの菫を『石持を追う都合のいい女』みたいに言ってたくせに、よくもまあ白々しく。適当なことばかり言うと、雷に打たれるよ」「いやあ、さすが花田さんが選んだ方ですね。川連さんは気品があり冷静で、人ごみの中に立つとほかの男性が霞んで見えます」歩美は冷笑を飛ばした。「さっきまで『川連は無愛想で女にモテない』って言ってたの、ちゃんと聞こえてたよ。今さら褒め始めるなんて、手のひらクルクルで、見てるだけで腹立つわ」偽りの祝福が一つ漏れるたびに、歩美が一つ返す。そのやり取りが面白くて、私は思わず吹き出してしまった。涼太は眉をひそめた。「……何がそんなにおかしいんだ？」なぜか胸の奥からいたずら心がふっと湧き上がった。私はわざとらしく感慨深げに言った。「だって、あなたと結婚するんだもの。嬉しくて思わず笑っちゃうよ」涼太は言葉に詰まり、耳の先がじわじわと赤く染まっていった。歩美がくすくすと笑った。「ほう、この子、こんなことで照れるんだ
祖父の命令で夫選び、私は宿敵を選んだ 第4話
私は頭が真っ白になり、英樹が彼の大好きな女を抱えて逃げていくのをただ呆然と見つめ、一気に絶望が胸に押し寄せてきた。たとえもう愛情が冷めていたとしても、私は何年も彼を愛し、尽くしてきた。生死がかかったこの瞬間に、ほんの少しでいいから、私を哀れんで手を差し伸べることすら、彼にはできないのだろうか？突然、体に覆いかぶさっていた重みが消え、涼太が私にのしかかっていた患者を一蹴すると、そのまま私を抱き寄せて庇いながら外へと走り出した。「行くぞ！」現場はひどく混乱していたが、すぐに駆けつけた警備員たちによって、医療トラブルを起こした患者たちは制圧された。私はまだ状況を飲み込めず、体の震えが止まらない。涼太が温かい水を差し出し、私を見るその目には複雑な色が宿っている。けれど私は彼の感情に気づく余裕もなく、なぜここにいるのか尋ねる余裕もなく、最後の気力を振り絞って礼を言った。医療トラブルで私が負傷したことは、間もなく祖父の光夫の耳に入り、彼は激怒してその場で石持家と小雲家に説明を求めた。小雲家は慌てて安奈を自宅謹慎させ、私に謝罪の品を送ってきた。石持家は激怒し、英樹を無理やり私のもとへ謝りに行かせた。その日の夜、英樹は私の家に入るなり、手に持っているお土産をテーブルに投げつけ、険しい表情で言った。「花田菫、今日のことは安奈とは関係ない。助けなかったのは俺だ。なのに、どうして彼女を謹慎に追いやるんだ？私怨で仕返しか？」私は自分の腕を持ち上げ、厚く巻かれた包帯を彼に見せつけた。「見えるわよね、英樹」一瞬、彼の表情が揺らいだが、すぐに言い返してきた。「死んだわけじゃないだろ？お前が花田家の一人娘だってことは、誰だって知ってる。一言叫べば、いくらでも護衛が来るだろう。でも、安奈には俺しかいないんだ。見ただろう、今日だって彼女は危うく怪我をするところだった。そんなに彼女に悪意を向けるのはやめてくれ。光夫さんに頼んで謹慎を解いてやってくれ。そうしないなら、お前との婚約は取り消す」彼は強気な口調で、まるで私が折れるのが当然であるかのように言った。歩美は鼻で笑った。「図々しいにもほどがあるよね」私は彼に対して、完全に心が冷え切ってしまっている。怒鳴り返す気力すら残っていない。「警備員、客を外に送って」英樹は屈強
