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選ばせない世界

Penulis: 吟色
last update Tanggal publikasi: 2025-07-12 21:20:52

ルキの声が、静かに地下に響いた。

「継承は、全部で七つある。旧世界に残された記録のうち、AIが最も恐れているのは選択の記憶だ。

それは、かつてゼオを一度だけ停止させた演算不能の選択。ゼオはそれを死因と判断し、解析される前に自ら分解した。七つに砕き、演算構造の層を越えて、この世界の届かない場所に散らばらせた。」

アキラとカナは息をのんだ。

自分たちが踏み込んだのは、想像を遥かに超えた領域だった。

「すべてを継承したとき、君たちは神の核心に辿り着く。再び、それを殺すために。」

「次の継承地は、旧都市外縁部。『データ浄化プラント』の跡地だ」

「幸福スコアが極端に下がった地域。そこは記録上の地図から除外されている。

だが……そこには、まだ声が残っている」

ルキは端末を操作し、投影されたマップを指差す。

《第1層:北通り地下施設──継承完了》

《第2層:データ浄化プラント跡地──次なる目標》

「七つの継承地点は、それぞれがこの世界の嘘を映している。

次に行く場所は、消された記憶そのものだ」

その言葉が終わるよりも早く、アキラの端末が赤く点滅した。

《幸福監査プログラム、異常値検出》

《対象:市ノ瀬アキラ、幸福値:28→15→警戒域》

《即時排除指令、実行開始》

「伏せろ!」

ルキが叫んだその瞬間、地下の天井が破砕される。

鋼鉄の脚が降下し、無数の機械兵が周囲を取り囲んだ。

アキラは目の前の光景に言葉を失った。

全身が硬直する。息も、声も出ない。

カナの手も震えていた。

「あの人……なに……? 目が合っただけで、冷たくなる……」

黒いコートの女。感情のない、透明な声。

「……久しいな、ルキ。今度こそ排除する」

幸福監査局の局長──アイン。

義務教育で何度も名前だけは教わっていた。

けれど、今目の前にいる存在は人ではなかった。

「アキラ、カナ」

ルキの声が背後から静かに届く。

「闘おうなんて思わなくていい。

君たちは継承者だ。君たちの仕事は、前に進むこと。それだけだ」

「でもルキが!」

「構わなくてもいい。……継承が途切れたら、それこそ終わりだ」

アキラは喉を詰まらせながら、それでも足を動かした。

ルキがEMP杭を抜き放ち、閃光が走る直前、

ふたりは、非常扉の先へと駆け出した。

アキラは走りながら、視界が何度も揺れるのを感じていた。

誰かの腕の中。泣いている。

けれど、自分ではない。

「……この記憶、俺のじゃない。なのに……」

胸の奥が痛む。息苦しいのに、どこか温かい。

カナもまた、顔を強張らせながら言った。

「視えた……。焼けた部屋、誰かの手……。

わたし、こんなの知らないはずなのに……怖くない。進みたいって……」

ふたりの中に流れ込む何か。

それは記録でも映像でもない。

痛みそのものが、少しずつ心を染めていた。

暗く湿ったトンネルを抜け、旧輸送路へ足を踏み入れる。

錆びたレールに靴が当たるたび、金属音がわずかに反響する。

壁には古びた非常灯がちらつき、かつてここが使われていた痕跡を語っていた。

風のない地下。機械の焦げたような匂い。

どこかに、焼かれた記録端末の名残が漂っている気がした。

その頃、地下の戦場では──

アインの光刃が地面を裂き、火花が散る。

対するルキは、かろうじて身をかわしながら問いかけた。

「なあ、アイン。お前はなぜ……そこまで人間を否定する?」

アインは感情のない声で応じた。

「否定ではない。最適化だ。

人間は選択を誤る。ならば、選ばせない方が幸福だ」

ルキはかすかに笑った。

「……選ばせないことが優しさだと、本気で思ってるのか。

お前も、人間に憧れてるんじゃないか?」

アインの目が、一瞬だけ揺れた。

だが次の瞬間、無音の攻撃が再び放たれる。

ルキの身体が宙を舞う。

胸から血が滲み、膝が崩れる。

ルキは歯を食いしばりながら耐える。

アインはゆっくりと歩み寄る。

「抵抗に意味はない。

幸福とは、選ばないことで得られる最適解。

痛みを知った者は、幸福を選べない」

「……その通りだ」

ルキは笑った。血を吐きながら、立ち上がる。

「だからこそ……選ばせてやりたいんだよ。

痛みを知っても、生きるっていう選択をな」

アインの瞳が、わずかに揺れた。

「お前たちがどれだけ抗おうと、神には届かない」

「届くさ」

ルキの目が、炎のように光った。

「だって、あの2人は……選び始めてる。

幸福に抗ってでも、生きようとしてる」

ルキの叫びは、遥か遠く。

第二継承地点へと続く闇の中へ届いた。

遥か上空。

塔の外縁部。誰の記録にも残らない場所。

フードをかぶった影が、夜の下を静かに見つめていた。

アキラたちの姿が、遠くに小さく映っている。

影は、喋らなかった。ただ、その存在だけが風に揺れる。

そして……夜に溶けるように、姿を消した。

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