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17.週末の話(悠馬side)

last update Last Updated: 2025-08-15 17:00:09

「……んっ……」

鼻にかかった自分の声で、ふと目が覚めた。

まだ寝息を立てている神谷が下着しか見に着けていないのを見て、昨日の夜に何があったかを思い出す。

(~~~~~っ!!)

急に、恥ずかしさが込みあげてきた。

昨晩の出来事を簡単にまとめると、俺は神谷との勝負に……負けた、と言ってもいいと思う。あいつの宣言通り、昨日の夜はあいつがどれだけ俺を好きなのか『わからされた』。

(……男は無理だと思ってたのにな)

彼女がいたって話も聞いてたし、どこかでまだ、気の迷いなんじゃないかと疑ってた。

でも、一晩かけて、本気だってことをしっかり証明されて……。

(……恥ずかしい)

隠れるようにタオルケットを頭から被ったところで、背中の方からかすれた声がした。

「……先輩、起きたの? おはよ」

まだ眠そうな声。振り向くと、寝ぼけたままの神谷に腰のあたりから抱き寄せられる。

「身体、大丈夫そ?」

改めて聞かれると、羞恥心が込みあげてきてくすぐったかった。

心臓の鼓動がうるさい。このまま時間が止まればいいのに、なんて……お決まりのセリフが胸をよぎる。

額にキスしてくる神谷の胸に頭を埋めると、神谷の匂いがした。パジャマではないけど、同居生活の夢がひとつ叶ったような気がして嬉しい。

「あれ……今日って、学校……?」

「まだ、寝ぼけてるみたいだな。今日は休み。月曜は明日」

「そっか……」

眠そうに目をこすって、へらっと笑う神谷は今日もカッコよくてかわいかった。

「じゃ、先輩とずっとこうしててもいいんだ」

じっと見つめられて、唇にキスされる。明るいところで見られるのが恥ずかしくて背中を向けると、タオルケットごとぎゅっと抱きしめられた。

「逃げないで、先輩」

その言葉に振り向けば、きれいな鳶色の瞳はいつもよりも熱を帯びていて。

「……逃げて、ないけど……」

「昨日、俺が先輩にしたこと……憶えてる?」

「お……憶えてはいる」

恥ずかしくて顔を背けたかったけれど、それは負けたような気がして嫌だった。神谷は満足げに笑って、タオルケットの中にもぐり込んでくる。

「じゃあ、どこにキスしたか……教えてよ」

「もう1回するから」とこっちを見上げてくる神谷を、俺はそのまま強く包み込んでやった。

「わっ」

「調子に乗んなよ、後輩」

「ひどい、横暴っ」

文句を言う神谷にいじわるを繰り返していると、神谷がタオルケットのあいだからひょこっと顔を出して言う。

「そういえばっ……! 勝った方の言うことを、1つ聞くって話でしたよね」

「……そうだけど」

神谷の楽しげな顔に、嫌な予感がする。顔が近づいてきたと思ったら、こそっと耳打ちをされて――。

その内容に、俺はつい頬をゆるめてしまった。

『この大会が終わるまで、先輩の部屋に一緒に住みたい』

「……いいんじゃね」

「やった!」

「ちゃんと、親に許可取れよ」

「わかってますっ」

甘えたように抱き着いてくるこいつに、人生狂わされてるなーと思いながらも、俺は神谷の髪を撫で、唇にキスをした。

ライバルでいるのをやめるつもりはない、けど……。

「ねぇ、先輩。……もう1回しよ」

今日くらいは、好きになった奴との時間を喜んでもいいのかな……と、そう思った。

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