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第5話

Author: くるり
莉子の金切り声が響き渡り、会場中の視線が一斉に突き刺さる。

私は頭を下げ、ひたすら謝罪した。

「申し訳ありません、わざとではございません……」

「謝って済むと思ってるの!?これ、婚約発表で着るドレスなのよ!」

莉子の怒りは収まらず、私を叩こうと手を振り上げた。

しかしその手首は、誰かに掴まれた。

蓮司だ。

いつの間にか近づいてきた彼は、冷たい目で私を見下ろしている。

「お前、なぜここにいる?」

マスクと帽子をしていても、彼には、私の正体がすぐにわかったようだ。

「西園寺社長……私はただ、お仕事で……」

私は声を震わせ、怯えたふりをした。

「仕事?俺のパーティーで仕事だと?」

蓮司は鼻で笑い、莉子の手を離した。

「まだ懲りずに、何か企んで潜り込んだんだろう?」

「そんなこと……」

「往生際が悪いぞ!」

蓮司は、私のマスクを乱暴に引き剥がした。

莉子に酷似した顔が、衆目に晒される。

周囲から息を飲む音が漏れた。

「本当にあの身代わりだ!」

「なんてこと、ウェイトレスにまで落ちぶれるなんて」

「恥知らずにも程があるわね」

それを見た莉子は、ここぞとばかりに勢いづいた。

「あら、詩織さんじゃない。お金に困ってるならそう言ってくれればいいのに。

こんなところで恥を晒すなんて」

彼女はバッグから札束を取り出すと、それを私の顔めがけて投げつけた。

紙幣が舞い散り、私の足元に落ちていく。

「これあげるから、足りなかったらまた言ってね。

乞食への恵みだと思って」

侮辱だ。

あからさまな侮辱だ。

私はその場に立ち尽くし、紙幣が体に当たるのをただ受け入れた。

避けることも、拾うこともしない。

ただ、蓮司を睨みつけた。

「西園寺社長、これが客に対するおもてなしですか?」

蓮司は私の惨めな姿を見て、一瞬だけ動揺したように見えた。

だが、すぐにそれを押し殺した。

「客だと?お前が?」

彼は出口を指差した。

「床の金を拾って、失せろ」

私は動かない。

「なんだ?足りないのか?」

蓮司は懐からブラックカードを取り出し、床に放り投げた。

「二千万円入ってる。拾え、そして消えろ」

周囲の客人は皆、嘲笑っている。

私に同情する者など、誰一人としていなかった。

この世界では、弱肉強食こそが絶対のルールなのだ。

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