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第4話

Penulis: キララ
好奇と嘲りの視線を一身に浴びながら、私は真っ白なグランドピアノへ歩いていった。

かつてこのピアノで、私は彼との愛を奏でた。

けれど今、その白い楽器は、私を辱めるための舞台でしかなかった。

ピアノ椅子に手をかけ、腰を下ろそうとした。

その瞬間、脚に細かな刺すような痛みが走った。

私は動きをこわばらせた。

椅子にはベルベットのクッションが敷かれていた。けれどその下には、無数の小さな針が隠されていた。

美咲、本当に悪趣味ね。

顔を上げると、彼女の得意げな目とぶつかった。彼女は声を出さず、唇だけを動かした。

「せいぜい楽しんで」

私はもう彼女を見なかった。蓮も見なかった。

そのまま腰を下ろした。

針の先がドレスを突き破り、深く肌に食い込んだ。

私は激痛をこらえ、そっと手を鍵盤に置いた。

最初の音が落ちた。

指先に、焼けつくような痛みが走った。

私は目を伏せた。

白い鍵盤には、無色無臭の腐食性の液体が塗られていた。

私は笑った。泣くよりもひどい顔で、笑った。

顔を上げ、会場中の視線を受け止めながら、演奏を始めた。

曲は「愛の夢」かつて、彼が一番好きだと言っていた曲だった。

指先が鍵盤の上を舞い、跳ねる。

その一つひとつの動きが、刃の上で踊っているようだった。

腐食剤が肉に染み込み、神経を焼いていく。

こめかみを、冷たい汗が伝い落ちた。

顔から血の気が引いているのが、自分でも分かった。

それでも、指は止まらなかった。

むしろ私は、これまでのどの時よりも深く、狂ったように弾いていた。

旋律は激しく、悲痛で、檻に閉じ込められた獣が最後の叫びを上げているようだった。

私の恋が燃え上がり、やがて色あせ、最後には無残に踏みにじられていく。

その一部始終を、音にしてなぞっているようだった。

最後の一音を、重く叩きつけた。

世界は、死んだように静まり返った。

私は手を上げた。

十本の指は血に濡れ、白い鍵盤は赤く染まっていた。

「きゃ、蓮……」

美咲が甘えたような声を上げ、蓮の胸にしなだれかかった。

その声は弱々しく、あまりにも無邪気だった。

「綾香さん、しばらく練習していなかったのかしら。どうしてあんなことに……私のせいね。弾いてもらうんじゃなかった」

蓮の目が、ようやく私の血まみれの手を捉えた。

それでも彼の表情は変わらなかった。

心配も、驚きもない。

あるのは、凍りつくような嫌悪だけだった。

「みっともない」

彼は一言吐き捨てた。

その一言は刃のように、私を切り裂いた。

「出ていけ」

私は彼の冷たい顔を見つめた。

胸の奥で、何かが静かに燃え尽きた。

私は何も言わず、そのまま控室へ向かった。

舞台裏の控室は、外から鍵をかけられていた。

「愛の夢」を弾き終えた私の指は、まだ血に濡れていた。それでも蓮は、私を邪魔者のように控室へ追いやった。

十本の指から心臓まで響く痛みは、やがて感覚が麻痺するほどになっていた。

その時、鍵の回る音がして、酒臭い男が入ってきた。

黒川だった。蓮のろくでもない取り巻きの一人だ。

いやらしい笑みを浮かべたまま、黒川は一歩ずつ近づいてきた。

そして、私をソファに押し倒した。

私は反射的に襟元を握りしめた。

「来ないで!蓮が黙っていないわ!」

溺れかけた人間が最後の救いにすがるように、私は思わず彼の名前を叫んでいた。

けれど黒川は、ますます下卑た笑みを深くした。

「馬鹿だな。高梨社長の許しもなしに、俺があんたに手を出せるわけないだろ。今のあの人は白石美咲に夢中だ。あんたのことなんか、気にもしてない」

黒川はスマホを取り出し、ひとつの映像を開いた。

控室の隣にあるスイートルームの、リアルタイム映像だった。

画面の中で、蓮は美咲を窓辺に追い込み、優しく頬を撫でていた。

そして、彼女の額にそっと口づけた。

「蓮……だめよ。ここ、宴会場のすぐそばなのに」

美咲が、甘えるように囁いた。

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